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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第九章:世界の命運が握られているようです
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傀儡のお話。

妖族編

 竜族のゼノたち、獣族のハイラインたちがそれぞれアザミ親衛隊を打倒した頃。

 妖族のスラインたちにも魔の手が忍び寄っていた。



 「………霧?」



 ハイラインたちの周りにはいつの間にか霧が立ち込めていた、しかもそれなりの濃霧。

 かなり広範囲にわたって霧がかかっているようで先ほどまで見えていた他の部隊の姿が全く見えなくなっていた。

 ハイラインたちの役割は全軍のバックアップをメインとしているため結構な範囲に渡って部隊を展開させている、そのため連絡は密にしなくてはならずそれが途絶えるということはそれだけでかなりの危機的状況になることも考えられる。



 「各部隊への伝達が生きているか確認です。この濃霧……万が一があれば対処するのに時間が――――」



 スラインがそう命じようとした時、霧の向こうから一つの真っ黒い影がこちらへと迫っているのが分かった。

 しかもそれは山なりに投擲されたかのように放物線を描きながら上から迫っていた。

 スラインは冷静に距離を取って防御魔法を展開して警戒した。





 濃霧の中から現れた物体、その正体が霧を抜けてはっきりとスラインたちは目撃した。

 




 「っ! なんだ……これは………」




 霧の中から現れた物体の正体、それは()()だった。

 人形と言っても一般のそれではない、人の背丈ほどの大きさがあり体の全てが無機質で構成され木目のような模様も確認できた。

 人形は地面にべしゃりと叩きつけられるように落ちると数秒の間動かなかった、が、いきなり動いたかと思えば木と木がぶつかり合うような「カタカタカタカタカタ…………!」という笑い声のような音を出しながら他の兵には目もくれずスラインだけを狙って直線的にやって来た。

 


 それを見たスラインは両腕を広げ、人形の周りに立方体を四等分したような部品が浮かび上がらせた。



 「緋級空間魔法――――キューブアウト」


 

 スラインが両腕を広げた状態から勢いよく戻すとその四つのパーツは人形を四方向から襲い、その名の通りキューブ状の一つの箱となって人形を閉じ込めた。

 箱の中でドンドンドンと内側から脱出を試みる人形、スラインは手の平を合わせて力を込めると人形は悶え苦しみ凄まじい圧力がかかったのであろうか爆散した。



 スラインが魔法を解除すると空中でバラバラになったその人形の残骸が落ちてきた、スラインは兵たちに今すぐこれらを調べるように指示、同時に他の部隊への通信が可能かどうかも確認させた。



 「……もうすでに何かの罠にはまったか、私たちは」


 

 スラインがぼそりとそう呟くとあちらこちらから何やら不気味な音が聞こえ始めた。

 それは先ほどの人形のカタカタカタカタカタという音と同じ、だが音はどんどん増えていって辺りは夏に蝉が鳴くように一体を埋め尽くした。



 次第にその無機質な音に交じって人の声も聞こえ始めた。

 そしてすぐに気づいた、それが悲鳴であることに。



 「な、なんだ、こいつら………あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 「やめ……来るな来るな来るな来るな来るなぁぁぁぁっぁ!!!!」


 「くそっ! こいつら、際限なしに沸きやがって………!!」



 半分はダメージを受けたか死んだかの悲鳴や断末魔、もう半分は分析や焦りによる大声。

 段々と増えていくその声の数々にスラインの周りの兵たちも怯え、焦り始めた。



 「焦らない。焦ったら、それこそ相手の思うつぼです」


 「ですが……!」


 「すでに魔力探知はかけてあります。多すぎる魔力反応の中に一つだけ、他とは比べ物にならないくらい大きな魔力反応がありました。恐らくそれが親玉でしょう。なので―――――」



 スラインは魔方陣を四つ等間隔に直線に並べ、魔法を充電し始めた。



 「――――なので、とりあえずそこを狙撃します」



 スラインは一発の魔法弾を放ち、それは四つの魔方陣を通過するたびに加速していった。

 霧の中へと消えていく魔方陣、やがて何かが壊れる音が幾重にも重なっていきそれが聞こえなくなった頃、どこからともなく拍手が聞こえてきた。




 『ふぅむ。いやはや見事なり、流石は勇者の名を背負うだけはある。冷静な対処だ』




 上位の者たちは相手を称えるところから始めよ、とでもアザミから指示されているのだろうか。

 ゼノと戦ったフール以外はまず仕掛けを見破ったこと自体を褒めてから相手と対峙していた、そして今回もその例に漏れず段々と霧が一本道に晴れてきた。



 『ごきげんよう勇者様。私の人形はどうかね?』


 「随分と使い勝手のいいものを手に入れたものだ。いい戦い方だ、壊れてもまた直せばすぐに補充できる」


 『そこが私の人形たちの利点なんだが如何せんかさばる。それでも、大勢で移動するよりはずっと効率が良い』



 霧の向こう、スラインが魔法で切り開いたその先に立っていた白髪で白い髭を蓄えた人物。

 その者は自分の名を『ドール』と名乗った。

 人形の名を冠した人形使い、まるで本末転倒なドールの事をスラインは観察していた。



 「(物理的な操縦ではない………となれば魔法かスキルで操っている見て間違いない。問題はあの人形事態にどれほどの仕掛けがあるか……そして数か)」



 落ち着いて対処するスライン、恐らくドールもそのことを分かっているだろう。

 再び辺りからはカタカタカタカタカタと不気味な音が聞こえ、霧が元に戻っていった。



 『では戦いの続きと行こう。生憎私はこのまま戦わせてもらうよ? 格闘戦は苦手でね』



 先ほどよりもより一層濃くなった霧に紛れて複数の影が飛び回る。

 それと同時に人形たちと戦う兵たちの声が聞こえてきた。

 そしてスラインたち主部隊の前には他の部隊よりもはるかに多い数の人形たちが展開され、人形たちはそれぞれ独立して魔方陣を展開し始めた。



 「メイガス嬢たちの元へ行くのは少々送れそうですね」



 スラインは首をコキコキと鳴らしてその魔力をほとばしらせた。



 


 「来い人形ジャンクたち。スクラップにしてやる」

名前は思い付き

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