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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第三章:魔法学校を卒業するようです
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事前打ち合わせのお話。

アリアが笑う時は大体ろくなことがありません。

 アクレット魔法学校の生徒たちを招いたアリアたちラピストリア魔法学校生徒会メンバー、椅子を引き飲み物を出して先ほどの資料をそれぞれに渡す。

 ありがとうと一言キュリアが言ったのを確認して響たちも席に着く。アリアも今回は会長用の椅子ではなく円卓の方に座る、全員が席に着いたところでキュリアが本題に入る。


 「時間も惜しいですし、早速いきましょうか」


 各自手元の資料を見ながら来週の内容の確認やアクレットからくる人数とこちらの人数を照らし合わせてスペースはどれくらい必要かなど基本的なことを確認していったが特にこれといった不備は今のところでないので生徒会室から出て体育館の方で段取りを実際に確認することになった。


 放課後の体育館は実戦訓練の補習や自主訓練の場として生徒たちに下校時間まで開放されている。勿論、補習がある時はそれが終わるまで自主訓練は出来ないがそれが終わるか無い時なら普通に一般生徒がいる時間帯である。

 そしてこの時間帯に生徒がいることはなんら不思議ではないのだが。


 「(あいつら何やってんだ?)」


 そう口には出さないで心の中で呟く響。

 何故なら今、響の目の前には割と真面目な戦闘を繰り広げている梓たちの姿があったからだ。戦っているのは賢介と梓の一騎打ちで梓が切り込む中賢介が能力の発動による未来予測で切っ先が当たるか当たらないかのすれすれを避けていて、それでも当たりそうなら防御魔法を局所的に発動させてガードをしているがかなり分が悪かった。それを見ている外野の影山たちがやんややんやと応援していた。

 響たちには見慣れた動きだが忘れてはいけないのが響たちは女神であるアザミから一人ひとり能力を授けられ身体能力と魔力量を強化された転生者だということを。そんなことを知らないのは現在この体育館にいるメンバーの中ではアクレット魔法学校のキュリアたち生徒会の生徒たちだけである。明らかに自分たちよりも年下であろう梓たちのその動きにぽつりと感嘆の言葉を漏らすことしか出来なかった。


 「凄いですね……見たところ私たちより低学年ですよね?」


 「ヒビキ君、言ってやれ」


 「あれ、俺の幼馴染なんです……」


 「ていうことは十回生ですか?」


 「はい、そうです」


 その話を聞いて再び梓たちに視線を戻すキュリアたち、その姿はさながら親鳥の餌につられる小鳥のようだった。止めようかとも思ったが何やら面白そうな感じなのでこのままにしておく、まだ試合の決着はついていないが徐々に賢介が体勢を立て直し魔法で攻撃に移るという動作が多々見られた。ただ梓も刀の刀身部分に防御魔法をかけるという離れ業をしてそれを弾き飛ばしていた、二人とも転生者なので個人差はあれど一般生徒よりは段違いに魔力が多いのでまだまだ続くと思われる。


 それを見てさらにその試合を食い入るように見るキュリアたちの意識をこちら側に戻して何もなかったというように体育館での本番の段取りを確認するアリア、動じない辺り流石といったところだろうか、見ればマリアとセリアも普通にしている、この中でこの事態に驚いているのは他行であるキュリアたちだけだというのがある意味この学校が進んでいると言える気がする。


 ちょいちょい梓たちの方に気を取られるキュリアたちだったがその後は生徒会としての自覚からかきちんと本番はどのようなことをここでやるかなどが話し合われた。両校の親睦を深めるためのレクリエーションからそれぞれの学校で何か出し物でもやろうかという話になった。ここまでは学校祭のようなものだがその先がダメだった。


 「では親睦会のような方面で進めた方がいいですね」


 とキュリアがこの話をまとめようとしたその時、アリアが待ったをかけた。その時の顔はお察しの通りろくでもないことを考えている時の顔だった、響とマリアはこのアリアの顔を見て頭を抱えた。


 「一つ提案していいですか、キュリアさん」


 「あ、はいどうぞ」


 「折角お互いの学校の最高学年が集まるんですから、その、ねえ……?」


 「えと、つまり……?」


 「バトルしませんか?」


 「はい?」


 キュリアが固まる。そりゃそうだ、親交を深めようとする方面で進めていたはずなのに一瞬で戦闘方面へと切り替わったのだから。響は知らん顔でちらりと梓たちの方へと目をやる、流石に気が付いていたのか梓と目が合い手を振られるから振り返した。いいなぁあいつら、楽しそうで、混ざりたい。


 「バトルと言うのはどういう感じで?」


 「全員、と言いたいところですが人数があれなのでここは一つ、トーナメント戦なんてどうでしょうか」


 「トーナメント戦、ですか」


 トーナメント戦、つまりは勝ち残り方式の試合形式で圧倒的な個人戦力が問われるシステムである。

 これの意味するところそれ即ち、このトーナメント戦で優勝した者が両校合わせて最も強い人物ということになる。口に手を当て考え込むキュリア、一分ほど経ったところでその口を開く。


 「良いでしょう、ですがそれはラストにということでいいですか?」


 「構いません、人数はどれくらいがいいですかね。なるべく少ない人員でやった方が効率良いですし」


 「でしたら……それぞれ五人ずつメンバーを選出して、誰が当たるかは当日クジか何かで決めましょう」


 「分かりました。では当日は最初にレクリエーションをやって、ラストにトーナメントということで」


 双方合意して納得した上で行われることになったラピストリア魔法学校対アクレット魔法学校のトーナメント戦、恐らく最初に積み上げた親睦をぶち壊すことになる気がするのは、きっと響だけじゃないはずだ。

 その後一旦生徒会室に戻り当日必要なものなどを確認して、それが終わると世間話になっていき、その途中でずっと気になっていたのかアクレット校の女子生徒一人が響に質問した。


 「君も十回生なの?」


 「はい、そうです」


 「てことは十六で同い年なんだ、ちっちゃいね」


 「あー……まだ十一歳なんですけど……」


 「え? でも十回生って」


 戸惑っている女子生徒に対して素直に答えていいものかと考える響だが、そこへフォローするようにアリアが会話に混ざってくる。


 「その子たちはつい最近飛び級しましてね、十六は僕だけです」


 「その子”たち”って?」


 「あなたが話しているその少年もそこの金髪お嬢様とその近侍のお嬢様の三人とも全員飛び級したんですよ、ちなみに、さっき体育館で戦ってたあの子たちも三人と同い年の飛び級生徒たちです」


 「……すご」


 女子生徒が響に感嘆の意を示す、正直この場の三人ともが飛び級したことをそこまで実感していなかったので全員揃って謙遜していた。アリアはアクレット校の反応をさぞ楽しそうに見ていた。

 しばらくしてアクレット魔法学校の人たちが帰り響たちは生徒会室で今日のまとめ作業を行っていた。作業は今日の確認事項を書き留めるだけなのでそう大変な作業じゃないので、達筆のマリアが書いて、その間他は片づけをしていた。数分足らずで終わったので帰り支度をしながら時間を確認するともう五時過ぎだった、赤い夕陽が綺麗に街を照らしているのを見て体を伸ばしながら体の疲れを取っていると後ろに何やら不穏な気配を感じて咄嗟に単体上級防御魔法「プロテクト・ツィオーネ」を展開しながらステップで距離を取る。


 「あー! 絶対ばれないと思ったのにー!」


 虚空に徐々に色が付きそこからミスズの姿が現れる、その後ろから梓たちが走ってやって来て「どうだったー?」と大声で聞いていたことから事前に打ち合わせてた結果だったのだろう。


 「ミスズ……お前はダメだ、マジでビビるから!?」


 「まぁ前科持ちだしね」


 「自虐しやがったよ……んで? 提案したのは梓か」


 「さっすが! 幼馴染なだけあるぅ! でもちょっと嫉妬しちゃうなー」


 「なんで嫉妬するのかは分かりたくないんだけどなぁ」


 などと会話しながら響はおもむろにスナイパーライフルを作成し弾薬をゴム弾にしたものを装填して梓に向けて慈悲無く発射した、なんとなく無事な気がしたからだ。

 梓は音速を超えるゴム弾をどうやって察知したのか一瞬で刀を作成して体勢を低くして居合切りの要領で的確にゴム弾を捉えなんと切り裂いてしまった。ぽとりと空中から地に落ちる綺麗に二つに切られたゴム弾を確認して梓は刀を納刀した。


 「響ー! 危ないってばっ!」


 「お前今よく切ったなそれ!?」


 「私が念のために強化魔法を施した!」


 「職権乱用すんなよ女神!」


 胸を叩いて威張るリナリアに思わずツッコミを入れてしまう響、本当にこの人が女神やっていていいのかとこれまで以上に心配になる。ていうか女神直々の強化魔法とか反則だろ絶対。


 マリアは「またですか」とどことなく楽しそうにその光景を見守っていた。ドタバタしながら集団下校となったその日は久しぶりに楽しい下校になった、最近は色々と大変なことが多かった反動からかみんな話し足りないくらいに話題が盛り上がり、普段会話に積極的じゃない絵美里や琴葉も珍しく楽し気に会話に混ざりながら名残惜しそうに帰っていった。響も、こんなに楽しく大人数で話せたのは日本にいた頃以来かもしれないなと思いながら自宅に帰り、もはや自室での恒例となったベッドダイブをして一日を終えた。

 


 それから一週間後、アクレット魔法学校との異学校交流の日が訪れた。

次回は戦闘パートの予定

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