神と人のお話。
神と人の争い
「防御っ!!」
「分かってます!」
アリアが叫び、響が前に出て防御魔法を展開した。
神族の女性は響の展開した防御魔法に衝突し、魔法越しにその衝撃が響に伝わってきた。
そしてその衝撃と風圧は周りにも影響を及ぼし、二人の周りにある落下した時の地面の石などを吹き飛ばし、神族の女性が踏み込んだ地面と現在響と踏ん張り合っている地面がクレーターのように凹んでいた。
『はははは! 耐えるか、人間!』
「結構ギリギリだけどな……なんっつー力だよ、化物か」
『生憎と、貴様のお仲間と同じ神様だ!!』
「あぁこりゃ、王都で一度ブチギレといて良かった……」
神族の女性は防御壁に両手をついてぐぐぐと握りつぶすように力を入れ、次第に壊級レベルの防御魔法に亀裂が入り始めた。
その硬直状態の中、響の後ろからグリムとハーメルンが飛び出して切りかかった。
神族の女性はほぼ同時に繰り出された攻撃を冷静に見極め、二人の剣戟を防御魔法で防いだ、それどころか性質を変化させたのか足元の地面を丸太のように隆起させて射出するように「ドンっ!!」と二人を殴った。
隆起した地面が当たる瞬間、いち早く地面の隆起に気付いたハーメルンはそれに気付いていないグリムに防御魔法をかけた。
しかしそれによって自分の防御が間に合わず、攻撃が軽減されずに腹部に直撃した。
「がぁ………!!」
『…………!!!!』
勢いよく吹き飛ばされる二人、防御魔法をかけられていたグリムは何とか吹き飛ばされながらも体勢を立て直すことに成功したが直撃したハーメルンの方は一般家屋の壁を壊して瓦礫のベッドに埋もれて声も発せなかった。
『注意力が散漫していたな』
「そりゃお前もさ」
響は空間魔法で自分の後ろの空間と神族の女性を囲むようにして上空や背後の空間をいくつか繋げてそこから手榴弾やダイナマイトなどを空爆するように投下し、爆発させた。
響は爆発させる前にバックステップを取り、自分をドーム状の防御魔法で覆って直撃と爆風を防ぎだ。
目の前で一斉に爆発した危険物たちは炎を上げて土地を抉り、爆音を歓声のように轟かせた。
―――――――しかし。
爆風が晴れた中にいたのは涼しい顔をして立っている神族の女性の姿だった。
よく見ると体の周りを細かい粒子のようなものが舞っていた。
『中々、強烈な一撃だった。もう少しで傷がつくところだったぞ』
「マジかよ………無傷って………」
『そう卑下するな、こちらとて障壁が剥がされた。強いな、お前。思えば私と同じあの神族を飼っていた……なるほど、最初から注意すべきだったな。お前、名はなんと言う?』
「……ヒビキ。ヒビキ・アルバレスト」
『先ほどの二人は?』
「俺を守ったのがアリア・ノーデンス。お前を斬ったのがアズサ・テロル・ゼッケンヴァイス」
『アリア……アズサ……なるほど、覚えておいてやる。それと、私の名はカグラだ。覚えておけ』
カグラはそう言うと、辺りを見渡して『ギャラリーが多いな』と響に向かって言った。
響が周りを見ると驚きに満ちた顔ををする魔族たちがいた、そして響は今自分たちが戦闘を繰り広げている場所がどこかのか分かった。
ここは街だ、魔族の一般市民たちが暮らすいわば住宅街、王都だ。
考えてみればそれもそうだ、魔王城が建っているということは即ちそこは王都、その周りに住宅街があるのが当然、退廃してあまり実感がなかったがここは確かに大勢の人々が暮らす場所なのだ。
そこへ響たちが落下してきていきなり戦闘、犠牲者が出ないはずがない。
先ほどの爆風やカグラが踏み込んだ時の衝撃波で怪我を負った者たちがいないはずがなかった。
だが、もう、悔しいが、そんなことにかまけている暇はない。
『はっ…………ぁぁ…………ふっ………うっ………』
「ハーメルン………生きてるか?」
『ぁぁ………不思議と、ね…………っ!』
「無理するな。今手当てする」
『あー………内臓ぐちゃぐちゃだよこれ……………参ったなー………』
「喋るな。じっとしていろ」
グリムはハーメルンの元に駆け寄って傷の手当てを始めた。
ハーメルンは口から血を零して喋るのも辛そうな状態だった、彼女の発言を裏付けるかのようにハーメルンの腹部は内側からボコボコと膨れたようになっておりいくつもの内出血の跡が見られ、グラデーションのある大きな痣のようになっていた。
『まぁ、こうして話してるのもなんだ。まずはあそこの二人から殺してやろう』
言い終えるのとほぼ同時にカグラは魔法を一発、二人に向けて発射した。
間違いなく直撃するコース、弾速も速く回避は困難だろう。
グリムはハーメルンの治療に専念していて気づいていない、ハーメルンもハーメルンで痛みで意識がもうろうとしている。
このままでは―――――――そう思われた時、一人の男性がその魔法を弾き飛ばしてなんとカグラに当てた。
予想外の展開にカグラも動揺しその顔に焦りと驚愕が伺えた。
ローブをたなびかせてグリムとハーメルンの二人を守った人物、妖族勇者スライン、彼は確かにそこに立っていた。
「……助かった、スライン」
「ふふ、なに、メイガス嬢のためならばお安い御用さ。それに、怪我人を見捨てるほど悪人じゃないさ」
『スラ………イン……』
「喋らない方が良い、折角手当てされているんだ。安静に」
『恩に着る』
「別にいい。それよりもメイガス嬢―――――――――――――――――あいつ、ぶち殺しても構わねぇか?」
『この隠れ戦闘狂め…………だが今回ばかりはその癖に甘えさせてもらおう、存分に暴れてくれ』
スラインの変貌ぶりを初めて見た響たちはその変わりように戸惑ったがバランスタイプのキャラが攻撃重視タイプに切り替わったと思えばいいだろうと無理やり飲み込んだ。
敵味方の区別が出来ないとかそういったわけではないと判断し、響は一度呼吸を整えて勝ち筋を探った。
前提として近接物理は梓のように特化型能力でもない限り避けた方が良いだろう。
そして向こうは防御魔法も使う上、一発一発の攻撃力が計り知れない、フィジカルも人の想像を軽く超えてくる。
謎なのはカグラの発言の中にあった「障壁」というもの。
通常、防御魔法は攻撃によって崩壊・決壊・破損等で壊されようと、先ほどみたいに細かい粒子が舞うわけではない。
ましてや、カグラの周りをふよふよと漂うかのようにしているなんて見たことも聞いたこともない。
障壁……剥される……………その発言がどうしても響には気になって仕方がなかった。
もっと何かわかることはないか?
響はもう少し注意深く観察してみた。
すると、周りを漂っていた粒子たちが一瞬でカグラの周りを囲むようにして結合し「シュゥゥン……」という何かが収束するような音を出して、光が粒子たちをコーティングするかのように滑らかに流れた。
その瞬間、響の頭にある仮説が思い浮かんだ。
「スラインさん、俺が陽動を仕掛けるんで合図したら近接戦仕掛けてもらってもいいですか?」
「構わねぇが……策でも思いついたか?」
「仮説ですが、ちょっと気になることが」
「よし分かった。タイミングはそっちに任せるぜ、せいぜい派手にやろうや」
響はスラインの了承を得ると未だ涼しい顔をしているカグラに向かって走り出し数発を撃ち込んだ。
それはカグラの手前二メートルくらいで見えない壁に弾かれてカグラに当たることは無かった、尚も響は能力や魔法を仕掛け続け、辺りには大量の煙が充満した。
何かを感じ取ったのか反撃をしていなかったカグラが煙の中から正確に響を見つけてその喉元に手をやって捕らえた。
『何のつもりだ……?』
響はカグラの周りに先ほどの爆撃の時に漂っていたものと同じ粒子らしきものを確認すると叫んだ。
「今です!」
響の叫びに応じてスラインは急加速して煙の中に突入、風圧で煙がその部分だけ晴れて、響の首を掴んでいるカグラをスラインが横から捉えている構図となった。
スラインは右手で魔法弾を圧縮させ、それをカグラに向けて当てた。
圧縮された魔法弾はカグラに当たる前に見えない壁、恐らく障壁に阻まれたものの魔法はその勢いを殺されることなく障壁を打ち破り、消滅した。
ガラスが割れるような音と共に、先ほどの爆撃の時にカグラの周りに浮いていたのと同じ粒子が辺りを漂った。
響はそれを確認するとすかさず手に拳銃を作り発砲し、弾丸はカグラの左太ももを撃ち抜いた。
痛みに意識を取られたのか響の首を絞めていた手が緩み、響はそこから抜け出して追撃をかけた。
スラインもタイミングを合わせて、二人はただ目いっぱい力と魔力を込めてカグラを殴った。
咄嗟に防御魔法を展開するカグラだったが間に合わず薄い膜程度のものしか作ることが出来ず、腹と鳩尾に強烈な一撃をそれぞれお見舞いされた。
「やっぱり……」
「なにか分かったのか?」
「あいつ、防御魔法以外にもう一枚、薄い粒子の膜のようなもので攻撃をガードしています」
「粒子……あの漂っているやつか」
「はい。ですが一度ああやって破壊されると一定時間戻りません、インターバルがどれくらいなのかは分かりませんがそれだけは確かです」
「つまり、あいつに攻撃を当てるにはその外壁をはがした上でさらに防御魔法まで突破する必要がある、と。なるほど、厄介だな」
『…………意外と、早く見破られたか。やはり侮るべきではなかった。だがそれが分かったところでどうする! 言っておくが私の魔法はそう簡単には破れんぞ。こと、人間風情の攻撃など簡単に――――――』
『――――――デハ、俺様ノ攻撃ナライカガカ? 愚神ヨ』
聞き馴染みのあるノイズがかった声が聞こえ、カグラはなんの前兆もなく地面に叩きつけられてめり込んだ。
地面に叩きつけられたカグラを踏み台にして一人の魔族の男が地面に降り立った。
忘れようにも忘れられない、響たちがここへ来た原初の宿敵であり、現在は仲間となったこの男。
魔王イグニス、その参戦である。
久しぶりに後書きとか前書きに書くことがなくなってきた