親衛隊のお話。
時間がとれんのじゃぁ~
「ハイライン様っ! 前線部隊より連絡です!」
「あん? どうした?」
「新種の魔物が現れたようです。カテゴリや名前は不明、グリム様からの連絡では魔王大陸が独自に開発した複合魔物であるとのことです」
「複合魔物だぁ? なん…………なんだそりゃ。他に情報は?」
「対象は六体いる模様で、そのいずれもが魔物を産み落とすことのできる能力を供え持っており、そのストックは一体につき一万程度のことで本体を倒せばストックそのものも死ぬとのことです」
「無茶苦茶だなちくしょう。ともかく急ぐぞ!」
グリムたちより遅れながらも前線へと急ぐハイラインたち。
しかし――――
『待たれよ、獣族の兵たちよ』
――――ハイラインたちの眼前に二人の魔族が立ちはだかった。
その背後にはゼノたち前線部隊と同じように無数の魔物たちの軍勢が広がっており、魔族二人の傍らにはすでに息絶えて亡骸に成り果ててしまった先行部隊たちが文字通り地に伏していた。
同じような格好をした二人は一切の汚れのついていない衣服を正してハイラインたちに向き直った。
『我らはアザミ親衛隊、ナンバー2、カプリオール』
『同じくナンバー7、アナライズ』
「獣族勇者、ハイラインだ。んで、そこを通す気はなさそうだな?」
『無論』
『しからばやることは自ずと一つしかなかろう、獣族の勇者よ』
「……はっ、いいぜ。そっちの方がいっそ清々しい」
ハイラインはへらへらと楽観的だった顔から一変して急に戦闘の顔つきになった。
今まで響たちの前では格好をつけるために常にわざと余裕を残しながら戦っていた、そのため響たちはおろかグリムやスラインたちですらハイラインが真面目に戦うところを目撃したり逆に戦ったりする機会はほとんどない。
そして今、ハイラインはまるでスイッチのオンオフをするように軽々と気持ちの整理をつけて楽観から戦闘へと己を律して務めを果たすことを決めた。
ハイラインは地を蹴り、眼前の敵を排除すべく向かった。
あまりにも静かに、かつ力強く踏み込んだそのたった一歩はそれだけで影山の能力の初速を上回ったのではないかと思うほどの速度を出した。
一般兵たちや魔物たちには認識すらできず感覚としては瞬きをしたらすでにいなかった、それほどの速度である。
無論何かの魔法や能力を使ったわけではなく純粋な身体能力だけでここまでの芸当を成したハイラインは文句なく響たちの中で素のステータスが一番高いだろう。
ハイラインは僅か一秒二秒の時間でカプリオールとアナライズの目と鼻の先まで近づいた。
しかしハイラインは絶好の攻撃チャンスを使わずに何故か急ブレーキをかけて後方に飛び退き再び距離を取った。
たった数秒の間に行われたそのハイラインの行動に獣族の兵たちは一体何が起こったのか理解が追い付いていなかった。
だが当事者である三人ははっきりと何かを知覚していた。
『ほお。見たかカプリオール、今のを避けるか』
『流石、と言ったところであろうな。アナライズ』
「ちっ……めんどくせぇ」
「は、ハイライン様……一体何が起こったのか我々には分からなかったのですが………」
一般兵はおずおずとしながらハイラインにそう問うとハイラインはため息を吐いて頭をぼりぼりと掻きながら答えた。
「俺もよく分かんねぇが、恐らくあいつらは二人じゃない」
一般兵は沈黙して首を傾げていた。
しかしカプリオールとアナライズの二人は拍手をして高々と笑っていた。
その笑いはマジックの種をよくぞ見破ってくれたと言わんばかりの喜びから来る笑いでもあり、よく見破ったものだと相手を称賛する笑いでもあった。
『どこまでも驚かせてくれるなハイライン、第六感が鋭いな』
「つっても、どういう原理かは分からんがな。ま、やるしかないけどよ。おら、お前らもやるぞ!!!」
「了解!!!!!」
現在ハイラインら獣族サイドには魔族二人が仕掛けている「謎」が理解できておらず対処法も不明、それどころかこれで全部なのかそれとも他にまだ隠し玉があるのかどうかすらも不明な状況。
兵たちは自分たちではハイラインと魔族二人の戦いの役には立たないだろうと踏んで魔物たちの戦闘へ尽力した。
ただその中で三人だけ、たった三人だけハイラインの隣に立つ者がいた。
「お供します、ハイライン様」
「細かいこと抜きにすると、つまり全部ぶっ飛ばせばいいんだろ? なら得意だ」
「お城の外で戦うのは久方ぶりなのですが、これも仕事だと割り切りましょう」
獣族魔導学院生徒ソル・リーハウンナ。
獣王城メイド長フィリル。
そして獣族女神アキレア。
三人はハイラインと共にカプリオールとアナライズの前に立ちはだかった。
次回はこの続きから