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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
最終章:旅の終わり
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資格のお話。

元号が変わるまでには終わりたいな

 ゼノがトチ狂ったのだとグリムたちは思った、けれどゼノの顔を見るに冗談を言っている風には見えなかった。

 よくよく聞き返してみればゼノの声は元々あまり抑揚がなく大きな声で喋るというわけでもない、今のゼノのように低い女性の声と言われれば違和感はあまり無いのだ。



 仮に、ゼノが本当は女性だったとしよう。男装の麗人という可能性だってなくはない。

 だがそれを乗り越えたところでまた一つゼノの正体が「女神」だったという事象は避けては通れず、どちらかと言えばそちらの方の衝撃の方がずっと強かった。



 どうしてこう、重要なことを先に伝えておいてくれないのだろうかと嘆きそうになるものの何か事情があるのだろうとぐっと飲み込んで堪えた。

 そんな響たちの切実な思いが通じたのかそれともただの偶然なのか「伝えるのが遅くなってごめん」とのこと。



 「あー……なんだ、色々言いたいことはあるがひとまず置いておこう」


 「……ありがとう、グリム」


 「で、今正体を明かしたってことはそれなりの意味があるんだろ? 私たちが驚いていたからって言うのもあると思うけど」


 「確かにグリムたちが驚いたからって言うのもあるけど、ちゃんと打開策を思いついたから正体を明かしたの。少し、成功率は低い気がするけど」


 「この際何でもいい。教えてくれ」



 この状況での打開策、可能性が低くても切り抜けられるのならばそれだけで価値のある情報だ。

 して、その打開策とはいかほどのものか。

 ゼノは勿体ぶる様子もなく自らの考えを打ち明けた。



 「聖戦武器、それを使う」


 「だがこれはまだ完全に発動できるような状態ではない」


 「知っている。それは持ち主の資格が必要量に備わっていないからだ」


 「資格……? 一体なんだ、それは」


 「聖戦武器を使用する資格であり条件、それは持ち主の『生への渇望』と『強靭な精神』、この二つが必須条件となってくる」



 生への渇望と強靭な精神。

 確か聖戦武器は太古の争いを終わらせるために出来たロストテクノロジーのオーパーツ、生きるために造られた武器ならば生を渇望する者たちによって扱われたはずであり、争いの終結を持ち手に担わせるのであれば持ち主には鋼のような強い精神力が必要になる。



 ゼノのの言っていることや何故その条件なのかは納得できる。

 しかしなぜそれをゼノが知っているのか、そしてなぜ今まで黙っていたのか。

 グリムはその点について問いただした。



 するとゼノは、



 「私が聖戦武器を作り上げた者たちに知恵を貸したからだ。当時の者たちが聖戦武器を使う様子も実査に見たことがある」



 と言い出した。

 つまりゼノは聖戦武器の誕生の瞬間を見届けた数少ない人物、ということになる。

 本来であればそのことに関しても色々と掘り下げて聞かなければならないのだが今回ばかりはそんな時間の余裕はない、グリムたちは残されたもう一つの疑問についての答えを要求した。



 なぜ今の今までそのことを黙っていたのか。

 それに付いて彼女はこう答えた。



 まず単純に聖戦武器本来の性能を発揮するほどの戦いにまで至っていなかったから。

 次に本来の性能を発揮すればアザミやカグラたちが真っ先に奪いに来て使える使えない以前にその力を封じようとするだろうと予想していたため。

 そしてカグラが生命力を奪うという禁術を使えるということは聖戦武器のキーになる『生への渇望』という条件をクリアするような生命力を与える禁術も会得している可能性があり、逆に聖戦武器を使われかねないから。カグラほどの実力者であれば強靭な精神力の面も十二分にクリアされ完全な状態で向こうに渡ってしまうことをゼノは恐れていたのだ。




 大きく分けて以上三つの観点から今の今までゼノは聖戦武器の使用方法について口を閉ざしていた、正確には途中からは言うことが出来なくなっていたのだが。




 「なるほど……だがせめて使用条件くらいは教えてくれていたも良かったんじゃないか?」


 「それは……ごめん。正直言うとそこは単純に言い忘れていた、使う機会がまだ無かったから後でもいいかなって」


 「……まぁ、結果的に今分かったからいいが。で、話は戻るがなんで今の今まで正体を隠していたんだ。女神だから驚くとでも思っていたのか? すでにいるのに?」


 「別に隠していたわけじゃない。ただ言う機会がなかっただけ」


 「じゃあなんで男の振りなんてしてたんだ」


 「あ、あれは、そっちの方が楽だったから……自然とそうなっただけ」


 「なんじゃそりゃ……まいいか、んじゃさっさと行くか」



 グリムは苦笑しながらそこらで伸びているハイラインとスラインとネプチューンを叩き起こした。

 意識が戻ったばかりの彼らにグリムは聖戦武器の使用方法を少し早口で喋って教えた、ついでにゼノが女神で女性であるということも。



 彼らはグリムの言葉と女性的な笑みを浮かべるゼノの姿の二つで再び意識を失いそうになるものの何とか堪えて立ち上がり、聖戦武器を携えた。



 「時間が惜しい、行こう」


 「でもよ姉御、聖戦武器の使い方は分かったが『分かる』のと『使える』のは別物だぜ?」


 「何言ってるんだハイライン。私たちは強靭な精神をすでに持っているだろ。一つの種族を代表しているいわば象徴だぞ私たちは」


 「そっちじゃねぇ生命力の方だ。渇望つったってどれほど望めばいいのか分からねぇだろ」


 「それこそ何を言っているんだ」




 グリムはハイラインの方を振り返って躊躇いなく言った。




 「私たちは常に明日を生きようと必死に生を望んでいるじゃないか」


 「……姉御らしいや」



 グリムは「当たり前だ」と言って遠くカグラと椿たちが戦っている方へと体勢を変えた。



 「ゼノ、アザミの様子はどうだ? 起きてもこれ以上戦えそうか?」


 「多分無理。戦えてもすぐ負ける」


 「なら、これが正真正銘最後の戦いだな……」



 グリムは腰に携えた聖戦武器の柄をなぞり、息を吸いこんで吐き出した。



 「全軍前へ!!!! 目標はただ一人、カグラの打倒!!!!! 続けっ!!!!!!!!」



 駆け出したグリムの背を追って響たちは走り出した。

 響たちの長い旅路も、もうすぐ幕を下ろすだろう。

前書きと後書き皆勤賞を密かに狙う

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