新種のお話。
色々とどうしたものか迷う展開
「ゼノ!」
「……グリムか。遅かったな」
「竜化……か? それ。そこまでの相手だったのか?」
「いや、こっちの方が早かっただけだ。それより――――」
ゼノは聖戦武器の起動についてグリムに相談を持ち掛けた。
しかしグリムもまた移動中に起動を試してみたはいいものの全くもって反応してくれないため自分でも困っていた。
つまるところ進展はなし、ゼノはそれが分かるとフールについて説明した。
「さっき捕らえた。今はうちのが治療している」
『……フール』
『レイヴン。ここで会うとは思わなかったねー……ってそちらの方々はまさか……』
『あぁ。魔王軍幹部のハーメルン様とグラン様だ』
『私たちは元だけどね』
魔族たち四人は固まって互いに自己紹介的なものをし始め、その隙にゼノとグリムは現状の把握に努めた。
現状は竜族の兵たちが魔物を押しとどめているが数では負けている状態で、魔物たちの強さはそれほどでもないが流石に囲まれたりすれば一転して不利になってしまう。
グリムや響たちが介入すればその状況は打破できるだろうがまだまだ序盤の序盤、これからどれほどの魔物が出現してくるかもわからないし直接アザミの介入があるかもわからない。
「もうすぐ妖族と獣族の兵たちも合流する、今はこちらの兵だけで何とかなるはずだ」
「そうか。なら私たちは先に魔王大陸へと向かうとする、こちらは任せたぞ」
「それは構わないが…………ん? あれは――――」
そこでゼノが何かに気が付いた。
遥か遠方より迫る煌めく何か。
その正体が一体何なのかゼノには分からなかった、だが理屈では感じえない恐怖感をその肌で確かに感じ取った。
「――――――総員退避いいい!!!! その場から後退しろ!!!」
突如としてそう叫んだゼノに全員はクエスチョンマークを示した、兵たちは不思議に思いながらもゼノの言葉に従って魔物たちを警戒しながら後退した。
しかし、人間の足の速さでは迫りくる何かを回避することは出来なかった。
―――――ォォォォォォォオオオオオオオオオオオォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…………………!!!!!!!!!!
横一直線に飛来した光の矢、それは竜族と魔物関係なく一瞬にして蒸発させ後には消し炭すら残らなかった。
大地は焼け焦げ、膨大な熱量が陽炎を作り出し、見ているだけで体が燃えるようだった。
「な、なんだ……?」
『あれ、もしかして…………』
「何か来る……?」
フールが何か思い当たり、凪沙が適合能力で索敵を始めその正体を感知した。
やがて大空に羽ばたくその正体に全員が気づくことになった。
筋ばって骨の形と血管が浮き出ている黒色の大翼、血走った眼球に鋭く尖った牙、右に大きく裂け歯茎がむき出しになった口は血が滲み赤黒くなっていた。
それが今目に見えているだけで六匹、いずれも同じようなグロテスクな見た目をしていた。
兵たちはおろか魔物たちでさえもじっとその翼竜のような姿をした謎の生物をじっと見つめて動向を伺っていた。
六匹はボロボロの大翼をしばらくはためかせながらゆっくりと地上へと降り、血の底から響くような唸り声を上げて互いに共鳴し合うように狼に近い鳴き声を上げた。
――――ウォォオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ……………………!!!
その鳴き声の直後、六匹は翼を大きく広げた。
翼竜たちに翼から真っ黒い泥のようなものがぼとぼとと雫のように零れ落ちて地面へと着弾した。
するとどうだろうか、影のようになったその泥から這いずり出るように魔物たちが生まれてきたのだ。
しかもその全ては見たこともない魔物たちで体はそれこそ黒色で目だけが怪しく赤く光り、骨格を纏っているようだった。
影が骨の鎧を纏っているようなその異様な外見をした魔物は生まれて間もなくて意識がはっきりしないのだろうか辺りをキョロキョロと見渡すように首を振ってかしげると体勢を低くした。
六匹の翼竜は尚も泥をその翼から絶えず落とし、再び鳴き声を上げるとすでに生まれた魔物たちは兵たち目がけて一直線に襲い掛かった。
兵たちは防御魔法や盾を構えて隊列を組み防御しようとした、が、その攻撃力はすさまじかった。
盾や魔法にぶつかった瞬間に衝撃が術者に貫通して伝わり、突進の勢いだけが別の生命として襲ってきているかのような感覚に襲われたという。
「なんだあの魔物は……見たことがない。レイヴン、何か知らないか?」
『……あれは恐らく複合魔物だ』
「複合魔物……?」
聞きなれない言葉に首を傾げるリナリア、一方でレイヴンとフールの二人は何か覚えがあるらしい。
曰くアザミの指示の元で造られた魔物と魔物をつぎはぎに融合させたオリジナルな魔物らしく、その大きな特徴として自ら魔物を産み落とすことのできるという能力を持ち合わせている。
いわば空母のような役割を担っているらしくこの魔物が死なない限り魔物は生まれ続けるとのことだ。
しかし上限は勿論ある、無尽蔵に産出されてしまっては敵わない。
「ストックは?」
『恐らく一匹で一万体分』
「つまり六万か……厄介だな、くそっ……」
「ぐだぐだ言ってても始まらん。私たちもやるぞ」
グリムはアロンダイトと抜いて翼竜へと向けた。
それに合わせて響たちも能力や魔法を発動させた。
「何万だろうが関係ない。推して参るぞ!!!」
そうして響たちも戦いの渦中に誘われた。
数の暴力