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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第九章:世界の命運が握られているようです
192/221

別離のお話。

ちょいと長め

 『貴様……っ』


 『オ初ニオ目ニカカル、ダッタカ。使イ方ハ合ッテイルカ? ヒビキ』


 「初対面なら……合ってるけど」


 『ナラ良イ。コンナトコロデ恥ヲカイテハ堪ラナイカラナ』


 

 イグニスは漆黒のローブに身を包み不敵な笑い声を上げていた。

 その時の格好はかつてあの時、響たちが元いた世界へと攻め込んできたあの格好だった。

 イグニスが参戦したという衝撃よりもあの当時と同じ格好ということに衝撃を受けた響だったがすぐさま戦闘中だという事実に意識を切り替えた。



 カグラは地面に膝をつきながらイグニスを睨みつけ『ふーっ……! ふーっ……!』と荒く息を立てていた。

 しかしイグニスはそんな視線を向けられても一切臆することも動ずることもなく、ここが街であることを確認してどうしたものかと低く呟いた。



 『此処デ戦ウノハ被害ガ多クナルナ。場所ヲ変エルカ』



 イグニスは全員分の魔方陣を個人個人にそれぞれ展開し、次々と転移させていった。

 そして自分が転移する前に一言、市民たちに言い残していった。





 『王都(ココ)カラ逃ゲヨ。命令ダ』と。






△▼△▼△▼△



 



 魔王城、玉座。

 アザミは退屈そうに肘をつきながら座っていた。



 「……?」



 そんな中、突如として二つの魔方陣が王室の真ん中に現れた。

 直感で空間魔法の類だと感知すると気持ちばかりの警戒を取ってその魔方陣をじっと見つめた。

 


 「……ここは」


 

 その一言と共にアザミの前に現れたのは人族の勇者グリム、彼女はここがどこか認識出来ていない様子で大きく首を動かして確認作業を行っていた。

 そしてグリムと共に転移されてきたのが元魔王軍幹部で現響たちの仲間であるハーメルン、彼女もまた虚ろな瞳を懸命に動かしてここがどこかを探っていた。



 グリムと違い魔王軍幹部という誉れ高き役職に過去ついていた経歴を持つハーメルンはここが魔王城であること、そしてその中でもその種族の長が住まう王室であることにすぐ気が付いた。

 転移するまでグリムに治療してもらっていたとはいえ、ハーメルンはまだ完全に傷が言えているわけではなく、痛みで顔を歪めながらゆっくりと体を起こした。



 『ぃったた……』


 「ハーメルン、まだ横になっていろ!」


 『……そこまで怒らなくても』


 「――――――どういう了見ですか、これは」



 アザミはやや不機嫌そうにため息を吐くようにして言葉を漏らし、その言葉にグリムとハーメルンはハッとしてアザミの方を振り返った。

 アザミはここに何故たった二人だけ転移してきたのか、その真意を考えた。

 が、まともに思考回路が構築される前に第三・第四の魔方陣が次々と現れ、そこから出でる者たちを見て誰がこの場に転移させたのかを推測した。



 「あの……死にぞこないがぁ……!」



 アザミは玉座から立ち上がって転移してきたグリムたちの元へと一歩ずつ歩みを進めていった。

 が、一旦立ち止まってあることに気が付いた。

 なぜグリムやら響たちやらを送り込んでおいてきたであろう「あいつ」がどこにも見受けられない、それどころかさっきまで聞こえていた戦闘音がピタリと止んでいる。

 


 もし「あいつ」がまだ戦っているのであれば………

 などと思考を巡らせていた時、アザミは頭上から何かが降ってくる気配を察知し後ろに飛び退いた。

 次の瞬間、取っ組み合いながら魔王城の天井を突き破って王室にイグニスとカグラが落ちてきた。



 「………イグニス」


 『ハハ、相変ワラズダナァ女狐!!』


 「……カグラ、あなたともあろう者が、何をやっているのですか」


 『天井を突き破ってはいってくるなとは言われておらん』


 「―――――――どいつもこいつも」



 アザミはすたすたと歩き始めて魔法を使い、純白の刀を生成した。

 その一振りだけで一体どれほどの魔力を使ったのか、ほとばしる白いオーラが自然と響たちの視線を釘付けにした。

 アザミは純白の刀をブンと一振りした、するとその白いオーラが斬撃の形を成して凄まじい速度で迫っていった。

 


 イグニスとカグラは共に緊急回避をし、響たちは咄嗟に防御魔法をかけながら回避運動を取って間一髪のところで当たらなかったが、斬撃の威力は凄まじく一直線に大きな亀裂が生み出されていた。



 丁度その時、遅れていた影山とゼノとリナリアも到着した。

 三人は一体何があったのかと今まさに聞こうとしていたが瞬時に状況を理解して戦闘態勢を取った。

 しかもそこへ、遠くの方で待機していたはずのアキレア・ソル・ラフィーリア・フィリル・フールの五人も事態の急変さを見てやって来た。



 「これはまた、オールスターですね。いや、まだ足りないか……カグラ」


 『……』



 カグラはちらりとイグニスの方に目をやってからアザミの元へと戻った。

 リナリアとアキレアはアザミを見て次にカグラに目をやるとすぐさま親族であることを悟り、厄介そうな表情を浮かべた。

 カグラはポツリと「二対一」かと呟いてこちらもまた面倒くさそうな厄介そうな顔をしていた、が、アザミは未だ余裕のある表情で響たちを睨み付けていた。

 


 「ヒビキよ」


 「なに、椿」


 「恐らくじゃが……こやつの他にも神族がおる。そのような気配をさっきから感じるのじゃ」


 「嘘だろ……こんなのが複数もか!?」


 『まぁ、当然気づくか。私の他にも、各大陸に一柱ずつ向かった。しもべを連れてな』



 カグラクラスの敵が少なくとも残り五体はいるということ、それだけで絶望に打ちひしがれるくらいの衝撃だった。

 


 「……ヒビキ、お主らはそれぞれの大陸に戻れ、ここは妾たちで抑える」


 「な……何言って―――――」


 「お主らくらいしか、神族と渡り合える者はおらん! このまま妾たちと戦って勝利を得たとしても、故郷は壊滅状態じゃろう、それではこの戦いの意味がない―――――――――幸い、こちらには女神が二柱と神族である妾がついておる、数では上じゃ」


 「でもだからって――――――」


 「いや、こいつの言う通りだ。えーっと……なんっつったっけ、名前。忘れた」


 「妾は椿じゃ。覚えておくがよいぞ」


 「椿、ね。椿の言う通り、今神族とまともに戦えるのはお前らくらいしかいない。ここはあたしたちに任せておけ。強さは知ってるだろ?」


 「ですがアキレア様!」


 「ソル、後は任せた。ハイラインと上手くやってくれ」



 まるで根性の別れのような言葉をソルにかけるアキレア、ソルは何か言おうとしていたがぐっと言葉を飲み込んで「はい!」と返事をし、アキレアは嬉しそうに笑った。

 リナリアは響に「戻ったらミスズに謝っといてくれ、死ぬかもって」と伝言を託してそれ以上は何も喋らなかった。

 


 「のうヒビキよ」


 「…………なんだ」


 「無事生きてたら、また一緒に茶でもどうじゃ? とびっきりの一杯入れてやるぞ!」


 「………ああ、楽しみにしてる」


 「なら早う行け。お主らなら大丈夫じゃ」


 『俺様モ残ロウ。アノ女狐ヲ殺スノハ俺様ダ』


 「舐めた真似を―――――」



 アザミはドスの利いた声で呟くと、城が大きく揺れ始めた。

 すると地中からまた魔物たちが沸いて出て他の大陸へと蜘蛛の子を散らすようにして走って行った。

 当然、兵たちがそれに気づき対処しようとするも不意を突かれてどんどんと包囲網を抜けられてしまった。



 勇者たちは即座にその兵たちの方へと指示を出すべく転移して先に前線から離脱した、が、そこには誰もおらず、遠くの方で乱戦の音が聞こえていた。








 「全兵士の転移、終わりましたー」






 遥か上空から、声が聞こえた。

 そこには緑色の髪の温厚そうな女性が両腕を広げて宙に浮いていた。

 その人物は、かつて妖王大陸でイグニスと戦った際に響の左手を治療した妖族女神、フリージアその人だった。



 「この気配……あいつか」



 アザミも突如現れたその大きな魔力反応に気付き、フリージアが現れたことを察した。

 フリージアは勇者たちの元へ順に降り立って、全員に全兵士の魔物たちの進行方向への転移を完了させた旨を伝え、さらに勇者たちにその兵たちの戦闘に立てるように転移させた。



 そして件の兵士たちは突然転移されたことにも驚いているが目の前から大量の魔物が攻めてきているのにも驚き、さらにグリムたち自国の勇者たちが転移してきたのにも何故か驚いて辺りはざわついた。

 しかしそんな騒乱を鎮められない勇者たちではない、四人はそれぞれ自分のやるべきことを再度確認し、兵士たちに告げた。





 ここが正念場だと。

 ここからが本当の仕事だと。





 あまりにも突然のことで事態を飲み込めないものももちろんいた、だが、迫りくる魔物の群れを見てもうそんなことを考えていても仕方がないと諦め、剣を抜き、構えた。




 「いいか!! 急なことで頭が混乱している者もいると思うから手短に言う!! 各大陸の女神様方が、我らのために力を貨してくれている!! そして、あの魔物の群れをこのまま通してしまえば、我らが故郷は壊滅するであろう!!! 然らば、我らが出来ることはただ一つ、ここを全力で守り抜くことだ!!! 分かったか!!!!!!!!!」





 兵たちは大きく声を上げて雄叫びを上げ、無理やりに地震や周囲を鼓舞した。

 グリムたち勇者も戦闘態勢を取り、魔物の群れを待った。

 そして―――――――――――



 「総員!!!! かかれええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!」


 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




 













 響たちは遠くから聞こえる無数の雄叫びを聞きながら、知らぬまに自分たちの足元に展開されていた転移用の魔方陣に気が付き、息を整えた。

 アザミがこちらを攻撃してくる気配はない、やれるものならやってみるがいいという強者の余裕トヤラなのだろうがそれは響たちにしてみれば好都合。




 響たちは転移によって薄れゆく意識の中、こちらを振り返らずアザミとカグラのタッグとにらみ合っている四人の背を見ながらそれぞれの大陸へと転移していった。









△▼△▼△▼△






 人王大陸、とある街。

 そこには無精ひげを生やした屈強な男が幾人もの男たちに囲まれていた。

 男たちはその男に立ち向かっていったが呆気なく返り討ちにされてしまう。



 「ふぅむ。やっぱやりごたえ無いな。人相手ならこんなものか」


 

 と、その男は無精ひげを撫でながら目の前にある半壊の建物を完全に壊そうと魔法を放った。

 が、それは一振りの剣によって弾かれ、男はその剣の持ち主に目をやった。

 その人物は何を隠そう、半壊した家の主で道場を営む、この世界での響の父親、クラリアだった。



 そして無精ひげの男の後ろからボロボロになった剣をブンと振る女性がいた、響の師であり二人目の母親でもあるカレンだ。

 カレンの刃は軽くいなされてしまったがカレンの影から魔法を放った人物がいた、お察しの通り、この世界での響の母親であるエミルだ。




 もはやこの場で無精ひげの男に立ち向かっているのは三人しかいなかった。

 廃墟同然の街でこの三人だけは、まだ戦っていた。




 「人にしちゃあ根性あるなお前ら。一体何がそこまでお前たちを駆り立てる」と、無精ひげの男が尋ねた。

 クラリアは答えた、「家族の家をそう簡単に壊されてたまるかよ! うちの息子、まだ戻ってきてねぇからよ。帰ってきて家が無くなってたら嫌だろ」と大声で答えた。



 それを聞いて無精ひげの男は大笑いした、家族の絆のために命を賭けるとは、と。

 


 「そう言った理由は嫌いじゃあないがな。そんなハンデ背負って勝てるのかこの俺に。言っちゃあなんだがこれでも()()だぜ俺?」


 「ああそうかい………………だからどうしたよ、能書きたれてねぇださっさとかかってこいよ」




 クラリアは怯まなかった。

 無精ひげを生やした神族の男はクラリスをこれ以上生かしておく意味がないと判断し、早々に殺してしまおうと考えた。

 ゆっくりと歩み寄り、魔法をチャージしていた。



 「言い残すことくらいは聞いてやるぞ」


 「はっ! 馬鹿言え、まだ死んでたまるかよ!」


 「なら、もう休むがいい。さらばだ、少しは楽しめたぞ」








 そして神族の男がクラリアに向けて魔法を放とうとした瞬間、神族の男の頭上から無数の音速を超える速度の何かがスコールのように降ってきて魔法が霧散した。

 不意の出来事にカグラと同じ障壁がはがされ、幾分かのダメージを負いながらも防御魔法をかけてその場から離れた。



 「なんだ……?」


 「この攻撃………まさか……………」



 そして今度は空から一人の少年が降りてきた。

 白いローブに身を包んで両の手に魔力をバチバチと迸らせながら静かに着地したその少年は振り返ってこう言った。




 「ごめん、遅れた」


 「……………遅かったな、このバカ息子」




 ヒビキ・アルバレスト、満を持して最強の戦力として彼は家族の元に帰ってきた。

なんだかんだでもうすぐ二百話か、早いな

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