異変が起こったお話。
どのくらいの長さが読みやすいのか、書いてるときはよく分からないものですね。
「おっすお二人さん。相変わらず仲いいな~、いつ付き合うんだ?」
後ろから声をかけて響の肩に手を回したのは、響の中学からの友人である影山聖也だった。
誰とでも分け隔てなく接するその性格から中学の頃からクラスの中心人物的な存在になっている。
運動部で背丈も高く、横に並ぶと影山・響・梓の順に背が高く電波のアンテナのようになる。
「朝から元気だなお前も。何で俺の周りにいる奴は揃いも揃っていっつも元気なんだよ、少しは分けろ」
右には寝起きを除けばエブリデイ元気っ子の幼馴染、左には寝起きから元気であろう中学からの友人。
それに比べて響はどちらかと言うと快活さに欠けている、といってもあくまで二人と比較するからであるから暗いというわけでもないのだが、響はこいつらに生気を奪われてるんじゃないかと思っている。
別に俺も普通だとは思うんだが、そう思っている響だが両端のこいつらと比較されればそう思われても仕方ないとも思っているし、なんなら半ば諦めている。
「おっはよう影山君! 朝から元気なのはいいことだけどちょ~っと変なこと言わなかったかな? ん?」
大体こいつと付き合いでもしたら私の体がもたないっての、だのと言う梓に対しそれはこっちのセリフでもあるんだがなという気持ちを抑え込んで響はあえて無視するスタンスを貫いた。
影山が梓の発言に対して「いやだってお前らよー」と言って反論を交えてからかってくるのももう何回繰り返しただろうか、飽きないのかなんて思うが、響自身、毎日のこのやり取りを聞いているのが密かに楽しかったりしている。
そんな話をしながら三人はいつもと変わらない通学路を歩いていた。
強いて違う点を述べるなら、ちらほら桜のつぼみが咲いていることだろうか。
もうそんな時期なのか、と、響は両端の元気共のやり取りを聞きながらそんなことを考えていた。
気が付けばもう学校の近くまでついてしまっていた。
同じ制服の生徒も増えてきて、聞こえてくる会話も多くなってくる。
「でさ~そんとき彼氏がチョー情けなくてさー」
「昨日のドラマ見た? あれすごかったよね」
「お前宿題終わった? 俺全然終わんなくてさ、やべえわ」
どこにでもあるような会話を聞きながら学校へ到着すると、何やら生徒玄関が騒がしかった。
「騒がしいけどなんかあったのか?」
響は近くにいたクラスメイトの女子、佐伯智香に何があったのかと声をかけた。
彼女は影山と一緒にクラスのまとめ役を担っていて、文武両道で成績優秀という委員長のようなキャラだ。陸上部でスタイルもよく、クラスのマドンナでもある彼女は、学年ごとの付き合いたい女子トップ5に入る人気ぶりで、それでいて人当たりもいいので同じ女子に影でなんか言われてるんだろうななんて思っていたのだが、他の女子曰く「いい人過ぎて妬む気にもなれない」のだそうだ。
「ああ、おはよう水無月君。何でも転校生が来るらしくてね? しかも海外からっていうからみんな朝からその話題でもちきりなのよ。どこのクラスかは流石に分からないけどね」
転校生か。なるほど、それでざわざわしているのか。
転校生と聞くと学園物のラノベとかだと重要なキーパーソンになったりするものだが、実際にはあんまりない。
というか高校で転校生というのもあまり聞かないし、高校の場合だと転校じゃなくて転入なのだろうか、そんなことを響は思っていた。
「どんな子だろうね! なんか楽しみになってきた! 海外の人ってやっぱ大人っぽいのかな? どう思う? 響!」
百六十cmにも満たない身長で人目も気にせずピョンピョンはねる小動物、もとい梓は純粋な子供のように、目に見えて楽しみにしている。いや、純粋な子供のようにではなく、純粋な子供か。この性格だしなと響は嘲笑仕掛けたがよくよく思い返してみれば梓は、案外クラスでも人気があって佐伯に次ぐ人気だという噂もある。
幼馴染の響からしてその人気の理由は分からんでもないが、結構意外だ。
「海外かぁ。女の子だったらいいな! なんかこう、華があるじゃん! 華が! お前もそう思うだろ水無月」
影山お前もなのか……。あれ?こいつらって兄妹だったっけ?こんな性格似てたっけお前ら。
そんなルンルン気分な二人からの質問に無言という答えを返して、響は教室へ向かった。
響たちのクラスは他のクラスよりも比較的静かなのだが、この日だけは転校生の話題で賑やかになっていた。
「ほらお前ら、さっさと席に着けー。出席とるぞー。」
担任が教室にやってきて、チャイムの音がなると同時に朝のホームルームが始まった。朝のあいさつを済ませたところで担任が今日の連絡事項を伝える。
「えー、今日の六時間目は全校集会ですので休み時間の間に廊下に並んでおいて下さい。先生にプリントがある人は、朝のうちもしくは放課後までに出してください。あともう一つ重要なお知らせがあります。」
先生のその一言にクラス中がどよめきだす。おそらく今朝の転校生騒ぎのせいでみんなそわそわしているんだろう。もしかしたらうちのクラスに転校生がやってくるんじゃないかと思っているのだ。
「ほら静かに。今日はこのクラスに転校してきた転校生を紹介します。そこ! ちょっとは静かにしろ。それじゃあ入ってきて下さーい」
教室のドアがガラガラと開けられるとともに男子たちのボルテージは最高潮に達した。もちろん例に及ばず影山も一緒になってざわざわしている。梓なんて目をキラキラさせている。教室に入ってきたその人物は入ってきただけでざわついていた男子たちをまとめて黙らせた。声を荒げたとかそんなんじゃない、ただ入ってきただけでだ。
最初に彼女を見た感想は「美しい」それがおそらく、クラスのみんなの総意だろう。それほどまでに凛としたその姿は視線を釘付けにした。
「初めまして。東雲アザミと言います。父がイギリス人で母が日本人のハーフです。長い間海外にいたので日本に不慣れなところがあると思いますが、みなさんどうかよろしくお願いします」
長い銀髪に青い瞳、それでいて立っているだけで凛とした佇まいの噂の転校生に、クラス中の意識が彼女に一点集中した。軽い自己紹介も終わり、先生の連絡事項が伝え終わったところで朝のホームルームは終わった。
そして烈火の如き速さでアザミへの質問タイムが始まった。
これが不運なのかは分からないが、アザミの席が響の隣になったのだ。元々響の席は窓際の後ろでさらに一人席というかなりの大当たり席だったし、教室に入ったら隣にないはずの机と椅子があったので、薄々勘付いてはいた。
「誰がこんな大反響を予想できたと言うんだちくしょうめ……」
だが当然こんな超大型ルーキーが転校してくるとは思ってもいなかった響は、隣の席のアザミとそれを取り巻くように質問攻めをするクラスメイトという集団を横目に見て、窓から見える清々しいほどの青空に視点を切り替えて一人朝から黄昏た。恐らく目は死んでいただろう。
質問攻めしている連中の中には、もういわずともわかるだろう。そうだ、影山と梓が混ざっていた。
それに佐伯さんもいる、みんな目がキラキラしている、影山にいたってはキラキラしすぎてキモイほどに。
「東雲さんってイギリス語とか喋れるの!? かっこいー!」
「お父さんってどんな感じなの? やっぱ英国紳士みたいな感じなの?」
「髪サラッサラ! シャンプーとかなに使ってんの!」
「まつ毛まで銀色じゃん。いいなー青い目とかキレー」
イギリスはイギリス語じゃなくて英語だ、と思わずツッコミを入れそうになる響だったがそこはぐっとこらえた。
そんなやり取りを聞いていると、一時間目のチャイムが鳴る。ようやく質問攻めから解放されたアザミはこちらに体を向けて挨拶をした。響も挨拶を返して、一時間目の現代社会の授業が始まった。
異変が起こるまではそれからすぐのことだった。
現代社会の担当の先生は喋り方がのんびりなので、暇になることや眠くなることが多々あった。
その日もいつも通りの喋り方の先生の授業が暇になった響はふと窓の外に目をやった。
すると空が動画編集で映像をブッツリと編集したかのように急に曇り始めた。
急に暗くなったことにクラスの何人かが気付いたようでその何人かが窓の外を見始めた。
次の瞬間、鉛色の空に突如としてある何かが浮かび上がった。
それは、ファンタジーの世界でしか扱われることがなく、小説やアニメ・ゲームなどのフィクションの存在であるはずのもの。
――――魔方陣。
誰もが聞いたことがあり見たことがあるであろうそれは、紫色の光を発しており、その規模は学校をまるまる覆うほどの大きさだった。
クラス中がどよめきだす。
そりゃそうだ、非現実的な存在のものがすぐ近くに現れたのだ、それも何の予兆もなく唐突にだ。これには授業中どころではなくなり、アザミの登場とはまた違う驚きがクラス中を包み、次々に発せられる疑問、驚き、中には「なにこれ! 異世界転生ものが現実になったのか!?」という声も挙げられた。
それらの疑問をすべてかき消すかのように魔方陣から謎の光球が降ってきた。
それがグラウンドに着地した時、そこから姿を現したのは十人ほどの黒いローブの集団、そしてそれを囲むように次々と「化物」と形容するのがふさわしい未知の生物たちが現れた。
禍々しいオーラを発する謎の軍勢はゆっくりとこちらの方に体を向け、その内の一人が右手を真っすぐ校舎に向けて腕を伸ばし、手の平を大きく開いた。
その開かれた手の平に、空に映し出されたものと同じ魔方陣が浮かび上がった。
率直に言って、嫌な予感しかしなかった。
「全員伏せてください!!!!!!」
全員が混乱している中、そのように怒号を放ったのは誰も予想しなかった人物だった。
そう、アザミが発したものだった。
淑女のような彼女がそんな怒号を叫んだことを含め、全員驚愕を隠し切れないままにその場に伏せて頭を低くした。 そうした矢先、とてつもない轟音とともに何かが破壊される音が辺りに響き渡った。
何が起こったか響はゆっくりとその音の鳴った方を見た、そして我が目を疑った。
隣のクラスもろとも、クラスの半分が吹き飛ばされていたのだ。先ほどまで教室があったその空間には今はもう何もなく、ただ冷たい風が響たちを嘲笑うかのように頬を撫でるだけであった。
響はただ呆然とただのその空間を眺めることしかできなかった。
そして、その空間にいたはずのクラスメイトの姿がどこにもないことに気が付き、全身の血の気が引いていくのがはっきりと分かった。
しかし梓に影山、智香など見知った奴らが生きているのがまだ響にとって救いだった、たまらず響は窓の外を立ち上がって見てしまった。
そこにはフードが外れた先ほどの集団が何事もなかったかのように佇み、こちらの様子を伺っていた。
そして先ほどと同じ一人の男が再び手の平に魔方陣を出現させ、次は違うクラスを狙って放った。
はっきりと奴らの手の平から「魔法」であろうものが発射され、校舎が破壊されるのを目の当たりにした響はへなへなとその場にへたり込んでしまった。隣にはいつの間に来ていたのか、梓が涙目になりながら響の制服の袖を掴んでいた。
「思ってたより来るのが早かったですね。対処が遅れてしまいました」
突然、アザミがそんなことを言い出た。
この状況で一体何を言っているんだこの人は、イカレたのか、と響は思った。
その矢先、アザミの体から奴らとは色こそ違えど白い複数の魔方陣が展開された、その魔方陣から放たれた光が、残った半分の教室内で生き残ったクラスメイトの体を一人ひとり保護するかのように包み込んだ。
「防御用の結界を張りました。しばらくはこれで大丈夫だと思いますので、どうか皆さんその場を動かないでいて下さい」
「何………言って………」
たまらず響は声を上げてアザミの方を見た、そして驚愕した。
――――――白い翼が生えていたのだ、天使のような真っ白な翼が。
「後でちゃんと順を追って説明しますので、今は何卒、ご理解のほどをよろしくお願いします。水無月君」
そういうと彼女は白い翼をはためかせ、窓の外に降り立った。向けられた黒のフードの奴らの攻撃をことごとくはじき飛ばし、傍にいた化物どもを片手を振っただけで消滅させながら、凛とした姿のまま奴らに話しかけた。
「帰りなさい、イグニス。ここは、あなたたちのいるべき世界ではありません」
イグニス? いるべき世界ではない?
何一つとして響には言っていることが理解できなかった。
すると彼女の叱責に答えるように先ほどまで校舎を破壊していた男が話し始める。
『ドウヤラソウミタイダナ。今回ハ手ヲ引クトシヨウ。ダカラソウ怖イ顔ヲスルナ、女神アザミ』
女神、アザミ?
ますます訳が分からない。
しかしそんな疑問などどこ吹く風といったように黒フードの軍勢の足元に魔方陣が出現し、その魔方陣が光ると一瞬で黒フードの集団は破壊の痕跡だけを残して消えてしまった。
「もう大丈夫です、みなさん! 顔をあげてください!」
その言葉とともに、こちらに笑顔を見せるアザミ。
それを見て安堵と疑問の入り混じった表情をするクラスメイトたち、隣で泣きながら震えている梓を見て響も緊張の糸がプツンと切れたのか大きなため息を漏らした。
この瞬間、響たちのありふれた日常は音を立てて崩れ落ちた。
とりあえず、ひと段落するところまでは頑張りたいと思います。