表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第二章:フォートレス家に危機が迫っているようです
38/221

事件発生のお話。

マリアとセリアは姉妹にしようかとも思った

 日が昇り始めた明け方、一人早く目覚めた響は上半身を起こして、ぼーっとする頭で首だけで周囲を見渡し今自分がマリアの家に泊まっていることを思い出す、そのまま再び布団にバタンと倒れ込むと両隣の梓と影山がちょっと腕を広げればすぐにぶつかってしまいそうなほど近い距離にいた。二人とも響の方に顔を向けてスヤスヤと眠り、ベッドの方ではマリアとセリアが姉妹のようにこつんと額を合わせて寝ていた。眠気がまだ体を包む中、響は能力で懐中時計を作りだして瞼をこすりながら時間を確認すると現在午前四時五十二分、大体午前五時ごろだ。人の家と分かってながらも二度寝しようと思うが一度目が冴えるとなかなか眠れない。

 仕方ないから寝巻から着てきた服に着替えていると何やら部屋の外が騒がしい気がした、朝食の準備や掃除なのかと思っていたのだが時折聞こえてくる声が話し声というよりも何か焦りを孕んでいる気がした。気になった響は梓と影山を起こさないようにそーっと布団から出てドアを開けて様子を伺う、すると廊下にいるメイドさんたちの表情が何やら怪しい、ただ忙しいだけかと思ったがどうやらそうではないらしい。


 「あの、何かあったんですか?」


 「……っ! い、いえ! 何もありませんよ?」


 「そうですか……」


 明らかに怪しい、響が質問した瞬間ばれてはいけないような表情で驚きながら答えていた。俺たちが寝ていた間に何かあったのだろうかと響は疑問に思いながらもこれ以上の詮索は止めておこうとマリアの部屋に戻る、依然として他のメンツは寝ていて静かだったが廊下の方ではまた何かあったのか声が増えた。しかもさっきのメイドさんの感じからしてちょっとしたことで済まされないようなものだろう、こっそりドアを開けて外の話を伺うと少しではあるがメイドさんたちの会話が聞こえてきた、さっき響が聞いてきたことも頭にないほどのことなのか普通に話していた。


 「聞いた? 門番の一人死んだんだって?いやよね、折角お嬢様のお友達が来てるっていうのに」


 「私たちも最初聞いた時すっごい驚いたわよ。ていうか、さっきお友達の一人起きてきちゃったし」


 「嘘!? なんか聞かれた?」


 「何かあったんですか? って聞かれたから、何もありませんよって答えてさ」


 「あの子たちはみんな子供だしね、黙っていればきっと分からないわよ。問題はお嬢様だけど」


 「そうよね、流石に今言う訳にはいかないしね」


 門番が一人死んだ、か。これは穏やかじゃないなと思いながらそっとドアを閉めて何が起こっているのか考察する響の背後から声が聞こえる。


 「……ヒビキ君?」


 「ああ、セリアさん。おはようございます」


 「……おはようございます、お早いですね」


 「なんか早く目が覚めちゃいまして」


 ぽけーっとした顔で目を擦りながらあくびをするセリア、そのままコテンとベッドに倒れ込み二度寝を開始してしまった。響も気にしても仕方ないなと思って布団に潜りなんとなく梓の方を見るとこいつ小さい頃こんな顔だったのかなぁなどと懐かしんでいた。影山の小さい頃は初めて見たが正直男の寝顔を見てもなんとも思わない。するとまたも外が騒がしくなった、いや、騒がしくなったというよりは足音がこっちに近づいてきて……とここで響は思考する前に静かにかつ迅速に部屋の外に出た、響の本能が告げていたのだ、俺が朝に聞く足音ほど面倒なことを運ぶものはない、と。ドアを閉めて右を見ると凄い勢いで昨日強烈なインパクトを植え付けていった眼鏡のメイドさんが走って来ていた、あわや激突するかというところで響はメイドさんの足を払って後ろに倒して頭を床に叩きつけないようにそっと右手で後頭部を包み勢いを殺したあと、左手でメイドさんの口を押え声を上げさせないようにする。「んぐ!?」と言う眼鏡のメイドさん、そしてその近くで今の一瞬を見ていたメイドさんたちが何故か「おぉ……」と声を漏らしていた。


 「みんなまだ寝ているんですから静かにしてください」


 「(こくりこくり)」


 「んで、本当にどうしたんですかみなさん。明らかに何かありましたよね?」」


 「ぷはっ! そうなんです、実は……ああいや! やっぱり何でもないです」


 「もう遅いですよ?」


 「あっ………あっはははは……」


 響はそのままくるぅりと他のメイドたちの方を見ると全員が絶対に目を合わせないようにして首を曲げて「私は何も言ってないから!頼む!聞いてくるな」といった感じだったため響は眼鏡のメイドさんを連れて他のメイドさんたちに直接聞くことにした、目が笑ってない笑顔を引っ提げて。


 観念したようなメイドさんたちがあっさりと自白する。メイドさんたち曰く、今朝フォートレス家の門番をしていた人が屯所の自室で遺体になっているところを他の門番が発見してその話がどこからかメイドたちに漏れて朝からざわついているという訳だ。その遺体となって発見された門番と言うのが昨日響たちに矛先を向けたあの門番らしい、話を聞いた後、メイドたちには「誰にも他言しないでください」と口止めされポケットから取り出された飴を渡されたので快く了承した。眼鏡のメイドさんは一々行動がうるさいと厳重注意を食らっており、軽く同情した。

 部屋ではセリアが完璧に二度寝から目覚め髪をとかしていたがみんなはまだ寝ている、時間もそれなりに経った気がするがまだ二十三分ざっと三十分くらいしか経ってなかったためまあそんなものかと思う。


 それから十分くらい経って影山が起きてそれから梓が起きて最後にマリアが起きた、みんな揃って寝癖が付いていたのだがマリアに至っては綺麗な金髪ロングが触手のようにうねっているような寝癖が付いていて普段のお嬢様感とはかけ離れていたが、まあこれはこれでありかなとも思う。


 「んん……おはようございます……ヒビキ、さ、んぅ……」


 「セリアさん、この人はいっつもこんななので?」


 「まあそうですね、可愛いでしょう。私この瞬間が大好きなんですよ」


 「テンション高いっすねえ、分かりますが」


 ぽーっとして虚空を見つめるマリアと同じように朝が弱い梓もショートの髪を外跳ねさせて同じように虚空を見つめてる、その二人とは逆に意外と朝が強い影山は「ん~」っと伸びをしてカーテンを勢いよく開ける。部屋の中に日の光がこれでもかというくらいに差し込み思わず目を細くしてしまう響とさらに唸るマリアと梓、朝だから思考が働かないのか普通に着替えようとする二人を三人がかりで静止させる。「別にこのメンバーならいいよー、子供の体で二人とも欲情しないっしょ~?」という梓の意見と「そんなに気にすることじゃないですわよ、大げさですわ」というマリアの意見が見事なまでに一致した意見の末、響と影山が後ろを向いている間に着替えるということになった。

 その後髪をとかしたり使い捨ての歯ブラシを貰って歯を磨いたりして朝の準備を完了させる、そうしているとドアがノックされメイド長さんが朝食の準備が出来た旨を伝えに来た、響たちが廊下に出るとさっきのメイドたちが今朝の出来事を悟られないように平常心を保とうとする、五人の中で唯一知っている響もそれは一緒だ。


 相も変わらず絢爛豪華なフォートレス家の食卓で朝食を済ませた響たちは再びマリアの部屋に戻って忘れ物がないか再度確認する。確認し終えた三人は支度を済ませて玄関の方へと行く、といっても特に何も持ってこなかったからそれほど困るものはないのだが。途中でメイド長さんがやって来て玄関の方へと案内してくれた、マリアとセリアがいるから大丈夫だとは思うが折角なのでその好意に甘えることにする。

 三人は玄関に着くとそれぞれお礼の言葉を言う。


 「すみません長居してしまって」


 「構いませんわ、私も楽しかったですし」


 「今度はうちに泊まりに来てよ、まあマリアちゃんの家よりは凄くないけど……」


 「うちに来ても手伝いさせられるかもなぁ」


 「それはそれで楽しそうかもしれませんわね」


 「では、お邪魔しました」


 「お邪魔しました」


 「お邪魔しましたー」


 「門のところまで見送りますわ、後は私たちがやります。行きますわよセリア」


 「かしこまりました、お嬢様」


 玄関の扉を開けて外に出ると門と玄関との間の茂みの草むしりをしていたドジッ子眼鏡メイドさんが響たちの方を見て立ち上がってパンパンとメイド服の誇りを払って「またいらしてくださいね」とにこやかに言ってくれた。門には門番が立っていたが昨日よりは少ない、恐らく今朝のことがあったからだろう。


 門を通ってマリアとセリアそして眼鏡のメイドさんに見送られながら三人は家に帰る、途中響はフォートレス家の屋敷の方を振り返りこれ以上何も起こらないことを祈る、それが現状を知っている響にできるせめてものことだった。




 そしてその夜、また一人、門番が、死んだ。

ほろう(払うと同じ意味)って北海道とか東北の方言なんですね、ずっと使ってたから知らなかったです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ