終幕のお話。
二年と三カ月続いた本作、今回で最終回となります。
今までお読みくださった方々、本当にありがとうございました!
春の日差しが温かくなってきた頃、とある二階建ての大きめの一軒家にて。
「大体荷物はこんなもんか? 家具とかも急ぎのものは揃えたし」
「んーそうだね。ちょっと休憩する?」
「賛成だ」
「んじゃそうするか」
響から梓へのプロポーズから何年かが経った。
二人は結婚し、その後響はアリアとも結婚した。
二人とも結婚を前提としたお付き合いをしてたためこのような運びとなり、今日は三人がこれから暮らす新居へとお引越しをする日なのだ。
響が一括で購入したこの一軒家、今のところは段ボール箱だらけで家具も適当に置かれているが荷物の搬入作業だけでもなかなかの重労働なため一度放置して三人は休憩を取ることにした。
と、その時、玄関のドアをノックする音が聞こえ、響が出るとそこには影山とマリアとセリアの三人が立っていた。
「よっ! 引っ越し進んでるか?」
「ちょうどお昼時だと思いまして、お昼ご飯持ってきました」
「わざわざ悪いな。とりあえず中へどうぞ」
「お邪魔いたしますわ!」
心なしかウキウキしているマリア、響はセリアから恐らく重箱の入っているであろう風呂敷を受け取り、残る二人も響たちの新居へと足を踏み入れた。
そして現在、数年前の戦争の終結によって英雄と称えられた者たち、国内最大の貴族に生まれた者とその由緒正しき付き人の生まれの者などなど錚々たる面子がこの一軒家の段ボール箱だらけの一室に集まっているという筆舌に尽くしがたい状況になっていることなど本人たちは知る由もない。
軽い世間話をしながら六人は昼食を食べて体力と気力が回復したところで再び響たちは荷物整理の作業に入り、影山たちも手伝ってくれたおかげで夕方にはあらかた荷物整理や家具の配置など諸々が終わった。
「まぁ、こんなもんでしょう!」
「疲れましたわ……引っ越しって大変ですのね」
「にしても、手伝ってくれて助かったわ。すまんな聖也」
「いやーいいってことよ。まぁ今は一通り落ち着いたけどこれからいろいろまた入り用になるかもしれないし、そんときはまた手伝うぜ」
「ああ。そうさせてもらう」
「では、私たちはそろそろお暇します」
「んじゃな。落ち着いたら飲みにでも行こうや」
「お邪魔しましたわー!」
響たちは帰る三人を見送り、細々としたものやレイアウトを軽く整えて夕食の時間になると外へ出て三人で食事をとった。
何度か三人を見て「英雄様方ですよね!?」などと言った感じで握手を求められたりと今なお有名人というポジションに位置する三人は人が良いのか一人ひとりにきちんとレスポンスを返していた。
夕食を食べて新居に戻り、後の片づけは明日に後回ししようと決めたところで対してやることのなくなった三人はただただ暇を持て余していた。
何せ科学のないこの世界ではテレビなどは勿論なく、冷蔵庫のようなもの仕切りのある縦長の大きめの物体はあるにはあるのだが、その原理は仕切りに氷系の魔法を発動させる魔方陣が描かれていてその冷気によって冷やすというものであるため家電とは言い難い代物なのだ。
そして当然ながらゲーム機や携帯電話、パソコンやインターネットなどと言った概念すらないこの世界では正直大してやることが無いのである。
では一般の人たちはどう過ごしているのかと言うと、本を読んだり家族と一緒に談笑したりどこかで歩いたりなどしており、生まれた時からそうだったため暇だという風には感じていないのだ。
だが響たちにとっては暇な時間なのだ。
何故か、と問われれば答えは一つ。
だってもともとこの世界の住人ではないから、だ。
「さて……何をしたものか……」
「いざこうしてみると案外暇だね」
「二人の元いた世界はどれだけ娯楽に溢れていたんだい」
「そんなこと言ったってなぁ……アリアはこういう時何してたんだ?」
「本読んだりゴロゴロしたり色々と」
「参考になるのかならないのか分からんな」
「あそうだ。確かボードゲームがいくつか僕の荷物の中にあったはず」
「じゃあそれやろうよ響」
特にすることもなかった響たちはアリアの持って来たボードゲームに興じることにし、修学旅行の夜よろしくやっている内に止め時が分からなくなり次々に違う種類のボードゲームをやり、全員が寝落ちしての強制終了というオチに終わった。
そんなこんなで引っ越し二日目を迎え午前中は残った荷物の整理を、午後は追加で必要な家具や雑貨などの買い出しに向かった。
響たちは今でも現役の冒険者として数々の任務をこなし、時には他種族の応援にも向かったりとすっかり人族を代表する実力者の一角となっていた。
主な収入源はその報酬だが、時には魔法学校や魔導学院の卒業生というつながりから特別講師として呼ばれたり、響に関しては月に数回実家の道場で父のクラリアと共に門下生たちを教えているという。
そして三人が新たな家で新たな生活を営み始めてから数年後、梓とアリアの二人は子を授かり、無事に出産し三人家族から五人家族へと家族がめでたく増えることとなった。
生まれた子供は男の子と女の子が一人ずつ、男の子の方は「レオ」と名付けられ女の子の方は「シエル」と名付けられた。
二人はすくすくと成長し、国内有数の実力者である三人を親に持ったからか戦闘センスは同い年の子供たちよりもずば抜けて高く、人族最強の家族として一時期有名になった。
実力を兼ね備えながらも心優しい人間に育ってくれたレオとシエルは冒険者としても活躍し、勇者パーティーにいた頃の縁からかあのグリムを始めソルやラフィーリアなど他種族の実力者たちから指導を受けることがたびたびあり、成長は留まることを知らなかった。
幾年か経ち、響ら三人が一線を退いてからは時を同じくして生まれた影山や他の転生者たちの子供たちとパーティーを組み、時に助け合い時に競い合いながらも両親の欠落を感じさせぬ活躍ぶりを見せ、響たち英雄と呼ばれた者たちの子供らは「伝説の再来」と呼ばれることとなった。
「すっかり……大きくなったな」
「そうね。もう私たちなんてとっくに超えているわあの子たち」
「少なくとも私の一人称が僕だった頃に比べると、格段に強い」
「ははっ、懐かしいな。そうだそうだ、アリアは僕っ子だったな」
「別に恥ずべき過去ではないわよ? あまり思い出したくはないけれど」
「恥じてるじゃないか」
年を重ねた響たちの今の楽しみは子供たちの成長を噛みしめながら晩酌をすることで、たまに賢介や凪沙や影山などと保護者会なるものを開いて親同士で飲んだりしている。
ちなみに現役を退いても実力や強力な権力者たちとのつながりがまだ残っており、戦争終結後再び王の座に着いたイグニスにお呼ばれされて魔族の子供たちを鍛えたり、二度と厄介ごとを起こさないと誓って女神として復活したアザミからは謝罪と礼を兼ねてレオとシエルにスキルを授けてもらったり、本格的に魔導学院で生徒たちを指導する立場に就いたりなどまだまだ過去の人物にはなっていなかった。
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元いた世界から半ば強引に転生させられ、人生を一から始めることとなった響たち。
決して楽な道のりではなかったが得た者は多かったと、彼らは自分たちが転生者であることを明かした上で戦争終結後にそう語った。
多くの功績を残し後の世を生きる者たちへ技術を教えた彼らの死後、響たちと共に戦った魔族の女神リナリアと彼らをこの世界へ転生させた本人である人族の女神アザミは一冊の本を書き綴った。
二つの世界を生きた彼らのその生涯はまるで声高々に謳う二重奏のようだとリナリアとアザミは例えた。
やがて獣族の女神アキレアや妖族の女神フリージア、海王族の女神カンナや竜族の女神ゼノも二人の活動を聞きつけ、そこに椿が誘われて執筆活動は行われた。
拙い文章ながらも最後まで書き切ったアザミたちだったが、まだ書けていない部分が一か所だけあった。
それはタイトル。
これだけはどうしてもしっくりくるものが思い浮かばなかった。
悩みに悩む女神と神族。
その時ふと、アザミが彼らの人生を二重奏のようだと例えていたことを思い出した。
「では差し当たって、こう書き綴るのはどうでしょう」
アザミはペンを持って、迷いなくこう書いた。
『異世界二重奏は高らかに』と。
以上を持ちまして、「異世界二重奏は高らかに」閉幕とさせていただきます。
長かった……実に長かった。
本当はこんなに続くはずじゃなかったんですがね、一番初最初に連載した作品が一番最後に終わりました。
徹頭徹尾、拙い文章でお送りしました本作いかがでしたでしょうか。
プロローグのお話から最終話を比べると書き方が若干変わってると思います、多分!
えー、何はともあれ完結できて本当に良かったです。
ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございました!
それでは、またどこかでお会いしましょう。
さようなら、さようなら( ´Д`)ノ~バイバイ