聖戦武器のお話。
ようやく登場させることが出来たぜ聖戦武器
小鳥の囀り、木々の隙間からは木漏れ日が差し込み、その光が湖に反射してキラキラと輝いていた。
――――神域。
各大陸にあるその名の通り神聖な領域。
場合によっては王都とは比べ物にならないほど重要性が高くなるある種の禁断の地。
そこには大昔の戦争で遺った古の武器「聖戦武器」と呼ばれるものが保管・守護されており、ここへ入れるものはその国の長と勇者だけ。
しかし今回特例として響だけこの神域に立ち入ることを許可され、現在三人がこの神域に入っていた。
「なんというか………同じ大陸にあるとは思えないですね」
「私も初めて入る………空気が今までとはまるで違うな……」
「そうじゃろうな。儂もここへ入るのはもう記憶にないくらい昔のことだ」
国王ハーツ・プロトでさえここへ来るのは久しいと言う。
それほどまでにここへ来る機会は滅多に訪れず、それ故にこの神域の内情を知る者は片手で数えられるほどしかいない。
そしてそんな神域の中央に位置しているのが大理石の上に置かれ、四方を特殊な結界で囲われて守られている聖戦武器だった。
形状は一本の刀、鞘はなく持ち手の部分は黒く幾何学的な線が刻印されていた。
しかし真に驚くべきはその刀の美しさにあった。
太古の武器とは思えないほど刀身は美しく保たれて煌めき、毎日手入れがされているようだった。
しかしここへ立ち入ることが出来るのは国王と勇者の二人だけ、そして先ほどの国王の発言によりここへはかなりの期間誰も足を踏み入れていないことが分かっているためこの刀は太古からこの美しさを自ら保っているということなのだ。
「これが……聖戦武器……」
「近くにいるだけでも圧倒されるようだ………どうだヒビキ、模倣できそうか?」
「さっきから実はやってるんですけど、中々難しいです。なんというかイメージがつかめなくて」
響の適合能力でも複製できないほどの武器。
国王は二人の前に出て聖戦武器の正面に立ち首にかけてあった特殊な形をした鍵を虚空にかざした、すると四方の結界が赤白く光り刀の持ち手の刻印と同じ幾何学的な線が縦に連なるように四方の結界の面に刻まれ、それがはじけ飛んだ。
「……グリムよ、取るがいい」
「はっ!」
グリムは国王の言葉の通り、聖戦武器を手に取った。
その瞬間、グリム本人は勿論のこと側にいた響もはっきりと全身に駆け巡る言葉では表すことのできない感覚が体を包んだ。
鳥肌が止まらず、無意識に口角が上がってしまう、ゾクゾクとした不気味な快感が全身を風が吹き抜けるように全てが入れ替わったような、そんな感覚だった。
それは実際に聖戦武器を手に取ったグリムが一番感じており、グリムは過呼吸気味に哂っていた。
「これが……武器の枠に収まるのか……? 本当に……?」
「グリムさん、大丈夫です、か?」
「ははっ! 大丈夫なわけないだろうヒビキ! これはもう武器の類じゃない、もっと別の、何かだ。その何かが私には言葉に表せん!」
不敵に笑い興奮状態に陥っているグリムはまるで見惚れるように聖戦武器を眺めていた。
もしかしたらこの武器にはなにかしらの魔力があるのかもしれない、人を惹きつけるような、妖刀のようなそんななにかが。
国王はそんなグリムを見かねて目の前で一つ手打ちを鳴らすとグリムはすぐに我に返ってどもりながら国王に謝罪した、国王は笑いながら気にしなくていいとフォローを入れた。
恐らくこの武器の前にはグリムの所有する聖剣など子供のおもちゃにしか過ぎないだろう、響はそう思った。
三人は神域を後にして王城へと戻り、グリムは腰に右に聖剣左に聖戦武器を携えて帰ってきたため周りの使用人たちはそのオーラだけで圧倒されており待機していた梓たちも竦んでいた。
一~二時間後、他の大陸からもハイラインたちが戻ってきてその手には聖戦武器が握られていた。
魔王大陸の方はどうしたのかと言うと、リナリアが女神の権限で無理やりこじ開けてきたらしい、なんともまぁらしいやり口だ。
こうして集まった神族を除く六種族の大陸にある聖戦武器が揃った。
人族の聖戦武器は刀。
獣族の聖戦武器は斧。
妖族の聖戦武器は二冊の魔導書。
魔族の聖戦武器は怪しく光る光玉。
海王族の聖戦武器は槍。
竜族の聖戦武器は牙。
六つの大陸から集まった六種族を体現する武具の数々。
それらが一室で出会ってしまったがためにこの日この場所この時間、恐らく様々な意味で世界で最も危険な場所であろうことは明らか。
それ故に響たちは気が気じゃなかった、上手く言葉では言い表すことのできない高揚感と緊張感そして恍惚感とで一杯だった。
「荘厳ですね……」
「あぁ。ところで、魔族の聖戦武器は一体誰が使うんだ? リナリアか?」
「私は使わん。それを使うのは魔族の子でなくてはならないのだ。と、いうわけでミスズ頼んだー」
「えっ!? わ、私?」
「ダメか?」
「ダメ……ではないけど、急だったからちょっと驚いちゃって」
まぁ、そうだろうな。至極もっともな反応である。
ひとまず暫定的ではあるが光玉の使い手はミスズに決まったところで全員はそれぞれ仕事があるため解散することになった。
今後の予定でいけば先延ばしに色々となってしまったが明日、魔王大陸に向けての進軍を開始するとのことだった。
そのため兵士たちはすでに各々の家へと帰宅していた。
戦争が始まればいつ命を落とすか分からない、明日の進軍で命を落とすことだって十分に考えられる、だから最期に家族や恋人たちと戦争前くらい平和を享受してほしいと国王直々の命令が下ったためだ。
この正午の時間まで王城に残って仕事をしているのは各大陸の長達とグリムを始めとした勇者たちそして響たちに騎士団のトップ数名と城の使用人たちくらいなものだった。
「じゃ、あとはあてらに任せてさっさと帰りや」
「………俺は残ります。ハヅキ様を一人には出来ません、あなたはたまに暴走する」
「そ。なら、好きにしぃ」
ゼノにそう言われてどこか嬉しそうなハヅキ。
そして王たちの言葉に甘えて響たちは各々家へと帰ることにした、もしかしたらもう会えないかもしれない家族の元へ。
「ただいま帰りました」
響が家に帰るとすでに三人が待っていた。
「おぉヒビキ! おかえり」
「あら~、おかえり~!」
「帰ったかヒビキ!」
エミル、クラリア、カレンの三人は響が帰るや否や一直線に向かってきた。
響は三人に囲まれて苦笑しながらも家族の温かさに安堵を覚えていた。
そのまま昼食を四人で食べ、四人の時間を過ごした。
久しぶりの家族の時間、それはそれはかけがえのないひと時だった。
しかし明日の朝からは生まれて初めての大規模な戦争が始まる、この時間はもう共有できないかもしれない、だが今はそんなことを忘れていたかった。
「ヒビキ、一緒にお風呂入るぞ」
「カレンさんもう酔ってるんですか?」
「もうとはなんだもうとは。小さい頃はたまーに入ってたじゃないか」
「いえそんな記憶はありませんが」
「んじゃいっそのこと家族みんなで入るか! な、エミル」
「あら~いいわね~」
「えっ? ちょ、えっ?」
そして響は自分の知らぬ間に拡張されていた浴室へと半ば強制的に連行され家族四人での入浴となった。
それから夕食を食べ、談笑し、家族四人で仲良く寝た。
そして、朝が来た―――――。
次回から新章へと移ります