不法侵入のお話。
あと一話くらい魔王大陸にはいるかな
響たち五人がやって来たのは魔王城のすぐ近く。
流石に本陣ということもあって警備は固く、無機質な仮面をつけた警備兵たちがウロウロしていた。
「警備が堅いな……仕方ないか」
「どうします? 数人程度ならやれますよ」
「対人戦なら俺もやれます」
「いや、手荒なことは避けたい。万が一見つかったらこれからが不利になるからなぁ………さて、どうするか」
とにもかくにもここで全員が固まっているのも効率が悪いのでグリムと凪沙と琴葉の三人が城の裏手に回り込み響と賢介の二人がここで待機して観察することになった。
その際、もし内部にまで潜入できるようであれば最善の注意を払えば侵入しても良いとの指示を受けて二人は内心ワクワクしていた。
グリムたちが移動して数分、後ろに何やら気配を感じて振り返るとそこには警備兵が一人立っていた。
『何者だ……貴様ら』
二人は目配せをして頷き、あることを決めてすぐさま襲い掛かった。
それはそれは静かで警備兵に声を上げることすらさせずに拘束して気絶させて仮面と鎧を剥ぎ取ってその辺の人目につかない茂みに雑に隠した。
対人戦に置いて圧倒的優位に立つことが出来る賢介が剥ぎ取った鎧と仮面を着用して近くを一人で巡回していた警備兵に歩み寄り「不審な輩を発見したからともに来てほしい」と伝えたところ何の疑いもなく承諾してくれてまんまとおびき寄せることに成功し、再び響と共にボコボコにして気を失わせて鎧を剥ぎ取り今度は響がそれを着用して二人は警備兵と同じ格好になった。
「よし……」
「じゃあ……」
「「行くか」」と二人は声を揃えて茂みから体を堂々と出して城へと歩き出してまずは城の周りを巡回した。
ウロウロと歩いていると『おい』と後ろから声をかけられて二人は振り返った。
『何をうろついているんだ、お前ら』
「あ、えと……いや……」
『……まさかお前たち』
他の警備兵に声をかけられ、ばれたかとそう覚悟して戦闘を意識したがどうやら違ったようだ。
警備兵は響と賢介に『新入りか?』と尋ね、二人はこれは好機と思いやや悔い気味にそうなんですと答えた。
それなら仕方ないと警備兵は言って付いて来いと二人に背を向けて言ったため二人は軽く拳を合わせながら「よしっ!」と互いに喜んだ。
警備兵は二人を連れて城の中へと入り、どこへ連れて行かれるのかと思っているとどうやら休息の時間の交代だったらしく先輩警備兵と響と賢介の二人は他の警備兵と交代して休息を頂くこととなった。
先輩警備兵は仮面を外して東部の鎧を外して「ふぅ……」と息を吐いた、その顔は実に整っていて切れ長の目にブロンドの髪と、仮面と鎧の上からでは想像できなかった容姿だった。
『どうした?』
「いえ、何でもありません」
『……可笑しな新入りだ。鎧を外してもいいんだぞ』
「大丈夫です、このままで」
『………お前たち、魔族じゃないだろう?』
その一言で二人の心臓は飛び跳ねた。
だが確証を持たれているかどうかが今の段階では分からない、それに完全にばれたわけではないのだ、ここで認めるのはマズイ。
二人はスキル「意思疎通」で互いにどうすべきか思案し、結論としてこのまま強行策で行くことにした。
「何を言ってるんですか、そんなはずないじゃないですか」
「そうですよ、あり得ないですって」
『あり得ない、か……………実はな、ここ数カ月新入りはいないんだよ。入隊するやつはアザミのやつが直々に決めてんだ。選抜っつーやつだな』
「そ………そんな」
しまった、そう思った時には時すでに遅し。
観念した二人は仮面と鎧を外して脱ぐと警備兵はにたりと口角を上げて『それが本来の姿か……』と興味深そうに言っていた。
次の瞬間、響は一瞬にして距離を詰めて魔法を封じる壊級魔法「聖釘」を何の躊躇いもなくその警備兵に突き刺し、賢介はその後の行動を予測・分析して先回りをして拘束魔法で口に当てて声を上げることを防いだ。
やってることはただの犯罪者に近いがそんなことを思ってもいられない、二人は警備兵を簀巻きにして、ここに放置すると人目について後々厄介になるだろうと思い持ち上げて一緒に行動したというか持ち運んだ、そしてあの会話に戻るというわけだ。
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「どうするよ、転移するか?」
「でもせっかく入り込めたから見て回りたいが……下手に動くのもな。一度顔は見られているし……」
「問題はそれなんだよなぁ……どうしたものか」
頭を悩ませてもいい案は思い浮かばなかった、仮に現在抱えているこの人を連れ去ったとしてもその後この人がいないことに気付く人がいたりそれこそ最初にぶちのめした二人がいるためそちらも処理しなければいけない。
いっそのこと殺してしまおうかと思ったがその方が後々厄介になることは明白であるためその案は却下した。
いつまで考えても決定打になる良いアイディアが出るわけでないのならばいっそのこと行動してしまおうという結論に辿りついた響と賢介の二人は最大限の注意を払いながら魔王城の中を探索することに決定した。
それに何かあっても椿が居る、むしろそちらの理由の方がこの結論に至った大きな動機でもあるのだがそのことを椿本人は珍しく聞き逃していた。
と、そこで響があることに気付きそのことがどうしても気になって警備兵に聞いた。
「そう言えばさっき、アザミって呼び捨てにしてましたけどあれは……」
『………』
「あ、あぁ、そうだ、口のとらないと」
響は口の拘束を解いて会話が出来る状態にしてもう一度同じことを質問した。
すると警備兵の口からは意外な一言が出てきた。
『……みんながみんな、あいつのことを敬っているわけじゃない』
その言葉を聞いて二人は思わず素の状態で「えっ、そうなんですか?」と聞き返してしまった。
警備兵曰く、四年前にふらっとやって来た他種族の女神が魔族を独裁体制で管理し始めたことや階級制度を取り入れたことに魔族たちは皆憤りを感じているらしい。
だがどういうわけかレイヴンたちのような上層部はアザミに心酔しているような節があるようで、事実そのようなことにレイヴンはなっていたわけだがそのことが一介の兵士たちには信じられないというのだ。
ただそのことが直接本人へと伝わってしまえばどうなるか分からないため公の場ではアザミに忠誠を誓っているが個人的な話となるとそれは全く別の話になるらしい。
このことを聞いて響はあることを考えつき賢介に「意思疎通」でこういうのはどうだろうと相談した、そのアイディアに賢介は渋ったが一言「面白そうだな」と笑みを浮かべていた。
「警備兵さん、あなたの名前は?」
『………クシャナ。クシャナ・ベル・リオーズ。警備隊長をやっている』
「ではクシャナさん。一緒にアザミ政権を叩き潰しませんか?」
『………なにを、言って』
「イグニスは生きています」
『っ!? 本当か!? イグニス様はご存命なのか?』
「えぇ、今は私たちと共にいます。そして私たちは明日や明後日に各国への侵略を続けるこの魔王大陸に戦争を起こします」
『……!』
「そこでどうでしょうか。そのどさくさに紛れて、私たちとともに今のこの魔王大陸を、アザミの支配を一緒に滅茶苦茶にしようじゃないですか」
『私たちに………国を裏切れと言うのか』
「そうなればアザミは滅び、魔王大陸には元魔王イグニスが再び元首として国を統治するでしょう。先ほどの感じだと、どうやらまだイグニスに対しては敬愛の意を持っているらしいですので」
『……あぁ、イグニス様は良いお方だった。民だけではなく私たちのような雑多な兵たちにも施しを与えてくださった。無論、他国からすればこの国が攻撃を仕掛けていたのは脅威でしかなかっただろう。だがあの方は、魔族を守るために仕方なく………!』
イグニスの話になった途端に熱く語りだしたクシャナ。
やはり今の魔王大陸はまだイグニスがいなくなったことに対してかなり引きずっている様子だった。
二人はクシャナの話をある程度まで聞いて途中で遮った、そして再び話し始めた。
「俺たちは今日中にはここからいなくなる。だがその後を決めるのはあんたらだ、ここで俺たちに協力しないで全滅するか、それとも密かに協力してイグニスが戻った後の魔王大陸の復興に貢献するか。どちらが良い?」
『急に言われても………答えられるわけが………』
「だろうな。だがいいのか? あんたらの主様はきっとこの戦争を真正面から受け入れるぞ、五種族五大陸相手にたった一種族一大陸でだ。そうなればいくらあのアザミと言えどただでは済まないし、下手すりゃ殺気こいつが言った通り諸共で全滅だ」
そんなのはつまらないだろ?
最後に賢介はそう言い、クシャナの拘束を全て解いて自由の身にした。
ここまで響と賢介の二人は勧誘してデメリットこそ言えどメリットについてはあまり具体的なことは言っていないしなんなら保障すらしていない。
だが戦争という言葉の重みは大きく、様々なことが考えられる中で二人は「協力しないで全滅」か「協力して現状を打破してイグニスを返す」という二択に選択肢を大幅に狭めた。
こうすることでそれ以外の抜け道を考えずらくさせ、自分たちが不利な状況に立たされていると実感させた。
二人はクシャナに背を向けると最後に一言、「どちらがいいかよく考えてください」と念を押してクシャナの前から姿を消した。
その後城の中を出来る限り探索して二人は転移して城の外へと脱出し、最後に剥ぎ取った鎧と仮面を元の二人に気絶している間に着させてグリムたちの元へと戻った。
もうそろそろ新章の予定