二度目のパーティープレイのお話。
朝のギルドは静かな喫茶店のような雰囲気だと思ってください。
チュンチュン、チュンチュン……
目覚まし代わりの小鳥のさえずりとカーテンから差し込む太陽の光が、響を微睡から呼び覚ます。大きなあくびをしながら体をグーッと伸ばしてため息を一つつき、今日もまた学校かなどとありふれたことを思いながら、顔を洗うために部屋を出ようとしてドアノブに手をかけたその時、
バン!!
「ブベラッ!!」
「おはようヒビキ君! いい朝だね! ってあれ? ヒビキ君がいない」
「……おはようございます先輩。おかげで目が覚めましたよ、ええとっっっっても!!」
ドアノブにスイッチでも仕込まれていたのだろうか触れた瞬間烈火の如き勢いで外からドアが開かれ、響の顔面を寸分の狂いもなく捕らえる。もしこれが予想された出来事であったなら響の実力なら腕でガードするなりなんなりして負担を軽減できたであろう。ただ今回ばかりは何の気配もなく気が付いたら顔面にダイレクトアタックされてしまったため、しばらく自分の身に何が起きたかまるで分らなかった。
「おやそれは良かった、いい朝だねヒビキ君」
「あなたの中でこれをいい朝と呼ぶのであれば俺は一日でその生活に音を上げるでしょうね」
「おはよ~ヒビキ~、朝ごはん出来てるから早く顔洗ってきなさい」
「母様もだいぶ慣れてきましたね……」
前回マリア達が押し入って来た時も特に動じず、さも家族のように扱っていたことから母様の器の広さを感じる。そのうち響が家に帰ってきたらランダムで誰かがくつろいでるなんてことにならなければいいのだが。
まあ朝からそんなグダグダコントをやっていても仕方ないので諦めて普段通りにすることに決めた響をよそに、アリアは早々に人の家の食卓に着いてパクパクと朝食を食べている。響自身、母様と父様がこの状況になれるのは百歩譲ってまあなんとなくいいと思っているのだが、カレンが慣れていることが今だ響には落ち着いていられるのかが分からなかった。元々落ち着いた感じの人だからと言えばそうなのだが、せめて誰か一人くらいこの状況にツッコミを入れてほしかった。
響も同じく食卓に着いて朝食を食べ始める。今日朝っぱらからアリアが家にやって来た理由だが、今日は最初からギルドの任務が入っていてそれを伝える為にわざわざ突撃してきたと言うのだが。
「なんで昨日伝えなかったんですか先輩」
「いやー昨日ちょっと忘れてて」
「本当は?」
「突撃! 後輩のお宅訪問をしたかったから」
「素直でよろしい」
響だってアリアがただのちゃらんぽらんだとは思っていない。この人はこう見えてちゃんとやることはやるタイプで、重要な連絡事項とかは密かにメモ取ったりして忘れないようにしているくらい根は真面目な人なのだ。以上のことから考察するにほぼほぼ面白そうだからということは顔を洗っている最中に気が付いていた。まあ案の定だったため特に驚きもしなかったのだが。
朝食を食べ終えて制服に着替えてアリアとともに学校ではなくギルドへ向かう。ちなみに梓と影山には昨日の内にちゃんと伝えてあったらしいので本当に突撃!後輩のお宅訪問をしたかっただけだったようだ。
いつもならまだ眠たい時間帯で、任務中にあくびがでそうな響だが今回ばかりは誰かさんのおかげで朝から討伐任務も難なくこなせそうだ。
ギルドに着くとロビーにはつい最近見た覚えのある二人組がテーブルでコーヒーと思しき飲み物を飲んでいる、片やイケメン片や美女の勝ち組ゴールド級冒険者のレイとヴィラがそこにいた。奥の方に座っていたレイが響に気が付き、ちょいちょいと手招きをする。アリアに一言いって二人の方へと足を運ぶ。
「こないだぶりだな、少年」
「先日はご迷惑をおかけしました」
「ああいや別にいいんだよ、俺らもあれが仕事の内だからな。今日は朝から任務?」
「はい、お二人もですか?」
「まあね。そういやこの前は気づかなかったけど君のツレは【ゴーレムガール】か、中々いいじゃないか少年」
「ゴーレムガール?」
「君のツレの通り名だよ。彼女のスキルは知っているだろ? そこからそのまんま付けられたんだよ。なんだっけ名前……ヴィラお前覚えてるか?」
「アリア・ノーデンス、だったと思うわ」
「ああそうだった!」と大げさなリアクションで思い出した様子のレイを冷ややかに見て再び飲み物を啜るヴィラ。そこへ後ろからアリアがやって来て会話に混ざる。
「どうも諸先輩方、うちの後輩が迷惑かけてないですか?」
「噂をすればなんとやらだな。別にいじめちゃいないぜ? ゴーレムガール」
「その名前はあまり好きじゃないんだがねえ、まあ覚えていてもらって光栄だと思っておこうかな」
朝から楽し気なのかは分からないが先輩冒険者達とお喋りをしていると、レイが思い出したかのように掲示板の方へ向かい張り紙を一枚取ってきてテーブルの上に叩きつけるように置く。張り紙の内容は上級魔物であるスレイプニル種の討伐という明らかに高レベル冒険者向けの内容のものだった。中身はもう立派なおじさんの年齢になりつつある響はアニメやゲームなどの経験からこのイベントがこの後どうなるのかが若干予想がついてしまっていた。勿論、悪い方の予想であることは言わずもがなだ。
「どうだ二人とも、一緒にこの任務受けてみないか?」
ほぉらやっぱりこうなった。思い描いていた悪い予想通りになったことで朝から倒れそうになる響とは対照的にアリアはニヤリと笑って「ほお……」という感嘆のため息を漏らしていた。
「面白そうですねぇこれ、お二人が良ければぜひお願いしますよ」
「よし来た! ヴィラもどうだ、たまにはこういうのもいいと思わないか」
「別に構わないわ。まあ足手まといになるようだったら見捨てるけど」
「んじゃあ決まりだな。受付してくるからちょっと待ってて」
「ノーデンスの方はいいとして、そっちの少年の階級足りてんの? それくらいの難易度だと、受注にも規定があったはずだったはずだけど」
レイの周りだけ時間が止まったようにピタリと動かなくなってそのままゆっくりとこちらに振り向き、見てはいけないものを見てしまったかのような表情を浮かべる先輩ベテラン冒険者。
完全に失念していたレイはどうしようかと唸りながら現状を打破しようとするが中々出てこないようで、その場をウロウロしている。そしてついにハッと顔を上げて響の方へ寄っていく。考え出した案とは、この前の爆発で魔物の大群を壊滅させた実績で何とかならないだろうかというお粗末なもので、これを聞いたヴィラがゴミを見るような冷ややかな目でレイを見下していた。
物は試しと階級が上がっているかどうかだけ確認することになった。階級が上がる条件はその階級ごとに変わっていき段々難しくなっていくが、条件を満たしているときはネームプレートが光り輝いているからすぐに分かると言うのだが。
とりあえず確認しないことには始まらないので一回響のネームプレートを出して確認することになった。響の手首に入れられた刻印から魔方陣が浮き上がり一枚の銅色の板が出てくる。そしてそれは、先ほどのレイの証言と同じく光り輝いていた。
響は急いで受付に行きランクアップの申請をしたところ、どうやらブロンズからシルバーに上がるための条件を二倍近く満たしていたようで、条件を上回った分はシルバーからゴールドに上がるための条件に繰り延べられ、ネームプレートも鈍い銅色から光沢のある銀色へと変化していた。
なんかあまりにもあっさりとした階級の上昇だったためよく実感が沸かない響にちょっとテンション高めに「おめでとう」と言ってくれるレイ。その祝福の言葉には安堵の声が混ざっていたことを響はしっかりと耳でとらえていた。そこまでして連れて行きたかったのだろうかこの人。
「全員シルバーなら受注できるだろ、んじゃあ改めて行ってくる!」
「そういやアリア先輩、学校からの方はいいんですか?」
「いいのいいの、どうせすぐ終わるんだから。それにこういうのって楽しそうでいいじゃないか、少なくとも僕はこういうの大好きだよ?」
「……まあどうせそんなことだろうと思ってましたよ」
「三人ともネームプレート見せるからちょっと来てー」
受付からレイが三人にネームプレートの提示を呼びかけたのを皮切りに全員がそちらへ移動して順にプレートを提示していき無事全員が任務を受注することが出来た。
「まだ任務経験二回目なのにもう上級魔物討伐とか本当に勘弁してほしい……」と、内心響は思いながらその気持ちをぐっと抑えて我慢する。アリアの方をちらっと見ても助けを求められないのは分かっている、分かって入るがこの人がどんな表情をしているのかが気になって横のアリアを見てみると案の定口角を上げてこの上ない優越の顔をしていた。流石うちの生徒会長様は肝が据わってらっしゃる、それを見習って響も覚悟を決め、せいぜい死なないように気を付けようと思う。ガンガンなんていかず命を大事にしていくスタイルだ。
「じゃあそのあたりの店で必要なもん揃えてから行こうか」
「くふっ、賛成しますよレイ先輩?」
マジで楽しそうだなこの人……。
この世界に来てから偏頭痛が多くなった響であった。
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