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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第九章:世界の命運が握られているようです
189/221

緋想天のお話。

こんなに時間が開いているとは思わなんだ……

 『そんな……ありえない………』


 「ありえない? 現に今そのありえない事態があなたの目の前に起きているではないですか」


 『神族を従えたというのか! あなたは!!』


 「否。我らは主従の関係にあらず、互いに契約を結んでいるだけの助け人に過ぎん」


 『……契約?』



 クシャナはその不穏な発言に顔をしかめた。

 すると神族の内の一人が頼んでもいないのにつらつらと説明をし始めた。



 「我々は、戦に勝った暁には魔王大陸以外の種族の大陸の長になれるという契約の元ここに馳せ参じている。我々としては土地なんぞあってもなくても変わらぬが、下々の者たちを好きに出来るのは少し興味があるのでな」


 「まぁ、退屈しのぎにっつー理由もあるがな。そういうことだ、嬢ちゃん」


 

 十数人の人物の内、五人が面を取って会話に混ざった。

 女性一人、男性四人。

 奇しくも現在の各大陸を統べる王たちの性別と一致していた。



 『(恐らくは意図的に仕組んでいるな……我々が成り代わるという一種の宣戦布告か。だが……それだと残りの人物たちはどうなる? まさか複数人で統治など―――――)』


 「いえ、複数人での統治はありません。いま面を着けている者たちは私たちの従僕であり右腕です」


 『!?』


 「なぜ、考えていることが分かったのかという顔をしておられる。答えは単純、私は他者の思考を感じ取ることが出来るからです」



 本当に考えていることをピタリと当てられてしまったことにクシャナは誰だ見ても分かるくらいに驚いていた。

 そしてその驚愕には幾分かの畏怖も含まれておりクシャナの顔に冷や汗が伝った、こんな者たちがこの世界に存在していたのかと。



 イグニスともアザミとも響とも違う魔力や戦闘センスの気配。

 数より勝る質、というのはこういうことを言うのかとクシャナは実感していた。





 「さて、ではそろそろ動くとしましょう!」





 アザミは珍しく声を張って一つ手打ちをすると神族たちは一斉にどこかへと転移した。

 それからアザミは手を大きく上に広げてぶつぶつと呟き始めた。

 すると急に空が曇り始めた、黒く鉛のように重たそうな雲が魔王城周辺の空を覆い尽くした。

 遠方から見えれば一か所だけ曇天という奇妙な光景に映っただろう。

 


 そして、それは起こった。

 渦巻くようにして発生した鉛のような雲の中から複合魔物たちが飛び出てそれぞれ遠くの方へと全速力で翼を羽ばたかせて飛んでいった。

 その方向は各大陸の王都目がけて飛んでいったものだとクシャナは直感で判断した。



 「……残るはあなただけですが」


 『っ!!』


 「()()()()()()()()()()


 『――――――なっ!?』


 「私が見逃している内にさっさと失せなさい、クシャナ警備隊長」



 アザミはそう言い終えるとクシャナに背中を向けた。

 クシャナは一瞬目を丸くして驚いたかと思うとすぐさま下唇を血が滲むほどに噛み、アザミに背を向けて走り去っていった。



 その後、使用人の一人が怪訝そうな顔をしてアザミの元にやって来た。

 どうもクシャナが王室から一心不乱に走って行くのを見たらしく、何があったのだろうかと気になったのだとか。



 それに対しアザミは「彼女は少し疲れているだけです」とにこやかに伝えた。

 使用人は完全には納得のいっていない様子だったがこれ以上追及するのもはばかられたため一礼して部屋を後にした。

 アザミは王室のドアを閉めて玉座に座って足を組み肘をついて不気味に「くかか………!!!」とさぞ愉快そうに嗤った。



△▼△▼△▼△



 「なんだ……?」


 『複合魔物が、どこかへ飛んでいったみたいだな……作戦ではまだ温存しておくはずなのだが何故……?』


 「……嫌な予感がするな」



 複合魔物たちがどこかへと飛んでいく光景に魔族の兵たちも違和感を覚え、響たちは妙な胸騒ぎを感じていた。

 妖王大陸にてイグニスが現れる前のような胸がざわつく感覚、あの時に近い呼吸が無意識的に早くなるような本能的な感覚。



 その時だった、響が呼び動作なしに急に明後日の方向に向かって発砲した。

 突然の発砲音に一同はびっくりして肩をビクンと震わせなんだなんだと一斉に響きの方に視線を寄せた。

 だが響は攻撃の手を止めず緋級や壊級の魔法をも使い始め、壁や床は崩壊していた。



 「ヒビキ!!! 一体何を……何が見えているんだお前には!!!」

 「――――――――!! グリムさん、頭下げて!!!!!」



 叫ぶグリムにそれ以上の声量で響は返し、ハンドガンをグリムの方へと向け発砲した。

 グリムは響の注意喚起ではなく発砲されたことに対して反射的に頭を下げた。

 そしてその背後で銃弾が何かを貫き、後ろを向いたグリムの顔に血液が跳ねた。



 



 『早い。それに、見たことない飛び道具だ。魔法の類ではないな。ふむ、面白い、興が乗ってきたぞ』






 グリムの後ろにはアザミの側にいた神族の内の一人が立っていた。

 しかしながら響たちがそのことを知る由もなく、響たちからしてみれば得体の知れない人物がそこにいるという認識にしか他ならない。



 「(ヒビキ、ここから逃げろ)」


 「(椿……?)」


 『………この気配、なるほどなるほど。我々以外にもいるのか』



 神族の一人はふふふと笑いながら首をコキコキと鳴らした。



 『殲滅にはちと少ないが……楽しませてもらおう』


 「(来るぞ! 構えよ!)」



 そうして不意のエンカウントは戦闘へと発展してしまった。

タイトルに意味はないよ

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