剣術と再会のお話。
状況描写って難しいですね。同じような言葉が被ってしまいます。
この本によれば、まず魔法というものにはちゃんと術式が組まれていて、それに基づいて初めて成り立つものらしい。
魔法のベースから射程と威力を決める術式、そしてそれを実行するために魔力を出力させる術式
大まかにこの二つに分かれる。デスクトップ型のパソコンで言うところの、本体とディスプレイのような関係だろうか。どれだけ本体のスペックがよくても、それを映し出すディスプレイの画質が悪かったら意味がないのと同じように、大まかにどのような魔法にするのかを決めてから、その性能を十二分に発動させるための術式を組み込むのだ。
新しい魔法が誕生する際は、この発動術式が重要になってくるという。ただ、それはあくまでも魔法の成り立ちの話であって、今ある大体の魔法は「詠唱」で簡略化されて使いやすくなっている。
魔法にはそれぞれ階級があり
低級、中級、上級、緋級、壊級、冥級。
この六つとなっている。階級が上がるほど習得日数が上がり、使用できる者も限られてくる。上級で一人前、緋級でトップクラスの魔法使いレベル、壊級で天才あるいは鬼才、冥級はその天才の中でも限られた一握りの存在、といった風になってくる。
大体の人は魔法学を学ぶための学校に行くので上級まではある程度覚えられるという。
魔法の種類も大きく四つに分かれていて、
攻撃魔法
防御魔法
回復魔法
空間魔法
この四つがある。
あくまで大まかに分けた場合のこの四つに分かれるというものでその中からさらに「拘束魔法」や「強化魔法」などなど派生される。
それぞれの魔法の特徴は名前の通りで、回復魔法と空間魔法は発動が複雑なので、習得するまでに個人差が大きいという。
どうやら基本編であるこの本には、あくまで基本ということなので初級魔法と中級魔法までしか書かれていない。恐らく上級以上と回復魔法・空間魔法は応用編とかで出てくるのだろう。
ひとまず本は沢山あるからいずれ覚えられるし今はいいかと響は考えないようにした。
そしてこの四つの魔法には属さない「禁術」と呼ばれる魔法がある。分かった通りのテンプレだ。正直言ってこの本を手に取った時から響はなんとなく予想はしていた。
禁術にも属性があるようで、白魔法と黒魔法の二つが存在する。ただし実際に使用した人物が少ないので、存在するのかも怪しいというのがこの本に書かれている。白魔法が防御魔法と回復魔法の総合上位互換で、黒魔法が攻撃魔法と空間魔法の総合上位互換というものになっているが実際は定かではない。
まだ一回も魔法というものに触れていないがこれくらいなら何とかなるかなと響は漠然と思った。
では早速やってみよう、当たり前だがまずは初級からだ。
「詠唱破棄」も貰ってる上に転生者だ、きっとなんとかなるだろう。
初級魔法のページには、攻撃魔法と防御魔法で四つずつ、回復魔法と空間魔法で二つの計十個の魔法が書かれてある。
「(何からやろうか……やっぱ最初は攻撃魔法かな……?)」
人生初の魔法は攻撃魔法に決定し、四つある内の中から響は「マジックバレット」という魔法を選択した。
「ファイアバレット」という魔法と悩んだが、火とかで家燃えたりしたら洒落にならないという理由で却下された。
説明文には射程と威力それから詠唱が書かれているがどのような感じなのかが書かれていない。
物は試しだと覚悟を決めて響は座ったまま壁に向かって、襲撃時の魔王様と同じように、右手を突き出した。
「マジックバレット!」
するとその瞬間右手に手の平くらいの魔方陣が現れた。
「うわっ!」
響はつい幼い驚き声を上げてしまった。すると、魔方陣は砕けて光の粒となって消えてしまった。どうやら失敗したみたいだ。
まだ一発目だ、響とて最初から成功するとは思っていない。気を取り直して二発目いってみよう。
「マジックバレット!」
魔方陣が現れるもさっき見たばかりなので流石に響も驚かない。
しかし問題はここからだ、どうやって放てばいいのか分からないがとりあえず響は拳銃で銃弾が射出されるイメージをしてみる。
右手から何かが注がれていく感覚があり、魔方陣が薄い光を発する。そしてサッカーボールくらいの大きさの白い光球が放たれた。
初めて魔法を使ったからかそれとも筋力が足りないからか、反動で右手がちょっとだけ上に上がってしまう。そしてその光球は壁ではなく、窓に向かって一直線に放たれていく。ガシャァァンというけたたましい音がして、窓ガラスが木っ端微塵になっていく様を響ははっきりと見てしまった。
心地よい冷たさの風が、右手を突き出したまま固まっている俺の頬を、撫でるように通り過ぎていく。
「(やっちまったああぁぁ…………!)」
やってしまった、それはもう盛大に。
今の響の心境は魔法が正常に使えた喜びよりも、窓ガラスを粉砕してしまったことへの絶望感の方が遥かに高かった。
慌ててドアを開けて誰か来ないか確認する。この状況で来られたらマジでやばい。どう説明しようしたものかと考えるもそんなことより怒られるよなぁと響は半ば絶望仕掛けていた。
本の通りに魔法使ったら窓ガラス壊しちゃいましたテヘペロってか!?
無理だよぶん殴られるわ。
そんなことを考えていると、ドタドタドタと誰かが小走りでやってくるような足音が聞こえてきた。
「やばい!」と咄嗟にそう思った響は今この瞬間どうすれば最善なのかが頭の中を一瞬で駆け巡らせた。追い詰められた響はもうこれしかないと思ってあの奥義を放つことにした。
「ヒビキ~? 今の音なに~?」
母親がドアを開ける。
そこには、四つん這いになって頭を地面につける息子の姿があった。そう、「土下座」だ。小さい頃、お母さんとかに言われた人も多いだろう。「悪いことをしたらまず謝りなさい」と。響は日本伝統の究極奥義である土下座を用いて、その教えを実行した。
あっけにとられる母親。無言で土下座する一歳ちょっとの息子。そして割れた窓ガラス。わずか一部屋で繰り広げられる、このよく分からないシュールな状況。これが今の響にできる精一杯の行為だ。
「えっと、どういう状況なのかな~?」
いまいち呑み込めてない様子の母親。
最もな意見だ、響が逆の立場でもそう言うだろう。
変に追及される前に響の方から言うことにした。
「ごめんなさい母様。興味本位で本の通りにやってみたら窓ガラス割ってしまいました」
さて、どうなる。
つい勢いで母様とか言っちゃったが、響自身生まれ変わってからエミルのことをお母さんとか呼んだこともなければ、そもそも母様って使ったのも初。
家が道場だからちょっと礼儀正しい感じの呼び方の方がいいのかなーとか思ってつい言ってしまった自分の愚かさと浅はかさを響は呪った。
「ヒビキ? 顔を上げなさい」
いつもおっとりとした喋り方の母親の喋り方が真面目になった。響は確実に怒られるのだろうと思いながらおずおずと顔を上げ、母親の顔を見る。そこには、なぜかちょっと笑っているエミルが立っていた。
「全くこの子は~。魔法が使いたいならそう言えばいいのに~」
そう言って響の目線の位置までしゃがむと、まるで起こる様子もないままいつものようなにこやかな顔で響の頭を優しく撫でた。
「怒らないんですか? 窓ガラス割ったのに」
「その様子だと、ヒビキ初めて魔法使ったでしょ~? 初めてやることには、何かしらの失敗はあるもの~。今回は許してあげる~。でも今度から魔法をやりたくなったら、お庭でやるんだよ~?」
「はい母様。ごめんなさい」
「分かればいいのよ~。ちゃんと謝ってえらいえらい~」
にこにこと笑いながら頭を撫で続ける母様。その後ろでまたドタドタと誰かがやってくる音が聞こえてくる。
「ヒビキ君? 今の音なんですか?……って奥様、いたのですか。窓ガラス割れてるし、何があったんですか?」
来たのは父親のクラリアではなく、門下生のカレンさんだった。
「あらカレンちゃん~。聞いて~この子ったらこの部屋で魔法使っちゃったもんだから、窓ガラスに当たって割れちゃって~。そういやあの人は~?てっきりカレンちゃんじゃなくて、あの人が来るんだと思ってたけど~?」
「ああなるほど、そういうことでしたか。怪我がなくて何よりです。師範なら今、他の門下生と模擬試合をしていまして、試合中だったので、待機中だった私が参った次第です」
「分かったよ~。あの人がカレンちゃんに行ってこいって言ったんだったらちょっとお話しするつもりだったんだけど~、そういうことなら仕方ないわね~」
あの人というのは恐らく父親のことだろう。お話しと言った時の母親の目がちょっと笑っていなかったのは気のせいだと思いたい。にしても、このくらいの年の子供が魔法を使うのは当たり前なのだろうか?
大ごとになるかと思いきや、やけにあっさりしてたし。
「あの、母様。魔法って普通どれくらいから使えるものなのですか?」
一歳の子供がいう質問にしては変だとは思いながらも、気になったので聞いてみた。
「うーん、そういやこの年で使えるのは珍しいかもね~。凄いじゃんヒビキ~」
なんだろうかこの煮え切らない感じ。とりあえずこの年ではあまり使えないものだというのは分かった。それを踏まえて言わせて欲しいことがある。
なんかこう! もうちょっとなんかあるだろ! ゆる過ぎじゃないかね母様!?
「奥様、珍しいで済ませることではないかと……」
まるで響の心の中を呼んだようなことを言うカレンに響は「ナイスだ!」と内心褒めた。
「そうね~、じゃあそろそろ道場で訓練させようかしら~」
響は固まった。
そろそろ道場で訓練というのは流石にまだ早すぎるだろうと響は思った、カレンの方を見るとカレンも戸惑ったような表情をしていた。
この人は一体何を言っているんだろうか、そんな表情だった。
「この年で魔法が使えるなら~、剣の訓練も早めにしておいて大丈夫かな~って」
「ですが、まだ一歳ですよ? せめて二歳とか三歳頃からの方がいいんじゃないかと思いますが」
もしかしてカレンさんは本当に自分の心の中を読んでいるんじゃないだろうか、エスパーなんじゃないだろうかと響は思った。
やっぱりこの人は常識人枠らしい、この人までエミルの方に味方らしたらと思うとゾッとする。
「でもねカレンちゃん。一歳でこれだけ喋れて質問して、さらには魔法使っていうくらいには他の子たちよりは成長が早いってことでしょ~。それに~、早くから何かを習うっていうのは、結構大事だと思うけどな~」
「それは……まあそうかもしれませんが……」
「いいじゃない~、何かあったら何とかするわよ~」
そんな話の中、父親のクラリアがやって来て、これまでの流れを聞いた。どうやら父親も、響を道場にいれるのに乗り気なようで、カレンが小さくため息を吐いた。響の道場入りが決まった瞬間である。
ただクラリアも、流石に今から入れるのは早いという意見で、二歳からの道場入りとなった。
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その後一年が経って、二歳になった翌朝、多分六時頃に母様が起こしに来た。顔を洗って、毛先が堅めの歯ブラシのようなもので歯を磨き、トイレを済ませて食卓に着いた。途中、トイレの時に、一人で出来るかと母様が聞いてきたが、中身は高校生なのでその辺はちゃんと一人で出来た。父親も寝起きの顔で食卓に着き、家族三人での食事だった。
朝食は、ご飯とおかゆを足して二で割ったようなものに、ほうれん草のような野菜と何かの肉を焼いたものだった。味は美味しく、懐かしい味がした。
朝食を済ませて、若干張り切り気味のクラリアから響は道着と袴を貰って着替えた。
サイズもぴったりで、あらかじめ用意されていたものだったのだがなんとこの道着、カレンさんが小さい頃使っていたものだというのだ。
実はこのアルバレスト道場、十年ほど前からやっていたらしく、父が二十五の時に始めたものだった。元々、冒険者をやっていた父が、同じく冒険者をやっていた母と出会い、二人の意思で開かれたものらしい。両親ともに同い年で現在三十五歳。カレンさんは、道場が出来た時からの最古参で当時三歳の現在十三歳ということになる。十三歳にしてはいささかしっかりしてるし大人っぽいが、この世界では大体こんなものだという。
それとなぜその時の道着が今現在この家にあったのかは怖いので聞かないことにした。
そんなことを父から聞かされていると、門下生の人たちがぞろぞろと入ってきた。いつもこの時間からやっているみたいで、やる気に満ち溢れた顔をしている。
「よし、じゃあ始めるか」
父の号令とともに、初めての訓練が始まった。
最初は剣の構え方や素振り、足の使い方など、基本的なことを学び、その後、軽い模擬試合をした。響は初めてだったので県の構えと素振り、足の使い方などを時間いっぱい練習して終了した。
部屋に戻り、能力で時計を見て時間を確認すると時間は午前十一時頃。
六時から休憩時間ありで約五時間ほど訓練をしていたわけだ。赤ちゃん用から普通用になったベッドに横になり、魔法学の本を読む。去年初めて魔法を使った時から毎日練習して、今は初級魔法全般と、中級魔法の一部を使えるようになっていた。
部屋で休んでいると道場の方から何やら声が聞こえた、門下生の人たちは帰ったから今は家族しかいないのだが……一体誰だろうか。
気になって足を運ぶとそこには母親のエミルと、響と同じくらいの子供を連れた二組の親子がいた。
「ああヒビキ~、ちょうどよかった~。両隣のアズサちゃんとセイヤ君よ~。ご挨拶して~」
アズサにセイヤ、その名前にハッとする響。
まさかこいつら、とそう思った矢先、急に頭の中に声が聞こえた。
「(久しぶり! 響!)」
「(おっす水無月! 元気だったかー!?」
そう聞こえ、二人の子供を見ると、二人とも笑っていた。これはもうそういうことだ。
「(こいつら……直接脳内に……!)」
初ブックマークありがとうございました。これ見た時リアルにガタッってなりました(笑)
総合評価はまだまだ低いですが、のんびりやっていこうと思います。
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