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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
最終章:旅の終わり
220/221

祝勝会のお話。

無事に大団円へ。

 ガヤガヤと賑わうのは人王大陸王都、国王が住まう王城。

 数ある部屋の中で一番大きな会場を貸し切って今宵、グリムたち勇者パーティーの帰還と戦争の終結を祝ってのパーティーが開かれることとなっていた。



 パーティー開始の一時間前から会場には名のある貴族の人たちやお偉いさん、高名な冒険者などなど招待客たちの一部がすでにスタンバイしていた。

 勿論やることが無かったから来たとかいう理由では断じてない、早めに会場入りしておくことによってこれから来る他の貴族の人たちへ挨拶や会話の切り口などに対して先手を取れるうえ、場所どりさえ正しければグリムたち本日の主役たちへコンタクトを他の者たちよりもいち早くとることが出来るからだ。



 静かなるマウンティング。

 早い時間に来ることによって会場の雰囲気やスタッフたちの会話を盗み聞きしたりと情報諸入手できる可能性もあり、逆に遅く来ればもしも他の貴族たちの会話の中で自分に有意義な情報が話されていたのであればそれを聞き逃す可能性も出てくる。



 色々と後手にまわざるを得ない状況に陥ってしまうため、コネクションづくりやパーティーの予定を立てたりするためにパーティー開始の時間よりも早く来る貴族たちは決して少なくないのだ。



 しかし響たちがそんなことを知ることもなく、各々パーティーにふさわしい服装を選んでいた。

 梓なんかは家柄が良いため当然そういったドレスなどは勿論数着持ってはいるが響や影山ら一般家庭の者たちはそういう服があっても子供の頃に買った服のため新しく用意する必要があった。



 「いらっしゃいませー」


 「すみませんタキシードってありますか? 急用が入ってすぐにでも欲しいんですが」


 「タキシードでしたらこちらの方に……って、もしかしてヒビキ・アルバレストさんですか!?」


 「えっ? えぇまぁ、はい……そうですけど……」


 「うわすっげぇ本物だ!」


 「あ、あはは……どうも」



 だが今や戦争を終結させた英雄となった響たちの面は隅々にまで知れ渡っているため、ちょっとしたサプライズ訪問のようになってしまうのだ。

 現在の響が良い例で、正真正銘の有名人である彼らは買い物すらままならなくなった。



 「ありがとうございましたー!」


 

 響が何とか買い物を済ませた後、勇者パーティーの一人が買い物をしに来た店だということを周りで見ていた人が続々と押し寄せその店はすぐに忙しくなったらしいがそんなこと響が知ったことではない。

 響は響で、街往く人たちに声をかけられたり握手やサインを求められたり、なんなら手合わせを軽くでいいからしてほしいなどと言った要求もあった。



 こう言った経験は初めての響だったが出来る限り全ての要求に答え、握手やサインをしたり、手合わせをしてほしいといってきた人にはきちんと怪我をさせない程度に完封勝ちした。



 「有名人じゃの」


 「まぁ、流石にそうなるな」


 「買い物は終わりかえ?」


 「んー、いや、念のために寄っておきたいところが一つ。先に帰っててくれ」


 「じゃあその服は持って帰ってやろう」


 「ん。ありがとう」


 「ほほほ、褒めよ褒めよ」



 椿にタキシードを預け、響は一人である店へと向かった。


 小一時間ほど経った後に家に帰りついた響はパーティーの時間に間に合うように着替えたり色々と身だしなみを整えたりして梓と影山の二人と共に迎えの人の馬車に乗って王城へと向かった。



△▼△▼△▼△



 そしてパーティー開始の時刻になり、会場は招待客たちがグリムたちが来るのを今か今かと待っていた。

 会場の話題はグリムたちのことで持ちきりとなっており英雄たちとどうコネクションを築こうかということを考えている貴族たちは少なくなかった。



 そんな中、会場のドアが開いてドレスアップされたグリムたちが堂々たる面持ちで登場した。

 その瞬間招待客たちの視線は一斉にそちらへ向けられ、パチパチパチパチと登場を喜ぶ無数の拍手の音が会場内を埋め尽くした。



 「あら~立派になって~……」


 「ほんどになっ!」


 「クラリアさん、涙拭いてください。自分だって……泣きぞうなんでずがらぁ!」


 「ソフィー……落ち着け」


 「あなたもよ~カレンちゃん。さっきから涙目よ」


 「だって……! なんでエミルさんはそんなに落ち着いていられるんですか!」


 「涙はヒビキが結婚した時までとっておこうかな~って」



 見違える成長を果たし周囲から称賛されている息子の姿を見てクラリアとカレンは泣き、ソフィーはその二人を超えるほど号泣して先ほどからほとんどの言葉に濁点が付いていた。

 だがエミルだけはいつもの調子を崩さずに穏やかな笑みで拍手をしていたが、三人の築かぬところで何度も目頭を指で撫でており、エミルも感極まっていたことに変わりはないようだった。



 グリムたちは会場の一番前へ横一列に並びグリムは城の使用人から拡声石と飲み物の入ったシャンパングラスを、他のメンバーはグラスだけを手渡され、グリムは拡声石を口元に当てて話し始めた。



 『えー、この度は私共のためにこんなに盛大な宴を催していただきましたこと、誠に感謝いたします。此度の戦争の終結、及び勝利に関して、私たちだけの力ではとても成しえるものではありませんでした。今回の勝利は、他種族との固い結束や支援そして多くの兵たちの協力の元に掴み取った勝利でした。そして凱旋の際に働いてくれた兵たち、宴の準備をしてくれた使用人の皆様に感謝を表します』



 そしてグリムはグラスを上にあげ、それを見た響たちや招待客たちも同様にグラスを持ち上げた。



 『此度の戦争の終結、勝利、栄光、そしてこれからの発展を祝しまして……乾杯!』




 乾杯!

 会場の全員はそう言ってグラスの中の飲み物を一口飲み、ようやくパーティーが始まった。

 


 自由行動が可能になったと分かった途端、グリムたち本日の主役はすぐにパイプ作りを目的とする貴族たちに囲まれた。

 社交辞令的な話から始まったかと思えば次第に「うちの娘はこんな実績を残していて―――――」とか、「私の家系は代々こういうことをやっていて―――――」だの、毒にも薬にもならないような話を延々と繰り返されて早々に響はうんざりしていた。



 「ちょっと失礼、(わたくし)も混ぜてもらってよろしいかしら?」



 貴族たちのしつこい家系自慢にタジタジしていた響のもとへやって来たのは十中八九この会場内で一番高名な貴族であろう友、マリア・キャロル・フォートレスがにこやかにグラスを持って立っていた。



 「マリア、ちょうどいいところに!」


 「あらどうしたんですの、もうお疲れ?」


 「い、いや、ちょっと……ね」


 「ならこちらでお話しませんこと? 向こうじゃあまりゆっくりお話しできなかったから」


 「それは良い。ぜひそうしよう!」


 「というわけで皆さん、借りていきますわね」



 幸運にもこの状況から抜け出すことのできた響はマリアに手を引かれてやや離れたところへ場所を変えた。

 響はマリアにありがとうと感謝をしマリアは誇らしげにしていた。

 よくよく見れば影山や賢介や琴葉なども囲まれており、響は心の中でそっと同情していた。



 しばらくマリアと話していた響だったがマリアも他の貴族たちと社交辞令ではあるが色々とお話をしなければならないため響は一人でしっぽりと飲み、そのタイミングを狙ってやって来た貴族たちと今度はきちんとお話をすることとなった。



△▼△▼△▼△



 「はぁ~……疲れた」



 パーティー開始から一時間半くらい経っただろうか、響は一人バルコニーで静かに夜風を感じながらそこから見せる夜の街を眺めていた。

 今日はこの城の中だけでなく、人王大陸全体がお祭り騒ぎで色んなところに出店が並んでいた。

 一番のお祭り騒ぎとあって夜でも街は活気づいて賑わい、酔っぱらう人や遅くまで遊ぶ人、一般兵も今日だけは全員非番なためあちらこちらでどんちゃん騒ぎが行われていた。



 「ひーびき」



 一人佇んでいると、後ろから自分の名を呼ぶ声が聞こえて響はそちらへ振り向いた。

 それはもはや振り返らずとも声だけで分かるような人物、響の彼女であり響にとって最も付き合いが長く最も心を許し合える人物。



 「やっぱりお前か、梓」


 「なにさやっぱりって」



 梓は自然な流れで響の隣に立った。



 「やっと……終わったんだよね」


 「ああ。終わった。俺たちの仕事はこれでおしまいだ」


 「じゃあさ、これからは私たちの自由って……ことだよね?」


 「そうなるな」


 「だからもう―――――」


 「だからもう、俺たちは自分の好きなように過ごせる。俺とお前が()()するのだって、魔王討伐やら大層なもんを背負ったまんまでやらなくても良いんだ」


 

 結婚、というワードを聞いて梓は少し頬を赤らめた。

 そのすぐ後に梓はグラスの中の飲み物を一口飲んで「結婚かぁ……」と呟いた。

 この時の梓の表情は誰が見ても分かるくらいに穏やかな顔をしていた。



 「なんだ、不服か?」



 響が茶化すようにそう言うと梓は笑って「全然!」と言った。



 「あーでも、やっぱり心配かなー。これから響モテちゃうだろうし、他の女の人に目移りとかしないか不安だなー」


 「ぐっ……それを言ったらアリア先輩の件ですでに俺はアウトですが……」


 「アリア先輩はまぁ、放っておいてもどうせ響篭絡されちゃうだろうから」


 「篭絡ってお前……」


 「……ま、そういうのを差し引いても多分アリア先輩なら大丈夫。なんだかんだちゃんと分水嶺がどこか分かってる人だし」


 「そうですか」



 しばらく沈黙が流れた。

 二人の場合、多少の沈黙が流れてもお互いに気ならない関係なため普段なら全く問題ないのだが、ここ最近戦闘中の会話がメインだったため久しぶりに日常的な話をしようとすると何故か「あれ、何話そう」という思考に今日だけは陥ってしまっていた。



 そして先ほどの結婚というワードが強烈に二人の頭の中でリフレインされ、そう遠くないうちに結婚するのだろうなと思えば思うほど今まで以上にお互いがお互いを意識してしまう。

 


 「あのさっ!」

 「あのさっ!」



 沈黙を打ち破ろうとした言葉がまさかの二人同時に出てしまい、お互いにどうぞどうぞと先に言いなよと譲り合いの精神。

 三回ほど譲り合いのやり取りが続いたところで響は少しの間を置いてから「場所を変えよう」と言い出した。

 梓が「え?」と少し驚いた様子だったが響は梓の手を握ってまとめて転移した。



 



















 「ここは……?」



 響が転移した先は王城内に設けられているチャペルだった。

 元々そのチャペルは王族の関係者や親族などが利用するために造られたもので、普段は一般開放されていない場所である。

 梓は多少驚いてはいたものの、パーティー会場の香水臭い空間から抜け出せた開放感からか体をグーッと伸ばしてリラックスしていた。


 

 「……話がある」


 「……さっきのとこじゃできなかった話?」


 「あぁ。本当は別の日にしようかと思ってたんだけど、結婚とかの話してたからちょうどいいかなって」


 「……この場所に関係あること?」


 「大あり。全く、大体察しついてるくせに」



 響は空間魔法で作った歪の中に手を突っ込み引き抜くと、響の手には小型の四角形の箱が握られていた。

 それを握ったまま響はその場に片膝をつき、ゆっくりとその箱を開けて中身を露わにした。

 箱の中に入っていたのは銀色に輝く一つの指輪だった。




 指輪をチャペルで渡す、しかも膝をついて。

 もう、この後の展開は火を見るよりも明らかだろう。





 



 「結婚してくれ。梓」



 何一つ曇りも濁りもない純粋な愛の言葉、たった七文字のその言葉は梓の心を感激で埋め尽くすには最適だった。

 


 「―――――はい!!!! こんな私でよければ、喜んで!!!!!」



 梓は目じりに涙を貯めながらも笑顔で響のプロポーズを承諾し、響は梓の左手の薬指に指輪を嵌めた。

 梓はチャペルの窓から差し込む月明かりに自分の左手をかざして、キラキラと煌めく指輪に心から満足いっている様子だった。



 「いつの間に買ってたのこれ」


 「今日買った、なんとなくあった方が良い予感がしててな。婚約指輪だからシンプルなの選んだけど、今度ちゃんとしたの二人で見に行こう」


 「うん! ていうか、よく私の指のサイズ分かったね! エスパー?」


 「何年一緒にいると思ってんだ? 指のサイズくらい、お前の手を思い出せば大体想像できる」


 「なにそれっ!」



 梓はよっぽどうれしいのか先ほどから笑顔を止めることが出来ず常にふにゃーっとした満面の笑みを浮かべており、響もそんな梓を見て心の底から喜ばしく思った。



 「さ! そろそろ戻るか!」


 「あ、その前に――――」



 梓はタタタと駆け寄って笑顔のまま、目を閉じて響の唇に自分の唇を重ね合わせてキスをしながら抱き着いた。

 響も梓を抱き寄せて数秒間キスをした後、梓は響を真っすぐに見つめてこう言った。



 「愛してるよ、響!」と。


 

 それに対し響はこう言った。



 「ああ。愛してるぞ梓!」と。






 かくして二人はハッピーエンドの大団円で結ばれ、パーティー会場に戻った。

 その夜、二人がどうなったかはまた別のお話。

次回、本編最終回。

今までありがとうございました。

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