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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第九章:世界の命運が握られているようです
183/221

暴発のお話。

気づいたらこんなに間が……

 「暗殺……出来ますかね?」


 「別に、完全に気づかれずに殺すって訳じゃない。まぁ聞け」



 グリムはにたりと笑った。



 「冷静に考えて、兵たちがこの場所一点に一気に流れ込んだら間違いなくこの街は滅ぶ。それだけは避けなきゃならん。それにそうなった場合今度は私たちが魔族から恨まれる、そうなれば今度は魔族たちが私たち他種族に対しての戦争を起こしかねん、もしそうなっても一種族だけなら間違いなく勝てるだろうが魔族という種族そのものがなくなるやもしれん。それもまずい」


 「まぁ、そうですね」


 「だが私たちは魔族の現トップを殺さなければならない」


 「そう、ですね」


 「なら気づかれずに殺したのなら後から私たちはなんとでも言い訳し放題、あからさまな敵意を買うことも少ない。それに少数で向かってるのなら大人数を相手取るのは分が悪い、なら暗殺がベストアンサーではないかと思ったのだ」


 「そう……ですか?」



 響は小首を傾げた。

 たまにグリムさんは脳筋理論に近いものを提案するなー、などと思いながらも一理あるかと同調もしていた。

 確かに言葉の通りではあるがそんなに上手くいくものだろうか、確実に大魔法と大魔法のぶつかり合いになることは火を見るよりも明らかなのではないかとも響は、いや、グリムを除く皆は思っていた。



 グリム自身もその可能性は十二分にあると考えているし、自分で提案しておいて暗殺できる可能性は限りなく低いと見ている。

 ならなぜそれを提案したのか、グリム曰く、そうでなければならないのだという。

 全くもって意味が分からないがグリムは「すでに仕込みはしている」と強気の発言、ひとまず響たちはグリムを信じることにして王城内部潜入の方法を考えることにした。



△▼△▼△▼△



 現在、響たちは城壁にへばりつくようにして横一列に並んでいる。

 これによってこの場所はある種の死角になっており、存在を感知されること可能性がかなり低くなっている。

 そして門番二人を無力化したため突入するタイミングはこちらに依存され、先手を打つアドバンテージを得ることが出来た。

 なら後はこのアドバンテージを無駄にすることなく、かつ秘密裏に潜入できるかにかかっている。



 だがグリムは堂々と正面玄関から参いると宣言した、それでは暗殺の意味がなくなるのではないかと響たちは思った、しかしイグニスだけは賛同した。

 何故正面玄関から堂々と行くのか、それにはちゃんとした理由がある。



 「じゃあ……そうだな。セイヤ、正面から行ったらどうなると思う?」


 「え……えぇっと、敵に気付かれる……?」


 「そうだ。じゃあアズサ、敵に気付かれたら敵はどうすると思う?」


 「私たちを倒そうとする……?」


 「当たりだ。ではそのまま私たちが城の中に潜入してそのまま潜伏し続けたらどうなると思うアリア」


 「警戒し、あらゆる可能性を考慮して捜索する」


 「捜索するとどうなるヒビキ」


 「捜索の手と城を守る手の二つに分かれる……警備が、薄くなる……?」


 『ソレダケジャアナイ。自陣ニ、知ラヌ間ニ、敵二侵入サレテイタノダゾ? 当然アノ女ハ平然ナ顔ヲシテ内心穏ヤカジャナイハズ。ソウナレバ集中力ガ分散サレテ周リヘノ警戒ガ疎カニナル』


 「つまるところ、不意を突きやすくなる。しかも警備兵たちもいつ後ろから刺されるか分かったもんじゃない。私たちが警備兵の鎧を奪って紛れているかもしれない、その思考に陥ったが最後―――――」


 『城ノ中ハ疑心暗鬼デ満チ溢フレ、内部崩壊スル』



 確かに、自分の陣地に敵に忍び込まれたわかれば自ずと警戒しなければならず、相手の行動パターンが読めなければ思考を巡り巡らせる羽目になり何も信用できなくなる。

 そのことを見越しての正面からの突撃、バレれば上記のルートに、バレなければバレていない状態のまま潜伏を続けるのみ。



 「それなら確かに少しは現実味あるかもしれんな……」


 「だろうハイライン。んじゃ行こう、さっさと終わらせよう、このくだらない戦いのトリガーを」


 「グリムさん………あの、キャラ変わってませんか? なんか震えていますし……」


 「ん? あぁ、これは武者震いだ、気にしないでくれ!」


 「え、なんでそんなに笑顔なんですか……?」



 響の問いに、満面の笑みで答え、グリム以外の面々は若干引いていた。

 それと同時に思った。

 




 「あれ………? なんか嫌な予感がするぞ………?」と。





 響たちは今まで数々の戦闘を乗り越えてここまで来た、それは無論勇者たちやイグニスだってそうだ。

 アリアやハーメルンにグランとレイヴン、それから女神であるリナリアだって相当数の戦場を乗り越えてきている歴戦の猛者たち。



 自らの危険を察することが出来る直感だって知らぬ間に鍛えられ敏感になっている、言わずもがなそうだ。

 しかしこの度のグリムの笑顔は命の危険を感じさせるような嫌な予感を呼び起こすのではなく、全く別の漠然とした嫌な予感を呼び起こした。




 分かりやすく言えば「あれ、なんかこれヤバくね? グリムさん暴走するんじゃね?」的な直感だ。




 勿論グリムに響たちのそんな漠然とした嫌な予感が分かるわけもなく、正門から突入するタイミングを伺っていた。

 グリムの武者震いは段々と激しくなり、文字通り体が疼いていた。

 そしてグリムは響に「光を放つ道具は作れないか?」と尋ね、響は能力で閃光手榴弾を作り、それをグリムに手渡すとグリムは大層満足げな顔をして使い方を響にレクチャーしてもらった。



 「セイヤ」


 「は、はい」


 「今すぐ人王大陸に転移してナギサを引っ張り出してきてくれ」


 「分かりました」



 影山はいくつか転移を中継しながら人王大陸に辿りつき、待機していた凪沙の元へと向かった。

 困惑する居残り組に一体どうしたのかと聞かれながら影山はグリムの指示だとということだけを伝えて凪沙の腕を引っ張り、転移を繰り返して一分ほどで戻ってきた。



 「あの、え、なにがあったんですか?」


 「おおよく来た。ナギサ、早速で悪いが城の玄関付近にはどれくらいの敵がいる?」


 「え、あぁちょっと待ってください………四、いや五人います。正面玄関にはいなくてまばらにいる感じです」


 「じゃあ正面に何かあれば全員そっちを振り返ると思うか?」


 「? ええ位置的には……」


 「よし、じゃあ完璧だ」




 グリムは再びにっこりと笑って閃光手榴弾のハンマーを起こしてセーフティピンを外しレバーを握り、開いているもう片方の手でちょうど閃光手榴弾が入るくらいの大きさの穴を魔法でぶち開けた。




 当然玄関周辺にいる使用人や警備兵たちは音に気付いて一斉にそっちを振り返った、そしてそのタイミングに重なるようにグリムは閃光手榴弾を投げ入れ、全員の注目が集まったところでそれは凄まじい光を放って使用人たちの視界を奪った。




 「突撃だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああふうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!」





 あぁ………うん、まぁ、こうなるとは薄々分かっていたけどね…………うん。

 





 「どうしてこの世界の人はみんなバーサクするのかなぁアリア先輩」


 「ははは。僕に聞かないでおくれよマイダーリン。それよりどうしよう、胃が痛くなってきたよ僕」


 「俺は頭痛が」


 『俺様ハ吐キ気ガ』


 「「いやお前もかい」」



 まさかイグニスまでこの流れに乗ってくるとは思わなかった響とアリア、しかし彼の顔を見るに本当に引いていた。

 まぁそりゃあそうだろうなと二人は思った。

 もう彼女のキャラは完全に初期のそれとは大きくかけ離れてしまった、クールビューティーな大人の女性というイメージは脆く儚く崩れ去ってしまった。



 「俺らも行くか……」


 『ハーメルン様、顔色が悪いようですが』


 『大丈夫大丈夫。ちょっと呆れてただけだから』



 響たちは衝動に駆られて無我夢中になっているグリムの後ろから固まって移動し、ほぼ作戦が決壊仕掛けている状態で突入していった。

グリム、壊れる

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