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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第二章:フォートレス家に危機が迫っているようです
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地下牢のお話。

ダイナミックお食事シーンあり

 アリアと響が走っている時、梓たちはグラキエスの指示によって彼の部屋へと来ていた。外の魔物の群れを殲滅するため梓たちに協力を仰いだグラキエスはお洒落なスーツから傷がついたシンプルながら防御性に優れた一等品の鎧を身につけ、腰に剣を備えて門番を引き連れていった。

 梓たちはバドゥクスが正面玄関から出撃するのに対して裏口から群れを殲滅することにして何かあれば逐一報告するという形を取った。


 「お嬢様……大丈夫でしょうか……」


 「響たち、何かに気づいたっぽいし、アリア先輩も一緒だからきっと大丈夫だよ」


 マリアを心配するセリアを優しく励ます影山、「俺らは俺らに出来ることをやろう」と皆を鼓舞する中リナリアは少し考え事をしているような表情を浮かべ「まさかあいつか……?」と小さく呟いていた。その呟きは隣を歩いているミスズにも聞こえないほど小さなものだった、四人は裏口に着くと互いに覚悟を確認し合い勢いよくドアを開ける、そこには確かに魔物たちが屋敷を囲むようにして呻き声を上げていた。

 梓たちは刀を作り出したり魔方陣を展開させたりして真っ向から魔物たちへと挑んでいき、それにこたえるかのように魔物たちも一層呻き声を上げ梓たちに襲い掛かった。



△▼△▼△▼△



 一方響はアリアの当てを頼りに屋敷内を走っていた、すると突き当りに差し当たってしまい二人は足を止めてしまう。


 「道間違えましたか先輩? まぁ広いですし迷うのも無理は……」


 「いや、ここでいいんだ。見てろよ?」


 と言ってアリアが壁の真ん中を力いっぱい押すと、押した部分がへこみそこを中心として魔方陣が展開して壁がボロボロと崩れ去ってしまった。アリアがそこへ広がる真っ暗な空間に臆することなく入っていったため響も駆け足で入ると崩れ去ったはずの壁が時間が巻き戻ったように元に戻ってしまった。するといきなり電気が付き階段があらわになる、驚く響とは対照的にそんなことは気にしないとすたすた先を歩くアリアに置いていかれないように付いていく響。


 「アリア先輩、さっきのは一体……」


 「魔術で回路が組み込まれた隠し扉だ」


 「なんで知ってるんですか」


 「この前フィラデリアさんからこんなものを貰ってね」



 そう言って響に一枚の古びた紙切れを手渡した。それはこの屋敷の地図のようでグラキエスの部屋やマリアの部屋の場所が書いてある、フィラデリアはアリアに「道が分からないと困るから」と言って渡してきたらしいがアリアはこの地図に対して違和感を覚えていた。そう言われても特に分からない響にアリアが立ち止まって「ここだ」と一部分を指で指し示した。


 「さっきの壁のところだけまるでインクが途中で切られたようになっていないかい?」


 「確かに、そうですね」


 「それで僕はどうにも気になって、君たちが寝ている間に色々調べてみたんだ。それで分かったんだけどこれ普通の紙じゃなくて熱耐性が物凄くいい特殊なものみたいなんだ、恐らくダンジョンの戦利品だろう」


 「ダンジョン?」


 響の中にあるダンジョンとはファンタジー系の物語でよくあるような魔物が一杯出てきたリまだ見ぬ特殊なアイテムが眠っている洞窟のような場所という認識がある、それをアリアに話すと「なんだ、知ってるんじゃないか」とがっかりした様子でそれを認めた。


 「それで分かったこととは?」


 「ああそうだったそうだった、んで話に戻るけど、あぶりだしってあるだろ? 下から火を当てると字が浮かび上がるってやつ。あれを試したら……響君、ちょっとだけ火を灯してみてくれないかい?」


 「こんな感じですか?」


 響は手の平の魔方陣からポゥっと小さい火を作り出した、そこへアリアが地図の裏面を表にして炙り始めた。すると見る見るうちに裏面の部分に何やら模様が浮き上がってきた。その模様はこれまたきれいに地図の形をしており先ほどアリアが指摘した壁のところと上手く入り口が繋がるように書かれていた。


 「これは……!」


 「もう分かっただろ? さっきの隠し扉を開いて今僕たちが降りている階段から続く道、それの地図だ」


 「でもなんだってこんなところが」


 「表沙汰に出来ないことを処理するためだろ、例えば……」


 そこでアリアの言葉とともに階段が終わり曲がり角になった、曲がるとそこは鉄格子が左右に四つずつありその様はまさに地下牢と形容するのが正しいだろう。肝心の道はその間の一本道しかなかった。


 そしてその一本道の行き止まりの壁には。



 口にロープを噛まされて手足もロープで縛られて身動きが取れない状態のマリアがいた。



 「んん! んんー!」


 「マリアさん!」


 「止まって! ヒビキ君!」


 アリアがマリアのところへ駆け寄ろうとする響を止める、するとマリアの左隣の牢屋からバドゥクスが現れた。そのバドゥクスの目は虚ろとしていて「ヒヒ、ヒヒヒッ」という薄気味悪い乾いた笑いを上げて響たちをじろりと見た。


 「バドゥクス少尉……やはりあなたが」


 「お見事だよヒビキ君? まさか感づかれるとはねぇ……そっちのお嬢さんも随分優秀らしい……」


 「本来なら喜ぶべきなのだろうが、生憎と僕は廃人に褒められて喜ぶことは出来ないんだよ」


 「ははっ! それは残念だ。そうだ、ここまで来たご褒美を君たちにあげないとねぇ……」


 そう言ってバドゥクスは一歩前に出て懐から左の牢屋を開けた。そこから現れたのは獅子の頭を持ち、山羊の胴体、そして尾は蛇という奇怪な生物が現れた。響はこの生物の存在を知っている、そう王道ファンタジーゲームやアクションゲームの敵キャラとしてお馴染の合成獣キメラである。


 「キメラよ! 俺の邪魔をするあいつらを喰い尽してやれ!」


 バドゥクスがキメラにそう指示するが一向に動く気配がない、異変を感じたバドゥクスが何度も命令を繰り返し指示するがキメラは吼えることもなくただその場でじっとしていた。痺れを切らしたバドゥクスが大声で怒鳴りキメラの尻を叩いて力づくで命令を聞かせようとするがどうやらそれが命取りだったらしく、キメラはバドゥクスの方を振り向きグルルと唸り声を上げた。そしてどんどんバドゥクスへと近づいていく、恐怖を感じたバドゥクスはたまらず他の牢屋へと非難した、が、この地下牢らしき場所は長らく使われていなかったのか鉄格子の至る所に鉄錆ができて明らかに老朽化している様子だった。


 そんな場所へ逃げ込んだが運の尽き、キメラは牢屋の前へ歩み寄ると右前脚を大きく振り上げ鉄格子を破壊してゆっくりとバドゥクスへ迫っていく、バドゥクスは後ろへ後ずさりするが牢屋自体が狭くすぐに壁に辿りついてしまう、窓があるにはあるがとても小さく最小限の光を取り込む程度のものだった。


 思わずその場にへたり込んでしまうバドゥクスはキメラに制止をするように命令するが一向に止まる気配はない。


 「ま、待て! 来るな!! こっちへ来るなあああああああ!!!」


 「ゴアアアアァァァァァァァァ!!!!」


 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 キメラは響とアリアではなくバドゥクスを貪り食い始めた、生きたまま猛獣に喰われているバドゥクスの耳を劈くような断末魔と辺りに大量に飛び散る血液にマリアが思わず目を背けて涙を流して怯える。

 響たちのところからはキメラの下半身しか見えていないが肉を喰いちぎり骨を砕き内臓をぐちゃぐちゃしている音と、かつてバドゥクスだったものを食らい尽している真っ最中のくちゃくちゃという咀嚼音がはっきりと二人の耳へと届いていた。

 響は胃の中から込み上げてくるものをどうにかしてこらえる、その横でアリアも顔を右下に向けて苦しそうな顔をしていた。しばらくしてその不快な音が止むと口に血をべったりとつけたキメラが牢屋から顔を除かせる、キメラはマリアの方へと近づくとまるでおもちゃで遊ぶかのようにマリアをコロンと地に倒した。

 

 もしかして自分も……と怯えるマリアはそのあまりの恐怖で失禁してロープを咥えている口からこれでもかと言わんばかりに恐怖からくる悲鳴を上げる。

 キメラは少しだけ前足を浮かせるとそれをマリアに振り下ろした、誰もがマリアが殺されると思ったがキメラが取った行動は意外や意外、鋭い爪で器用にマリアの手を拘束していたロープを切り裂き続けて足を拘束していたロープもこれまた器用に切り裂きマリアに自由をもたらした。


 何をされたのか分からない様子のマリア、ゆっくりと手足の自由が戻ったことを認識すると糸が切れたようにプツンと気絶してしまった。キメラは何事もなかったかのように響たちの方を振り向く、響はハッと正気に戻りすぐさま戦闘態勢を取る。響はデザートイーグルではなく確実に一発で仕留められるように狙撃用に使用されるスナイパーライフルを作り出してスコープを右目で除き照準をキメラの顔面へと合わせ人差し指を引き金にかけ今にも弾丸が発射されようとした。。


 と、その時。


 キメラの前の床に突如として魔方陣が現れ紫色の淡い光とともに鳥のくちばしのようなものが付いた仮面をつけてタキシードに身を包んだ人物が現れた。その人物が現れるとキメラは飼い主が来たようにおとなしくその場に伏せる。


 『やぁやぁごきげんようお二人さん、私の駒が随分不快なものを見せてしまったようだね。ここまで使えないとは思っていなかったなぁ、まあいいや。ほらキメラ、帰るよ』


 そう言ってその仮面の人物はキメラの下にも魔方陣を展開させて一瞬で消えてしまった。あっけにとられる響とアリア、だが響は今の一連の流れで一つ分かったことがある。


 先ほどの仮面の人物とリナリアに声を人族側にしてもらうまえのミスズの声の歪の感じが驚くほど似ていたのだ。


 「今の、もしかして……魔族……?」


 その響の言葉に答えるものは誰もおらず、ただ静まり返った血生臭い空間があるだけだった。

捕食シーンを書いてるときがこの話で一番スムーズに書けたところ。

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