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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
最終章:旅の終わり
216/221

Over‐the‐Period.

決着

 『後ハ任セロ。モウ十分ダ』

 

 「イグニス……!」


 「そうだぞヒビキ。私たちは勇者なんだ、ようやく本業が出来るってもんさ!」



 もう一方の肩をグリムが叩いて爽やかに笑った。

 これ以上なく頼もしいグリムの笑顔を響たちは見たことがなかった。

 


 『――――――――大した威力だ』



 黙々と上がる土煙の中、カグラは肌を物理的に焦がし、衣装の一部を破り捨てた。

 その表情からは一切の迷いや苦悶などは感じられず、静かな威圧感を纏っていた。

 カグラは鋭い目つきでグリムたちを睨み、息を吐いた。



 『聖戦武器……存在自体は知っていたが実際にその威力を体で確かめるのは初めてだ……なるほど、これは堪えそうだ……』


 『流石ニ一撃デハ終ワランカ。ソウデナクテハナ』


 「ヒビキ」


 「は、はい」


 「万が一、私たちがやられた時は頼む」


 「……了解しました!」


 「いい返事だ。それでこそ、だな」



 後ろから残りの勇者陣が合流すると響たちは飛び退いて前線から下がり、後方でグリムたちの背中を眺めながら流れ弾が飛んでこないように防御魔法を展開して見守ることに徹した。



 カグラは回復魔法で傷をあっという間に回復させて、僅かな時間でも魔力の充填を行っていた。

 グリムたちは今一度聖戦武器を握り直して呼吸を整え、こちらから襲い掛かる準備もあちらから襲い掛いかって来られて迎え撃つ準備も、そして絶対に勝てるというイメージをしっかりと頭の中に思い浮かべた。



 心臓が我先に戦わんとドクンドクン飛び跳ね、全身の筋肉は先ほどから今か今かと自分たちを駆動させる時間を待っており、脳はすでに戦闘用のシステムへと切り替わっていた。








 「―――――――来い!!!」


 『っ!!!』



 グリムの雄叫びを合図にカグラは踏み込んだ。

 今までのとは違う、体勢を極限まで低くして地面を這うように走った。

 空気抵抗を減らしてさらなる加速を手に入れ、さらにその体勢や速度によってグリムたちの視界から煙のように消え去ることが可能となった。



 通常であれば反応すらできず、まるでカグラは瞬間移動して自分の元へとやって来たのだろうと錯覚するだろう。

 もしかしたら攻撃された後に初めてカグラが接近していたことに気付くことになるかもしれない。



 ただしそれは通常なら、という場合だ。



 体勢を極限まで低くしようが、「低い体勢をとった」という事実には変わりない。

 ならば地面スレスレの攻撃を放てばいいだけのこと、グリムは自分も体勢を低くして聖戦武器を横に薙いだ。

 青白い衝撃波が真っすぐに飛んでいき、カグラはこれを防御することなく上に飛んで躱した。

 


 先ほどカグラはグリムの剣戟によって障壁の上から右腕を切断されている、どのくらいまでの硬度なら聖戦武器の攻撃に耐えられるのか分からない今、下手に防御行動をとってそのまま斬られるよりは確実に回避できるタイミングで回避した方が生き残れる確率はずっと高いのだ。



 しかしそんなことはグリムたちとて読んでいる。

 最小限の高さしか上に飛ばなかったカグラだったが、空中に浮いたことに変わりはなく、その状態で攻撃を受ければ地面に足をつけて踏ん張ることも出来ずに吹き飛ばされる。

 そのチャンスを逃すまいとハイラインは転移魔法で短距離をワープし、力いっぱい聖戦武器を下から上へと斜めに振り抜いた。


 カグラの視界にハイラインが入ったのとほぼ同時にとてつもない衝撃がカグラの腹部を襲い、カグラは血を吐いて大きく体を曲げた。

 それと同時に、聖戦武器の速度が音の壁を超えたことを知らせる「パァン!」という音が鳴り、ソニックブームによってカグラは抵抗できぬままぶっ飛んだ。

 肋骨がミシミシと嫌な音を立てて歪むのを確かに感じながらまるでワープでのしたのかと思うくらいに一瞬で遠くまで飛ばされたカグラ、すぐさまイグニスがホーミング弾とレーザーをカグラへとうち、彼女は何をされて吹き飛ばされたのかを理解する間も回復する間も与えられずに回避運動を取る羽目になった。



 『なめるなぁ!!!!!』



 カグラは回避行動をとりながらもこの攻撃の出所を予測して魔法を放った。

 予想は的中したもののイグニスはすでに防御魔法を展開していたため大したダメージは与えられなかったものの、何とか攻撃を中断させることに成功し、カグラは今の内にと高レベルの回復魔法を重ね掛けできる限界まで重ね掛けして発動させた。



 「させるかよっ!」



 ネプチューンが飛び込んで一撃をお見舞いしようとしたがカグラは全体の八割ほどの回復を今の集中魔法で回復させており、カグラはネプチューンの一撃を横身でかわして槍の柄の部分を握った。

 至近距離で両者はにらみ合い、僅かなこう着状態の後に今度はカグラから仕掛けた。



 聖戦武器をぐいっと自分の方へと引っ張ってネプチューンを引き寄せそのタイミングに合わせて肘を入れようとしたがこれをネプチューンは足を上げて膝で受け止め、そこから素早く上へ蹴ってカグラの手を聖戦武器から離した。

 カグラは魔力でネプチューンと同じく槍を作成してクルクルと回して再びネプチューンと激突した。

 カグラの槍は神族の濃密な魔力で構成されているため殺傷能力や耐久力は規格外のものだったがカグラの槍さばき自体はさほど使ったことがないのかせいぜい「ある程度使ったことがある」くらいのレベルでしかなかった。



 当然そんなものでは日ごろから槍を使っているネプチューン相手に優位に立てるはずもなく、ネプチューン自体もカグラの槍さばき自体は脅威にならないことが分かると様子見から攻めに行動パターンを変えた。

 徐々に加速していき攻撃の手数も増えてネプチューンは集中状態へと入った、すると意識がカグラだけに向けられるため攻撃のリズムが恐ろしいほどに安定し恐ろしいほどに正確にかつ鋭くなるのだ。

 そんな状況では「槍対決」でカグラに勝ち目はほとんどなくなる、だが魔法や禁術で強引に距離を取ろうにも攻撃を防がなければならないためそれすら敵わない。

 それなら防御魔法や将兵を展開すればいいじゃないかと思うだろう、当然カグラも先ほどからそれを行っている、しかしネプチューンは防御魔法や障壁に阻まれると分かると一切の迷いなく聖戦武器本来の力でそれを貫いてしまうため役に立たないのだ。



 

 そしてついにカグラの手から槍が離れ無防備になったその瞬間、ネプチューンは足を一歩大きく引いて聖戦武器を構えなおした。

 先ほどとは違う鬼気迫る雰囲気にカグラは本能的に「まずい」と感じ取った。






 正真正銘全力の回避行動と防御魔法を展開するカグラ。

 だがネプチューンはそんなこと意に介さずに真っすぐカグラを見つめ、狙いを定め、引いた足で踏み込み握った聖戦武器で真っすぐに()()()



 そのまま手に持ったまま突いていればギリギリのところでカグラに回避されていただろう、だがあえて手放すことによってその飛距離は格段に向上し、結果としてカグラの脇腹を喰いちぎるように穿つことに成功した。



 文字通り渾身の一撃を放ったネプチューンは肩で息をしてその場に膝をついた。

 一方でカグラはというと、躱せると勝手に思い込んでいたためいざ攻撃を食らった時の反動が凄まじかった。

 


 『ぁ……く……ふぅっ……!』



 ボタボタと血が流れ出る脇腹に触れた手の平には血液がべっとりとついていた。

 カグラは呼吸を乱して冷や汗を流しながらも回復魔法を発動させて治療を試みた。

 だがすぐさま彼方から数本の白色の十字架がカグラへと突き刺さり魔法の発動が強制的にキャンセルされた。



 「概ね、武器の扱い自体は手慣れていないのだろ? なら武器の扱いに慣れているこちらにアドバンテージがある。回復さえさせなければいい……」



 スラインが聖戦武器の力で超強化された魔法を封じる魔法「聖釘(セレナ)」でカグラの魔法の発動を禁じ、このタイミングを逃すまいとグリムとゼノの二人が突撃した。

 カグラは歯軋りしながら雄叫びを上げて迫りくる二人を素手で迎え撃つことを決めた。



 二人のコンビネーション攻撃を神族の持つ身体能力などをフル活用させて凌ぐカグラ。

 もはやカグラはただただ己が「生」のためにこの戦いを乗り越えようとしていた。

 カグラがアザミを討った理由、それは自分が使えるに値しない存在であると思ったが故の行動だった。



 このようなやつに仕えるのであればこいつの生命力を奪い取った方が良い、()()()()ここいらの有象無象を殺しきってやろう、そう思っていた。

 だがそれが今やどうだろう、ついでで殺そうと思っていた有象無象に逆に自分が殺されかけているではないか。



 

 おまけに魔法すら封じられて傷を癒すことすらできない、こんなみじめなことになるなど一体誰が予想できたのだろうか!?

 カグラは神族のプライドを保つため―――――――いや、自分が有象無象と括って侮った者たちに負けてたまるかという意地でグリムとゼノの二人と戦っていた。





 「グリム! 合わせろ!」


 「分かった!」





 ゼノは聖戦武器をナックルダスタ―のように装備してカグラに連続攻撃を仕掛けた、その一発一発はまるで竜の雄叫びのようだったという。

 ゼノは女神の力を全開放してギアを最大限まで上げて力いっぱいカグラを確実に仕留める一撃を放った。




 『(これが……人の強さか……)』



 一撃が当たる刹那、カグラの脳裏にそんな思いがよぎった。

 これが馬鹿にしていた者たちの強さ、自分にはない強さ、そのことを確かにカグラは実感していた。





 ―――――――だからと言って






 負けるわけにはいかないのだっっっ……………!!!!!








 カグラはゼノの攻撃が直撃する直前、全身の力を抜いた。

 流動体に近いくらいまで脱力したカグラはゼノの攻撃を真正面から受けたにもかかわらずほぼノーダメージで受け流したのだ。



 神族であるカグラが初めて抱いた「意地」という感情、その感情がカグラに新たなる戦法を芽吹かせたのだ。

 だが、半ば反射的に近い感覚で放った技であったためもう一度行うことは不可能だった。



 事実、ゼノの攻撃をかわした後のグリムの攻撃をもう一度カグラは同じように受け流そうとしたが上手く感覚がつかめずに先ほどとは違って不完全な状態で行ってしまった。

 




 それが致命的だった。

 グリムは次の攻撃のタイミングに命を賭ける想いでカグラの移動する先を予測、そして体を捻って力強く踏み込み、迷いごとカグラを横一線に斬った。









 静寂が訪れた。

 呼吸音さえ聞こえない。

 そしてそんな静寂を切り裂いたのはカグラの一言だった。








 『――――――見事だ』








 直後、グリムが斬った箇所から大量の血液が噴出し、カグラは倒れた。

 グリムは過呼吸気味に息を吸い、出血多量で地に伏すカグラを見て一言、こう言った。





 「終わった………」





 グリムの緊張の糸がぷつりと途切れ、グリムもカグラと同じようにその場に倒れた。

 ようやく、戦争が終わった。

終わりが近づいて参りました。

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