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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第二章:フォートレス家に危機が迫っているようです
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特別任務発令のお話。

誰が犯人なのか、何の目的で動くのか。

 フォートレス家で一泊して帰った次の日、響と梓と影山は昨日の出来事を語り合いながらいつもの通学路を通って学校へ向かう、途中店のおっちゃんからサービスでネメシス産の小振りな林檎を貰って三人で食べて残った芯の部分をそこいらのカラスのような鳥に差し出すと美味しそうにパリポリと美味しそうに食べていたため全員分を与える、そんなことをしながら学校へ到着し教室に入るとミスズとリナリア、マリアとセリアが先に到着していた。マリアとセリアはいつもは響たちよりちょっと遅いか一緒になるかで先にいたことはあまりなかったため珍しいなぁと思いながら挨拶をする。


 「おはようございますー」


 「おっはよー二人ともー」


 「おはよーっす」


 「おはようございます、みなさん」


 「……おはようございます」


 「おはよ! 三人とも!」


 「おっはー」

 

 「軽いなぁ女神様……ってあれ? なんかミスズ、声変わった?」


 すっかり元通り元気になったミスズの声を聞いて前までは声に歪というか何かエフェクトがかかっているような感じだったミスズの声からそれが取り除かれているような気がして不思議に思う響に、待ってましたと言わんばかりに目をキラキラさせて「よくぞ聞いてくれました!」とテンション高めのミスズと何故か誇らしげなリナリア。

 どうやら今までのミスズの声のディストーションはごく自然なことで、何を隠そうミスズの種族はお察しの通り『魔族』。魔族の管理をしている女神であるリナリアが一緒に行動していることが何よりの証拠だし、『ミスズ・ゼナ・キリナ・ローゼン』と名前が四つのブロックに分かれているのは魔族だけで恐らくアリアやフラン辺りは気が付いていたのかもしれない。

 そんなミスズが魔王大陸で魔族として生活するのではなく人王大陸で魔族として生活するには見た目こそ人族と変わりないとはいえ種族が違うためせめて声の歪くらいは取り除いてみんなと同じにしてあげようというリナリアの粋な計らいの元だという。ちなみにもし今後魔王大陸で暮らすときはどうするのかと響が聞くといつでも簡単に戻せるらしいから女神様万能である。

 

 そんな中、一人だけ元気がない様子のマリアの姿を見てもしやと思う響、泊まりの時に起きた事件のことを知ってしまったのだろうかなどと考えて仮説を立てるが余計な詮索はしない方がいいという結論を出して黙っておく。すると、ガタッとマリアが椅子を引いて立ち上がり響の方を見据える。


 「ヒビキさん、ホームルームの時間まで少し付き合ってもらえますか?」


 「お嬢様……」


 「……分かりました」


 響の仮説はどうやら立証されるらしい。マリアのその重々しい感じを瞬時に悟った響は黙ってマリアに付いていくことにした、廊下に出て人気のない突き当りのところに連れてこられた響に腕組みをして足を肩幅に開き真面目な顔でマリアは口を開いた。


 「……ヒビキさん、あなたは我がフォートレス家の屋敷で起こった事件の一部を知っていますわね?」


 「門番の方が、の話ですか?」


 「ええそうです。メイドたちの話では、日曜日の朝にニュゼナが下手を打った結果、あなたにその場にいたメイドたちが観念して話したというのですが」


 「ニュゼナっていうのはあのドジっ子の眼鏡のメイドさんのことですか?」


 「眼鏡のメイドは他にもいますがドジっ子というのならそれで間違いないと思います。私は昨晩偶然、メイドたちが噂しているのを耳にしました。お泊り中に起こったものと、昨晩起こったことの二つを」


 「昨晩!?」


 響は泊まりの最中に起きたことなら知っているが昨晩のことはフォートレス家の屋敷に住んでいる人間でないため知らなかった、マリアの話を聞くと響たちが帰ったその日の夜にまた一人門番が遺体で発見されたらしいのだ。朝から衝撃事実をカミングアウトされ驚く響にさらに補足してこう続ける。


 「正直、こんなこと言いたくもないし思いたくもないのですが……その……」


 「別にいいですよ? 辛いなら……」


 「そうですお嬢様、無理なさらずとも……」


 「……いえ、ヒビキさんが知ってしまっている以上言っておいた方がいいかと思うのです。それに言わないままでいると私の方がどうにかなってしまいそうで」


 「マリアさん……」


 「お嬢様……」


 「……今回の犯人は少なからずフォートレス家に恨みを持つ人物、もしくは愉快犯だと思います。これは普通に考えれば思いつくことなのですが、私は屋敷にいるうちの誰かによるものだと、考えております」


 重々しい口調でマリアの口から語られたそれらは悲壮感を含んでいたがマリアの目には何かを決めたような覚悟があった気がした。そこでフルーエン先生がやって来て「そろそろホームルームですよ」と言ったため三人揃って教室に戻る、それからホームルームが始まりマリアと会話を交わすことなく授業の時間が迫りクラスメイトが続々と一時間目の授業が行われる体育館へ向かう。今日の一時間目の授業は対人戦闘の授業だ。


 そのまま六時間目まで事件についてのことに関しては一切触れず、というか触れられず普通の会話こそ問題なく交わせたが今朝のことが頭から離れずなんとなく気まずくなってしまう、そのまま放課後になり響きとマリアとセリアは生徒会室に向かい梓たちと別れる。


 「んじゃまた明日な」


 「じゃね~響」


 「あのっ!」


 「……? お嬢様?」


 急に叫んで梓たちを引き留めるマリアの行動に思わずセリアも顔をしかめる、梓たちも立ち止まり不思議そうにマリアを見るとマリアから相談事があるとその場にいた全員に持ちかけ生徒会室に移動する。

 生徒会室にはアリアがすでにいて「おや、お客さんだね」と梓たちを追い返すこともなく普通に招き入れ飲み物を入れ始める。マリアの相談事を頭に置きつつ円卓にそれぞれ座っていく、飲み物を人数分入れ終えたアリアが一人ひとりに置いていき自分は生徒会長専用の椅子に座って優雅に紅茶を啜る。


 「何かあったのかい? 雰囲気が暗いようだけど」


 いつもとは違う雰囲気に感づいたアリアがみんなにそう問う。するとマリアが立ち上がり茶器や書類がある棚の方に移動して息を吸い全員に自分の胸の内を明かす。


 「みなさんに協力してほしいことがあります」


 その瞬間生徒会室にいる全員の顔が引き締まる、アリアは紅茶に口をつけながら期待の眼差しでマリアの方を見つめ、セリアは心配そうにマリアを見守る。


 「すでにヒビキさんは知っていますが、ヒビキさん、セイヤさん、アズサさんが我がフォートレス家に泊まった日の朝に門番の遺体が発見されるという事件が起きました、その翌日にもう一人新たな遺体が発見され、現在フォートレス家はその突然のことに困惑を隠しきれていない状況にあります」


 「なんで響が知ってんだよ」


 「まあ成り行きで?」


 「今回の事件には不本意ながら、屋敷に住んでいる住人や門番の内の誰かによる内部犯行だと思っています。一刻も早く解決するために、皆さんのお力を借りたいのです! どうかっ、フォートレス家の安寧のために、協力してくれませんか!」


 深々と頭を下げてまで懇願するマリア、その姿を見て立ち上がったセリアも「お願いします!」と同じように協力を求める。その姿を見て誰も断るはずがなく口を揃えて二人に協力することを約束した。無論、アリアも参戦することになりなんとリナリアも協力すると言ってきた、魔族の管理を棚に上げていいのかと影山が突っ込むがリナリアとしては「それはそれ、これはこれ」という返事が返ってきた。こんなんでいいのか女神様と響も頭を抱えるが女神の一柱が協力してくれるのはかなり心強い。

 みんなのその前向きな返事に目をウルウルさせて感動するマリアだが泣いている場合じゃないとすぐさま切り替えて涙を拭う。フォートレス家に生まれ落ちた誇りにかけて今回の事件を解決するため、自分の家は偉大な父の娘である自分が守るという立派な覚悟と信念をもって顔を上げて再び声を上げる。


 「ありがとうございます、本当に……ありがとうございます!! アリア先輩、冒険者ギルドでは任務の発令は民間人もできるかどうか分かりますか?」


 「出来るよ、飼い猫探しとか家事の手伝いとか色々とね。ちなみに特定の人物を指定して発令することも出来るはずだよ、報酬と任務内容さえしっかりしていれば人員の途中増加もありだ」


 「ということは……」


 「ああ、僕たちを指名して『フォートレス家の事件解決に努めよ』っていう任務を発令できるって訳さ。事前に受付嬢に言えば掲示板に張られることを避けることも出来る」


 「そういうことなら早速任務の発令ですわ! 発令し次第、皆さんには協力してもらう形になります、親御さんに伝えておいてください」


 こうして、フォートレス家で起きた事件を解決するために特別任務が発令された。

 そしてその晩、死にこそはしなかったが門番が重傷で発見される事件が起きてしまった。

 まるでマリアの願いを嘲笑うかのように、解決できるものなら解決してみろと、蔑むように。

次回より本格的にフォートレス家編です、上手く書けることを数話先の自分に託します。

頑張らねば。

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