連撃のお話。
キングダムハーツやってました
グリムたちがカグラの相手をしている最中、空中にて。
弾丸の飛ぶ音、鋭い刀が空を斬る音、移動速度が音の壁を破ったことを知らせる音などなど。
それらは全て眼前に立ちふさがる敵を排除するために発せられた殺意のこもった音、いわば鬨の声。
そんな音の数々をアザミはいともたやすく避け、防御していた。
「そりゃ、現代兵器で殺せるわけないか」
響は己が複製した銃火器の全てが決定打にならないことを悟るとそれらで致命傷を狙うプランを棄てて魔法勝負に持ち掛けた。
後方からは絵美里が百発百中で狙ったところに当たるというとんでも性能を付与した魔法が絶えずアザミに向かって飛んでいっているためダメージにはならなくとも多少の目くらましにはなっている。
現在響たちは前衛が梓・影山・賢介の三人、中距離から響と凪沙、後衛として絵美里と琴葉と智香がフォーメーションを組んで攻めていた。
一方アザミは当然一人なため攻撃・防御・回復の全てを一人で行わなければならない、そのため本来であればそういった戦い方をする者はどこかしらで隙が生まれるはずなのだが女神であるアザミは呼吸をするかのようにそれら戦闘に必要なすべての役職を一人でこなして見せ、隙を見せるどころか完璧と言っていいほどの近接防御を見せていた。
「ほらほら、どうしました?」
「ちっ……やっぱ強いな………どうするよ」
「このまま攻め続けるって言いたいけど、それも……ね。どうする響!」
この時点で二つ、響にはある考えがあった。
一つは自分が禁術メインの戦法でアザミと一対一の状況を作りだしそこを横から梓たちがつついて、じわじわとダメージを稼ぎながら響の魔力が続く限り禁術での大ダメージを狙うというもの。
そしてもう一つの作戦――――――なのだが、これが現実的ではない。
正直この作戦を実行したところでアザミが倒れるという保証があるわけでもない上にこちらのメンバーが欠けるという危機に陥る可能性が高くなる、それにそもそも上手く事が運ぶ可能性が少ないというハイリスクハイリターンなほぼ賭けの作戦なのだ。
いざとなれば第二案を実行することになるのだろうが、それまでは第一案で粘る方がずっと得策だろうと響は深く息を吸いこみ体中の魔力を一気に活性化させた。
「俺が禁術を使いながら攻める!! 梓たちは横からじわじわ稼いでいってくれ!!」
響は第二案のことを誰にも伝えず、第一案だけを伝えてアザミに突撃した。
梓たちは響の頭の中を覗けるわけではないため第二案があることなどは露知らず、響の言った通りの行動を実行した。
アザミも響が禁術の類を使い始めたことを察知しこれまで以上に魔力を増大させて本気モードへと入った。
だが響とて最初っから最後まで禁術ばかり使うわけにもいかない、それだと魔力の消耗が激し過ぎてすぐにタイムアウトしてしまう。
なので響は緋級や壊級クラスの魔法を織り交ぜながら、自らがダメージ源になるというよりも梓たちの方に意識が行っている瞬間を逃さずに確実に特大ダメージを与えるという方針に切り替えていた。
そして響の方ばかり警戒していると今度は梓たちが横からつつき、それに気を取られると今度は響がダメージをといった風に循環させるような感じでダメージを稼ごうと響は考えていた。
そして決戦の直前に主要メンバー全員は椿とのお茶会に参加しているため禁術を扱える「きっかけ」を手に入れているため響だけでなく梓たちも禁術を使える可能性がある、しかしそれは本人らの力量次第なので扱えるかどうかは一概には言えないが魔力コントロールや魔力量に関しては間違いなく上昇していると言っていい。
リミッターを外した響の連撃にアザミはやや防戦気味に立ち回っており、その隙をまず最初に影山が狙った。
軽々と音速を超えて迫りくる影山を視界に捉えたアザミは片手で魔法を放ち迎撃しようとしたが、影山はアザミの放った魔法を「見てから避け、ちょうど響とアザミを挟み撃ちするような形でアザミの背後に回り腰辺りに強烈な一撃を浴びせた。
「ぁ…………!!!」
「響っ! やれ!」
影山が作ってくれた攻撃のチャンスを逃さんとばかりに、響は両方の手の平に黒と紫が合わさった禍々しい色をした魔力の球体を作り上げ、それを掌底するようにアザミに叩きつけ、球体はアザミの体の中に吸い込まれるように入っていった。
「聖也、離れろ!」
「おう!」
響と影山が飛び退いた直後に黒紫の棘がアザミの体を内側から食い破るように何本も飛び出し、血飛沫を上げながらアザミは声にならない悲鳴を轟かせ、棘が消えるのと同時にその場に膝をついた。
そこを二人が中距離から魔法で狙い撃つもアザミは瞬時に回復魔法で応急手当てを行い、間一髪で魔法の直撃を免れた。
しかしそれだけでは響たちのターンは終わらない、今度は背後から気配もなく忍び寄って居合の構えを取っていた梓が攻撃を仕掛けた。
梓が刀を抜いた直前にアザミは梓の存在に気付き、完璧に防御することは難しいと判断して地面の一部を隆起させて無理やり体を方向転換させて尚且つ空間魔法で自分と梓との間に空間のゆがみを起こして斬撃の軌道をずらそうとした。
だがこれまで以上に集中していた梓が眼前の、しかも間合いど真ん中の敵を空間が歪んでいるくらいで捉えられないわけがなかった。
梓の刀は抜刀からコンマの時間でアザミの顔へと刀身を煌めかせながら迫り、空間の歪曲によって誤差を生み出されたもののアザミの左目を切りつけることに成功した。
アザミが梓の存在に気付いてからこの攻撃を受けるまでにかかった時間は一秒にも満たない、そんな文字通り一瞬の中で見事梓はアザミに一太刀浴びせることに成功した。
そして再び響の追撃が入り、今度は賢介と凪沙が攻撃に移り凪沙がアザミの弱っている箇所を特定して賢介がアザミの行動を先読みしながら的確に凪沙が特定した弱点を集中攻撃、さらに凪沙は響にもそれを伝え追撃時のダメージアップに貢献した。
絵美里と智香の二人は残念ながら直接的なダメージを与えることは出来なかったが、しっかりと次の攻撃のタイミングの時を見据えた行動をとっていた。
そんな中、琴葉が単独でアザミに向かって行った。
正直なことを言えば琴葉の戦闘能力事態は特筆して高いわけではない、純粋な闘争であればソルやアリアなどの面子の方がよほど強いだろう。
もちろんアザミだってそのことは承知していた、だからこそ傷だらけの体を琴葉の方へと動かして確実に殺すつもりで魔法を放った。
そんなこと、琴葉は想定済みだというのに。
魔法を放った後、アザミは琴葉の能力のことを思い出し自分の放った魔法がカウンターとして使われるには十二分な威力を誇っていることにも気が付いた。
琴葉はアザミの魔法を正面から全身で受け止め、歯を食いしばりながら耐えた。
その周りには智香の精霊が琴葉を包み込むように群がり、琴葉とアザミの魔法の間にある防御魔法は絵美里が「痛覚だけを通過させる」という性質を付与させて琴葉に纏わせた専用モデル。
それによって体へのダメージを考えうる限り最小限にとどめ、尚且つ最大限にカウンターの威力を増大させることに成功した。
そして琴葉は適合能力を持って自分受けた痛みを全てアザミへと返し、アザミは全身を貫くような激痛に襲われて悲痛な声を上げた。
順調、あまりにも順調で一方的な響たちのターン。
しかしその実、誰もこの状況にどこか違和感を覚えていた。
―――――順調すぎる、と。
アキレアやイグニスなど錚々たる面々と戦ったことのある響たちにはこれがアザミの本気とはとてもではないが思えなかった。
何かの制約をかけられて動きを制限されているような感じがしてならなかった。アザミの動きも何処か重く感じられた。
何かがおかしい、漠然とそう思いながらもこのチャンスを逃してはならないと響たちはアザミに致命傷を負わせるべく再び突撃し―――――――
アザミの胸に、大きな穴が開いた。
やったか!?