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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
最終章:旅の終わり
207/221

仕切り直しのお話。

遅くなって申し訳ない

 「ん………寝てたか………」



 響は欠伸をしながら体を伸ばし、寝起きの頭をすぐに活動させた。

 時間は夕暮れ時、向こうの空には夕焼けが眩しく輝いていた。



 「起きた?」

 

 「琴葉……賢介から聞いたぞ、随分頑張ったみたいだな」


 「あはは、上手くできて良かったよ。私の能力の一番の使い道ってやっぱりああいうのしかないから」


 「大丈夫なのか?」


 「うん。もうすっかり。水無月君もだいぶ疲れてたみたいだね」


 「……そうみたい」



 寝起きの響に琴葉が気づいて話しかけ、その後「ちょっと待ってて」と言ってその場を離れた。

 少しして戻ってくると響にスープを手渡した。



 「みんな今はご飯の時間なんだ。水無月君もどう?」


 「ありがとう」



 響は琴葉からスープを受け取り、琴葉は響の隣に座ってスプーンでスープを掬って飲んだ。

 あまり具はないがその分しっかりと体が温まり、とてもではないが戦争中の食事とは思えないほど美味だった。

 辺りの様子を見るにアザミたちが攻めてきた様子はまだ無いようだ、向こうは向こうで一度立て直しが必要なのだろうと思われる。

 


 しかしこちらが仕切り直せる時間があればあるほど向こうも戦力を構築したり傷を癒したりと立て直す時間が増えていくということだ。

 本来ならばアザミとカグラが体勢を立て直す時間を与えずにこちらが攻め切るのが理想だが、そうとも行かないのが現実、こればかりは仕方ない。

 それに今度戦う時は戦力が増えた状態でのリスタートだ、なんとかなるかもしれない。



 「いつ、攻めるんだろうね」


 「いつだろうね……でも、そう遅くはないと思う」


 「うん。私もそう思う、明日にはまた戦うことになるんじゃないかなって」


 「俺も、そんな気がする」



 スープを飲みながら語らう二人。

 その時、琴葉が何かを思い出して「あ!」と言った。

 


 「そうだ、グリムさんに伝言頼まれてたんだ」


 「伝言? 俺に?」


 「うん。なるべく早く、一番大きいテントに来いってさ」


 「一番大きいテント……」



 響は周りを見渡すと確かに一つだけ他のテントよりも大きなものを見つけた、恐らく五倍はあるだろう。

 グリムがそこに来いということは他の勇者たちもそこにいるのだろう。

 響はスープを飲み干し、琴葉が「片づけておくよ」と響から木皿を預かって、響はひときわ大きいテントへと向かった。



△▼△▼△▼△



 「失礼します」


 「お、ヒビキか。よく眠れたか?」


 「あはは……はい」


 「別に気にしなくていい。睡眠は重要だ、休める時に休んでおけ。ま、立ち話もなんだし入れ」



 テントの中にはグリムとアキレア、それからリナリアがいた。

 グリムはアロンダイトの手入れをし、アキレアとリナリアは先ほど響が飲んでいたものと同じスープを飲んでいた。



 「伝言を聞いて来たんですが……何かありましたか?」


 「実は、聖戦武器について少々お前に意見を聞きたくてな」


 「はぁ……でも俺そんなに武器とかに詳しいわけじゃないですよ? 歴史とかだってさほどですし」


 「だがお前は、私たちが見たことない武器をよく作りだすじゃないか。銃、とかって言ったか?」


 「あれはまぁ、そうかも知れませんが」


 「それに、だ。別に専門的な意見とか答えを聞きたいわけじゃないんだ。どう思うのかをお前なりに聞かせてくれればそれでいい」



 響はそれを了承し、グリムは自分の後ろに置いてあった聖戦武器を取って響と自分との間に置いた。

 相も変わらず聖戦武器は異質で総毛立つようなオーラを発していたが、それ以外は美しい鞘の黒い刀剣といった印象を響はもった。



 「私たちが転移し、魔物群れと戦った時、あっただろ?」


 「はい」


 「その時、聖戦武器を持っていた者みんなが感じたことなんだが……乱戦の中で急に聖戦武器が輝き始めたんだ」


 「……はぁ」


 「うん、お前のその反応を見て急に何を話されているのか分からないとは思うが事実だ。この状態ならばもしかして使えるのではと思って一振りしたら、霞でも切っているのかと思うほど魔物があっさりと切り裂けた。おまけに使用感も軽い、今まではこんなことなかったんだ」


 「それで、どうしたそうなったかの原因を俺に聞きたいってことでしょうか?」


 「そうだ。何かわかりそうなこととかないか? こんな中身のない話では難しいと思うが……」



 響は頭を悩ませた。グリムが自分から言ってくれたが今の話だけでは不明点が多すぎる上に色々な条件が当てはまる可能性が大いにある。それにグリムの言葉から察するに聖戦武器がきちんと使用出来た例は今回が初、たった一度の体験談で分かることはたかが知れている。

 だがそれでも何とか当てはまりそうなことを言ってみるべきだろうと響は考え、まず一つ目の予想をグリムに言った。



 「乱戦中に効果を発揮する、とかは考えられないですかね?」


 「私も真っ先にそれは思った。だが、複合魔物が初めて来た時もかなりの乱戦だった、その条件が当てはまるならあの時も発動するはずなのだがいつもと変わらなかったんだ」



 早々に出鼻をくじかれたが、まだ予想の段階でしかも一つ目、ここからだ。



 「なら、ベタですが何かしらの感情が引き金になったというのは?」


 「感情……か」


 「実際のところは分かりませんが」


 「考えてみる価値はあるかもしれんな。ありがとう」


 「いえ、こんなのでよければ」



 グリムの用はそれだけだったらしく響はテントを出て少し歩いた。

 ほんの数時間間で戦っていた者たちが集まっているとは思えないほど、今はのんびりとした雰囲気に包まれている。

 それに静かだ、人の声は聞こえるが魔物の声は全くもって聞こえない。



 何かしらの確証があるわけではないが響は漠然とこう思っていた、もう魔物とは戦うことはないだろう、と。

 あくまでこの戦争中に限っての話だが、なんだかもうアザミとカグラ以外の敵はいないのではないかと思えて仕方がなかったのだ。

 それほどまでに二人の印象は強烈だった、脳裏に深く刻み込まれていた。



 兵たちに梓たちの所在を聞くと一つのテントの方を指差してあそこにいると教えてもらい、そのテントを開けて見ると、皆疲れていたのかすぅすぅと寝息を立てて深く眠っていた。

 自分もここに混ざって寝ようかとも思ったが先ほどまで寝ていたばかりで全く眠くない、なので響はまたフラフラと彷徨い、土壁に背をつけて座ってやけにきれいな星空を眺め始めた。



 『なに黄昏てんの』


 

 響にそう話しかけてきたのはゼノに敗れた魔王軍幹部の一員、フールだった。

 フールは響の隣に腰かけ、響をじっと見た。



 『ねぇ。あんたさ、ヒビキってやつでしょ? 化物みたいに強いって噂の』


 「化物見たいかどうかは分からないけど……えっと、フールさんでしたっけ」


 『別にさん付けいらないよ、私の立場一応捕虜みたいなもんだし』


 「その割には自由みたいですけど」


 『変だよねーここの人たち、敵の治療したりご飯くれたりお話してくれたり………なんで生きてるのか私分からないもん』



 フールは笑いながらそんなことを言い、すぐに真面目な顔つきに戻った。



 「で、何かありました? わざわざお喋りしに来ただけでもないんでしょう?」


 『……まぁねっ。率直に聞きたいんだけどさ、なんでみんな私のこと殺さないで優しくするの?』


 「そんなこと言われてもな……」



 正直、響はフールの言っていることが一回で理解できなかった。まさかそんな質問をされるとは思っていなかったからだ。

 なぜ殺さないのかなど、殺す必要がないからとか殺す気がないからと答える他ないだろう。当然響もそう答た。

 それでもフールは何処か納得のいっていないような生返事を返すばかりだった。



 『みんな感覚麻痺しているよ。私なら絶対に殺す』


 「それがセオリーだろうね。それとも殺されたかった?」


 『そんなわけないでしょ、死ぬなんてまっぴら。ただどうしても気になっただけだし、めっちゃ強いあんたなら知ってるかなーなんて思ったり。そっか……この戦争終わったら殺されるなんてこと、ないよね!?』


 「多分だけど絶対ないです」


 『どっちさ、それ』



 こんな答えでよかったのかと響は思ったが本人がそれ以上何も言及してこないため善しとした。

 それから二人はしばらく話し込み、いつの間にか眠ったフールを響は兵士たちにフールの転との場所を聞いてそこへと運んで自分もテントに戻って眠ることにした。

 起きたら、きっとすぐに出撃準備に入るだろう、そう思うと少々眠りづらいところもあったがしっかりと睡眠時間を取らないと支障をきたしてしまうので観念して眠ることに決めた。




 そして、朝が来た。

次回辺りからラストバトルいきます

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