現代兵器のお話。
科学的な知識はネットでちょっと調べた程度ですのであしからず。ファンタジーということで飲みこんでください。
「ところで聖也、お前今片手でどれくらいの重さまでなら持てそうだ?」
「舐めんなよ響、人一人くらいなら余裕だ!」
なら、と響は地面に両手をつき如何にも危険な匂いしかしない物体を十個ほど生成した。そしてその傍らにはトランシーバーより少し大きい機械が。
「なんだこれ?」
「セムテックス爆弾。一個十キロくらい」
「セムテックス爆弾」
「そう、セムテックス爆弾」
「……なあ響、お前の能力って記憶にある武器とかの複製だったっけ」
「ん? ああそうだけどどうかしたか?」
「なんでそんなもの記憶に残してんだお前は!?」
何でと言われても知っているんだからしょうがないと思う響。時間もないのでさっさと作戦説明に入ることにした。
数が圧倒的に多いなら個別撃破なんてのは消耗も激しく時間もかかるのでまず除外、しかもよく見れば飛行しながらガスのようなものを吐いている種族もいるため接近戦ではそのガスでやられる可能性がある。しかもそのガスがかかったであろう火の玉のような魔物がより一層燃え上がったため、可燃性があると予想できる。ならどうするか、答えは単純、圧倒的物量を殲滅できるほどの範囲攻撃で一気に叩き潰すまで。
そこでこの現代兵器の出番である。響自身これを思いついた時はなんとお粗末な作戦であるかとは思ったが、時間がないという免罪符でどうにかなるだろうと踏んだ。それにたとえ殲滅できなくても多少は被害を与えられるはずだ。
「聖也、まずお前にはこれを横一直線に、出来ればジグザグになるように等間隔で並べてほしい。お前の能力なら早く出来るだろ?」
「あったりまえだ。それこそ俺の能力の見せ場じゃねえか」
「ねえ響、私は何かすることある?」
「梓は爆弾で殲滅できなかった場合、刀でバリケードを張ってもらいたいんだ」
「どんな風に」
「こう……刀が地面からぶわーっとなる感じで」
「ぶわーっとね。分かった」
一通り作戦を伝え終わったところでいざ実行。
影山が五個の爆弾を持って十数m先へと一気に到達する。まるで漫画のキャラクターのように、走った直後に風が響と梓を包む。気づくとすでに持って行った五個を並べ終わってこちらへ戻り、また突風を発生させて並べに行く。ものの三十秒程度で十個のセムテックス爆弾を要望通りに設置し終えてしまった。流石はクラスの中心にいるだけのことはある。案外きっちりしてるんだよなこいつ、と響は感心しながら思った。
あとは魔物の群れが来た時にちょうどいいタイミングで爆発させるだけだ。この三人のうち起爆の原理とかは誰一人としてよく知らないが、能力で出た兵器ならそのまま使えるという根拠のない理由でやっているだけだ。もし使えなかったら梓のバリケードでどうにかするしかない。
そうこうしている内に魔物の大群がすぐそこまでやって来たため、起爆装置を握り直して王国の門の側まで避難して距離を取る。耳を劈くほどの怒号が平原を包みこみ三人にプレッシャーを与えてくる。
爆弾地帯まであと十m……。
五m……。
三……二……一……。
カチッ……!
ドオオオオオオオオオオオオンッッ………!!!
凄まじい爆発が轟音をまき散らしながら平原を炎で真っ赤に染める。その爆発は平原から約五km離れた場所からも観測され、王国民が戦争が起こったと勘違いするほどだった。正直ここまで爆発するとは響自身思いもしなかったが、あることに気が付いて納得せざるを得なくなった。
群れの中でガス状の何かを吐いていた魔物、しかもそれは可燃性。つまりは自分が吐いていたガスで敵である響たちの炎の威力と爆発力を増してしまったということなのだろう。
やったね響君、じゃんじゃん燃えるよ!
しばらく経って爆発で起こった大量の煙が晴れるとそこには二百もあった魔物の群れが五十前後にまで減っていた。そしてその全てが爆風にやられたのか今にも死にそうなになっているものか痙攣しているかの二種類だけ。
それとまるで見えない巨大な何かに齧られたような大きいクレーターが出来ていた。
「これ、私の出番いらないっぽいね……」
「……そうだな」
「なあ響、俺ちょっと思ったことあんだけど言ってもいいか」
「ああ」
「やり過ぎたんじゃねえのかぁこれ!!? どう考えてもオーバーキルだろ!?」
正直影山の言葉に何も反論できない。なんか梓も若干引いている気がするし、流石に響も自分でやり過ぎた感じは否めなかった。
「今まで爆弾なんて扱ったことなかったから……」と言い訳するがそんなことが通用するはずもない上、自分で発言しておいてなんだか悲しくなってきた。
△▼△▼△▼△
呆然と立ち尽くしたまま数分が経過したころ、ぞろぞろと十数人前後の冒険者とはまた違った雰囲気の集団がやって来た。その集団は、王国に住んでいる者なら一度は見たことがあるであろう鎧を装備した者達。
王国直属に作られたこの国を守護する兵士たちの集団、王国騎士団の面々である。そのうちの一人が前に出て響達三人の前に立つ。
「こんにちは、少年少女諸君。私はクォフル・ケントゥリオン・バドゥクス。王国騎士団で少尉を務めている者だ」
社交的に挨拶をして三人とそれぞれ握手をするバドゥクス少尉。雰囲気としては兵隊らしさを感じさせない体育会系の男性だ。握手を終え「君たちの名前は何というのかな?」と聞かれたため素直に答えることにした。
「ヒビキ・アルバレストです」
「セイヤ・フォルテインです」
「アズサ・テロル・ゼッケンヴァイスです」
「ヒビキ君にセイヤ君にアズサちゃんだね。確かに覚えたよ。ゆっくりお話と行きたいところだが、仕事を優先させてもらう。単刀直入に聞こう、先の爆発は君たちが引き起こしたものか否かということだ。正直に答えてほしい」
「「「すいませんでした」」」
「え……? ああ、そういうことか分かった、頭を上げていいよ。まさかこんなすぐに自白されるとは思っていなかったものでね。ゴホン、じゃあ爆発について聞かせてもらえるかな?」
三人の答えはそれはもう清々しいほどに、打ち合わせでも事前にしていたかのようにタイミングが一致した謝罪だった。流石の王国騎士団様もこんなノータイムで謝られるとは思っていなかったようでしばしフリーズしてしまっていた。
その後事情聴取という訳ではないが爆発についていろいろ聞かれたので素直に全て話すことにした。
ここにギルドの任務を受けてやって来た事、任務の最中に大群が来ていることをちゃんと聞いていたこと、それを聞いたうえでその大軍を殲滅するためにあの爆発を起こしたこと全部話した。
響が爆弾を作成して影山が仕掛けたこと、万一のために梓にバリケードを頼んだこと、それらを聞いたバドゥクス少尉はまたもフリーズしてしまう。
そりゃそうだ、僅か11歳の子供達が平原にクレーターを開けるほどの大爆発をたった三人で引き起こしたなんてこと普通はあり得ないし信じない。俺だってそんなこと常識的に考えて子供の変な冗談だと思うだろう。事実、バドゥクス少尉も微妙な顔をして聞いていた。
そんな中、王国騎士団とは違う雰囲気を纏った男女二人組が新たにこの現場に加わった。
騎士団の人とはまた違う、どちらかと言えば冒険者に近い感じで、装備も全身につける如何にも重々しい鎧ではなくプロテクターやそれこそRPGゲームに出てくるような軽装備を身に着けていた。
二人はネームドプレートを出しながら名乗り始める。
「冒険者ギルドの命によって参りましたレイ・ノフェクデッドです。階級はゴールド」
「同じくゴールド級、ヴィラ・ラズナです」
「王国騎士団クォルフ・ケントゥリオン・バドゥクス。階級は少尉だ。ギルドの方は何か言っていたのか?」
「『爆発の原因を解明し、脅威になりうると感じたのであればすぐさま報告しろ』と。」
ゴールド級冒険者。響達の二つ上の階級に当たる位置に相当する冒険者で、ここにいる階級の騎士団の人たちよりも実力は上だという。
バドゥクス少尉はここまでの流れを事細かに二人に説明し女性の方の冒険者、ヴィラと名乗った冒険者が「なるほど……」と呟きながらこちらを順に品定めでもしているかのように順に見ていく。
「にわかには信じられませんが、この状況から考えれば実行犯は今のところこの三人だと言わざるを得ないですね……とりあえず三人にはギルドまで同行してもらいます。これはギルドの指示でもありますので」
「分かった、ではこの件はひとまずそちらに任せることにしよう。行くぞお前ら」
そう言ってバドゥクス少尉達王国騎士団一行は戻っていった。五人になったところで、ヴィラが冷静にこちらに目線をやり、話し始める。
「その制服、見たところあなたたち魔法学校の生徒でしょ? ギルドの任務を受けているってことは生徒会かしら? 階級は?」
「俺はそうですが、他二人は成り行きで冒険者に。階級は全員ブロンズです」
「そう……分かったわ。早いとこ済ませたいからさっさと行きましょ。その子たちよろしくね、レイ」
「結局俺か……まあ分かってたけどさ。んじゃ行こっか、後輩諸君」
言われるがまま冒険者ギルドに戻って事件の全貌を包み隠さず話した。なかなか信じてもらえなかったが、響が実際に爆弾を生成すると目を丸くして何かを納得してくれたようだった。
事情説明が終わるころにはすでに日が落ちかけていて、不思議と黄昏たい気分に三人をさせた。ギルドのロビーではアリア、マリア、セリアの三人が、心配で説明が終わるまで待ってくれていた。訳もなく涙が出そうになる気持ちをぐっと抑えて全員で帰った。
無事に帰った響は夕食と風呂を済ませてすぐに寝ることにした。
「明日学校かぁ……行きたくねえなぁ……」
その嘆きは誰にも届かなかったが、少なくとも梓と影山の二人は同じことを思っているだろうと根拠のない確信を抱きつつ、深い眠りの底へと沈んでいくのだった。
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