推参のお話。
もう少し終わるまで耐えてくれ
「あーくそっ!! 何回倒せばいいんだ……」
アキレアは、未だ屈しないカグラに対し苛立ちを隠せなかった。
「それに私たちから生命力を吸い取ってるから迂闊に攻め込んだらむしろこっちが不利なる……厄介って言葉を絵に描いたような奴ね」
「このままでは……魔力が」
『情ケナイ女神ドモダ。ナラ下ガッテ休息ニデモ励ムガイイ』
「馬鹿なことを抜かす出ないぞ。お主こそ休んでおれ、妾が茶を淹れてやる」
まだ戦えそうな台詞を言う椿とイグニスだったがその実、二人ももうだいぶ疲弊していた。
そして椿たちを嗤うかのように数十メートル離れた位置からカグラは見ていた。
見ていた、というよりは、見下していたという表現の方が近いのかもしれない。
『流石の女神や魔王や同じ神族でも、生命力を奪われて相手のものにされて、一瞬の隙で弱体化させられているとなると、満身創痍にもなるか』
カグラはつまらなさそうに足元の小石を蹴り飛ばした。この行為自体に意味などは無い、だが小石を蹴ることしかやることがないほどカグラはもう退屈していたのだ。
もういいか、とカグラは思った。これ以上相手するのも面倒だしさっさと殺してしまおうと、そう思った。
魔方陣を六つ、偶然か必然か椿たちの人数と同じ数の魔方陣を真っすぐに一直線に等間隔で連ならせ、両手に魔力を充填させて火花のように迸らせた。
胸を大きく張るように反り、両手首をくっつけるようにして両手で魔方陣を叩きつけるようにチャージした魔力をぶつけ、送った。
けたたましい轟音を鳴らして魔方陣から放たれた赤色のレーザーはその衝撃波で地面を貪るように抉りながら椿たちへと伸びていった。
確実に冥級・禁術レベルの最上位クラスの攻撃魔法。はっきり言って、もう椿たちにこの威力の魔法を凌げるほどの魔力は無い。
仮に防御魔法を発動させることが出来たとしても数秒持たせるのがやっと、すぐに自分たち諸共防御魔法を吹き飛ばすことだろう。
椿たちは覚悟を決めた。
自分たちはここで散るだろうと瞳を閉じて死を受け入れる準備をし、響たちのことを想った。
「情けないぞ!! それでも女神かあなたたちは!」
椿たちは突如として聞こえたその声に耳を疑い、その拍子に目を開けた。
目の前には武骨な刀一振りだけでカグラのレーザーを真っ二つに切り裂いているゼノの姿があった。
「ゼノ……お前………どうして!?」
「話は後だアキレア! ひとまずあいつを倒す!」
「だがお前一人では!」
「心配ない、私だけではない」
カグラの方からはレーザーの所為でゼノが来たことが分かっていない、だから手ごたえがないことに違和感を覚えていたがその正体が分からなかった。
刹那、カグラは何かを察知してレーザーの照射を止めて回避運動をとった。
その直後、上空から無数の銃弾や魔法が降り注ぎカグラがいた場所は大きなクレーターとなった。
レーザーが打ち止めになったことで椿やゼノたちが今すぐ死ぬことはなくなり、ゼノは全レーザーを刀一本で防ぎきると息を吐き切って疲れた様子を見せた。
「少し……きつかったな」
「ゼノ……」
「心配するな。すでにアザミは討たれた、あいつの手によってな。だからもう正体を隠す必要もない」
「……そっか」
ゼノが正体を隠していた理由、それはアザミを倒すためだった。
以前よりアザミは何かを企んでいる節があった、もしそうなってアキレアたちが戦えなくなっても大丈夫なようにゼノはこっそりと行方をくらませてアザミを影から討てるようにしていた。
この事はアキレアとゼノしか知らない。勿論アザミが変な気を起こさずにしているようであればそれはそれで構わないということだったのだが、二人の予感は的中し、こんなことになってしまった。
しかしカグラによってアザミが瀕死の状態に追い込まれた今、もうわざわざゼノが正体を隠す必要もなくなった、というわけだ。
「とりあえず助っ人を連れてきた。確実に殺して見せるから、アキレアたちはそこで休んでて」
「……わりぃ。回復したらあたしらもすぐに戻る」
「分かった」
ゼノとアキレアがそんなことを話している途中にも空からカグラ目がけて銃弾と魔法は降り注いでいた。
カグラは防御魔法で防いでいたが物量の前に痺れを切らしたのか一つ大きな咆哮を上げた、その衝撃波によって銃弾や魔法は弾き返され、空から響たちが降りてきた。
『あぁ……やっぱり死んでなかったか。まぁいい、お前たちの生命力も奪わせてもらうだけだ』
「そいつはどうかな」
瞬間、遠く彼方の方角から地面を抉りとるように這いながら一筋の斬撃が飛んできた。
しかもその速度は目視出来ても体の反応が間に合わないレベル、カグラはその斬撃を目で捕らえることは出来たものの、事実防御魔法などを展開することはなかった。
そしてその斬撃はカグラの周りの障壁ごとカグラの右腕を斬った。
痛みは無かった、認識が遅れ、腕を見ていなければカグラは自身の腕が斬られたことに数秒は気付かなかっただろう。
それほどまでに鮮やかで正確な斬撃を飛ばしたのは一体誰なのか、梓やアリア、ゼノなどでは断じてない。
だがそれ以外で剣の立つ者がいることをお忘れではないだろうか。
聖剣を携え、聖戦武器の一振りすら所持している者がいるはずだ。
「凄まじい威力だな………これであれば十分に殺せる」
「一人で殺すなよ姉御、俺らにも試させろ」
「全くです。私も興が乗りそうだというのに」
「ま、それはそれでいいんじゃねぇの?」
『………っ!!! 貴様らぁ……!!!』
完全状態の勇者たちが、聖戦武器を引っ提げ、満を持して登場した。
次々回くらいで決着させたい