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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第八章:再び歩み始めるようです
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奴隷のお話。

一度魔王大陸は後に……

 響と賢介の二人はグリムたち三人に魔王城への侵入に成功したこと、それから警備兵との話を話した。

 正直に言って二人は警備兵クシャナとのやり取りは勝手が過ぎると怒られるかと思ったが意外にもグリムはあっさりとしていた。

 二人の会話ぶりだと魔王城内の兵士たちにも揺らぎがあることが分かった、それだけでも十分に内部崩壊の余地はあるとグリムは言って特に咎めたりはしなかった。



 一通りの探索を終えたところでここは後にして引き返すことにした、そろそろ街の探索に向かっている他の班の収穫も気になるところでもあるし早いとこ終えて現状を報告せねばなるまいからだ。



 「では戻るぞ」



 その一言の後に五人は移動を開始した。



△▼△▼△▼△



 響たちは魔王大陸のハズレへと向かった魔族五人を除いて全員集合し、各々収穫した情報を発表した。

 響たちは魔王大陸の中へと潜入したことや警備隊長への揺さぶりをかけたことなどを話し、今度は街の状況について聞いた。



 まず街の表の部分、これは他の大陸の街と大差なかったしなんなら魔王大陸でしか売っていない優秀な武具や防具などが売られていたりその値段も適正価格、そういった部分は正常だった。

 だがここまではあくまで表の部分、ここからは裏の部分。

 と言っても裏の部分も特に隠されてはおらず普通の店に交じって怪しい店やとんでもない店も混ざっていた。



 その代表的なのが堂々と看板を掲げている「奴隷館」という建物。

 智香・絵美里・フランの三人が実際にその奴隷館の中へと入った時のことを響たちに鮮明に語ってくれた。

 奴隷館の中は受付だけは綺麗だったものの一度商品があるという地下へと下って行くとそこは酷い匂いと汚れた空気とで一杯になっていた不浄そのものを体現したような空間だったらしい。

 


 「商品」と呼ばれている奴隷たちのほとんどは女性で、十人に一人男性がいるかいないかだった。

 年齢的には十四~六歳が多く、基本的な年齢層は非常に若かった。

 碌に食事や施しなどを受けさせてもらえないのだろう、多くの奴隷たちの髪はぼさぼさで痛みに痛み黒くなり肌も空気中の汚れや塵などによって汚れて誰一人としてその目に輝きを宿している者はいなかった。

 


 奴隷たちの中でもやはり品質によって扱いが違い、最上級の商品にはきちんとした食事も与えられて週三日のシャワーも許されているという。

 奴隷たちにも種類があり、大部分は雇われた先での家事全般を任されることになったり冒険者の盾代わりに使い捨てにされたり雇い主の性欲処理のために買われたりする。

 そして一人の奴隷が一つの仕事だけを担うわけではなく、一般的には家事全般と性欲処理に併用する目的で買っていく人たちが多いのだという。

 たまに純粋に家族として迎え入れて本当の家族同然の生活を送らせる奇特な購入者もいるようだが本当にそれは極稀なケースらしい。



 その実態を見た時に三人は吐き気がしたと言った。

 確かにそんな光景、話を聞くだけでも嫌気がさす、だが三人は実際の己が両の眼で見たのだ、無理もない。

 やがて支配下に置かれていないあの無法地帯から戻ってきたハーメルンたち五人も合流してここまでの話を聞き、自分たちが育った大陸の廃れぶりに憤りを覚えていた様子だった。

 そしてハーメルンたちの話ではどうやらあの辺りは本格的にアザミが放棄した地域らしい、つまりどういうことかというとあの一帯に住んでいる人たちはもはや魔王大陸の住民とみなされていないということ。



 イグニスが王位に就いている時はこんなことは勿論なかった、たった四年、あの戦いから今までの時間でここまで変わってしまったのだ。

 この現状を見てしまえばたとえ自国の民でなくとも放っておかないだろう、それほどにアザミの支配によって魔王大陸は腐敗していた。

 これはもう領域侵犯や魔王大陸の武力がなんたらとは言っていられない、もはや強制的な他国の介入がなければ改善しない領域にまで達してしまっている。



 それがたとえ武力行使だろうと、それがいかなる大義名分で隠されてあろうと、この戦争は起こさなければならないしもう止められない。

 響たちは強くそう実感し、悲観し、他に方法はないのかと思いながらも人王大陸へと引き返すことにした。

 もう何もかも手遅れなのだ。





 四年前、アザミの暴走を許してしまったあの日からもう。







△▼△▼△▼△



 「そうか……そんなことになっとんのか………」



 人王大陸王都、その王城の王室。

 魔王大陸に近い竜王大陸から各国の王たちは遥々人王大陸へと移動してきていた、今度は海王も健在だ。

 今後戦争中はこの人王城が最高指令室となり各国の長達が共に考えを出し合って戦争の指揮を執ることとなっている。



 その中でも最も判断力と戦闘力に優れているハヅキが最高司令官の座についた。

 これに対して「なぜその大陸の王ではないのか!」という反発意見もあったがこれに対して人王ハーツ・プロト自らが答弁をし、「その大陸の王を選んだのなら、勝てるのかね?」と一言述べた。




 それ以降、反発意見は上がっていない。




 すでに隊は組まれており、そこには種族も性別も関係なくバランスよく編成されていた。

 今日の夜には全ての隊に諸々の連絡事項が行き渡るようになっており明朝には出撃できるよう調整が為されていた。

 響たちは最高戦力として編成されており近々ハイラインたち他種族の勇者たちも集まってくるらしい。

 


 「さてさて、あんさんらにはもう一個特別な仕事が待っとるから、そっちに行ってもらえるか?」


 「特別な仕事?」



 ハヅキは戻ってきた響たちに早々もう一つ仕事を通達した。





 「聖戦武器、取ってきな」

一応あと数話で新章の予定です。

エンディングも割と近くなってきました。

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