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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第二章:フォートレス家に危機が迫っているようです
48/221

地下牢の秘密のお話。

今回は長め(3,700文字程度)

 バドゥクスが死にハーメルンとイグニスがやって来た日の翌朝、未だ屋敷には厳戒態勢が敷かれていた。それもそうだろう、屋敷の警備を担っていた人物がお嬢様を拉致して喰われてさらには屋敷を魔物の群れが囲み魔王軍幹部の一人と魔王本人が来るという異常中の異常事態が続けざまに起こったのだ。むしろこんなことがあって割り切れる方がおかしい、もう来ないだろうとよほどの確信があれば話は別だが。


 響たちは朝早くから屋敷の警備隊の一員として組み込まれていた、理由としては魔物の群れを障害とも思わずあっさりと倒したこと、そしてハーメルンに勇猛果敢に立ち向かい彼らが帰るまで無傷の状態で生還したことが大きい。また、グラキエスはマリアから魔導学院との模擬戦の話を聞かされていたためそれも評価の一つなのだと思う。

 そういう訳で響たち五人は朝早くから朝食の時間までマリアとセリアを起こさないようにそろりと部屋から抜け出し各々仕事に従事した。だがその間の出来事と言っても地下牢に放置されたままのバドゥクスの死体を回収するくらいであとは大して何も起こらなかった。少し問題だったのはバドゥクスの死体を回収する時、ただでさえ衛生状態が悪い地下牢に放置された状態でさらにキメラに喰われた時の唾液などの関係で急激に腐敗が進んでおり地下牢全体に腐乱臭が充満していたことだろうか。小さい窓を全て開けてなるべく喚起を促しながらグジュグジュに爛れて腐った死体を昨日その場にいた響とアリアそしてグラキエスが選んだ使用人たち数人で作業を行った。


 「朝からこれは吐きますよ……」


 「吐いたら受け止めようか?」


 「勘弁してください」


 「でもヒビキ君そんなでもないじゃないか」


 「まあ、昔至近距離で人の頭吹っ飛ばしましたからね……」


 「ああ、あの山賊か。元気してるかなあの人たち。あ! もしかしたらあの人たちもこんな状態になってたりしてね!」


 「うっわぁ不謹慎極まりない」


 「二人とも、大丈夫なら手伝ってください! 私もういつでも吐けますよ!?」


 響とアリアが話しているとニュゼナが顔を青くしながら叫んでくる、なんでこの人が選ばれたのか、時折口元に手を当てて必死に耐えてる時があるし。流石に可哀想だと思った他の使用人たちが地下牢から先にエスケープさせ代わりを響とアリアで補ってどうにかこうにか死体を麻袋に包み安置所へと運び込む。


 というところで朝食の時間になりマリアとセリアが寝起きで重たい瞼を擦りながら食卓へと着き、他の面々もやって来た。響とアリアも食卓に着くのだが二人ともさっきあの仕事をした後だから食欲が中々沸かない。処理に当たっていた人たちもそんな様子だ。


 「みなさんおはようございます、今日も無事に過ごせますように。いただきます」


 「「「いただきます!」」」


 マリアがいつものように食事の号令を取って食事が開始される。食事中はまあ普通の会話をしながら楽しく食べる、食事を終えた響とアリアはグラキエスに部屋に来るように呼ばれていたためグラキエスの部屋に移動する。アリアはトイレをしてから行くということで響だけ先に行ってアリアを待っていた。しばらくしてアリアが戻ってきたのを確認してドアをノックして入るとグラキエスが紅茶を入れてくれていた。


 「待ってたよ、適当に座ってくれ」


 「失礼します」


 言われた通りソファーに腰かけ紅茶を啜る、二人の前にグラキエスが座り紅茶を一口飲んだところで話を切り出す。


 「早速だが、昨日のことについて君たちが見たものことを聞かせてくれるかな? なぜあの部屋の存在に気が付いたのかも含めてね」


 「あの部屋というのは、地下牢のことですか?」


 「それ以外に何かあるかい?」


 「いえ……」


 「あの部屋は僕が見つけた」


 「どうやって?」


 「色々試行錯誤した結果、かな?」


 必要最低限のことだけで詳しくは説明しないアリアの発言に訝しげな表情のグラキエスだがすぐにいつもの調子になり再び質問を続ける。あそこに何をしにいったのか、そしてそこで何があったのか、響がそれを答えようとするとアリアがすぐに制止して話し始める。マリアが拉致されている可能性のある場所だから、狂った様子のバドゥクスがキメラに喰われたことをこれまた簡潔に報告する。響はアリアの話し方に若干の違和感を覚えながらその話を聞いていると、グラキエスは「そうか、ありがとう」とだけ言って二人を部屋から出して「ゆっくり休んでくれ」と言って扉を閉めた。

 響は先ほどの話の違和感についてアリアに聞くとアリアは悪い顔をしてそれでいてよくぞ聞いてくれたといったような顔で歩きながら話し始めた。


 「良いかいヒビキ君、多分あの地下牢は公にしたくないものの可能性がある」


 「案内図になかったからですか?」


 「ああそれもある、そして地下牢には三つの不審点がある。そもそも家の案内図に記されていない時点でまずワンアウト。確実に怪しい。次に地下牢の存在そのものを知っている人物が少なすぎる、あの時もしセリア嬢が地下牢の存在を知っていたのならすぐにでも自分が向かっているか誰かに知らせていただろう、それなのにどこにもいないなんていったんだ」


 「マリアさんの付き人であるセリアさんが知らない……でも確実に実在しているってことはセリアさんは最初から地下牢の存在を誰にも知らされていない」


 「そもそもあの部屋の存在を知っている者はこの屋敷でも数人だろうね、それでツーアウト。そんな場所で今回何が起こった?」


 「バドゥクス少尉がマリアさんを拉致し……て……。あれ、これって、自分の部下が自分の娘を自分の家の知られちゃいけない場所で拉致したっていうことに……」


 「ヒビキ君、こっち」


 そこまで話すとアリアが手招きをしてバルコニーに響を導く。「なぜここに?」と響が聞くと、「見晴らし良いし話しているところを見られても会話場所として違和感がないから」だそうだ。


 「んで、話の続きだけどそこまで分かったんだったらなんとなく僕がこれから言うことに対して想像がつくんじゃないのかい?」


 「地下室はほとんど誰も知らない場所……それでいて、この屋敷の住人でありお嬢様のマリアさんがそこで拉致された……しかもその犯人は自分の部下……」


 「フォートレス家にとってあの地下室が何を意味するのかは分からないが、もし今回の事件が公になればグラキエス団長は間違いなく面子が丸つぶれだ、なんせ騎士団のトップに立つ自分の家で娘が部下に拉致られたんだよ? 王立騎士団の面子、引いては王都の威厳に関わる」


 「…………もし仮に公言したら……?」


 「僕たちはまだ子供だ、大の大人がその気になれば簡単に殺せるだろうさ。僕たちは冒険者もやってるから任務中に魔物に殺されたと言えば何とでも、ね」


 「でもニュゼナさんとが入ったじゃないですか……」


 「ああそうだね、でもさ、よくよく思い出してごらんよ」


 そこでアリアは一度周りを確認すると不敵に笑って顔を響の耳元まで持ってきて囁くように言った。


 「あの中で一人でも”この場所は何処なのか”と不審がる人は居たかい?」


 そこで響の思考は止まった。そうだ、ここまでの話を聞いて冷静に考えれば気づけたはずだ。普通初めて入るところなら何かしらのリアクションがあってもおかしくないはずだ、なのに誰一人として驚いた様子もなく淡々と作業をするだけだった。しかも、あの人選はグラキエス本人が選んでいたはずで……。


 「気が付いたかい? これでスリーアウトだ」


 響はその一言でハッとする、アリアはいつから気が付いていたのだろうか。


 「ニュゼナさん、確か新人だったって言ってたけど本当は……」


 「どうなんだろうね、確かにニュゼナさんは実は新人じゃない可能性があったけどマリア嬢は知らなかったっぽかったよ」


 「まさかトイレって言ってたのは」


 「察しがいいじゃないか、それとなく聞いてきた。本当につい最近入った人らしかったよ、きっと偶然見つけちゃったんだろうねあの部屋を」


 そこまで話し終えたところでアリアが部屋に戻ろうと言うので大人しく戻ることにした、その途中で歩きながらアリアがまた話し始めた。


 「まあ、あの部屋が知っちゃダメなものなのかなんなのかは、分からないんだけどね」


 部屋に着くとマリア達が楽しくお喋りしている最中だった、響とアリアが部屋に入ってきたところでマリアが二人に体を乗り出して聞いてきた。


 「そうだ! お二人に聞きたいことがございましたの」


 「なんですか?」


 「私が連れて行かれたあの”牢屋だらけのお部屋”って結局どこでしたの?」


 「近くの廃墟だよ、マリア嬢」


 「そうでしたか、どうしても気になってしまいまして……でもそんなところ近くにありましたかしら?」


 「きっと知らなかっただけだよ」


 アリアがそう諭すとマリアは素直にその言葉を信じてそれ以上聞くことはなかった。

 響もその日はそれ以上、地下牢について考えることは無かった。

考察なんて苦手なことは、あまりやるものじゃないですね。

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