飛び級のお話。
タイトルまんま
「では今日はここまで、起立! 礼!」
「「「さようなら!」」」
授業を終え生徒たちが続々と帰る中、響とマリアそしてアリアは生徒会室へ移動していた。ここまではごくごく自然の流れである、大抵は放課後に生徒会室で雑務をしたり駄弁ったりというのがもはや恒例行事であるため特に何も違和感はない。
今しがた出た教室が五回生の教室ではなく、本来来るはずのない十回生の教室で無ければの話だが。
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その理由は今朝、学校に着いた時に遡る。
いつも通り響は梓・影山・マリア・セリアの五人で楽しくお喋りをしながら登校していた。学校につき上履きに履き替えて教室に向かうとミスズとリナリア、そして窓際に腰かける人物がいた。響たちはその人物に見覚えがあった、アリアがヴィラとの戦いの時に能力で作った三白眼を持つ攻撃重視の女型ゴーレム「壱号」だった。長身でスラリと長い手足を持つ壱号はすでにクラスメイトの視線を独り占めしていた、壱号は響たちに気が付くと窓際から降り歩いてくる。それに付いてくるようにミスズとリナリアもとことことこちらへと来る。
「全員揃いましたね。アリア様より、皆様へ伝言があります」
「あ、喋った」
「私とて喋ります、そう言えばお話するのは初ですね。私とアリア様は互いに意思疎通が出来るため、会話しなくても大丈夫ですから。他の人と喋るのは久しぶりです」
意外と饒舌な壱号に呆気にとられつつも響はアリアからの伝言を尋ねると、壱号は「ああそうでした」と言いださなければこのまま話し続けていたんじゃないだろうかと思わせることを口走る。
「全員荷物をまとめて十回生のAクラスに行くようにとのことです」
「え? 何で……」
「おや、聞いていらっしゃらなかったのですか?」
「ねえヒビキ、なんか嫌な予感がするんだけど」
「俺もだ、んで聞いてないのかっていうのは」
「皆様は本日付で五回生から十回生へと繰り上げ進級しました。飛び級というやつですね」
その場にいた全員が言葉を失った、マリアが教卓の方へと行ってクラス中を見るとおかしいことに気が付いたようでわなわなと震えた声で「私たちの席が消えてます!」と言うものだから響たちも慌てて確認するが本当に無い。「お分かりいただけましたか? ではついてきてください」と壱号が淡々と喋り何が何なのか分からないまま壱号の後について行って西棟から東棟へと移動してやって来たのは最高学年である十回生の生徒たちがいる教室。壱号は何の躊躇いもなくいきなりAクラスの教室のドアをガラリと開ける、するとここに来る途中で響は何となく気が付いていたが、案の定アリアがいた。
「おっ! 待ちくたびれたよみんな。ようこそ」
「アリア先輩、一つ確認していいですか?」
「いいとも、なんでも聞いてくれ」
「数日前から飛び級のこと知ってて黙ってましたね?」
「うん」
「即答かよ!?」
予想していたこととはいえ流石に即答されると響も呆れる、対照的にアリアは響が良いリアクションを取ってくれたと喜んでいる様子だった。壱号は「連れて参りました」と手短に伝えアリアの元へと戻り自分の席に着く、自分の席あるのかよと思いながらも響は観念して教室の中へおずおずと入っていく。梓たちもつられて教室に入りアリアに席を教えられてそこに荷物を置く。
教室中がざわざわして響たちを物珍しそうに見る、響たちだって今自分たちが置かれている状況にまだ整理が付いていない、そうこうしていると朝のホームルームのチャイムが鳴り先生が教室に入ってきた。それは何と学校長ウィルレイヤードその人だった。
「はい、ではホームルームを始めたいと思います。えーっと……全員いますね、本日からアリアさんが連れてきたように七人の生徒が新たに加わることになりました。皆さん、仲良くしてあげて下さい。では今日の連絡事項ですが……」
あまりにもあっさりと済ませ連絡事項へと移っていくウィルレイヤード、一通り連絡事項を伝えると響たちに前を出てくるように指示して全員を教室の前に立たせる。
「先ほども言いましたが、この子たちは今日から五回生からの飛び級で皆さんと同じ十回生として勉強を受けます。それじゃあ左から一人ずつ自己紹介をお願いします」
「あ、はい、セイヤ・フォルテインです」
「ミスズ・ゼナ・キリナ・ローゼンです」
「リナリア・ファルス。以後宜しく」
「マリア・キャロル・フォートレス、ですわ」
「セリア・ロット・サイトです、よろしくお願い致します」
「ヒビキ・アルバレストです。よろしくお願いします」
「アズサ・テロル・ゼッケンヴァイスです! よろしくお願いします!」
「ありがとう、席に戻って結構だ。それではみなさん、卒業までの短い間だが仲良くするように、以上」
こうして響たちの飛び級学校生活がスタートしたのだった。
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そして授業を終えた響たちは今に至るというわけだ。響・マリア・セリアの三人は生徒会室の円卓に体を預けてぐったりしていた、疲れからか響は「そう言えばセリアだけ生徒会メンバーじゃないな……あ、近侍だから別にいいのか、もはや正規メンバーだしなぁ……」と頭の中で自問自答を行っていた。そんな三人を横目にアリアは優雅に紅茶を啜っていた、三人の前にも紅茶は置かれていたのだが誰一人として口をつけてはいなかった。
「どうしたんだい、三人とも。そんなぐったりしちゃって」
「九割方先輩のせいですからね!?」
「おや、元気じゃないか」
思わず響がツッコミを入れるとアリアが澄まし顔で答える、ぐぬぬと響が思っているとマリアが顔だけをアリアの方へと向けて恨めしそうに見ると、一つ質問をした。
「アリア先輩、なんで私たちはいきなり飛び級したのですか? あまり身に覚えがないのですが……」
「もう同学年だから先輩じゃないよ、マリア。それはそうと、身に覚えがない、ねぇ……ふふっ」
面白そうに微笑むアリアに「もったいぶらずに教えてくださいまし」とマリアが言ったためアリアは紅茶を一口飲んで立ち上がりどこから持ってきたのか分からない探偵が良くつけているようなチェック柄の丸い唾のついた帽子を机の引き出しから取り出して被った。なんだっけあれ、昔調べたんだよな……ディアストーカーとかって言ったっけ。なんかそんなカッコいい変態チックな名前だった気がする。
「よく考えてみようぜ? 君たちは魔導学院の生徒相手にどれだけ頑張ったと思ってるんだよ」
「口調変わってますがそれは」
「細かいことは良いんだよヒビキ君。重要なのは君たちがあの時何をしたかだ」
「勝ったんでしたっけ、あれ」
「その通りだ、よくよく考えてごらんよ。たかが学校生の僕たちが兵揃いの魔導学院の生徒たちに勝ったんだぜ? 普通あり得ないんだよ、そんなこと」
「はぁ……」
「そして追い打ちをかけるが如く今回のフォートレス家の事件解決! もう説明はいらないだろ」
「あぁ……そういうことですか」
これ以上考える気力もない、再びうなだれる響たち。
その後普通に雑務をしてその日は解散となった、学校から出ると夕陽がいつもよりも赤く街を照らしていた。その光がやけに響・マリア・セリアの三人の体に染み渡った、その感覚が疲れからではなくその時の気のせいだと三人は半ば自分を騙すかのように思った。
導入が一話になった……
次回より卒業編、始まるよ。




