断頭のお話。
謝ってばかりだが遅れて申し訳ない!
「だいぶ魔力を使った……僕として短期決戦が好ましい」
「じゃあアリアはバックアップ?」
「酷なことを聞きますねフランさん。僕がたかが魔力の多く使ったくらいで退くわけないじゃないですか。ってことでラフィー、キュリア、そっちの姉様だの兄様だのは任せた」
「フフーン! まっかせてください、天才なんで!」
「こっちもいいよ。天才……ってわけじゃないけど、やってみる!」
キュリアとラフィーリアが姉様と兄様の相手を引き受け、アリアとフランがイブリシアを相手をすることになった。
だがそれはあくまでもアリアたちの役割分担なだけでイブリシアたちはべつに誰に攻撃しても構わない、わざわざ相手取る必要はない。
イブリシアもそのことは重々承知している、が、これは人が神に喧嘩を売ったことに他ならない。
無論、その喧嘩という名を借りた侮辱を許すような神族ではない。
イブリシアは静かに怒った。
―――――開戦の時、来たれり。
最初に動いたのはイブリシア。
彼は魔力を両腕に纏わせて二振りの剣のように振るった。
アリアとフランはそれを躱し、ラフィーリアとキュリアは防御魔法で防いだものの防御魔法が切り裂かれた。
イブリシアをすり抜けるようにしてラフィーリアとキュリアの二人は姉様と兄様と戦闘を始めた。
飛び交う魔法が木々をなぎ倒し、地面をえぐり、風圧が砂埃を巻き起こした。
砂埃が煙幕のようにイブリシアたちを包み込み、砂塵の中にいたアリアとフランは目をつむることなくその場でイブリシアとにらみ合いを続けた。
やがて砂塵が通り過ぎるタイミングに合わせてフランが緋級魔法と壊級魔法を複合させた鎧を全身にまとわせて同じく武骨な剣を作り出した。
アリアは体制を低くし腕を大きく広げて構えダッシュした。
イブリシアは障壁でガードするつもりだったのか一切その場から動かずアリアの衝突を待ったがアリアはなんとイブリシアを素通りしていった。
そのままアリアは前方の木を蹴り上がってふわりと宙に浮き、三本の氷の槍をクナイのように投げ、それは一か所ではなく三か所に等間隔にぶつかって氷の破片になって砕けた。
次の瞬間、氷の破片がイブリシアの障壁を見る見るうちに凍らせた。
何やら嫌な予感を感じ取ったのかイブリシアはその場で腕をクロスさせて防御魔法を前方に展開した。
直後にフランが踏み込んで凍って脆くなった障壁を一撃で粉砕し、剣を空中で持ち替えてタイムラグをなくし勢いを殺さぬまま防御魔法に剣をたたきつけた。
切るのではなく叩きつけて振り抜くことでイブリシアを後方へ強制ノックバックさせ、イブリシアを凍った障壁にぶつけて破壊することに成功した。
「アリア!」
「分かってますって!」
アリアは地面に落下していく最中に小石や岩などを「ニュートンの林檎」で一転に寄せ集め巨大な岩石を作り空中に固定させ、踏切版のように使って進行方向を「地面への落下」から「空中での前方突進」に変えた。
アリアはイブリシア目がけて飛んでいき、イブリシアは振り向き、しまったと思ったといった表情を浮かべたが一瞬の隙を逃さずアリアは左足を大きく振ってイブリシアの顔面を横に力強く蹴った。
間一髪、イブリシアは防御魔法をぎりぎりで展開してその衝撃を少し和らげていたがそれでもかなり強烈だったらしく、「ゴキッ!!」という嫌な音を鳴らしながら吹っ飛んでいった。
少女の蹴りで吹き飛ばされたイブリシアは膝をつきながらも地面に転がることなく着地したが血の塊を吐いて首を右手で押さえていた。
アリアとフランは軽くハイタッチをしてイブリシアの動向を伺わずに攻め立てた。
フランは高火力高密度の魔力の暴力で、アリアは短距離転移とニュートンの林檎の複合戦法で目まぐるしく四方八方から攻撃してイブリシアに一切反撃の隙を与えなかった。
それどころか先ほどのアリアの凍結攻撃によって障壁が壊され復活していないためまともに身を守る術が防御魔法しかない。
もっとも、この旋風であり疾風であり暴風のような攻撃の嵐で防御魔法を展開する暇すら与えられていない状態なのだが。
「アリア、決めるぞ」
「了解した」
フランとアリアは目まぐるしく攻め立てる中でアイコンタクトのみでお互いにタイミングを見計らい、フランは鎧を全解除してその全てを右足に集めて右足を切断と殺傷能力に特化した一本の剣にし、アリアは氷をフランと同じように剣のように右足に纏わせてさらにその上から魔力を纏わせた。
そして―――――
―――――ドチャッ。
という嫌な音を立てて、イブリシアの頭部は断面がフラットのまま切断され、地面に転がった。
残った胴体も全身から力を抜いてゆらりと前のめりに倒れ、アリアとフランは右足の武装を解除して今度は大きく音を鳴らして再びハイタッチをした。
「うっそもう終わったの?」
「油断しているところをサックリと、案外雑魚だったね」
「そう言ってアリアも油断しないようにね。こっち終わったし、手伝う?」
早すぎるアリアたちの決着にキュリアは驚嘆の声を上げ、張本人であるアリアとフランはさも当然のような反応を示し、挙句の果てには姉様と兄様を倒すのを手伝おうかと言った。
イブリシアに仕えている身である姉様と兄様は無残にかつ呆気なく殺された主の姿を見て、自分たちでは敵わぬ相手だと悟ったのか両手を上げて一切抵抗しなくなった。
「降参……ですよね、これ」
「それ以外にあるかしら?」
「イブリシア様がこんなに簡単に死んじゃう相手なんだ、僕と姉様で敵うはずないよ」
きな臭い、それが全員の本心だった。
仮にも神族に仕える身分の者たちが一介の人間に降参するなど、まずもってありえない。
自分たちやイブリシアの顔に泥を塗るどころか、他の大陸で戦っている別の親族や別の自分たちに泥どころか糞尿を塗りたくるが如き屈辱。
降参、白旗、参りました、などと言った言葉は全て体裁のそれ。
この二体はそんな馬鹿な真似をするほど真面目ではないのだ。
案の定、姉様と兄様はこちらに向かってきた。
何の策もなく、殺意という一等品の感情に身を沈めて。
だがそんな爆発寸前の風船を割ることなど人じゃなくても造作もない。
アリアとフランが応戦しようとしたがラフィーリアとキュリアは制止した。
曰く、私たちの敵だ、と。
二人は迫りくる二体に怯むことなく、拳を転移して躱した。
そして背後に回るとラフィーリアは右手の人差し指と中指をピンと揃え、キュリアは左手の平を、それぞれ姉様と兄様の心臓の位置にそっと当てた。
魔力を込め、ラフィーリアは空間を凝縮させた弾丸で心臓を貫きキュリアは手の平からバーナーのように火柱で心臓を穿った。
イブリシアと同じように前方に真っすぐ倒れる二体、死んだ。
これでようやく終わった。
「次に行こう」
「私はここに残ります。一応警戒しないといけませんし、もう魔力がすっからかんです」
「その方がいい。私は獣王大陸に向かうわ、故郷みたいな場所だし、ほっとけないから」
「付いて行きます、まだ戦いたいですし。アリアはどうするの?」
「僕は彼氏のとこに行くよ、デートと洒落込みたい気分だから」
「場所は分かってるの?」
「おおよその予想は、ね。まぁいなかったらいなかったで他のとこに行くよ」
「では……ここで一度お別れですね」
ラフィーリアが若干寂しそうにそう言うと、アリアはくしゃっと頭を撫でて二カッと笑った。
そしてラフィーリアの警護にと女型のゴーレムである壱号を作って側に置いた。
三人はそれぞれ目的の場所へと向かい、後にはラフィーリアと壱号だけが残った。
「……」
「……」
「……」
「とりあえず移動しましょうか」
「うわっ! 喋った!」
「……前にも一回、こんなことがありましたね。懐かしい思い出です」
二人は魔力回復も兼ねて、少しおしゃべりしながら森を去ったとか。
森には一柱の断頭された死体と弐体の少女と少年の死体が地に伏して転がっており、静寂が彼らの鎮魂歌を歌っていた。
次回で二百話目ですね。
早いものです。