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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第八章:再び歩み始めるようです
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侵入のお話。

ごめんなさい!遅れました!

 バァン!!



 「なんですの!? 敵襲ですの!?」


 「いいや私だ! 喜べ、情報を持ってきてやったぞ!」


 「あ、あぁ……なら良かったですわ……。心臓飛び出るかと思いました……」



 リナリアとハーメルンがレイヴンからの情報収集に向かってから数時間後、二人は……というかリナリアは勢いよく襖を開けた。

 マリアはそれに飛び跳ねるくらいに驚き周りにいた梓やフランもびくりと肩を震わせて驚いた。

 襖は反動で戻ってきて、それをハーメルンが後ろ手で静かに閉めた。



 『おや、女子だけか?』


 「男どもは外に出て、グリムさんとハヅキさんとアリアはハヅキさんの部屋で飲んでます」


 『アリアもか……そうか、もうそんな年か。そうだよな、敵対した時から四年も経ってるものな、早いものだ……』


 

 ハーメルンがしみじみと昔を思い出していたがリナリアはやや興奮気味で今すぐ全員をここに集めろと言い出した。

 戸惑い気味の女子メンバーだったがすぐに行動に移り、マリアと梓は転移して街へと赴きフランはハヅキたちのいる部屋へと向かった。



 ものの数分で全員が集まり、ハイラインとスラインは飲み対決でもしていたのだろうか酔っぱらっており一度酔いが覚めるまで強制的に拘束して別室で寝かせた。

 響と影山そして普段無口なゼノの三人は開放感からか畳の上に座るなり大きなため息を吐いてぐーっと体を伸ばした。



 「それで、急になんだ? そんなに急ぐことなのか?」


 「大急ぎだ、主に私がな。アザミが魔王大陸で何をやっているのか分かったぞ、それとイグニスの行方もな」


 「まじかっ!?」



 響は身をズイっとリナリアの方に出して反応し、距離を詰める形になった。

 リナリアは珍しくテンションが上がっているためそんなことなど気にも留めずにむしろ響の頭に手を置いたりする余裕を見せてこの場にいる全員の顔を一瞥してから事の次第を話し始めた。



 「隣で寝ている野郎どもは放っておくとして、さっきレイヴンから魔王大陸の現状について色々聞きだせたから今からそれを報告する」


 「にしては、随分と上機嫌やないの。ええことでもあったんか?」


 「いいや? むしろ色々な感情が一周回って分けわかんなくなっている。まぁみんなそんなことは気にしないで聞いてくれ。行くぞ、まずは――――――」




 そうしてリナリアがレイヴンから聞いたのは以下の事だった。

 まず、現在の魔王大陸は今までの魔王大陸の根幹から変わっており所謂絶対王政や独裁政治という言葉が近しいとのこと。

 カースト制とまではいかないまでも階級的なものが出来ており、頂点に君臨するのが魔王大陸を統治しているアザミでその下にかつての魔王軍の幹部メンバーが親衛隊やボディーガードとして常にアザミの周りに何人かは付いているようだ。



 そしてその下は冒険者や傭兵職に就く者たちでさらにその下は一般市民たちなどが割り振られており、最下層には収入もままならないような貧困層が位置しているという。

 中でも冒険者や傭兵職などには一層力を入れているとのことで、魔王大陸にある魔法学校と魔導学院では戦闘科目の授業が一段と強化されておりその姿はまるで軍でも作るのかと思わせるほどだとレイヴンは語った。



 イグニスがいた頃も戦闘科目や冒険者たちなどの手当てはあったりしたものの一般市民たちなどとのバランスが取れたおりそれほど格差は開いてはいなかった。

 だがアザミが統治者として成った今、そのバランスは崩れ去ってしまったという。



 「そして何より恐ろしいのが、アザミが自分自身で人物を選抜してそいつらに特殊な能力を与えていることだ」


 「能力………俺たちみたいなことか」


 

 影山は初めてアザミと出会いこの異世界に飛ばされた在りし日のことを思い出していた。

 響たち転生者の能力事態は仲間であるリナリアたちに話してはいたが実際にどうやって身につけたかは話したいなかった。

 影山はあの日の事を全て話し、リナリアは冷静にその時のアザミの心境を分析していた。



 「………その話が本当なのだとしたら、なぜアザミはわざわざお前たちを救った?」


 「は……?」


 「だってそうだろう。始めからこんな大掛かりなことをするのであれば、わざわざお前たちやミスズそれからハヅキのような転生者イレギュラーをこのネメシスに送り込む必要などないはずだ。もしかしたらイグニスを合法的な手段で殺させるためかもしれないが最終的には自らの手で、しかもお前たちの前でわざわざ正体を明かすようなことをしていたんだ、明らかな無駄手間じゃないか」



 確かにそう言われてみればそうだ。

 アザミには確実にイグニスを殺せる力がある、それはここにいる誰しもが分かっていることだ。

 もし地球でイグニスが自分の意にそぐわない形で顕現したのならばそれを自力で止めることだって確実に出来たはずだ、無論その行動に響たちの生死など関係ない。



 にもかかわらずアザミは響たちを生かし、適合能力という特殊で特別な力を与えて異世界に放った。

 言うなれば野良犬を首輪もつけずに放し飼いにするようなもの。

 何をしでかすのか分かったものではない、なのにアザミはわざわざその選択肢を選んだ、何故か。



 「……まぁ、そんなことを気にしていてももう仕方ないことなんだがな。すまない、忘れてくれ」


 「そやねぇ……今は話の続きをした方がええなぁ、優先すべきはそっちや」


 「なら話を戻そう。それでどこまで話したか…………あぁ能力を与えてるところまでだったな、アザミはヒビキたちに与えたように数人に能力を与えている。そのメンバーはあまり知らされていないみたいでな、レイヴンに聞いても知らないと言っていた。だが一つだけわかっているのは能力を分け与えられた奴らは総じてアザミに忠誠を誓うように性格が変わってしまうらしい」


 「そんなの……もう洗脳の領域じゃないか」


 『クハハ……! ソンナノ当タリ前デハナイカ、アノ女ノスルコトダゾ!? イカレテイルニ決マッテイルデアロウヨ!』










 その最後に聞こえた一声に目を丸くして呼吸を止め、我が耳をそれぞれが疑った。

 決してこの場にいるべきではない人物の声、かつて刃を交えた相手の声、そしてもう二度と会うこともないと思っていた者の声。



 ゆっくりと、響たちは声のした方へと振り返った。

 戦闘に長けた面々がいる中、声を発するまで誰にも聞かれなかった気配遮断と胆力の持ち主。

 そして肌で感じることのできる強者の余裕。

 間違いなかった。






 『久シイナァ………人ノ子タチヨ』





 かつての魔王大陸統治者、()()()()()()が部屋の一角を陣取り、壁にもたれかかっていた。

災厄再び

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