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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第八章:再び歩み始めるようです
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ワイルドカードのお話。

また時間かかってしまいましたっ!申し訳ありません!

 『ナンダ、ソコマデ驚クコトカ? アァ安心シロ、チャント靴ハ脱イダゾ』



 意外と礼儀正しいところを見せる魔王――――いや、()魔王のイグニス。

 恐らくこの緊張感をある程度ほぐそうと思っての発言だったのだろうが、今の響たちには通用していなかった。

 四年前の妖王大陸のあの事件以降姿を見せなかった存在がこんな時になって一切の前兆もなく現れたのだ、むしろ警戒するなという方がおかしいし仮にそう言う奴がいるのだとしたら真っ先に正気を疑われていただろう。



 「……あての招待もなしに入ってくるとは、不法侵入もいいとこやなぁ?」


 『フハハ! ソウカ招待状ガイルトハ知ラナカッタ! コレハ俺様ガ悪イナ、謝罪シヨウ竜王ハヅキ』


 「ま……今はええわ、そんなこと。何しにきはったん?」


 『何ヲシニ、カ。話ヲシニ来タ』


 「話……?」



 依然として警戒態勢が解けずに部屋一室が殺気と緊張感とが入り乱れ、使用人たちは部屋から漏れ出るこの異様な空気を異常に思いながらも誰も近寄ることが出来なかった。

 一体なぜこのタイミングでイグニスは自分たちの目の前に現れたのか、話とは何か、そしてそれを伝えたところで今度はなにをやるつもりなのか。

 響たちの頭には大量の疑問点やクエスチョンマークが乱雑に立ち並び、一つとして消えずにいた。



 しかし一方でイグニスは流石は元魔族を率いていた王だけあって余裕を見せていた。

 ハヅキも事の状況を理解して段々と冷静さを取り戻したのかイグニスに座るように指示し、イグニスはそれに従った。

 厳戒態勢のままではあるがハヅキはイグニスを客人として迎え入れたのだ。



 『……マズハ話ヲ聞イテクレルコトニ感謝シヨウ、竜族ノ長ヨ』


 「御託はええ、はよ話しぃ」


 『デハ単刀直入ニ言オウ。オ前タチ、俺様ヲ仲間ニスル気ハナイカ?』


 「…………なに?」



 全員が耳を疑い、そのいきなりのあり得ない提案に殺気がどこかへと消え去ってしまった。

 全くもって馬鹿げているというのが全員の総意だろう、だがイグニスは尚も話を止めなかった。



 「一体、何が目的やあんた」


 『マァ聞ケ、俺様トテソチラニ有意義デナイ話ヲ持ッテクルホド馬鹿デハナイ』


 「……」


 『メリットカラ話ソウ。戦力トシテ俺様ガ加ワル、魔王大陸ヘハ自由ニ出入リ出来テ権力ヲ振リカザスコトモ容易ダ。デメリットハ……俺様ガ好キ勝手ヤルカモシレン……トイウコトダナ。基本的ナ指示ハソチラニ従オウ』


 「それやとあんさんに対するメリットとデメリットが分からんやないの? あてらに付いてそちらはんになんのうま味が―――――」


 『アルトモサ! アノ女ヲコノ手デ殺セル機会ヲ無下ニ出来ルモノカ!』



 急に熱く語りだしたイグニスだったがすぐさま我に返り咳払いをした。 

 それからイグニスが語ったのは次のようなことだった。




 曰く、四年前のあの事件以降イグニスは命からがら逃げ延びて人知れず辺境の地を転々と彷徨い歩きながら生き永らえほんの一年前にやっと回復し力も戻ったそう。

 それからというもの、響たちの動向を情報屋や自らが出向いて情報を集めそれから一年後に響が目を覚まし再びグリム率いる勇者パーティーが動き出したのを知ったという。

 自分はその動きを観察しながら逆に気配を悟られないように隠密行動に徹し、魔王大陸をアザミが独裁政権で牛耳っていることを知ると情報をかき集め尚且つ移動が楽になる竜王大陸の近くに潜伏していたのだ。



 だが響たちは竜王大陸を立ち寄ったものの宿を一晩借りただけですぐさま海王大陸に向かってしまったため自分もそちらへと場所を移そうとしたが急に死んだと思われている魔王が現れては混乱を招きスムーズに事が運ばなくなるのを危惧して海王大陸に自らが書いた脅迫文を送り届け、海王大陸での滞在期間を最小限にさせ、竜王大陸での長期滞在へとシフトチェンジさせた、というわけだ。



 『海王大陸ノ手紙ニツイテハスデニ解決シテイル、再ビソチラカラ出向ケバ協力ヲ快諾シテクレルハズダ』


 「随分と回りくどいことをするのだなイグニス。お前らしくもない」


 『女神リナリア、アナタノ種族ノ王ハ意外ト勤勉ナノデスヨ。ソレデ………コチラノ「メリット」ニツイテデスガ、マァ、今ハイイデショウ。ソウ大シタコトデハアリマセンカラ』



 イグニスはそれだけを言うと立ち上がって窓の近くまで歩いた。

 そして三日後にまた来るからその時までに考えておけと言い残して去っていった。

 嵐のようにやって来て嵐のように過ぎ去ったイグニス、響たちはゆっくりと殺気をおさめて息を吐き出した。



 「何だったんですか……」


 「……さぁな。にしても急に疲れた。私は飲みなおしてくる、小一時間ほどで戻るさ」


 「グリムさんって……結構酒飲みですよね?」


 「ふっ、細かいことを気にするものじゃないぞヒビキ」


 「あっ、はい……」



 依然として起きない男勇者二人組を放ってグリムは再び夜の竜王大陸へと繰り出した。

 時刻は現在二十二時を回ったばかり、普段ならこのまま眠るまで部屋の中でのんびりと過ごしていたのだが今日ばかりは気分が変わって響は一人グリムと同じく夜の竜王大陸の街に出た。



 相も変わらずノスタルジックな雰囲気のする夜の街は居るだけで落ち着くようだった。

 響はこの世界でのコーヒーを片手に何の目的もなしに夜道を歩いていると明かりの灯る一軒の店が響を呼び止めた。



 「やっ、そこのおにーさん! こんな夜にお散歩ですか?」


 「ええ、まあ」


 「おにーさん、ハヅキ様と戦ってた人でしょ? 見てましたよ、凄かったですね」


 「それはどうも。ここは何をやってるんで?」


 「主に傷薬や回復魔法とかのスクロールを売ってます。あとは………情報を少々」


 「本命は情報屋ってことですか」


 「んーまぁそんなところですね。どうです、利用していきますか?」



 自らを情報屋と名乗った眼鏡をかけた若い女性はにやにやと笑いながら響にそう聞いてきた。

 響はしばし考えた後どのような情報があるのか興味を持ちそのまま聞いた。



 「じゃあ、魔王大陸に関する情報はどれくらいあります? 勿論最新の」


 「結構仕入れていますとも。ですがどのような情報を知りたいんです? それによって費用の方も変わりますが」


 「相場は? 勿論この店のでいい」


 「……最低でも銀貨十枚から、とっておきだと金貨五十枚は下らないですよ」


 「はははっ、なるほどなるほど………ところで、金貨の枚数を言う時に私から目を逸らしましたね」


 「そんなことありませんよ、たまたまですたまたま。それでどうですか何か聞いていきますか?」


 「返答のテンポが短くなりましたね、それに話題を逸らそうともした。失礼ですがドライアイですか?」


 「……いえ、違いますが」


 「ああそうですか、いえ、やけに瞬きが多くなったなぁ……と思ったものですから」


 「……気のせいでしょう?」


 「で、本当の相場を教えてくれませんかね?」


 「だから先ほど―――――」


 「相手は選んだ方が身のためですよ」


 「……」



 情報屋の女性は大きくため息を吐いて頭を掻きむしり「降参!」と言って金貨五十枚を金貨二十枚に訂正した。

 響が今行ったのは全て「相手が嘘をついている時の見分け方」の一例であり、情報屋という家業をしている店主にとっては一度見破られて確信を相手に取られてしまうともうお手上げなのだ。



 「おにーさん隙無いね」


 「たまたまですよ。今日は手持ちがあまりないので残念ですが失礼します」


 「一つだけサービスしますよ、嘘ついたお詫びってことで」


 「………じゃあ魔王大陸でのアザミの行動について何か知っていること、もしくは魔王大陸の一般市民たちの現状について」


 「……本当だったら金貨五枚くらいの情報だけど、特別に教えたげる」



 


 店主は周りに人がいないことを確認して響に後者の情報を流した。

 前者は流石にセキュリティが高くてそうそう情報が入らないのだと言う。

 だが情報が聞けるだけましと思い響は店主から内容を聞いた。




 「実は魔王大陸なんですけどいわゆるカースト制が出来上がっているようでして……」


 「知ってる」


 「ぬぐ……んじゃあ一般市民よりも階級が低い層がいるのもご存じでしょう。普通の市民たちは多少生活が苦しくなっているそうですが、最下層の人たちは上流階級の人たちに()()として売られることが珍しくないそうなんです」


 「奴隷にも種類はいるんですか?」


 「いますよ。ほとんどが雑用やストレスをぶつけるためのものですが、女性の奴隷……特に若かったり幼い奴隷は性的な命令を強要されることも多いとか」


 「なるほど……つまり一般市民としては生活の負担が増えただけで済んでいるけどそれより身分やお金のない人たちは生き地獄を味わう羽目になっている、と?」


 「噛み砕いて言えばそうなります。それでこれはまだ噂の範疇を出ないんですが………新たに統治者となったアザミが編成した新たな軍隊の中に死んだ奴隷が命令を実行するだけの生きた屍として組み込まれているとか」


 「……他には?」


 「残念ですがこの程度です。ま、他にないこともないですがこれ以上はサービスの範疇を出ますので」


 「そう。ありがとうございました」


 「これからご贔屓に、どうぞ」


 「縁があればね」





 響はそう言って金貨を一枚店のカウンターに置いて去った。

 後ろからは大きな声で「またどうぞー!!」という店主の声が聞こえた。

 そして響は夜の竜王大陸の散歩を終え、城に戻り、布団を被って微睡の中へと落ちていった。

ちょっと長めだったかな?

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