学院戦再びのお話。
魔導学院一部生徒「またあいつらとかよ……」
魔導学院、それはその大陸の魔術の高さを裏付ける証拠であり優秀な人材が多く排出される魔術の専門学校。そこへ入学するには魔法学校時代に優秀な成績を修めた一部のものしか入学の権利を有することが出来ないが、入学し、卒業できたのであればそれはきっと輝かしい未来が約束されているほど就職や冒険者としての活動には困らないだろう。
そのような名誉ある場所に響たち魔法学校五回生の生徒たちは集まっている、理由は本日魔導学院と魔法学校との合同授業がここで行われるからだ。魔導学院の生徒と技術を磨き合うことなど滅多にないことなので気合の入った生徒が大勢いる、響たち特別授業の時に来たメンバーは尚のことやる気がみなぎっていた。
響たち魔法学校五回生の生徒たちは戦闘訓練室に集められ各クラスごとに縦一列に男女別で整列させられていた。しばらくざわざわしているところへガチャリと戦闘訓練室のドアが開き魔導学院の生徒体が数人、響たちの注目を一瞬で集めた。白いローブを羽織り真ん中の生徒だけ金色に輝く飾緒を右肩から胸の辺りにかけて身に着けていた。そう、あれこそが生徒会長たる者である証、それをつけている人物は梓と戦い熾烈な戦いを繰り広げた【神童】の異名を持つフラン・ヘルヴォールだ。
そのフランの登場に空気が一瞬で張り詰める、あの人が誰か分かっている人は勿論のこと初めて見た生徒や普段素行に問題があって教師が指導に困っている生徒ですらフランの纏う圧倒的な存在感の前に無意識のうちに姿勢を正していた。フランは戦闘訓練室に設けられた壇上に上がり一つ咳払いをすると制服の胸ポケットから拡声石を取り出して口元にあて、『あー、あー』と音量の確認をしていた。
『初めまして、魔法学校の皆さん。魔導学院生徒会会長フラン・ヘルヴォールです。本日は私たちとの合同授業のためにわざわざ遠いところをありがとうございます。今日の合同授業では、白兵戦の訓練と魔法戦の訓練、そして昼食をはさんで何人かに魔導学院の生徒と模擬戦をしてもらおうと思います・お互いに意味のある時間にできればと思っていますのでご協力のほどお願いします、また、何かあればそこらにいる先輩方に聞いてくれればきっと優しく教えてくれるはずですので遠慮なく聞いてください』
流石はフラン、全員が彼女の話す姿に釘付けになる。カリスマ性とでもいうのだろうか、響たちも改めてこうして見ると無条件に従いたくなるような、そんな気持ちになってしまう。簡単にスピーチを終えたフランが一礼をすると訓練室中から大きな拍手が上がった、このまま壇上から降りるのかと思いきやフランは再び拡声石を口元にあて『最後に……』と続けた。
『最後に、私事ではありますが、この場で一つだけ言わせていただきたいことがあります』
そしてフランは息を吸うと真っすぐ、梓に向かって指をさした。
『アズサ・テロル・ゼッケンヴァイス! あの時は完全に私の油断が招いた結果でしたが、今度は負けません! 再び戦えることを願っています』
それだけを言い終えるとふわりと壇上から飛び降りて転移魔法で一瞬にしてその場から消えた、その出来事に魔法学校の生徒たちがざわつくが先生たちが注意してすぐに静まる。最近転移魔法を試したばかりの響から言わせてみればあんなに軽々しく緋級魔法をまるで呼吸するかのように当たり前に行ったフランの行動に鳥肌が立つ、もし、あの時、梓との戦いが模擬戦ではなく本気の殺し合いだったのならばきっと今頃、響の大切な幼馴染は魔王や魔物にやられる前にあの人に一瞬でやられていただろう。
その後はオーハートが生徒たちに挨拶を交わして先ほどのフランの言葉に幾つか詳しく説明した程度で終わりちょっとの準備時間の後にDクラスから順に白兵戦の訓練をローテーションで行うことになった。ひとしきり訓練を終えたらすぐさま次のクラス、そしてまた次のクラスと矢継ぎ早に繰り返し、最後はまたDクラスから順に魔導学院の生徒たちが一度に相手するという乱戦形式の実戦を行った。クラスのランクが上がっていくにつれて魔導学院の生徒たちの人数も増えていきAクラスの時は五人で当たっていく予定だったのだがBクラスの時に賢介たちが暴れ過ぎたため急遽人数を増やして七人態勢で臨んだが半数を影山が一人で相手していたため実質響たちは三人をクラス全体でリンチするという形になってしまった。
流石にリナリアは本気を出していなかったがミスズは魔族のため筋力などが人よりもだいぶ発達していたり、梓は模擬戦とはいえ一度フランに勝っており、響はクラリアやカレンなどに鍛えられているなどの理由から正直クラスメイトのほとんどがその補助をするくらいで終わってしまった。
白兵戦の訓練から魔法戦の訓練へと切り替わった時、響を始めとした上級魔法を使えるメンバー達の目がギラリと光った。すでに響たちの白兵戦で疲れを隠せない様子の魔導学院生徒たちが血相を変えて待機していた他の生徒に「頼むから変わってくれ!」と懇願したため生徒が交代したのだが、交代する前の生徒たちの中にも後退した後の生徒たちの中にも最低二人は何故か前の特別授業の時に響たちと手合わせしたことのある面子がいたので、深いため息を吐きながらやって来た。
その先は言わなくてももう分かるだろう、上級魔法を使える転生組のメンバーがはっちゃけてしまったのだ、響を筆頭に梓・凪沙・マリアそれから最近スムーズに使えるようになってきた賢介が結構いい線で渡り合っていた。
やり方は先ほどの白兵戦と変わらずローテーションからの模擬戦という流れなのだが、まあ、うん、何というか、授業が終わって昼食休みに入った時にようやく響はやってしまったと実感したのだった。目の前にはチャイムの鐘の音とともに地に倒れ込む魔導学院の生徒、メラメラと火のついている床、唖然とする両学校の生徒、まさか響本人も思い付きでやった「上級魔法の連発」が出来るとは思わなかったのだ。
昼食になり前回と同じくテーブルの一つを借りて学食メニューを食べているのだが周りの視線が痛い。例に漏れず響たちは転生組とマリアとセリアを加えたいつもの面子で食べているのだがその進み具合がどうにも進まない。そこへ三人の生徒が現れた。一人は金髪のイケメン、一人はボーイッシュカットの美人、そしてもう一人は白いローブに飾緒をつけた人物。
「おっすヒビキ、元気だったか?」
「久しぶりね、みんな」
「悪いけど、ご一緒してもいいかな?」
レイ、ヴィラ、フランの三人が昼食へ混ざったことでさらに周りの生徒の注目が集まった。
△▼△▼△▼△
一方その頃フォートレス家では、いつもより気合を入れた門番がマリア達の留守を守っていた。屋敷内も必ず二人以上で行動するようにという命令が発令されていたところに一台の馬車が屋敷の前に止まった。
中から出てきた人物を見て門番たちがぎょっとする、そしてすぐさま敬礼をする。出てきた体格の良いその男性は白髪をオールバックにして門番たちのような重そうな鎧ではなく薄く、それでいて門番たちの鎧よりも防御性と機能性に優れるという一級品の防具。
いるだけで貫禄のあるその男性は屋敷の門を開け玄関のドアを開き屋敷の中へと歩む、その姿を見た使用人の人たちがその場ですぐさま一礼をする、その男性は近くの使用人にフィラデリアとツェドナーを自分の部屋へ呼ぶように伝えた。その男性が先に部屋で待っているとすぐにドアがノックされレシルとツェドナーが入り男性の姿を見て一礼する。
「お戻りになられるのであれば昨日の内に言っておいてくだされば宜しかったのに」
「いやぁすまんすまん、どうしてもマリアとセリアちゃんが心配でな、居ても経っても居られんかったわい。フィラデリアとツェドナーも元気そうで何よりだ」
「ありがたきお言葉」
「深く感謝したします”旦那様”」
屋敷の使用人たちが敬意をもって接し、ツェドナーが旦那様と呼ぶその男性、そう、マリアの父親にして王国騎士団を束ねるトップ。
グラキエス・キャロル・フォートレスが屋敷に帰ってきたのだ。
「それで? 何が起こっているのか、事細かく話せ。無論関連すること全てだ」
家主、帰還




