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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第八章:再び歩み始めるようです
153/221

海王族のお話。

これであと行っていないのは魔王大陸のみ

 竜王大陸の端、海岸線。

 響たちがそこへ到着した時にはすでに、海岸沿いに佇む()()の姿があった。



 「………ん、来たか」


 「グリムさん、お久しぶりです」

 

 「久しいなヒビキ、元気そうで何よりだ。おや、それは義手か?」


 「はい、マリアから」


 「そうか、それは良かった。あぁそうだ、みんなに紹介しよう。こいつは竜族勇者のゼノだ」



 勇者三人組、人族のグリム・獣族のハイライン・妖族のスライン。

 そしてもう一人、口元までマフラーで隠して何も言わずにただじっと佇む白髪の男性。

 グリムはその男を響たちに「ゼノ」と紹介し、ゼノと呼ばれた男性はマフラーをぐいと人差し指で引っ張って口元を出した。



 「ゼノ・シュタインです。よろしく」



 抑揚のない声でそれだけ言うとまた口元を隠して黙ってしまった。

 響たちはゼノに自己紹介を済ませ、早速本題に取り掛かった。

 マリアがフォートレス家の屋敷での作戦概要とこれからの手順、そしてグリムたちが考えた海王大陸突入後の方針を照らし合わせた。



 「それで、進入のためにはヒビキの魔法が必要になるんだったな」

 

 「そうですわ」


 「それならばすでに習得済みだ。問題ない、案外難しいものでもなかった」


 「それでもハイラインは半日ほど手こずってましたけどね」


 「るっせぇスライン! 空間魔法の類は苦手なんだよ!」


 

 マリアたちが二日近くかかって覚えた魔法を、一番長くても半日で覚えたという事実にマリアたちは驚いていた。

 ちなみに、フランとリナリアは過去に自分で習得しており今ではもう響と遜色ないレベルにまで達しているためあの時参加していなかった。


 一通り今後の流れを確認し終えたところで全員は潮が引くのを待った、ゼノの話によれば後三十分程度で潮が引き、道が現れるらしい。

 そんな中、おずおずとソフィーが手を挙げた。



 「あのぅ~……自分、そんな魔法覚えていないんですけど~……」


 「あ、忘れてた」


 「酷いっすヒビキさん!?」


 「だっていきなりついてきたじゃないですか……」


 「それはまぁ、そうっすけど……」


 「……ソフィーさんの分は俺がやります。安心してください」


 「へへへ……すみません」


 「二人とも、お喋りはそこまでだ。どうやら向こうが気づいたらしい」



 「向こうって?」と響が尋ねようとした矢先、海の水が目に見えてみるみる減っていき、地面に急襲されていくようにして消えていった。

 そして現れた道のずっと先に、所謂半魚人の人が二人ほどいた。

 三又の槍を持っているようで、遠目からはこちらを警戒しているようにも見えた。



 「あれって……」

 

 「察しの通り、海王族の奴らだちび助……っていう年じゃなくなっちまったな」


 「あまり揶揄うものではないぞハイライン。苦労して私が話を付けたんだ、海王族の方たちとね」


 「スラインの交渉はさておき、さっさと行くぞ。早くいかねば溺れてしまう」


 「では各自、魔法の準備をお願いしますわ」



 実際に「ニュートンの林檎」を発動させるのはまだだが、いつでも発動できるように全員準備をして、砂の一本道を一列になって歩いていった。

 段々と海王族の場所まで近づくと、先行してスラインが何やら話しをして戻ってきた。



 「これから大使館へと案内してくれるそうだ。各自魔法を発動させておいてくれ」


 

 何を話していたんだとリナリアがスラインに問うと、スラインは響たちが訪問する数日前から正式に交渉をしてアポイントメントを取っていたらしい。

 海王族の後に続いて響たちは砂の地面でひときわ異彩を放つ青い鉱石の塊の上に描かれた魔方陣の上に立った。

 すると魔方陣は光り輝き、響たちは一瞬にしてとある室内へと転移した。


 スラインは後ろを振り返って全員がいることを確認した、その矢先海王族の二人が同時に跪いた。



 「国王、彼の者たちを連れて参りました」


 「うむ、ご苦労。下がってよい」


 「はっ」



 響たちの目の前には金色の玉座に至るまでの階段とその階段を上った上にある玉座に座ったでっぷりとした体格の海王族の男性がいた。

 その隣には武装した海王族の人たちが左右二人ずつ立っており、見たところ護衛の人物のようだと察することが出来た。

 でっぷりとした海王族の男は玉座に座ったまま響たちに目をやって顎を撫でるような仕草をした。



 「よく来た、異種族の者たち。して、用は何であるか?」


 「事前にお伝えした、勇者との謁見それと世界情勢の今後について少々お話をと」


 「ふん。まぁよい、その者たちを案内せい」

 

 

 響たちは海王族の人たちに案内されて一度王室から退出するべく王室の扉を開けた。

 それから城の中を移動してある一室へと押しやられ、海王勇者が来るのを待つように言われて案内役の人たちはどこかへと行ってしまった。



 「感じ悪いっすねー。事務作業って感じがするっす」

 

 「海王族は元々、他種族との交流をほとんど持たない種族だから、仕方ないと言えば仕方ないさ」


 「……唯一交流があるのは、近隣国であるうちの竜族とくらいだ」


 「でもあれだぜ? 海王族の女性はすげぇらしいぞ男子共」


 「ハイライン……お前はヒビキとセイヤに何を教えているんだ」



 暇つぶし程度にしかならないそんな話をしながら海王勇者の到着を待つ響たち、だが待てど暮らせど来る気配がないまま一時間が経過していた。

 いくらなんでも遅すぎる、そう思ったスラインが様子を聞いてくると部屋のドアに手をかけようとした瞬間、ドアがノックされ、外には先ほどの案内役の人たちが立っていた。



 「……どうされましたか」


 「申し訳ありません客人方。ネプチューン様は本日戻りません」


 「どういうことか、説明を要求します」


 「私たちも事はよく分かっておりません。ネプチューン様はただ街に出るとだけ申されましてそれっきり………すみません、折角ご足労頂いたのに」


 「………そうですか。分かりました、では戻られましたら連絡してください。私たちはゆっくりさせてもらいますので」


 「かしこまりました。何か御用名がありましたら言ってください」



 案内役の人たちはそれだけを言い残してドアを閉めどこかへと行った。

 スラインはため息を吐いて事の次第を響たちに伝え、今度は響たちが呆れるようにため息を吐いた。



 「どうしたものかな」


 「ま、怒っちまったことは仕方ねぇんじゃねぇのか? どうせ若い女でもナンパしてんじゃねぇのか?」


 「随分と詳しいのだな、ハイライン」


 「あいつとは個人的に飲んだこともありましてねリナリア様? あいつはとにかく軽い男ですよーぉ、蝶が付くほどの女好きで毎晩毎晩ふらつき歩いては誰かしら抱いてるっつーどうしようもねぇ野郎ですよ、まぁ今は昼間だけど」


 「仕方ない。今日はとりあえずみんな自由にしてていい、恐らく今日はもう進展しないだろう」



 グリムが会話を締めて、響たちは各々自由時間に入った。

 海王大陸一日目の真昼間からこれである、響たちの頭の中には「前途多難」という言葉が思い浮かんだが一度それは置いておいて、初訪問である海王大陸の海底都市を見て回ることにした。



 響は城の扉の前に立って、外出することを念のため傍を通ったこの城の使用人の人に伝え、「ニュートンの林檎」を発動させつつ思い切って扉を開けた。






 扉を開けて外を見た響はノータイムでこう思った。

 竜宮城とはつまり、こういった感じのことを言うのだろうなと。



 響の目の前に広がっていた光景、それはタイやヒラメが舞い踊っているわけではなかったが、その代わりとしてたくさんの人魚たちが海の中を気持ちよさそうに泳ぎ回っている姿だった。

海王勇者は遊び人

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