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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
最終章:旅の終わり
210/221

灯のお話。

かなり空いてしまった……

 「ゼノ、私と切り込むぞ。ハイラインとスライン、それからネプチューンは援護及び指揮をとれ」


 

 グリムは素早く指示してゼノと共にカグラに突撃し、残った三人はフランやアリアたちを率いてグリムとゼノの後を追った。



 一度前線をアリアたちに任せてハイラインたちは先ほどのカグラの攻撃で生き残った兵たちを立ち上がらせて前線から避難させ始めた。

 カグラは向かってくるグリムたちと救助活動をするハイラインたちを冷ややかな目で傍観しながら障壁をチャージし始めた。



 早い、グリムは直感的にそう思った。

 かつてカグラと戦った時、響が手榴弾で障壁を破壊した際に障壁が修復するところをグリムも目撃しているためどうしてもその時の記憶がフラッシュバックしてしまう。



 その記憶と比較しても明らかに今回の障壁のリチャージは早い、あの時の比じゃない。

 ということはつまりあの広範囲攻撃が短いスパンで訪れるということを意味し、なおかつ障壁が復活するスピードそのものが早いため直接的なダメージを与えられる感覚が短いということ。



 長期戦になればなるほどこちらが不利、決めるなら短期決戦で決めなければ後はジリ貧で負ける。

 グリムはそのように分析し、周りにそう伝えるとアリアたちはギアを上げ始めた。



 「そういうことなら最初っからトップギアでいこうか!」


 「アリア、畳みかけるよ!」



 先行したのはアリアとフランの天才コンビ、二人は妖王大陸でイブリシアを相手取った時のことを思い出していた。

 二人はあの時のように障壁を氷漬けにして脆くしてから破壊する作戦をアイコンタクトで伝え合い、フランがカグラの気を引きそれが合図となってグリムたちも攻め込んだ。



 その隙をアリアが魔法で氷結させ、障壁はボロボロと崩れた。

 崩れ去る障壁を見てもカグラの表情は一つとして変わらない、そんなカグラへとグリムたちがここぞとばかりに攻め込んだ。

 グリムはアロンダイトと聖戦武器を構えて二刀流、アリアとフランは魔法を、それに交わって他の何人かも攻撃を仕掛けた。






 だが、その一切がカグラの体に触れることはなかった。

 グリムたちの体、魔法、その他一切がある一定距離に到達した瞬間に時が止まったかのようにその動きを停止した。

 否、停止()()()()()と言った方が正しいか。





 「これは………まさか…………!」


 『ふむ。ヒビキとやらの真似事をしてみたが簡単だな、しかも汎用性が高い。良い魔法を考えたものだ』


 「やはりこれは、ヒビキ君の……でもどうして!?」


 『どうして、か? なに、障壁をあの爆発物で割られた際に爆発物が宙に浮いていたものでな。空間魔法の類で操っているのは見て分かったからな。同じことをしてみたまでだ』



 



 軽く説明をしてみたカグラだったがグリムたちには衝撃的な説明だった。

 あの魔法は割と精密な魔力操作が求められるため習得するのは難しい部類なのだ、習得したとしてもその規模や持続時間を伸ばすとなればさらに難しくなる。



 習得難易度としては緋級魔法程度なのだろうが、規模や持続時間や物体を拘束できる強さが使用者によって異なるため実質的な強さは壊級にまで跳ね上がる。



 そして、今カグラが使用したその効果は間違いなく壊級クラスの魔法。

 下手をすればオリジナルである響が使用した場合よりもその範囲や拘束力の強さは上だろう。

 これが神族、神の名を持つ種族の本気ということだ。



 『このまま圧殺してもいいが……先に、上の奴らを片づける方がいいだろう』


 「くそっ………動け!!」


 『無駄だ。人の力程度ではどうしようも出来ん』


 「ほほほ、では同じ神なら――――」


 「どうだろうなぁ!!?」



 グリムたちが動きを止められている中、椿とアキレアの二柱がカグラの元へと一気に駆けて飛び蹴りを食らわせた。

 間一髪防御魔法を展開することが出来たカグラだったがそれでも十数メートルは後退させられた、カグラが攻撃を受けた時に魔力操作が乱れたのか空間魔法が解けてグリムたちの体が動くようになった。



 「はっはー、まさかヒビキのやつやってくるとはな」


 「想定外じゃな。だが意外ではない、そして―――――」




 椿とアキレアは揃ってある方向を指差した、それはカグラの斜め後方、そこには大きくニタリを口を開いて拳に魔力を収束させて振りかぶっているイグニスの姿があった。



 『っ!』



 気配が分からなかったのかカグラは反応が一瞬遅れた。

 それもそのはず、イグニスはミスズと同じように姿を消すことが出来る。

 故に気配も消えて完璧な不意打ちを仕掛けることが可能なのだ。



 しかし流石は神族、カグラはそれにすら即座に対応し防御魔法を展開した。

 一方でイグニスは体重が上手く乗った状態の拳を何故か防御魔法に直接当てず、少しの感覚を開けてピタリと止めた。



 次の瞬間とてつもない爆発音と共にイグニスの拳に収束していた魔力が一気に炸裂し、さながらそれは高密度の魔力のショットガンとなってカグラを襲った。



 いくらカグラの防御魔法のレベルが高かろうが、いくら耐久性に優れていようが、いくら拳が直撃していなかろうがゼロ距離での超高濃度高密度の魔力の炸裂にはとてもではないが耐えられるわけがない。

 そしてそんな攻撃カグラは想像していなかっただろう、普通拳を振りかぶっているのならそのまま殴ってくると否が応でも思ってしまうもの。

 仮にこの攻撃が少なからず予測できていたのであればバックステップを取るなり何重にも防御魔法を展開するなり出来たはず、しかし今回はそんな行動は一切見られなかった、つまり予測できなかったということ。




 カグラはたった一枚しか展開していなかった防御魔法を一瞬で破られ、衝撃波や魔力の直撃を食らい吹き飛んだ。

 派手に地面を転がりながら何とか無理やりに膝をつきながら体勢を立て直した、体は胸部から顔にかけて左半身が焦げ、口からは大量の血液を吐いていた。



 『手ゴタエアリダナ』


 「だが、痛み分けだな。イグニス」


 

 アキレアがイグニスに「痛み分け」といった理由、それはイグニスが先ほど攻撃に使用した拳が無くなっており、千切れたかのようになっている断面からは血がボタボタと流れていた。

 先ほどの超高密度の魔力を一点に集めて炸裂させる大技、その威力は絶大なものだったがその反動としてイグニスの拳が負荷に耐え切れず炸裂と共に吹き飛んでしまっていたのだ。



 『コノ程度、直ニ治ル。ソンナコトヨリ今ハサッサト奴ヲ仕留メルコトガ優先ダ』


 「そうだな。じゃあちゃちゃっとやってしまうか!!」



 アキレアとイグニスが先行してそれに続いてリナリアと椿が突撃、フリージアとカンナが後方から支援というオーバーキルな面子がカグラを葬りに向かった。

 カグラは傷だらけの体を無理やりに動かし、迫りくる女神や魔王らの一撃一撃が全て致命傷に至るほどの攻撃を凌いでいた。

 一回一回が死に直結する攻撃を避けていく中、障壁のリチャージが終わりカグラは障壁を収縮・爆破させて強引に距離を取った。



 だが苦し紛れで取った行動だったためイグニスたちに対したダメージを与えられるまでには至らなかったがカグラもそれは想定済み、本人もそのつもりで放ったわけではない。



 息つく間もなく再びイグニスたちの攻撃が迫りくる。

 カグラは防御魔法を幾重にも展開させ、それによりイグニスたちの攻撃が阻まれた。

 だがそれも時間の問題だろう、すでに何枚か破壊されており長くは持たない。




 しかし今のカグラにはそれで十分だった――――――





 突然、カグラは自分の手で自分の心臓を貫いた。

 目の前で起こったあり得ない現象にイグニスたちは得体の知れない不気味さを感じたもののチャンスだと思いさらに防御魔法を破壊する速度を上げていった。



 カグラの胸からは大量の血液が流れ、それが地面へとしみ込んで赤黒く変色した。

 そのままカグラはうなだれたまま動かなくなりついに最後の防御魔法が破壊され、周りをイグニスたちが囲んだ。



 「まさか、自決か? いや、そんなわけがない」


 「馬鹿なことを言うなよリナリア。さっさとやっちまおう」


 「………」


 「どうかしたか椿」


 「いや……心臓を貫くという行為、何か引っかかってのぅ。思い出せそうなんじゃが……」


 『フン、気ニシテモシカタアルマイ。コイツハココデ死ヌ、ソレカラユックリ思イ出セバイイ』


 「それも……そうじゃな……」



 イグニスは魔方陣を展開して手を突っ込みそこから魔力の槍を抜きだし、クルクルと回しながら矛先をカグラの頭部へ向けて刺し―――――――――――





 







 



 「待て! ダメじゃ!!!」



 椿が叫んだその瞬間ビタッとイグニスの手が止まった、槍はカグラの頭部すれすれで静止しておりイグニスは不満そうに椿の方を向いた。

 アキレアたちも怪訝そうに椿を見た、そして椿本人は何故か防御魔法を前面に張っていた。



 「全員ここから離れろ!! 今すぐに!!」


 「何言って――――――」



 椿はそう言って一人先に前線から離脱、アキレアが戸惑いながらそう言ったのとほぼ同時に「かっ……」という呻き声が聞こえ、その方向を見るとリナリアの腹部に赤黒い触手らしきものが突き刺さっていた。




 その触手はアキレアとイグニスにも突き刺さり、椿は下唇を噛みしめながら「遅かったか」と呟いた。






 『ふふっ…………はははっ…………くっ……はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!』





 その瞬間、先ほどまで全く動かなかったカグラがうなだれたままではあるが高笑いし始めた。

 そして立ち上がったカグラの体には一切の傷がなく、まるでリセットされたかのような状態だった。




 一方でアキレア・イグニス・リナリアの三人は膝から崩れ落ち、苦悶の表情を浮かべている。

 触手を引き抜こうとしているのだがどうやら上手く体に力が入ら無いようで一向に引き抜けない。

 見かねた椿が四人の方へと戻り三人の触手を切断した、そして自分に迫りくる触手を退けて三人を後方へと短距離転移させた。



 『流石、同じ神族だ。お前の分は吸えなかったか』


 「長生きはしてみるものじゃな……おかげで思い出せた」



 言い終わるのと同時に椿はカグラの懐へと潜り込んで掌底を一発打ち込んだが怯ませることすら叶わず、むしろ同じ攻撃を返されるという事態になった。

 カグラが自分で貫いたはずの心臓部は球状の黒い炎が燃え、心なしか体全体がよりスリムになり白銀のドレスのような鎧を魔力で構築して纏っていた。




 椿は反撃の勢いでイグニスたちの元まで逆戻りし、吐血しながらも回復魔法で事なきを得た。

 



 「しくじったわい……まさかアレを使うとは……」


 「椿!」


 「おおアリア、ちょうどよいところに。こやつらを一旦避難させてくれ」


 「それは構わないが、一体何が」



 椿はアリアにイグニスたちを避難させるように指示し、アリアは承諾したものの今の一瞬で何が起こったのかの説明を要求した。

 すると椿は重々しい空気感でこう話し始めた。




 「あれは、自分の血液を媒介として相手の生命力を奪いとる正真正銘の()()じゃ」


 「禁術……」


 「しかも、とびきり厄介なものじゃ……」




 椿はいつもよりも低い声で説明し、冷や汗を流していた。

かなり空いてしまってすみませんでした

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