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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第三章:魔法学校を卒業するようです
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心のリフレッシュのお話。

お嬢様は格が違う

 異学校交流が終わって数週間、響は今、冒険者ギルドから発令された任務を片っ端から受注しては遂行して受注しては遂行し手を繰り返していた。

 どうしてこうなったのかというと、異学校交流の後、響はアクレット魔法学校の生徒たちから追いかけまわされるようになっていたのが始まりだった。


 響が演出目的で使った空間魔法の複合応用魔法「ニュートンの林檎」のインパクトが強烈に印象深かったのか「あの魔法は一体何なのか」と見事なまでにお嬢様たち特有の好奇心を刺激し、さらに攻防戦やトーナメント戦で多大な強さを見せつけたことでお嬢様たちの刺激された好奇心のボルテージは高まる一方でそれが消費される方法が直接響の元へ尋ねるというものだった。


 これが普通の生徒から来たのであれば響が断れば済むことなのだろうが相手は貴族のお嬢様、響が一回や二回断った程度ではその好奇心は収まらずそれどころかむしろやる気に火が付く一方だった。おまけに一人ひとり違う方法で来るものだから予想も出来ず対処が取れない。一番驚いたのは校門から出た瞬間に黒服の人たちに取り押さえられそうになったことだろうか、いきなり来るものだから響も手加減できず結構な勢いで上級魔法をバンバン使いその黒服の人たちを無傷でボコボコにしてしまった。急いでその場を立ち去ろうとすると至る方向からアクレット魔法学校のお嬢様たちとエンカウントしてしまいその全てから質問や魔法の特訓に付き合ってほしいや普通に付き合ってほしいなどといった事象が数日間続いた。


 そのことを父親であるクラリアに話すと、


 「ハハハハハ! いいじゃないか、モテモテで!」


 という返事が返ってきたので自室のベッドに顔をうずめてもう何も考えないことにした。アリアに相談しても似たような言葉が返ってくるし、同級生であるマリアたちに相談しようにも恥ずかしくて妥協案としてリナリアに相談したが「教えればいいじゃないかそれくらい。あとこういうのは管轄外だから自分で頑張ってくれ、君が魔族なら協力したかもしれないけど」と軽くあしらわれるし、梓はたまに不機嫌になるしもう訳分からなくなっていた。


 そしてどこからか響のことを耳にした色んな人が冒険者ギルドに響を指名する任務が討伐任務を中心に次々と発行していき今に至るというわけだ。救いなのは大体が中級程度の魔物が相手の任務なのでそれほど苦戦することがないことだ、まあ、響の迅速なその行動がさらに任務の増加を引き寄せる要因になっているのは自覚したくない。


 そして今日も響は学校当てに送られてきたギルドからの任務をアリアたちと一緒にこなしていた、ギルドに行って任務を受注する時、偶然にもゲイルと鉢合わせした。


 「お! ゴーレムの嬢ちゃんのツレじゃねえか! 聞いてるぜ、最近活躍しっぱなしじゃねえか!」


 「それだけならまだいいんですけどね……」


 「ん? なんか言ったか?」


 「いえ別に」


 「おう、そうか。まあ頑張れよ、応援してるぜ!」


 ガハハと豪快に笑いながら手を振って任務に行くゲイルを見送り響はため息を吐く。そのため息はゲイルとの会話によるものではない、ギルドの外にアクレット魔法学校の制服を着た女子生徒が何人かこちらを見ていたからだ。


 「ヒビキ」


 滅入っている響にマリアが優しく声をかけそっと抱擁をする、響の顔がマリアの胸元へ寄せられうずめられる。その様子は外にいるアクレット校の生徒たちにも見えていたらしく、響は顔を埋めていたためそれを確認できなかったが何人かの冒険者は一斉に身を乗り出すアクレット校たちを驚愕の眼差しで見ていた。


 「マリア!? いいいい、一体何を……!?」


 「あまり喋らないでくださいまし、くすぐったいので」


 「あ……はい……」


 このマリアの行動で響の思考はパンク寸前である、段々と自分が置かれている状況が飲み込めてきて響の顔はゆでだこのようにみるみる赤くなっていく。本当に顔から火が出そうだ。


 「一人で何とかしない方がいいですわよ、ヒビキ?」


 「え……?」


 「最近ヒビキがアクレット校の方たちにしつこく付き纏われているのは知っています。それに重ねて指名された任務の処理、いくら私たちでも今のヒビキが目に見えて疲れているのは分かります」


 「そうかな……」


 弱弱しく笑う響にマリアは「そうです」と言って優しく語り掛ける。


 「私たちは友達じゃありませんか、もっと頼ってくれたっていいんじゃありませんこと?」


 「マリア……」


 「いつも頑張ってくれていますもの、これくらい労わないと罰が当たりますわ」


 そう言ってぎゅっと少しだけ力を入れて響を自分の体に密着させる、その時の響の精神は凄く安定した状態で心地よかった。同級生の胸の中で心地よくなっているというのは一見するとかなり誤解されそうであるが実際今の響には疲れが吹っ飛んでいっているような気分になっていた。

 三十秒ほど経ったところで響が「もういいよ」と言うとマリアは腕を響からどけて自由にさせる。


 「ありがと、マリア」


 「民を守るのが、フォートレス家の使命ですから」


 「流石だね」


 「当然ですわ。さっ、任務に行きましょう。受注してきますわ」


 巻いた金髪をなびかせてマリアは受付の方へと向かう、その時の顔が少しだけ赤みを帯びているのを響は知らなかった。

 マリアが受注し終えて戻ってきたので予定通り任務に行くことにした、外にはもうアクレット校の生徒たちの姿は一人として見当たらず冒険者の人たちが行き交うだけだった。


 任務はつつがなく終わりマリアとセリアにも魔物戦の慣れが出始めてきた、最初の頃はアリアと響で二人をバックアップする形を取っていたが最近では中級魔物相手なら単独で戦えるようになり四人が四人とも単騎で戦えるようになってきているのでだいぶ作業効率が上がっている。

 四人とも魔法の精度と威力が上がりチームワークも高まっていた。次の日また学校に響を指名した討伐任務が舞い込んだ、その内容は上級魔物であるマーナガルム種の討伐だった。


 響とアリアにとっては二度目の上級魔物の討伐任務、マリアとセリアにとっては初めての上級魔物討伐任務である。そこで、任務の成功確率を上げるためレイとヴィラの力を借りるため魔導学院に足を運んだが、二人は別な任務に出ていて学院にはいなかった。

 ギルドからの任務がある時の学校は欠席扱いにはならず任務という授業を受けているという処理になるのでいつもより時間はあるからとりあえず入念に準備をしてから行こうと方針を決めたその時だった。


 「あれ? アリアじゃないの、何か用?」


 「おやフランさん、その節はどうも」


 たまたま通りかかったのは魔導学院生徒会長にして【神童】の二つ名を持つ、フラン・ヘルヴォールだった。四人はダメもとでフランに任務の協力を仰いだところ、意外にも快く承諾してくれた。

 フランは近くの先生と思しき人に何かを伝えるとすぐに戻ってきてパーティーに加わった、五人になった響たちはそのままギルドに行ってマーナガルム種討伐任務を受注した。この任務もスレイプニル種の時と同じようにシルバーランク以上じゃないと受けられないのでマリアとセリアが引っかかるかと思ったが、最近の任務でランクアップのする規定数以上の魔物を倒していたのでその場でブロンズからシルバーに昇格して無事受注することが出来た。


 本来ならそこから馬車に乗り込むところだが、今回はちょっと違う方法で移動することにした。今いる場所から一瞬で移動することが出来る魔法、空間魔法の派生技、転移魔法である。


 「四人分ならまだ余裕かな、んじゃみんな私に掴まって。あ! そう言えばヒビキ君だっけ、君ならもう転移魔法くらい出来るんじゃないの?」


 「出来ますけどまだ一人しか試したことないです」


 「そっか~、幾らか負担してもらおうかと思ったけど仕方ないね、しっかり鍛錬するように」


 「はい!」


 「よし、じゃあ飛ぶからしっかり掴まっててよー!」


 そのまま視界がホワイトアウトし、次に視界に白以外の色が付いたのはその二秒後のことで、目を開けると辺り一面岩だらけの荒野が広がっていた。遠くの方には何やら門のようなものが見えることから近くに街があることが分かる。


 「ここは……どこでしょうか?」


 「荒野かな。ほら、あっちに街が見えるでしょ? あそこが獣族の街の入り口なんだけど見えるかな」


 セリアの質問に丁寧に答えてその門のようなものが見える街の方を指さした。獣族というと確か近接戦闘に長けた種族だったか。


 各自何も体に異常がないことを確認して、いざマーナガルム種を探そうとしたその時、


 ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン………


 という凛々しい雄叫びが聞こえてきた。


 「運良いみたいだね、今日」


 楽観的にそう言うフランの後について響たちも遠吠えの聞こえた方角へと足を運ぶ、数分歩いたところで見えたのは黒と灰色が混ざった体毛が生えた三匹の巨大な狼の姿をした生物だった。


 「いたね、しかも群れ。厄介だな」


 フランが小さく呟き、全員を近くの岩場に来るように言う。そう、あれこそが今回の任務の討伐目標、上級魔物マーナガルム種である。岩場に隠れた響たちはフランからマーナガルム種と戦う時の注意点を聞いて手短に作戦会議を行い、討伐に移行した。

狼系統の獣ってかっこいいと思うんです

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