英雄のお話。
終わりは近い
「カレン先輩! 警備兵の配備終わったっす!」
「分かった、ありがとうなソフィー」
「いえいえ! なんてったって今日は特別な日ですからね! そりゃ張り切るっすよ!」
この日、人王大陸は数時間ほど前から急激に慌ただしくなった。
その理由は戦争が終結したから、しかもグリムが勇者たちの中でも司令塔となって率いていたからに起因する。
数時間後には人王大陸に戻ってくるという連絡が入ってからそりゃあもう急いでパレードの用意を兵たちはしなければならなくなった、幸いなことに戦争での犠牲者は前線部隊での犠牲で収まり後方部隊での被害はほとんどなかったため兵士の減少はほとんどなかった。
生き残れたと思ったのも束の間、帰還してくるグリムたちを出迎えるためのパレードの準備に追われ休む暇などなかったらしい。
だが体力の有り余っていたからなのか、住民にパレードが行われることを伝えたり街の整備などなど様々な準備が思いのほか早く終わって現在は到着を待つばかりとなっていた。
カレンとソフィーも一息ついており、軽食を取っていた。
「ついに帰ってくるっすね」
「無事だといいんだが……」
「大丈夫っすよーヒビキさんたちなら。事前の連絡でも欠員はいないって言ってたじゃないっすか」
「でももし事実と違ったらどうするんだ……あー、早く帰ってこないかな……」
「……その心配は、お義母さんとしてっすか? それとも単純に?」
「うーむ……どっちも、かな」
カレンは少し悩みながらもそう答えた。
しかしソフィーは質問を続けた。
「先輩ってなんでクラリアさんと結婚したんすか?」
「なんだ? 今日はやけに色々聞いてくるな」
「別にいいじゃないっすか、こういう時くらい」
「そうだなぁ……小さい頃からあの人に剣を習ってて、最初は憧れてたけどいつの間にかかっこよく見えて好きになって……それでヒビキ君を見た時にこう、とめどない母性が沸いたというかなんというか」
「……先輩って結構乙女っすよね」
「わ、悪いか!?」
「いーえ別にー!」
ソフィーはケラケラと笑いながらカレンをからかい、カレンはソフィーに押され気味でちょっと戸惑いながらも人の良いカレンはちゃんとソフィーの質問には答えていた。
そうこうしている内に伝令兵が二人のもとにやって来て、あと一時間ほどで響たちが到着するとのことらしい。
二人は立ち上がって伝令兵に「最終確認を急げ!」と伝えて自分たちも各場所を周って自分たちの目で確かめるべく行動した。
そして約束の一時間後が来た。
△▼△▼△▼△
「やっと帰れる……」
「長かったな。本当に」
「なんだかんだ、転生する前と同じくらいの年齢になっちまったな。俺ら中身もういいおっさんだぞ?」
「でも体の方に引っ張られてるのか昔とあんまり正確変わらないな」
「だな」
揺れる馬車の中で、響と影山の二人は疲労から来るダルさが若干残りながらも今を振り返ってしみじみと語り合っていた。
カタタンカタタンと小刻みな揺れと、前線から遠ざかったことで荒れ地ではない場所を窓から眺め、すぅすぅと寝息を立てる他の面々の安らかな雰囲気、そして今しがたしみじみとした話をしていたことからなんだか自分たちが急に老けたように感じた。
「これから……どうすっかな」
「俺たちがこの世界に来た意味自体は完結したしな。てか響、お前はまず結婚式上げなきゃだろうよ」
「それくらいは分かってるよ。梓とアリア先輩の二人分上げなきゃならないからな」
「……羨ましいなぁほんっと。俺も早いとこ彼女とか作らんとな」
「お前は心配する必要ないと思うけどな」
「だといいけどなー。セリアさんとかアタックしてみっかなー」
「ん? なに、タイプなの?」
「あれ言ってなかったっけ。結構好みだぜ」
「へぇ~」
「二人とも、そろそろ到着するから寝てるやつ起こしておいてくれ」
静かに談笑し合う二人にグリムはそう伝え、二人は傍らで眠る梓たちをゆさゆさとゆすって起こした。
寝ぼけ眼を擦る梓たち、そして次第にどこからか声が聞こえてきた。
それは響たちが帰るべき場所から聞こえ、そこに近づいていくにつれて声量は大きく、どんな言葉を投げかけられているのかを耳で聞くことが出来た。
それは歓声だった。
それは激励だった。
それは称える言葉だった。
それらは総じて、響たちの帰りを祝う言葉であり、感謝の言葉の数々であった。
言葉が多すぎて響たちの立った二つしかない耳では津波のように押し寄せて濁流のように翻弄する「声の塊」としか捉えられず、一つ一つをしっかり聞き取れないことに響たちはどこか歯がゆい思いをしていた。
まさかのサプライズに響たちは口を開けてごくごく純粋に驚いていた、そして段々と自然に口元が緩み嬉しさが込み上げてきていた。
呆気にとられる響たちの中でグリムとリナリアとアザミの三人は動じずに馬車から降り、それにつられて響たちも降りた。
響たちが姿を見せると歓声がより一層大きくなり、グリムたち三人を先頭にして人王大陸の中へと入っていった。
人王大陸に入る際、外と王国内を隔てる門の門番がグリムたちへ向けて敬礼をしていた。
「おかえりなさいませ。皆さま」
「ご苦労。私たちが通ったらあなた方も休むといい」
「お心遣い、痛み入ります」
軽い挨拶を交わし、いよいよ王国内に入ると沢山の兵士たちが綺麗に横一列異並んで敬礼をし、グリムたちの通るための道を確保していた。
紙吹雪が舞い、市民たちが黄色い声を浴びせていた。
「おかえりー!!!」
「勇者様ー!!!」
「ありがとおおお!!!!」
グリムたちは兵士たちが作ってくれた道を往き、こちらに手を振る市民たちに手を振り返したりしていた。
響たちもそれに倣って手を振り返すと歓声も増し、緊張していた響たちも次第にその緊張が解けていった。
大勢の市民たちに祝福されながら王都へと歩き、到着するとそこにはそこには国王ハーツ・プロトその人が立っていた。
「こ、国王!?」
「……勇者グリム・メイガスら。其方らが無事に帰ってきてくれたことを、心の底から喜ばしく思う」
「……光栄でございます」
「戦の終結には、其方が率いる少年少女らの活躍が大きく貢献したと聞きました……ありがとう。今日この日これから、諸君らはこの世界を救った救世主であり、英雄です」
「はっ!」
「愛する国民たちよ! 今一度、ここにいる新たな英雄たちへ大きな拍手を!!」
国王のその言葉の後、周りから割れんばかりの歓声と拍手が轟いた。
その熱量は戦場で雄叫びを上げる兵士たちの熱量をも上回る密度で、響たちはその声の密度で圧殺されそうだった。
「すごいな……」
「今夜、城で君たちの帰還を祝うパーティーを開く。ぜひ参加してくれ」
「是非に」
まだ日の明るいうちに人王大陸に戻ってきた響たち、ひとまず夕方くらいまでは一応休めそうだしグリムもパーティーに時間までは各々体を休めておいてくれと自由時間にはなったのだが―――――
「こりゃ、ゆっくり出来そうにもありませんねぇ……」
周りに一杯いる観衆たちを見て、響たちはため息を吐いた。
次回はお察しの通りパーティー回です、会話多めになるかと。