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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第二章:フォートレス家に危機が迫っているようです
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月夜の邂逅のお話。

犯人確保が先か、使用人としての正規雇用が先か

 「ではまずヒビキさんから順に自己紹介をお願いしますわ」


 マリアに促されて響から順に自己紹介をしていきミスズの番になると魔族特有の名前の構成を聞いて何人かざわっとなったり、女神たちの名前は神話やお伽噺の物語などで特徴や名前が知られているらしくその特徴とバッチリ一致するリナリアを見て「魔族の女神様と似てるよね~」なんて声も上がっていたものの特に何も起こることなく使用人の方の自己紹介へと移っていった。メイド長のフィラデリアに執事長のツェドナーからとんとん拍子で進み響たち六人とフォートレス家使用人と門番たち合計五十人の自己紹介はつつがなく終わった。

 早速響たちは執事としての仕事、メイドとしての仕事を振られツェドナーとフィラデリアの指示に従って給仕や屋敷内の掃除をすることになり容赦なく他の使用人の人たちと変わらない量の仕事を任せられた。

 そうこうしている内に夕食の時間になり夕食を済ませ風呂に入ってそのまま風呂掃除をしてあっという間に八時半過ぎになっており、一通りの仕事を終えた響たちは話し合いや事件の考察を効率よく行うためこの前と同じようにマリアの部屋に寝泊まりすることになっているため仕事が片付き次第そちらに移動することにしている。


 へとへとになりながらマリアの部屋に行く響と影山、一応ノックしてドアを開けるとそこでは現在女子会の真っ最中だった。すでに寝巻に着替え終えていた女子たちがお菓子を手に取りながら話していて響と影山が入ってくるなり女子たちの注目がお菓子から響たちへと移り変わる。


 「おふふぁれふふぁりふぉも!」


 「煎餅加えながら喋んな梓、なんて言ってんのか分からん」


 「……んぐ。お疲れ二人とも!」


 「……お疲れ」


 「俺たちも着替えるか?」


 「そうだな、そうすっか」


 だだっ広いマリアの部屋の中でうまく女子たちから着替えが見えないところを探してそこで着替える響と影山、正直女子の部屋で何やってんだろうという考えはあったがもう割り切るしかないと二人で目配せしてお互いに頷き合った。着替え終わった二人は女子会真っ最中の空間に静かに座りともにお菓子や飲み物を胃に流し込んだ。

 それから十一時近くなりまたマリアがウトウトし始めたため寝ることにした、実際響たちもお仕事体験で疲れていたのでちょうどいい頃合いだったと言えよう。寝るときは部屋がかなり広いのにもかかわらず密着して寝る、その方が落ち着くという意見とマリアから言わせてみれば「ここまで広い部屋は逆に使いずらいのですわ」とのことで事実部屋の半分くらいしか物が置かれていなかったのがその証拠と言えるだろう。今回は前回響たちが泊まった時よりも人数が増えているため布団組の場所が少しだけ変わった、マリアとセリアはいつも通りベッドで仲良く向かい合って寝るのには変わりないが布団で寝る六人はまず三人と三人で別れ頭合わせになる感じになる。


 断固として響の隣がいいと言って腕を掴むミスズとそれに対して何故かちょっとムッとしながら無言で響の腕を掴む梓、早々に布団に入って寝始めるリナリア、目のハイライトが消え失せ殺し屋のような目つきで響を睨み付ける影山、その光景をニヤニヤと口に手を当てて滑稽そうに見守るアリア。

 そんな感じでその夜は更けていき、幸いにもその晩は誰も被害者が出ることはなかった。



△▼△▼△▼△



 それから一カ月経ってこのようなことが分かってきた。

 まず事件が起こる日は大体決まっていて響たちが泊まっている月曜日から金曜日まではほとんど事件は起きなく逆に響たちが家へ帰る土曜日と日曜日の間に頻繁に起こっていた。勿論ただ手伝いをしながら泊まるだけでは何も始まらないので夜間の巡回や使用人の人たちへ聞き込みをしているのだがこれといって手掛かりを掴むことは出来ず、使用人としてのスキルがどんどん高まっていった。

 その結果響たちは立派なフォートレス家の使用人として成長していき、もはや何が目的でフォートレス家に来ているのか分からなくなってきていた頃、響はニュゼナとともに応接室の掃除をしており何気なく事件のことについて話を振ってみた。


 「ニュゼナさん、事件のこと何か知りませんか? このままだと使用人としてやって来たことになってしまうのですが」


 「そう言われましてもねー、強いて言うなら近々グラキエス様がお戻りになられることですかねー」


 「グラキエスというとマリアさんのお父さんでしたっけ?」


 「そうですよ。何でも今回の事件を耳にしたらしくすっ飛んでくるとかなんとか」


 「じゃあ犯人も迂闊には行動できませんね……いつ頃お戻りになられるか分かりますか?」


 「さあ……その辺はまだ。でも早いんじゃないでしょうか」


 これは一応手掛かりとして覚えておこうと思い引き続きニュゼナと掃除を続ける響、ふと外を見るとマリアがセリア見た感じ魔法の勉強をしているのだろうかと思いながら見ているとそこへバドゥクスがやって来てアドバイスをしている様子が伺えた。


 「ヒビキさん? どうしました?」


 「あ、いえ、何でもないです」


 その日は特に不思議にも思わずその光景を見ていた、その後も何度かその光景を目にする時がありマリアに聞いてみてもアドバイスを貰っていただけだと言うのでそれほど気にも留めなかった。


 その光景を初めて見た数日後の夜、響は眠れなかったので一人で部屋にあったランタンを一つ持って部屋を出て巡回を始めた。屋敷の構造は頭に入っていたので広かったが迷うことはない、窓から月明かりが差し込み今日も何も起こらない静かな夜になるだろうなと考えながら門番たちの寝泊まりしている方向も犯人が出るかもしれないと思って入念に見回りしていたその時。



 キャァァァァァァァァァァァァ…………!



 耳を劈くような叫び声を聞いた響は「しまった……!」と歯軋りしながらその叫び声が聞こえた方向へ体を反転して猛ダッシュした、見当をつけた場所へ一目散に向かいどの部屋なのか虱潰しに探そうとしていたところ一室だけドアがドンドンと内側から叩きつけられているように動いているところがあったため急いでそのドアを開けると、部屋の中からメイドさんが倒れてきた。


 あわや激突といったところで響は紙一重でそれを躱し、尻もちをついたメイドさんがすぐさま慌てふためきながらカタカタと震えて響の背に隠れる。そして部屋の中から鎧を着た大柄な人物がヌゥッと鈍器のようなものを片手に持ち頭には兜をかぶっていた、そのため顔は見えなかったが体つきからして恐らく男だろう。

 その人物は響を見るや否や動揺したような挙動をして逃げ始めた、ぞろぞろと他のメイドさんや執事の人たちが叫び声で起きたのかこちらへと走ってやってくる。


 「何事ですか!?」


 「すみませんみなさん! この人をお願いします!」


 そう言って響は逃げ出した巨躯の人物へと走り出すが思いのほかその逃げ足は速く追いつけるかどうか分からなかった、そのため響は『拘束による確保』ではなく『実力行使での確保』へと思考を切り替えすっかり相棒になりつつあるデザートイーグル44マグナムを2丁作り出して容赦なく巨躯の人物へ向かってぶち込む。

 ドォンドォンとけたたましい発砲音が屋敷の廊下を一瞬で殺伐とした空気に変えていく、全弾一気に撃ち数発外れたものの胴体と足に鎧を貫通していた。ガクッとその場に倒れ込むその巨躯の人物を確認してすぐさま確保するため響は走るがその巨躯の人物は魔方陣を展開させて火炎弾を響に対して抵抗するかのようにどんどん放ってきた。


 響は立ち止まって上級防御魔法を展開させてその火炎弾を防いでいると、ガッシャアアンという音が聞こえ火炎弾の猛攻が止んだ。

 そこにはもう先ほどの人物の姿はいなく代わりに鎧が脱ぎ捨てられ窓ガラスが割れているだけだった。その割れた窓ガラスから外を見ると下にあった花壇に誰かが踏んでいったような跡が残るのが見えた程度で人の姿は見えなかった。どうやらあの鈍器らしきものも持ち帰られたようだ。


 「くそ………」


 呟いた響の声は誰にも聞かれることなく割れた窓ガラスから吹き付ける冷たい夜の風に攫われ彼方へと消えていくだけだった。

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