特別授業のお話。
シナリオ進行のための前座パート
笠原とリナリアが転校してきた日の放課後、響たちは現在生徒会室に集まっていた。集まったのは響ら転生組のメンバーを始めとして名家のお嬢様であるマリアとこれまた名家の付き人セリア生徒会長のアリア、そして笠原とリナリアの計十三人のうち十二人が円卓を囲みアリアだけ生徒会長の椅子に座っている。
目線をキョロキョロさせて落ち着かない様子の笠原とそれとは真逆に優雅に紅茶を啜るリナリアに対しどこから手を付けていいものかと水面下での譲り合いがなされていたが響が覚悟を決めてゆっくりと手を挙げた、元はといえば自分が蒔いた種だしなと思いながら二人へ話しかける。
「そのー、なんだ。どうしてまた急に転校なんてしてきたんだ?」
『それはそのリナリアが……』
「好きな人と一緒にいる方が元気が出る気がした。だから連れてきた」
淡々と答えるリナリアの短絡思考回路にどうツッコんだものかと思いながら響は質問を続ける。
「……まあ百歩譲って笠原が転校してきたのは良いとしよう、けどなんでリナリアさんも一緒にいるんですか? 女神なんじゃ……?」
「正直あんまり仕事なくて暇なんだ。魔族の方は実質イグニスが勝手にやってる感じが出てるしサボってもいいかなって思ったからだ。あと笠原ではなくミスズと呼んでやってくれ」
「何か問題でも?」そう言いたそうな顔で響の方を見るリナリアの視線にあてられそれ以上追及する気が失せ、はぁ……とため息をつく響に笠原もといミスズが『あの……』と言いながら立ち上がって深々とお辞儀をする。先日は申し訳なかったと響に謝りそれから全員に自分勝手なことで巻き込んでしまってすみませんでしたとさらに深々とお辞儀をして謝るミスズだったが正直もうすでにみんなは展開の急激さに驚きが一周回ってついぞどうでもよくなっていたためすんなりと許した、そのことに今度はミスズの方があっさりしすぎて困惑するという事態になったのだがなんかもう面倒くさくなってきたため全員の総意で放置することにした。
それと気になったのか影山が先日と今日のテンションが真逆になっていることについて聞かないことに耐え切れなくなったようでミスズ本人に直球ストレートで聞く、内心響もそのことには気になっていたが中々切り出せなかったので黙ってそのやり取りを聞いていた。
結果なぜ変わったのかというと今回のことは事実上の響に対する告白でありそれがあっけなく振られてしまったことへのショックというのが一つ、そしてもう一つ理由があるのだが……まあ何というのだろうかあの時の梓にも負けないような元気っ子キャラはどうすれば好感を持ってくれるだろうかと響の一番近くにいた梓を参考に急ピッチで作り上げたものらしく、テンションが真逆になったというよりかは元の性格に戻ったという表現が正しいらしい。
ミスズ本人もまだ罪悪感を引きずっているようで女子メンバーがありとあらゆる手で元気づけようと奮闘しているその光景をリナリアは我関せずといった感じで紅茶をもう三杯も飲み干していた。
男子陣の提案で今回のことはこれで水に流しておしまいという結末を迎えた時、コンコンと生徒会室のドアがノックされ二人の白髪のおじ様たちが入ってくる。入ってきたのは茶色のスーツに赤いネクタイを締めているのは魔導学院学院長オーハート、そしてその横にいる黒いスーツに紺色のネクタイを締めた魔法学校学校長ウィルレイヤードだった。それぞれの学校の長二人の登場に少しだけアリアを除く全員に緊張感が走る、唯一普段と変わらない態度をとるアリアは紅茶を一口飲んで真面目な顔でお茶らけた口調で二人にこう尋ねた。
「これはこれは、お二方が揃って一体どうしたんですか? 何か生徒会に協力依頼とか、ですか?」
「相変わらずのようだねアリアさん、君のその態度は嫌いじゃないよ」
「それはどうもありがとうございますウィルレイヤード学校長。して本当にどうされたのですか、オーハート学院長も一緒に」
とりあえず座ってください、と教師二人に対しても揺るがないアリアのその絶対的な自信ともとれる態度に半ば教師二人が感心しながらも円卓とは別の来客用ソファーに腰かける。オーハートが咳ばらいをして皆の注目を集めたところで早速本題に入る。
今回再びオーハートが自らこの魔法学校へ足を運んだ理由、それはここにいるメンバー、正確には転校してきたばかりのミスズとリナリアを除いたメンバーに魔導学院生徒会役員たちとの特別演習授業を提案しに来たという。二ヶ月後に普通の授業の一環で合同授業があるにも関わらずわざわざ別案件として考えを提示したのにはちゃんと理由がある、それは先日のミスズとリナリアの騒動の時に響とマリアそしてアリアの生徒会組の魔法の技術やあの状況で逃げ出さなかった精神力、そして駆けつけた梓たちのバラバラにならず統率のとれた駆けつけ行動、プロの冒険者や王国騎士団と比べるととても実戦投入には出来ないものだがまだ齢十一の子供がやるには一般の生徒たちよりも優れ何よりも響の記憶から複製した拳銃や梓が複数本作成した日本刀などの滅多に見ない武器を使いこなしていたという観点から、一般の生徒と同じ速度で進ませるのはいささか勿体ないものがあるということで今回の特別授業が発案されたようだ。
提案されたと言えば聞こえはいいが実際はほぼほぼ特別授業はもう決定事項ということで組み込まれており拒否権はほとんどない、もとより生徒が「授業やりたくないです!」と言って素直に「分かった!」と言う学校などそもそもないのだが。本来であれば響たち十一人の予定だったのだが面白そうだからという理由で今この場でミスズの参加がいきなり決まった、リナリアに関しては素性がいまいちよく分からないので不参加という扱いになった。リナリア自身も「女神が行ったらバランス崩れるでしょ」という超ど正論から辞退したため十二人での特別授業となった。
してその日時はというとなんと明日というのだからため息が出そうになる、響的には早くても来週とかかと思っていたのだが予想の斜め上を突っ切られてしまった。影山が思わず「はやっ!」とみんなの考えを代弁したかのように叫んだためオーハートの方も「急で済まない」と短く付け加えていた。
要件を伝え終わりオーハートは魔導学院の方で会議があるからと言って早々に帰っていってしまう、「これ提案するだけなら別にわざわざ来る必要なかったんじゃないのか?」とこの場の生徒全員が思ったことだろうが誰一人それを口にするものはいなかった。ただ一人学校長ウィルレイヤードは小さく「それだけですか……」と口にしていたことに対してアリアでさえも笑いをこらえる羽目になったのは言うまでもない。
煮え切らない空気の中その日は解散しそれぞれ家路に帰り着く。響は家に着いた瞬間何故かどっと疲れが沸き起こり夕飯の時間まで部屋で熟睡することになり、目が覚めて食卓兼茶の間に移動すると何故か梓と影山、加えてミスズとリナリアがさも当然のようにいたため夢でもまだ見ているのかと思ってしまうが母親のエミルに「ヒビキも早く座りなさ~い」と言われてしまったため観念して食卓に着くことにした。
翌朝登校中に梓と影山に聞いたとこ、梓は親が家柄の用事で出かけることになったため響の家で厄介になり影山の方は母親が武器の買い付けや仕入れなどで忙しく梓と同じく御厄介になったということらしい。ならミスズたちは何だったのかと学校で本人に聞くとリナリアが何となく立ち寄って入ったらエミルが「お友達でしょ~? おいでおいで~」とあっさり受け入れてしまったと言っていたのでリナリアの方にはなぜ立ち寄ったのか聞いたところ帰ってきた答えは「なんとなく?」だった。
この時響はノータイムでこう思った、「もしかしてリナリアって駄女神なんじゃないのだろうか」と。
凪沙・智香・絵美里「出番は?」
主「つ、次からは増やします(汗)」




