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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第一章:魔法学校に入学するようです
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スレイプニル種のお話。

表現によっては漢数字と普通の数字を使い分けてます。ご了承ください。

 スレイプニルの突進をすんでのところでレイが右手に持っていた剣で受け流しながら体勢を立て直してスレイプニルの背後に回り込み詠唱を開始する。



 「鎖よ、呪いよ、彼の者を、我が手中に収めろ。レストレイト・カース!」



 左手で足元の地面をバンと叩くとそこから八つの魔方陣が地中に現れ、そこから直径五cmほどはあるだろう大きめの鎖が勢いよくジャラジャラと音を立ててスレイプニルへと飛んでいき体に巻き矢じりのような形をした先端が地面や木々へ突き刺さっていく。

 上級攻撃魔法の一種「レストレイト・カース」、響が以前父親のクラリアに使った中級攻撃魔法「チェーンバインド」の上位互換魔法で、鎖の数も五本から八本に増え大きさも大きくなってより拘束力が強くなったものだ。

 突進の減速が間に合う前に鎖が体に巻きついたスレイプニルはガクンと急激に止まり致命的な隙が生まれた。そこへ一斉に他の三人が一気に畳みかける。

 響は紫色のオーラを纏った巨大な杭を、アリアは鋭い歯が層になって重なった巨大なトラバサミを、そしてヴィラはバチバチと眩い電気を放つ球形状の魔法をそれぞれ発動させる。



 「パイルオープニング!」

 「喰らえ砕け切り潰せ。エダクス・レールム!」

 「雷帝よ、怒りを伴い災いを焼き焦がせ。ブリッツ・ツォルン!」



 異なる三人の上級魔法が一斉にスレイプニルに襲い掛かった。響の放った「パイルオープニング」がスレイプニルの胴体に突き刺さりそのまま肉と骨を抉ってどデカい大穴を開けた。

 「ヒヒイイイィィルルルゥ!」とかなりの悲鳴を上げてどうにかして自分を拘束している鎖を解こうとして暴れまわり、辺りに大量の血を飛び散らせる。そこをアリアの「エダクス・レールム」が生み出したトラバサミがその大きな口でバクリと加えて動きをさらに封じる。層になって重なった歯が肉に食い込んでさらにスレイプニルにダメージを与えていき悲鳴を上げさせる。



 最後にヴィラが凄まじいほどの電流を帯びてバチバチとなっている光球「ブリッツ・ツォルン」を、重ねた手の平の魔方陣から放つ。その魔法は先ほど響が風穴を開けた胴体の穴へと吸い込まれるように飛んでいき寸前で十分の一まで縮小して穴の中間で停滞する。

 なんとなくだが、この先の展開が予測できた響はスレイプニルを囲むように防御用の結界を張り閉じ込めた。それを待っていたかのようにニヤリと不敵な笑みを浮かべるヴィラが魔方陣をもう一枚展開させて言い放つ。



 「解っ」



 その言葉で再度バチバチと電流がほとばしった。スレイプニルも野生の勘で良からぬ気配を感じてこれ以上ないくらいにジタバタその場で暴れてどうにかして鎖とトラバサミを体から引きはがそうとするが、鎖は地面と木々でしっかりとロックされトラバサミはスレイプニル自身の肉に食い込んでいるため動けば動くほどズブズブとさらに歯が体内に食い込んでしまう構造になっているため中々解こうにも解くことが出来きず、仮に二つの拘束が外れたとしても響の張った結界があるので簡単には出ることが出来ないという二重構造になっている。

 鼻息を荒くして雄叫びを上げながら必死に暴れるスレイプニルだったが、響の「パイルオープニング」とアリアの「エダクス・レールム」で血を失い過ぎたのか徐々にその体力がなくなっていき、雄叫びが絶叫と悲鳴が混ざったような声に変わっていく。



 だが無慈悲にもその時は訪れ、電流が最高潮にまで達した縮小版「ブリッツ・ツォルン」は一瞬閃光を放ったかと思えば急激に膨張して破裂し、スレイプニルを内側から肉片に変えてしまった。



 屈強な体格を持ち妖族の冒険者八人を惨殺した上級魔物といえど体内からの爆発には耐えられず、ドパァンという爆発音を鳴らして結界の内側で炸裂した。もし響が結界を張っていなかったら間違いなく広範囲にまでその大量の血液と肉片が周りに勢いよく飛び散って響たちに雨のように降り注いでいたことだろう。

 ヴィラが結界の解除を命じて響は結界を解除する。そこには頭や足はそのまま現存していながら胴体だけ爆散しているスレイプニルの惨たらしい死体が一つ出来上がっていた。



 「大丈夫ですか? アリア先輩」

 「大丈夫大丈夫、ごめんねヒビキ君、変に心配かけたみたいで」

 「無理はしない方がいいわよ」

 「ヴィラの言う通りだ、まあひとまずみんなお疲れ様。任務終了だ」

 「なぁんか呆気なかったね、僕はもう少し苦戦するかと思ったんだけど」

 「俺とヴィラが居たんだぜアリア。当然だろ!」



 フンス! と冒険者の後輩であるアリアと響の二人にこれでもかと自信たっぷりのドヤ顔を見せびらかすレイにゴミを見るよな冷たい視線を浴びせるヴィラ、任務が終わって緊張感が解けた四人は少し休息をとった後に討伐の証拠としてスレイプニルの頭部を麻袋に入れて、森の外へと出るため行動を開始した。

 道中、下級の魔物が出てきたが上級魔物を倒した後の四人の敵ではなくあっさりと殺されてしまった。衣服に多少の返り血が付いたものの洗えばすぐに落ちる程度のものだったので気に留めずに談笑しながら森の外へと出る。外と中でこんなにも空気が違うかと思うほどひんやりとした風が四人の体を優しく撫でる。

 


 馬車乗り場の人に四人分の運賃を支払い乗り込もうとしたその時だった、悲鳴を上げながら外へ出てくる女性冒険者が一人、今度は人族で防具はボロボロに破損し頭部から血を流していた。その後ろからは先ほどと同じスレイプニル種の魔物が怒り狂った様子でその冒険者を追いかけていた。小石に躓き転んでしまう冒険者を見下ろし妖族の冒険者を殺した個体と同じように足を上げて一気に振り下ろした。紙一重で横に回転して即死は免れたものの左足を潰されて声にならない悲鳴を上げる女性冒険者に再度足を振り下ろそうとしたところをヴィラが「フロストアローズ」で妨害して狙いを外させる。

 横やりを入れられたことでターゲットが冒険者から響たちへと変わり、先ほどの個体よりも力強い雄叫びを上げる。空気がビリビリと震え、下級魔物程度ならこの殺気だけで殺せそうなほどの敵意をこちらへと向けてくる。その個体は先ほど倒したスレイプニル種よりも一回りも大きく体にいくつもの古傷を持っていた。



 「まさかさっきの奴の親か!? 子供を殺されて怒り狂ってやがる!」

 「まずいわね……こうなると厄介なんてもんじゃないわ、早いとこ終わらせましょう」



 そう言ってもう一発魔法を放ったヴィラだが今度は軽く弾かれてしまった。驚愕した様子のヴィラは魔法がダメだと分かると近接戦に持ち込もうと接近して腰につけていた短刀で切りかかるが、前足二本で起用にバランスを取りながら回し蹴りをした親スレイプニルに吹き飛ばされてしまう。咄嗟に防御魔法を自身の体に張ったから死なずには済んだものの、右腕を抑えてうずくまってしまった。どうやら骨が折れてしまったようだ。



 「ヴィラ!」



 続けざまにレイが魔法を放ちながら魔力を纏わせて長さを拡張させた剣で切りかかっていくが、その堅い皮膚には歯が通らなかった。親スレイプニルは体を軽く振るわせてレイを吹き飛ばして響とアリアの方へと突っ込んできた。「パイルオープニング」と「エダクス・レールム」で応戦するが一直線に進むだけのトラバサミでは簡単に跳躍で交わされてしまい、放たれた巨大な杭は空中で蹴り飛ばされて森の方へと落下していく。親スレイプニルが二人の目の前に着地した衝撃で地面が文字通り波うち二人を別々の方向へと吹き飛ばしてしまった。親スレイプニルはアリアの方へ突進していき、アリアは吹き飛ばされた衝撃で体が少し痺れていたため反応が遅れてしまう。



 そこへ復帰したレイが直前で渾身の防御魔法で何とか食い止めようとするが完全に勢いが乗った状態の突進の衝撃は凄まじくまたしても明後日の方向へ弾き飛ばされてしまった。「ここまでみたいだね……」と諦めの言葉を呟きながら目の前で自分目がけて足を叩きつけようとする親スレイプニルの姿に死を覚悟するアリア。



 そしてアリアが目を瞑り自分の死を受け入れたその瞬間、顔にものすごい風圧が来ただけで何も起こらないことに気が付き恐る恐る目を開けると目の前には巨大な蹄が浮いて止まっていた。

 いや、蹄どころか親スレイプニル自体がアリアを踏み潰すことなくその場でピタリと止まっていたのだ。その背後では響が左手で突き出した右腕を支えて魔方陣を展開させていた。アリアの身を案じて「大丈夫ですか!!?」と叫ぶ響だが彼女には目の前で起きている事象が理解できていなくて思考が追い付いていなかったため耳にまで届いていなかった。

 


 この謎の事象を引き起こしたのは言わずもがな響本人であり、それを可能にしたのが彼のオリジナル魔法「ニュートンの林檎」だった。空間魔法を応用して対象の動きを止めたり自在に操ることのできるその魔法の前では上級魔物も糸につられたマリオネット同様、発動者の意のままに操られる。響はそのまま右手を薙ぎ払って親スレイプニルを遠隔操作した。親スレイプニルも何が起こっているのか理解する暇もなく木々にぶつけられ十本ほどへし折ったところでようやく理解する、『自分は今何かしらの力によって操られている』と。響は腕を下ろしてゆっくりと親スレイプニルの元へ歩み寄っていき、途中でデザートイーグルを右手に生成してスライドを一回引き銃弾をチャンバーに入れて装填を完了させ、親スレイプニルの眼球に銃口を当てる。



 「死ね、駄馬」



 その一言を言い終えて一回発砲する。今回響が作り出したデザートイーグルは44口径という人に撃てばまず間違いなく即死級の威力を誇る代物である。それがゼロ距離で親スレイプニルの眼球に直撃した結果、眼球はまるで水風船が割れたかのように血液や体液をまき散らして破裂する。



 「ニュートンの林檎」によって口を開くことすら許されない親スレイプニルは断末魔を上げることが出来ずただ響に銃弾をぶち込まれるだけのただの的に変わっていた。人と馬とでは目の位置が前か横かの違いはあるものの頭部の作り自体はさほど違わず弾丸は脳みそを抉りながら骨を突き破り貫通していく。それを弾数いっぱいまで撃ち終えられてもまだ息のある親スレイプニルを確認した響はデザートイーグルを削除して変わりに手榴弾を作り出した。安全ピンを抜き口をこじ開けてその中へ入れ、最後に口を再びロックしてその場を去る。その十数秒後、口の中の手榴弾が爆発して親スレイプニルの頭部が派手に吹き飛ばされる。



 爆発音を聞いても一度も振り返ることなくアリアの元へ戻った響は手を差し伸べてこう言う。



 「立てますか? 先輩」



 後にアリアが言っていたことだが、親スレイプニルを殺した直後の彼の目には生気が感じられず、助けられたアリアが思わず怯えるほど、いつもの響とは一線画すものだったらしい。

チャンバーをずっとチェンバーだと思ってた。

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