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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第一章:魔法学校に入学するようです
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任務終了後のお話。

スレイプニル戦のエンドロール的な何か。

 アリアを救出して衣服についた土や埃を手で叩いて落としていると、先ほど親スレイプニルに吹き飛ばされたレイが体を重そうに引きずりながら響たちの方へと歩んできた。自慢の両刃剣はぽっきりと真ん中で折れてしまっていてとてももう使えそうな代物ではなかった。 



 「いたた……大丈夫かい、二人とも」

 「レイさんこそ大丈夫ですか?」

 「何とかね。それよりヴィラだ、多分あいつの腕の骨折れてる」



 レイが指さした方向では、四人のうち誰よりも早く切り込んでいったヴィラが、親スレイプニルの強烈な蹴りで右腕の骨が折れたらしく未だうずくまっている。何とか左手に体重をかけて起き上がり右手をかばいながら三人の元へ戻ってきた。「すまない、情けなかったな」と怪我よりも自分の失態の方を悔やむヴィラを馬車に横にして乗せて森林を後にする。馬車の中ではアリアが上級回復魔法「サナティオ・エナジー」で負傷したヴィラの腕を回復させ何とか事なきを得る。



 その様子にレイがホッとしたのか軽いため息をその場で吐き、ふと思い立ったように響に親スレイプニルを倒した謎の魔法について追及し始めたため、響も素直に「空間魔法の原理を応用しただけです」とさらりと答えるたのだがどうやらレイの話によればそもそも空間魔法を応用させること自体が難しい技術で彼曰く、今ままで生でそんな芸当を披露したのを見たのは響が初めてだという。響自身は結構早い段階でこの魔法を作り出したためそこまで難しいものだとは気にも留めていなかったからまるで実感が沸かず、しばらく「はぁ……」という生返事しか返せないでいた。



 それのついでにデザートイーグルについても質問されたため今度も響は素直に適合能力もといスキルですと答えようとしたのだが本人が答えるより早くアリアがそれを制止した。後で教えてくれたことだがそもそもスキルは以前アリアに説明を受けたように、先天性のものであるためスキルを保持している人があまりいないらしく割合的には魔法学校規模でも数人いるかどうか程度の少なさというのだ。


 

 「うちの学年だけで八人は確定でいますよ」なんてことを、忠告されたばかりのこの状況で言ったらどうなるのだろうと少し興味が沸く響だったがそんなことを言えばまあまず間違いなくアリアに笑顔でぶん殴られるだろう、変な冗談は言うもんじゃないよ?などと言われながら。

 


 とりあえずその場は「手の内がばれると困るので」ということにしてどうにかごまかしてやり過ごした。冒険者ギルドに戻ってくる頃にはレイもヴィラも体調が良くなっていたみたいで、折れた右腕も多少の違和感こそあれどすっかり良くなったみたいだ。任務完了の報告をするために受付に行き、スレイプニル種を討伐した証拠として麻袋に入れて持ち帰った子供スレイプニルの頭部をドンと受付のカウンターに置く。


 

 あまりにもきれいに持ち帰ってきてしまったものだからさっきまで生きていたかのようにその頭部はより一層の生々しさを増しておりこれには流石の受付嬢の人も少し引いていた様子だったがそこはプロ、引きつりながらも笑顔を作って持ち帰られた頭部が本物かどうかの鑑定をするために一旦奥へと下がる。麻袋には未だ鮮血が残っており血液独特の香りを漂わせていたため四人全員が受付嬢の心配をしていると案の定奥の方から何かを胃の中から戻している音が聞こえてきたため少なからず罪悪感を感じてしまう。



 「お、お待たせしました。こちらが今回の任務の報酬金です。それとこちらが持ち帰られた頭部のボーナスですね。

非常に保存状態がいい状態で持ち帰られたため追加報酬が出ました」



 かろうじて営業スマイルを保っている受付嬢さんから報酬金が入った布袋とボーナス報酬の入った布袋を手渡された。四人はそれをもって一度テーブルに座って袋のひもを緩めていくら入っているかを確認するとまず任務達成の報酬金額の入っている方には金貨が七枚と銀貨が五十枚、そしてボーナス報酬の入っている方には金貨が一枚と銀貨が二十枚入っており合計で金貨八枚と銀貨七十枚、日本円に換算すると十五万円も手に入った計算になりこれを四人で割っても一人当たり三万七千円以上を一回の任務で稼いだことになる。たった一回でこんなにも貰えるとは流石異世界、太っ腹であると響は目の前の金と銀のコインを見てそう思う。早速レイが貰った報酬金額を一人分に分けてそれぞれのところへと行き渡らせたのだがよくよく見ると少しだけ響とアリアの方がレイとヴィラの取り分よりも多かった。



 「おや? 僕たちの方がちょっとばかり多いみたいだけど」

 「今回俺らは子供の奴の方は何とか力になれたけど、親の方は全くと言っていいほど戦力にならなかったしな。ちょっとだけ弾んどいた」

 「でも悪いですよ、俺なんてまだシルバーになったばっかりですし、二人の方が先輩なのに」

 「気にしないで。今回私たちが最後へましてしまったのには変わりないわ。それにラストのあいつにとどめを刺したのは君よ、ヒビキ」

 「ですが……」

 「まあまあヒビキ君、先輩方もそういっていることだし素直に受け取っておこうじゃあないか。貰えるものは貰っといた方がいいよ」

 「そういうことだ、んじゃあ今日はこれで終了! お疲れ様」



 パンッと軽快な音を響かせてレイが今日の任務の終了を告げた。響とアリアが任務報告のために学校に行こうとして席を立つとレイに耳を貸せと言われたので響は言われた通りに耳をレイの方へと傾ける。



 「ヴィラが人を下の名前で呼ぶってことはな、実はこいつなりに実力を認めてる証拠なんだよ」

 「てことは……」

 「お前はもう十分に冒険者の仲間入りって訳だよ、もちろんアリアの方もな」



 それだけを伝えて再度「お疲れ!」と言って見送ってくれたレイとヴィラに軽く会釈してアリアと二人で学校に戻る。響たちが見えないところまで行ったところでヴィラがさっきの響とのやり取りについて疑惑の目で訴えかける。


 「あんたさっき変なこと吹きこんだんじゃないでしょうね?」

 「なんもしてねえよ、ちょっといいこと教えてやっただけだ」

 「……まあ、別にいいけど」

 「………なあヴィラ」

 「? 何よ畏まって」

 「いや、俺らも頑張んなくちゃいけねえなって思ってさ。あんな凄い後輩に出てこられちゃ先輩の面目が丸つぶれだ」

 「あんたは元々先輩の威厳がないのよ、小馬鹿にできそうだし」

 「ひっでえ言われようだな!?」



 ヴィラの毒舌にタジタジになってしまうレイ。それに続けて「でも……」と少しだけ微笑みながらヴィラはこう続ける。



 「でも……あんたのそういうとこ、嫌いじゃないわよ」

 「…………」

 「何照れてんのさ。気持ち悪いよ」

 「うるせえな! いいから俺らも帰るぞ!」



 ちょっとだけ早足でレイはその場をそそくさと立ち去り、ヴィラはその後をいつも通り追いかけていく。道中ヴィラの腕の心配をするレイにまたしても毒舌で返すヴィラだったがその時の表情は決して響とアリアの前では見せなかったであろう表情だった。

 この二人が後々、響がこれからもっと強くなるために大きな手助けをし、この王国きっての冒険者になることは、まだだれも予想できなかったのであった。



 一方響たちはと言うと、学校で任務報告を完了して生徒会室で二人雑談をしている最中に生徒会室のドアが勢いよく開けられ、やる気に満ち溢れた表情の梓とマリア率いる訓練組が雪崩のようにやって来て強制的に響は訓練場へと他の九人に連れ去られていった。アリアその様子をクスクスと笑いながら紅茶を啜り「行ってらっしゃい」と手を振り、自分以外居なくなった生徒会室で一人窓の外を見て黄昏ていた。その時のアリアの表情は心なしか悲しげにも見えていたのだが、その事実を知るものは当のアリア本人を含めて誰もいなかった。




△▼△▼△▼△











 その夜、誰も何処か分からない場所で一人の男が蝋燭に灯された火の明かりを見つめるかのように椅子に座って休息をとっていた。するとガチャリとその部屋の扉が開き、一人の女が部屋の中へと入っていく。男はその女の姿を確認していないにも関わらず平然と話し始めた。



 『アノ響トカ言ウ餓鬼ノ成長速度、イズレスレイプニル程度デハ時間稼ギニモナラナクナルゾ。ソレニアイツノ幼馴染トヤラノ二人モ徐々デハアルガ確実ニ力ヲツケテキテイル。コノ俺ガ殺サレル日モソウ遠クハナイダロウナ』



 その女はそれを聞いても何一つとして答えない。それどころかが部屋に入ったっきり動こうともせずずっと立っており、やっと言葉を漏らしたかと思えば「そうね」の一言だけですぐにその部屋を出ていってしまった。再び一人きりの空間となったその部屋で男は乾いた笑いを上げる。その声は何処か愉快そうでもあり、同時に決意を孕んでいるようにも聞こえた。



 『所詮オ前ニトッテハソレクライノ価値デシカナイト言ウノカ。アノ餓鬼共モ、コノ俺スラモ』



 再び乾いた笑い声を上げるその男の気持ちを投影したかのように、その日の月はいつもより一層爛々と輝きネメシスの夜を照らした。

作風も安定してきたかな?どうだろ

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