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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第一章:魔法学校に入学するようです
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新たなる来訪者のお話。

二柱目、顕現

 笠原の手が響の頬に触れようと伸びもう誰も彼女の勢いを止められないと誰もが確信した。

 刹那、ガクンと笠原の体が急激に止まった。そしてその現象にアリアはつい最近見た覚えがあったそれはこの前レイとヴィラのゴールド級冒険者の二人とスレイプニル種の討伐時に親スレイプニルがアリアを殺そうとした瞬間と同じ現象だった。そう、響のオリジナル魔法「ニュートンの林檎」によるものである。



 笠原の今の体勢は響を捕らえようと飛び込んできた形になっているため現在笠原は響の眼前で宙に浮いている状態になっている。『え……?』と小さく呟き今の自分がどうなっているのかを目だけを動かしてどうにか確認し、何か変わったことがあったのかと思っていたのだが分かったのは自分が先ほど響に向かって手を伸ばした時となんら変わっていないことだった。流石の笠原もここまでは予測していなかったようでただ無言で手足を動かそうとするがピクリとも動かない、まるでセメントで体全体が固められているかのように指一本すら動かなかった。こうして口と瞼が自由に動かせることだけがせめてもの救いなのかと文字通り体で感じながら響に目線を戻してベッタベタに切り貼りして取り繕った笑顔を向けた。




 『あっれ、おっかしいな。ねえ響君、これどうにかしてくれないかな!』

 「悪いけどそりゃ出来ないね……」

 『私はこんなにも好きなのに!!? なんで!! どうして!!』




 瞳孔を開いて今までのキャラを全て無かったことにしようと言わんばかりに怒鳴り散らしながらどうにかして体の自由を取り戻そうとする笠原、だが体は今だ全く動かずどちらかといえばさらに拘束が強まった気がする。声を荒げて歯をギリッと噛みしめる笠原に正気を取り戻した響は少しだけ引きつった笑顔でこう告げた。



 「生憎と、俺はまだそんなに好きじゃないんでね……」



 笠原は自分の告白を振ったともとれる響の返事に目を丸くして息を詰まらせながら何が起こったのかわからないという顔をしている。『う……あ……』と声にならない声で狼狽えながらもすぐさま目をキッとして響を睨みつけ叫び始める、その光景は一周回って響ら五人を冷静にさせる。その隙にアリアとマリアそして響は中級魔法「チェーンバインド」でさらに体を拘束して動けなくする。



 先ほどまでの告白じみた叫びではなく『うわあああああ!』ともはや意味を為さない言葉で喚き散らす。そしてその間に響は最も信頼できる人物へ向けてこの状況を打破してもらうためにエマージェンシーコールを密かに送っていたのだった。



△▼△▼△▼△



 生徒会室が使われることになり教員達と生徒会メンバーだけのとなった生徒会室から追い出された梓たち八人は、このままただ帰るだけなのも味気ないということでAクラスで机を並べ、いるメンバーだけで引き続き作戦会議を続けることにしたのだが、さっき途中で中断されたということでみんな集中力がもうほとんどなくなっていたためすぐにただの雑談会議に早変わりしていった。話題は最近の各クラスの話とかクラスメイトの話だとか日本にいた頃とあまり変わらない内容で、最初は梓たちは元高校のクラスメイトということで問題なかったのだがAとBでクラスが違いこの前賢介たちと知り合ったばかりのセリアが気まずくならないだろうかと梓は少し気になったがどうやらうまく話せてるようで一安心していた。



 「そういや遊……梓、お前響と任務行ったんだろ?どんな感じだったんだ?」

 「おいおい賢介、それ俺も行ったんだけど?」

 「お前には聞いてねえ」

 「なにおう!?」

 「あっはは……マリアちゃんとかセリアちゃんとかもいたんだけどね、あとアリア先輩も」

 「んで、実際どうだったんだよ」



 以前のパーティープレイ時の話に凪沙や智香が食いつきそれから意外なことに絵美里も興味深々の様子で梓の話を聞いていた。その話が戦闘パートの部分に差し掛かった時にちょっと恥ずかしそうに琴葉も会話に参加し、体を前のめりにして「それでそれで?」と熱心に聞いていた。話は例のc4事件までたどり着き梓が映画さながらの迫力のある喋り方で語っていたその時、梓の頭の中で馴染みのある声が響き渡った。



 「(梓! 聞こえるか!?)」

 「……っ!」

 「ど、どうしたんですか?急に……」



 話が盛り上がってきたところでいきなり喋るのを中断した梓に全員が盛り上がりとは別の意味で注目し、一番熱心に聞いていた琴葉が心配する。梓は「ちょっと待ってて」とだけ短く告げて目を瞑って頭の中の声に問いかける。



 「(響? どうしたの?)」

 「(お前今どこにいる)」

 「(Aクラスでみんなとお喋りしてた、けど?)」

 「(てことはみんないるな。緊急事態だ、すぐ生徒会室に来てくれ! 最悪戦闘になるかもしれないから討伐任務だと思ってきてくれ)」

 「(分かった! みんなに伝えてすぐに行くよ!)」

 「(頼んだ、梓)」



 それだけ伝えてぶつんと響の念話が途切れる。梓は目を開けてみんなを一通り見た後息を吸い込み今響と話していたことを全員に伝えて生徒会室に向かうように促す。話で盛り上がっていたテンションから全員真面目モードに一瞬で切り替えて教室を後にする。



 「行くよ、みんな」

 「「「「了解!」」」」



 それから行動は早く迅速に行われ、あっという間に生徒会室についた一行は梓が作った刀をそれぞれ手に持って刀の提供者である梓を筆頭に、カチコミに来たヤクザよろしく勢いよくドアを蹴破って部屋に雪崩れ込み、すぐに生徒会室を制圧よろしく人を行き渡らせることに成功する。そこで梓たちが最初に目を奪われたのは、響きの眼前で宙に浮きながら十五本の鎖でグルグル巻きにされて叫んでいる謎のゴスロリ少女の姿だった。



△▼△▼△▼△



 東雲アザミからネメシスへ転生する際に貰った六つのスキルのうちの一つ「意思疎通」。同じくして飛ばされた転生組にだけ通用する念話を行うことのできるというもので、第三者に悟られずにコミュニケーションが図れるというものだ。



 響は梓に対してその「意思疎通」でSOSのエマージェンシーコールを送り助けを求めた。物の数分もしないうちに梓たちはその呼び声に従って生徒会室に駆けつけてきてくれた、そのことに響は感謝しているのだが全員日本刀片手に雪崩れ込んでくるとは思っていなかったので少しだけ動揺した。

 笠原は梓たちを見て吠えるどころではなくなりますます混乱していく。梓たちも笠原を見て何が起こっているのかわからないといった様子で響を見ている、勿論他の奴らもだ。



 「えっと、今どういう感じなの、かな?ていうかその人誰?」

 「グッジョブ梓、いいところに来てくれた。こいつはその、どう説明したものか」

 『梓……? お前……遊佐梓かぁ!?』



 笠原が再び叫びだしながら梓を威嚇する。響の交友関係まで調べていた笠原なら梓が響の家で家族同然の暮らしをしていたことくらいは軽く把握していたことだろう、それ故に、自分が惚れた相手とただの幼馴染という関係だけで同じ屋根の下で食事をしたり隣同士で寝ていたことが癪に障ったのかもしれない。愛が深すぎるが故にその愛は矛先を複数に向けてしまい複数を恨むのだ。




 叫び疲れたのか次第におとなしくなる笠原を見てそろそろいいと思った響がニュートンの林檎を解除して拘束具を鎖だけにする。ひとしきり梓たちにこれまでの経緯を伝えたところで笠原に対する質疑応答が再開され、ここは響が一番適しているだろうと判断したフルーエンが響に質問役を一任する。すっかり大人しくなった笠原は響の質問に素直に答えていき、現在の名前や生徒会室にばれずに侵入で来た方法などが明らかになっていく。

 



 笠原美鈴という日本での名前から現在は「ミスズ・ゼナ・キリナ・ローゼン」という名前に変わり、ばれずに侵入できたのは、自分自身や装備しているものの姿を消すことが出来るスキル「無蝕透明ハーミット・ファントム」の能力によるものだとのこと。能力が響たちの適合能力の語感と似ていることからそれについて言及しようとした響だったが、その質問は喉から口にかけての途中で掻き消え、声に出すことはできなかった。何故かと聞かれれば、生徒会室の窓ガラスが一斉に割れた、というよりかは爆散したという表現の方が正しいだろう。全員の意識がそちら側へと向けられる、例に漏れず笠原もいきなりの事態に思わずそちらの方へ視線をやる。




 するとそこには羽の生えた一人の女性が宙に佇み、黄金に輝く瞳で空から響たちを見ていた。パッと見で東雲さんかと思った日本から来た転生組の面々だったがすぐにその疑問は否定された。何故ならそもそも顔が違うのだ、髪の色もアザミは銀色だったがその女性は笠原と同じような紫色で、長さもロングではなくショートに近い。着ている衣装こそ似たようなものだったがアザミの着ていたものにはない黒い花のブローチがあった。

 その女性はふわりと生徒会室に着地して笠原の元へと歩み寄る。その行動を何故か誰一人として止めることはできなかった、否、止めようとすら思えなかった。それほどまでに彼女のオーラが全員をそうさせたのだ。彼女はチェーンバインドの拘束を何と素手でいとも容易く引きちぎり、ぐったりとしている笠原をお姫様抱っこして全員の方に向き直る。



 「うちのミスズが迷惑をかけたようだな。それは素直に謝ろう、申し訳ない。ほらミスズも謝るんだ」

 『…………』

 「何やら相当ショックなことがあったようだ。これはいけないすぐに帰って休ませなければ。という訳で失礼ながら返せてもらう」



 勝手に話を進めて勝手に話を終わらせて帰ろうとする謎の女性の行動に呆気にとられている他の面々。窓際に足をかけて空へ飛び立つその謎の女性は「ああ忘れてた」と再び生徒会室の方に体を向けて最後にこう言い残す。



 「私はリナリア。魔族の管理を担う女神の一柱()だ」

 『…………またね、響君』



 響に対して小さく手を振る笠原を抱えながら、リナリアと名乗ったその女神は胸元のブローチを指でトントンと叩きながら自らの羽を羽ばたかせて、空の彼方へと消えていった。

笠原はぬいぐるみとか好きそう(そこまで考えてない)

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