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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第三章:魔法学校を卒業するようです
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殺伐レクリエーションのお話。

レクリエーション(戦闘)

 金曜の日、いつにも増してラピストリア魔法学校は賑わっていた。学校の一角、体育館にはラピストリア魔法学校とアクレット魔法学校の十回生の生徒たち総勢二百人近くが全校朝会の時のように話し声はあるものの行儀よくきちんと学校のクラスごとに並んでいた。

 その体育館の壇上の裏では両校の生徒会メンバーたちが騒がしくならない程度に喋りながら並んでいる生徒たちの方を確認していた、アクレット校の方を見ると全員女子生徒でかなり意外だった。今日は生徒会メンバーしか裏方におらずセリアは今一般生徒たちの列に交じっている。


 「女子高だったんですね、アクレット魔法学校って」


 「あら? ヒビキは知らなかったのですか?」


 「マリア知ってたの?」


 「アクレット校と言えば、古くからある由緒正しいお嬢様学校ですわ」


 「へー、道理でみんな礼儀正しく並んでるわけだ。ん? でもマリアは行かなかったの?」


 「絶対というわけでもないですし、私にはこちらの方が性に合ってましたから」


 「そっか」


 「まぁ、そのおかげでこうしてヒビキと仲良くなれましたしね」


 「やめろよ、恥ずかしい」


 からかい半分で言ってくるマリアに割と本気で照れる響、二人で仲良く話しながら開始の時間を待っていた。途中で時間を確認するため響が時計を作って時間を確認すると現在午前八時五十分頃、開始は九時なのでもうそろそろ準備をしないといけないのだが、響の作った懐中時計にキュリアたちが興味を示した。


 「それ時計ですか? 一体そんなものどこに売ってるの?」


 「売ってませんよ、今作りました」


 「……は?」


 頭にクエスチョンマークを浮かべるキュリアたちの横で密かにケタケタと笑うアリア、実際このカラクリを知っているのはラピストリアの中でも数人だけなので恐らく同じラピストリアの生徒たちにやっても似たような反応をすることになると思う。

 そうこうしている内に五分前になり生徒たちのざわつきも段々静かになってくる、それとは裏腹に響の心拍数はうるさくなってくる。なんやかんやで生徒会として壇上でみんなの前に立つというのはあまりないのだ、今日は両校の生徒会が中心となって交流が行われるので始まりの挨拶は両校の生徒会長から一言言ってからレクリエーションという流れになる。響たちただの役員はその後ろで挨拶が終わるまでじっとしているだけという簡単なお仕事。それでも緊張することに変わりはないのだが。


 「ヒビキ君、あと何分だい?」


 「二分くらいですかね」


 「よし、じゃあそろそろ行きましょうか」


 「ええ、そうしましょう」


 アリアの合図で会長二人が裏方から壇上に上がりその後を響たちが付いていく、拡声石を口にあてアリアから挨拶を話して、話し終えると拡声石をキュリアに渡し今度はキュリアの挨拶になる。流石は由緒正しいお嬢様学校の生徒会長ということではきはきと聞きやすい速度とボリュームでスラスラと話していた。アクレットの生徒たちはうっとりとした眼差しで見つめ、初めてキュリアを見るラピストリアの生徒たちも食い入るように彼女を見ていた。これがカリスマ性というものなのだろうか、人を惹きつける魅力が彼女にはあることが分かる。

 無論、響とマリアそしてキュリア以外の生徒会の人たちも黙って彼女の挨拶を心地よく聞いていた。このまま黙って聞いていようと思った響の頭に聞きなれた声が木霊する。


 「(くっそ暇なんだけど、どうにかなんないの?)」


 聞きなれた声ではあったが一瞬誰だか分からなかった、だがそのテンションの低さと気だるげな声色を頼りに記憶を一瞬で探りその声の主を特定する。


 「(その声は藤島か?)」


 「(絵美里でいいっての、さっさとレクやんないの?)」


 「まだ五分くらいしか経ってないだろ……てか頭ん中に語り掛けんなびっくりするから)」


 突如としてスキル「意思疎通」で話しかけてきた絵美里に呆れながらも周囲にばれないように細心の注意を払いながら会話を続ける。なんとか無事にキュリアの挨拶も終わり、続けて学校長ウィルレイヤードの話になったので生徒会メンバーは一度裏方に戻る。戻っても絵美里からは挨拶が長いという脳内への訴えが響の頭の中へ止まらなかったのでどうにか諭そうとするもマリアに気づかれてしまい軽く笑われた。

 ウィルレイヤードの挨拶が終わるとようやく絵美里の愚痴から解放された響は安堵のため息を漏らす、アリアからは疲れたのかと質問されたが絵美里の愚痴に意思疎通で付き合っていたと答えると「んふっ」っと言ってこらえたように笑っていた。


 何はともあれその後はしばし時間を空けて準備をした後に予定通り親睦を深めるためのレクリエーションを行うことになった。レクリエーションの内容は体育館全体を使ったクイズ大会に両校でペアを作って百組対百組で行われる攻防戦となった。


 クイズ大会は各校の先生方に関する問題や生徒会メンバーの問題が出され右が正解、左が不正解という形で、どちらか思った方に別れるもので答え合わせは適当に集めた廃材や角材を響の「ニュートンの林檎」で操りバツとマルの形に空中で作るという方式を取った。答え合わせの時が一番歓声が大きく、響が腕をしたから上に振り上げた時は体育館中に「おおおおおおおお!!!?」という驚きが混ざった声が上がった。


 「流石ヒビキ君、派手にやるね」


 「先輩が指示したんじゃないですか」


 「うそ……すご……」


 「相変わらず無茶苦茶ですわね」


 キュリアが信じられないものを見るように宙に浮いて自由自在に動く廃材の数々を眺めていた。クイズは響のニュートンの林檎の演出もあってか中々好評で終わった。

 

 その後の百組対百組の攻防戦だがまず人数を体育館全体にぐっちゃぐちゃにばらけさせて適当に違う学校の生徒とペアを作り、アリア率いる白組とキュリア率いる黒組に分かれる攻守交代制。

 防御側は円形の陣形を作りその真ん中に置かれた旗を取るというもので、攻撃側はそれを取れば勝ち、逆に防御側が十分間旗を取られずにいたら防御側の勝ちという単純なものだ。


 アリア率いる白組にはマリア・賢介・琴葉・響・凪沙・リナリアのメンバーが、キュリア率いる黒組には梓・影山・セリア・絵美里・ミスズ・智香のメンバーが組み込まれていた。


 公平なじゃんけんの結果、白組が防御で黒組が攻撃の順番になった。お互いに作戦会議の時間を五分だけ取って陣形を作る。白組の方針は堅実に守ろうの単純明快な作戦指示が出され各自臨機応変に動くことが要求された。ルール上、どっちの陣営も魔法は使えるが中級までという決まりになっている。


 「よし! じゃあ頑張りましょう皆さん!」


 「「「おおー!!」」」


 司令塔であるアリアの号令で白組の士気が高まる。

 そして今、拡声石を使ったアリアの合図で攻防戦がスタートした。


 スタートの合図と同時に地を蹴る音、その瞬間一気に白組の目の前に一人の男が瞬きの内に現れた。



 そんな急加速できる人物はこの場に一人だけ、言わずもがな影山聖也である。



 「貰った……!」


 瞬く間に生徒の壁を潜り抜けた影山はスタートから僅か数秒で旗に手を伸ばしそのまま掴んだ。


 はずだった。


 「うるぁぁ!」


 寸でのところで影山の手を掴み旗を取られるのを阻止したのは響だった。全身に中級防御魔法を三重に重ねて影山の攻撃を防いだ時の衝撃に耐えそのまま拮抗状態にまで持ち込む。


 「やっぱりお前が来たな聖也」


 「よく反応したな、響」


 「舐めんなよ? ……さて、マリア! 賢介! アリア先輩!」


 「アズサはリナリアとコトハと一緒にこちらで引き受けます!」


 「ミスズは俺と凪沙でどうにかする!」


 「エミリちゃんにトモカちゃん、他の生徒たちは僕たちで対処しよう」


 作戦会議の時に転生組の止め方をちゃんと考えていたのだ。恐らく最初に来るであろう影山は万能型の響が止め、近接特化型の梓はリナリア・マリア・琴葉の三人で止めあわよくば琴葉のカウンターで動きを止める、姿を消すことのできるミスズは凪沙の探知で見つけ賢介が未来予測で足止めをする、そして絵美里と智香はバックアップ要員で来るだろうと考え他の生徒たちとそれを迎撃しながら旗を守るということにしていた。


 マリアがコトハのことを呼び捨てにしていたのは響の知らぬうちに他のメンバーと仲良くなっていたからだと言う、作戦会議の時に不思議に思った響が聞いてマリアが嬉しそうに答えていたのを覚えている。


 作戦会議中、梓たちのことをすごく簡単に説明している時にアクレット魔法学校の生徒たちが「は?」みたいな顔で聞いていたが、実際に影山の動きを見てあれは冗談じゃなかったんだと確信した。


 黒組の生徒たちがこちらへと押し寄せてくる。梓の切り込みをリナリアが前に出て防ぎマリアが援護、姿を消したミスズを凪沙が見つけて賢介が対処、そして魔法に百発百中の性質付与をした絵美里の攻撃と智香の蝶たちを防ぐ。


 歴史の合戦のようなこの光景にアクレット魔法学校の生徒たちは勿論のこと、ラピストリアの一般生徒たちも今この瞬間同じことを思っていたことだろう。


 「俺たち要る?」

 「私たち要る?」


 と。無論、黒組を指揮しているキュリアも同じ考えだった。

次回トーナメント戦、開幕

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