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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第九章:世界の命運が握られているようです
177/221

ガラクタのお話。

そんな派手ではないかな今回

 「総員、構え」


 

 スラインのその言葉で兵士たちは一斉に魔方陣を展開させた。

 依然として濃霧は晴れず、辺りは五月蠅い人形たちの飛び回る音で持ちきりになっていた。



 スラインはこう指示した、「範囲攻撃を行え」と。

 人形たちの移動速度は人のそれを超えている、そんなことはスラインを始めとした全妖族の兵たちみんなが感じ取っていた。

 狙撃などによる各個撃破などは不可能ではないが現実的ではないし何よりも魔力と時間と集中力の無駄以外の何物でもない。

 点で太刀打ちすることはまず無理、ならば面で攻撃すればいい、故の範囲攻撃。

 


 人形たちの行動パターンがあらかじめプログラムのように設定されていて、人形たちはそれに沿って動いている、といった風ならば別に単体攻撃も不可能なわけではないし予測して攻撃できるならむしろそちらの方がありがたい。

 しかし相手がそんなちゃちなことをするはずもない、このことも妖族の兵たちは認識していた。

 別に狙撃に自信があったりどうしても単体攻撃が宜しいという輩には好きさせればいい、それで倒せれば凄いじゃないかの一言で終わるし、死んだのならばやっぱりかの一言でどの道を終わり。



 そんなピンキリな結末よりずっとこちらの指示の方が最優ではないか、スラインは重ねてそう言った。

 未だ人形たちは攻撃を仕掛けてはこない、こちらの隙を伺っているのだろう。

 ならばその行動に甘えさせてもらうとしよう、スラインは両腕に魔力を込めた。



 「――――――攻撃開始っ!」



 スラインの攻撃、そしてそれとタイムラグがほとんどない()()()()()()()()()()

 スラインたちの攻撃は一瞬で辺りを火の海さながらの業火へと早変わりした。



 するとどうだろうか、先ほどまでは濃霧の中をさかった獣のように五月蠅くはしゃぎまわっていた人形共はうんともすんとも言わない沈黙するだけのただの名もなき物質に成り下がった。



 そしてその膨大な火力、その膨大な魔力、その膨大な範囲に渡って繰り出された魔法によって濃霧が晴れた。



 「記憶してください、今見ているもの全て!」



 ドールの位置、人形たちの残りの数、他の仲間たちの位置や自分たちの位置、周りの風景から今どこにいるのか、その他諸々全てを一切合切を自分の記憶できる物を出来る限り頭の中に刻み込めとスラインは全兵に指示した。



 再び霧が元に戻っていってしまう、ただその間にスラインはこう思っていた。

 これだけ広範囲にわたる濃霧が自然現象によるものなのであれば事前に情報が他の種族にも伝わっているはずであろう。

 恐らくこれもドールの魔法によるもの、だとすればかなりの魔力を常に消耗しているはずである。

 


 しかも人形たちを動かすにも恐らく幾分かの魔力を消耗しているはず。

 となれば向こうは短期決戦を少なからず望んでいるだろうと推測・判断し、()()()()()を考えた。



 「ラフィーリア・シャルロッテ。どこにいます?」


 「御前に、スライン様」


 

 スラインはかつてアリアとも手合わせをした自称天才少女ラフィーリアを呼び、ラフィーリアはすぐさまスラインの前へと跪いた。



 「ラフィー、私はあなたの才能を買っています。あなたは天才少女だと思っております」


 「ほっ!? えっ、あっ、まぁ、わっ、んん!! 私は、そう自負しておりますのでっ!」


 「そんなあなたに私から直々に命をくだします。よく聞くように」


 「はい!」


 「この霧がどこまで広がっているか調べてきてください」


 「こ、この霧の中をですか!?」


 「天才ならば、出来ますよね?」


 「…………お、お任せください!!!! このラフィーリア・シャルロッテ、見事に命令を果たしてきましょうぞ!!!」



 よほどスラインから「天才」と言われたのが嬉しかったのかラフィーリアは全速力で()()へと飛び、急上昇した。

 飛んだ、というよりは魔方陣を作ってその上を踏んでごく小規模なダメージなんてほとんどないくらいの爆発を起こしてそれを原動力に上昇していた。



 「……なぜ彼女は上に? 走って調べてこいという意味だったのでは……」


 「いえ、私は最初からこの結末を期待していましたよ。走って外周を見るよりは、真上から見下ろしてどこまで広がっているかを調べた方がずっと分かりやすいですし効率的です」


 「……なるほど」



 ラフィーリアが霧の範囲を調べている最中にも絶えず人形たちの攻撃は続いていた。

 関節から刃物、指先からは魔法弾、時には自爆する厄介な代物。

 妖族側の被害も決して軽視できておらず、どうやら刃に毒を塗ってあるようで治癒にどうしても時間が通常の傷よりもかかってしまう。



 依然としてドールの動きも分からない、そんな折、真上からラフィーリアが落ちてきた。





 「スライン様~~~!!!!」


 



 落下してくるラフィーリアをスラインは涼しい顔で受け止めて「大丈夫ですか?」と話しかけた。

 ラフィーリアは急いでスラインから降りて自分の見たものを伝えた。



 「あ、えっと、霧は円状に広がっており、半径およそ十キロ。ここから北西に約五十キロほどのところに獣族の兵たちが見えました。現在行進中の様子です!」


 「ふむ…………なるほど、分かった。それくらいの範囲なら十分消し飛ばせる」


 「消し飛ばせる……って、何をでしょうか――――――――」


 「ラフィー、力を貸しなさい。いいですね?」


 「えぇ? えと、はい。承知いたしました! よく分かりませんが!!」



 何に力を貸すのだろうかとラフィーリアは戸惑いながらも断ることも出来ずに大きな声で返事をした。

 スラインは周りの兵たちを先頭へと向かわせてラフィーリアに自分に迫ってくる敵に迎撃を頼み、自分はしゃがみ、魔力を両手に纏わせて地中に両手諸共突き刺した。



 「私がいいと言うまで、護衛を頼みます」


 「了解しました! 指一本触れませんとも!」


 「頼もしい。出来次第では、戦闘が終わっていき残っていたらあなたの名を広めてあげましょうかね」


 「っ~!」



 ラフィーリアはガッツポーズをして魔力をほとばしらせて「よっしゃこーい!!!」と張り切っていた、スラインはその様子を見て微笑ましそうに見て自分は自分の仕事に着手した。



 


 

 「…………………………」






 ラフィーリアが迎撃する中、スラインは一切動じずにただじっと黙っているだけ。

 一体何をやっているのか聞こうにも防衛に必死で聞こうにも聞けなかった。

 


 『……一体何をボーっとしているのでしょうね、そちらは』


 「しまっ―――――」



 スラインとラフィーリアは各々自分の作業で意識が一杯になっていてそれ以外のことに注意を払うことが出来なかった。

 そのせいで超至近距離にまでドールの接近を許し、ラフィーリアは不意打ちで吹き飛ばされてしまった。

 すぐさま反撃に向かおうとするラフィーリアだったが人形たちに群がられており身動きが取れない。



 「スライン様っ!」


 

 叫ぶラフィーリア、真横に立つドール。

 しかし、なおもスラインは動かない。



 『なぜ動かない。すでに君には死が迫っているのだぞ』


 「………」


 『答える気はないか……………なら死にたまえ』


 ドールはパチンと指を鳴らすとどこからともなく人形たちが四方八方から刃物を出して一斉に襲い掛かった。








 



 「接続リンク完了」










 しかし人形たちの刃はスラインに一切触れることすら叶わなかった。

 そして――――



 『ごはっ!!?』



 ――――ドールの心臓を的確に、細く鋭利な土の槍が貫いていた。

 それどころかラフィーリアが相手をしていた人形たち、そして他の兵たちが相手取っていた他の人形たちも軒並み。



 「―――――ふぅ。初めてやったけど何とかなったか」


 『なに…………を……………した…………?』


 「なに、って。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 


 いきなりとてつもないことを言いだしたスライン、心臓を貫かれながらも必死に何がどうなったのか思考を巡らせた。

 だが結論が出るわけもないだろう、スラインは立ち上がってパンパンと衣服の汚れを払って口角をニタリと気味悪く上げながらドールに向かって言った。




 「()()()()()。こんなちゃちなおもちゃでどうにかなるほど世の中甘くねぇぞ。そんで、()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 とてもスラインの声とも言い方とも思えないほどドスの利いた声で吐き捨てるようにドールにそう言った。

 スラインが一つ手打ちを鳴らすと土の槍は瞬く間にボロボロと崩れ去って元の土へと還元された。



 スラインは長い長いため息を吐いてラフィーリアの方を向いた。

 すでに霧は晴れていた。




 「怪我はなかったかい?」


 「は……はい」


 「うん。じゃあ全軍進軍だ、結局人形と霧の仕掛けは分かんなかったね」


 「り、了解………」



 スラインは何事もなかったかのように支持を再開して行軍を始めた。

 ラフィーリアはしばらくの間頭がボーっとしてどこか白昼夢に近い状態に陥っていた。

 





 依然として、スラインは人当たりの良い表情をしていた。



















 かつて、彼がまだ勇者ではなかった頃。

 彼がまだ冒険者として生計を立てていた頃、あまりにも慈悲をかけない戦いっぷりや容赦なく人を殺してしまうことから冒険者たちからも恐れられ、一時期国内だけとはいえ謹慎令が発令されていたほど、頭のネジが外れていた。




 



 妖族勇者スライン。

 またの名を、「狂戦士バーサーカー」スライン。

 そのことを、まだラフィーリアは知らなかった。

次回投稿はまたいつも通りとなります

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