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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第二章:フォートレス家に危機が迫っているようです
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夜風のお話。

どう書きだそうか悩んだ

 ハーメルンは顔を上げ周りをぐるりと見渡し一歩後ろにバックステップを取った、一見すると訳の分からない行動だったはずだ、響たちにも何をやっているのか分からなかったのだから。ただ一人リナリアだけはハーメルンが何の意図をもってその行動をとっているのかがはっきり分かっている。


 『これはこれは、【透過】なんてまた奇怪なことをしますねぇ。こんな芸当が出来る人物を私は二人しか知らない』


 ハーメルンは足払いをして何かを掴み投げ飛ばすような動きをした。


 『一人は我が主、魔王イグニス様。そしてもう一人は』


 そしてその投げ飛ばしたであろう何かを掴む、するとそこから「ぐぅ……」という声が聞こえてきて段々とその何かの正体に色が付き響たちが視認することが出来た。ハーメルンは片手でそれを持ち上げるとそれは苦しみ始めどうにかして解こうとする。


 『あなたですよ、ミスズ』


 「か……ぁ……」


 『突然消えたかと思えばこんなところにいるとは、まあ、あなたがどこに行こうか勝手ですが』


 首を絞められ今にも落ちそうになっているミスズは気力を振り絞り自分とハーメルンとの間に魔方陣を展開し魔法を連発する、がしかし、ハーメルンに当たる前にそれらは霧散しただの一発も当たることは無かった。そこへ響が弾丸を打ち込みながら突っ込んでいく、ハーメルンはそれを防御魔法を展開して守るためあまり効果はないが、そこへ影山が急加速してハーメルンの後ろに回り込み膝の後ろを蹴る、多少ガクンとしたもののすぐさま体勢を持ち直し影山をもう一方の手で捕らえようとするが寸でのところで影山がそれを躱す。その隙に梓がハーメルンの懐に潜りこみヒュッという風を切る音とともにハーメルンの腕を切りつけようとするがこれも躱されてしまう、だがハーメルンの腕は限界まで伸びきった状態だったため躱した反動でミスズを離してしまった。


 影山がそれを回収してリナリアたちの元へ戻りミスズをリナリアに預ける。


 「響! いくよ!」


 「おう!」


 響は銃を削除して梓の刀を一振り複製して一緒に切りかかる、何の打ち合わせもなかったがもうすぐで三十年ほどの仲になる幼馴染の二人にはお互いの動きがアイコンタクトもなしに分かるようになっていた。梓がピンチになると響がかばってその隙に梓は体勢を立て直す、逆に響がピンチになると梓がかばい響が体勢を立て直す、そうしたコンビネーションを保ったままハーメルンと戦うがハーメルンは攻撃こそすれどどこか余裕たっぷりでまるで遊びを楽しむかのようだった。


 そこへ


 『遊ビ過ギダ、ハーメルン』


 『!?』


 黒いマントをたなびかせ他を寄せ付けない圧倒的な存在感、居るだけですべてを屈服させるような強大な魔力を持ち合わせる魔族の王にして響たちの最終討伐目標。


 魔王イグニスが両手を組んで宙に佇んでいた。


 ハーメルンはその場に跪き一言も発することなくただ固まっていた、響たちも攻撃の手を止めその場の全員の視線がイグニスへと向けられた。イグニスはゆっくりと地に降りミスズの方を見ると『久シイナ、ミスズ・ゼナ・キリナ・ローゼン』と一言話すとミスズは体中に恐怖が纏わりつくような感覚を覚えた。


 「イグニス、あまり怯えさせないように」


 『ナゼ、アナタガソチラ側ニツイテイルノダ。女神リナリア』


 「暇だからかな。それに君は少々力を付けすぎだ」


 リナリアの胸のブローチが輝き一瞬の光に包まれたと思うと彼女の姿が変わった、響たちはその姿を一度見たことがある。ミスズを回収しに来たときに見せた女神姿の時の格好だ。そのままリナリアはブローチを引きちぎるように取るとブローチが複数の黒色の光玉に変わりリナリアの後ろに浮遊する。


 「さっさと自分の城に帰ったらどうだ。それともここでお仕置きされるか?」


 『今回ハコイツヲ連レ戻シニ来タダケダ。ソレニ、ヤリアッタラ無事ジャスマナイカラナ』


 そう言ってイグニスはハーメルンを立たせて転移魔法の魔方陣を展開させる、最後に響たちの方を見て、『マタ会オウ、小サキ者達ヨ。殺サレル日ヲ楽シミニ待ッテイルゾ』そう言って消えていった。

 リナリアも元のメイド服に戻ってミスズを心配する。グラキエス達使用人たちはもう何が何なのか分からずただその場に立ち尽すことしかできなかった。フィラデリアがこの空気をどうにかしようとグラキエスにひとまず屋敷の中へ戻ることを提案しそれを承諾したグラキエスが全員に屋敷の中へ入るように指示した。



△▼△▼△▼△



 その日は誰も今日のことについて何も聞かれることも聞くこともなく部屋に戻って寝ることになった。部屋でマリアがいつもより強くセリアに抱き着いて寝て、他の皆も寝付いている中響は中々眠れないでいた。


 「(バドゥクス少尉は一体何が目当てだったんだ? しかもハーメルン……だったっけあいつ、イグニスも来るしもうわっけわからん。フォートレス家狙われてんのかぁ? ……ダメだ、眠れん!)」


 気づかれないようにこっそりと部屋の外へと抜け出して夜風に当たりに行く、どこかいいところはないだろうかと考えていると地下牢に行くときにアリアが見せてくれたフォートレス家の地図というか案内図にバルコニーがあったことを思い出し薄っすらとした記憶を頼りに夜の屋敷を歩む。


 しばらく歩くと月明かりに照らされたバルコニーが響の目に飛び込んできた、そこで響は大理石のような鉱石で出来ているであろう手すりに体を預けて冷たい夜の風で気持ちを落ち着かせる。


 何も考えずただぼーっとしていると後ろから足音と声が聞こえた。

 振り返るとそこにはアリアが立っていた。


 「アリア先輩……?」


 「隣、いいかな?」


 アリアは響の隣に来ると長い前髪を長めのヘアピンでとめて左目を出し髪を耳の後ろへとやった。そして響の方に顔を向けると落ち着いた雰囲気で話し出す。


 「良い夜だねぇ、雰囲気も申し分ない、そう思わないかい?」


 「ええ、いい夜です。あんなことがあったのが嘘みたいに」


 「そうだね、いやぁ、大変だったな」


 「……どうしてここが分かったんですか?」


 「ん?」


 「どうして俺がここに居るって分かったんですか?」


 「起きてきたことについては聞かないのかい?」


 「先輩ですから」


 「……そうか」


 アリアは響の質問の答えとして「なんとなく、かな」という返事をよこした。響は「なんとなくですか」と相槌を打ってそれ以上聞くことは無かった、正直アリアなら何をやらかしてもおかしくないといった考えが響の中で出来上がりつつあるからだ。その考えはきっと響がアリアに寄せている信頼感によるものなのかはたまた自分がやられた実体験からなのか、それとも別の何かからなのか。

 そんなことを考えている響にアリアが問いかけてくる、「アズサちゃんとはどんな関係なんだい?」と。響はごく自然にただの幼馴染だと答えるがそれで満足しないのがアリアである。

 幼馴染とはいえあんなに仲がいいのは怪しいだの、まるで響と梓が恋仲なのかどうかを詮索するみたいに聞いてきたため、響は本当にただの幼馴染だとはっきり言った。それを皮切りにアリアが何故が恋愛系の話に会話をシフトチェンジさせる。好きな人はいないのかだの、付き合ったことはあったのかなって思春期の息子に興味を持つ母親みたいに。


 響は好きな人も付き合った人もいないとはっきり答えるとアリアはつまらなさそうに手すりに体重をかけてうなだれる。


 「……アリア先輩はどうなんですか、好きな人とか。そういう年頃じゃないんですか?」


 「僕かい? そうだなぁ……」


 腕を組んで「う~ん」と唸りながら長考するアリア。


 「強いて言うなら、まぁ、その、なんていうんだ?」


 「なんですか急にらしくない」


 「好きな奴がいるっていうよりは、気になっているやつならいる、っていうのが正しいかな」


 「意外です」


 「聞いておいてなにさ、結構恥ずかしかったんだからね」


 「乙女ですか」


 「ヒビキ君の中で僕は一体どんなイメージなのか、今度じっくり聞かせてもらう必要があるね」


 珍しく年頃の女の子らしい一面を見せたアリアに多少驚いているとアリアが響に寄りかかってくる。嫌というわけでもなかったため響がそのままにしているとアリアが幸せそうに「ふふっ……」と小さく笑う。

 

 「アリア先輩」


 「なんだい? ヒビキ君」


 「月、綺麗ですね」


 「………ああ。綺麗だな」


 自分でもなぜこんなことを言ったのか分からない響だがアリアが嬉しそうに返事をしてくれたため気にしないことにして月を眺める。隣でアリアが頬を赤く染めていることにも気づかず。


 段々眠くなってきたためそろそろ戻ることにしてその夜の観月を終えた。アリアはもう少しだけ残ると言っていたので響は先に部屋に戻って寝ることにした。


 「おやすみなさい、先輩」


 「おやすみヒビキ君、いい夢見ろよ」



△▼△▼△▼△



 響が去ったのを確認するとアリアは月に向き直り独り言を呟く。


 「月が綺麗ですね、なんて、女の子に軽く言っていい言葉じゃないよヒビキ君。あの朴念仁相手じゃ、アズサちゃんも大変そうだな……」


 自分でも今どんな気持ちでこんなことを言っているのか分からない。

 アリアはため息を吐きさっきの自分の発言を思い出す。気になっているやつがいるという発言を。


 「あれ、もしかしたら告白みたいになってたかな………あぁ、なんであんなこと言ったんだろ、自分でもよく分かってないのに…………ダメだ……今日なんか僕ダメだな……」


 しおらしい自分に、らしくないと分かっていながらどうしていいか分からない、自分が響に抱いている感情が、さっきの発言にどんな感情を込めて言っていたのか発言した本人がはっきりと分かっていない、そんなもやもやを解消する術があるはずもなく、自分の知らなかった自分に振り回されるままアリアの夜は更けていった。

アリアが自分の気持ちに気づくのは、そう遠くないのかも知れない

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