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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第八章:再び歩み始めるようです
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義手のお話。

新年明けましておめでとうございます。

少々遅れましたが、今年もよろしくお願いします!

 「ヒビキ、はいこれ」

 「……? なにこの箱」



 馬車に乗り込み出発してから間もない頃、隣に座るマリアが響に縦長の木箱を渡した。

 今回はいわゆるキャラバンという形で移動しており、全員が同じ場所に固まって馬も二頭に増えていた。

 三列あって一番前にはハーメルンとアリアと影山が、真ん中の列には梓と響とマリアが座っており、フランとリナリアは「座ってるだけじゃ暇だから」という理由で馬車の運転台の方に座っている。


 

 「おっ、なんすかそれ」


 「……ついてきてよかったんですか、本当に」



 そして一番後ろには荷物を置いてあるのだが、何故かそこにソフィーがついてきていた。

 ソフィーはマリアの取り出した木箱に興味津々に体を乗り出してみていた、その様子だけだと幼い子供のようだ。



 「カレン先輩からは許可貰ってますし大丈夫っすよ」


 「そうですか……んで、マリアこれは?」


 「義手ですわ」


 「……義手?」


 「はい。ヒビキの左腕の代わりになるかと思いまして、私の知る中で一番の鍛冶師にお願いしましたわ」


 「あ、開けていいか?」


 「勿論ですわ」



 響はプレゼントを貰った子供のようにそわそわとしながら恐る恐る木箱を開けた。

 中には銀色で黒いラインそして手の甲に黒い薔薇の模様が入っているもので装着部分にはピンクと赤の中間色をした魔方陣が描かれていた。

 機械的でありながらどこか芸術的にも感じられるその義手に響は「おぉ……!」と目を輝かせていた。


 手に取って左腕の服の袖をまくって左腕をあらわにした響はマリアに装着方法を教えてもらいながら恐る恐る左腕に装着すると切断面に吸い付くような吸着感があった、恐らく魔方陣の効果が発動したおかげなのだろう。



 「お……おおお!」


 「動かしてみてください」


 

 響は左腕に力を入れると義手が本物の腕と遜色ないように動き、指の一本一本が違和感なく右手と同じように動いた。

 それだけでも凄いのだがもっと驚くべきなのはしっかりと物を触った感触が分かるということだ。

 響はゆっくりとマリアの腕に触れてその凄さを実感しさらに驚いた。



 「なにこれすっごい!!」

 

 「喜んでいただけたようで良かったですわ」


 「へぇ~、いいじゃん響。なんかかっこいい」


 「うおお、いいっすねー!」



 響は左手を動かして動作を確認したがやはり本当の腕のようにスムーズに動いてくれる、しかも切断面との摩擦や圧迫感もなくフィットしていた。

 何気なく魔方陣をいくつか発動させてみても特に違和感はなく響はその完成度の高さに驚きつつも嬉しく思い満足していた。



 と、その時急に馬車が止まった。

 なにか合ったのかと思うと、フランとリナリアがこちらを向いてトラブルが発生したとの合図を出した。

 フランがこちらへとやって来て「盗賊に絡まれた」と短く現在の状況を報告し、馬車の窓から外を見るとざっと二十人はいるだろうガラの悪い輩が群がっていた。


 最初は妖王大陸で響がぶちのめした「豪傑の獅子」かとも思ったが風貌や顔ぶれからしてそうではないようだ。



 「ちょっと対処してきます、皆さんはここに」


 「私も行こう。念のためだ」



 フランとリナリアがそう言って馬車から降りて盗賊たちと話し合いを始めた。

 当初、盗賊たちはやかましく嗤ってフランとリナリアを取って食おうとしたりしていた。

 だがきっとその内の誰かがフランかリナリアのどちらかに手を出したのだろう、その哂いは次第に悲鳴へと変わっていきそして謝罪の声に変わっていった。



 「す、すいませんすいません!!」


 「お、おおお俺たちが悪かったです!! だからどうかご勘弁を!!」



 最終的にコテンパンにやられたのか心の底からの謝罪をする盗賊たちは尻尾を巻いて逃げていき、その後何事もなかったかのようにフランとリナリアは運転席に戻っていき移動が再開された。


 響としては折角貰った義手の性能を試してみたくもあったのだが平和的に解決できたためそれはそれで良しとしようと思った、どうせそのうち戦闘の機会があるだろうと踏んだからだ。

 その後遥々人王大陸から竜王大陸まで向かい、到着したのは夜になってからの事だった。




△▼△▼△▼△



 「とうちゃーっく!!」


 海王大陸、もといグリムたちのと待ち合わせ場所へ行くために響たち一行は一度竜王大陸を経由する必要があったため現在響たちは竜王大陸に立ち寄っていた。

 夜の竜王大陸は一言で言えばノスタルジックな雰囲気で、古き良きというか、これぞファンタジーというか、そんな雰囲気の場所だった。

 響たちは馬車から降りて転移させ、ひとまず宿を探すことにした。




 カランカラン…………




 「いらっしゃい。団体か?」


 「はい、九名なのですが部屋は開いてますか?」



 響たちが入ったのは三階建ての宿屋で、見たところ寝泊まりするだけといった感じらしい。

 ビジネスホテルに近いその宿屋の受付にいた竜族の男性は響たちに気が付き声をかけた。



 「ちょっと待ちな………あー、っとそうだなぁ………大部屋は無理だが五人部屋が二つ用意できる」


 「ではそれでお願いします」


 「はいよ。んじゃこれに全員分の名前書いてくれ」



 フランが受付を済まして全員分の名前を木のボードに記入して宿代を払い、響たちは木製の階段を上がり隣同士の五人部屋に二組に分かれてそれぞれ入っていった。

 部屋の中はベッドが五つとクローゼット、その他トイレや明かりなど必要最低限の物が置いてある場所だった。

 その分宿代が安いためその辺を考えるとまぁ妥当なのかもしれない。



 「ぃよっと! お泊りっすね!」


 「楽しそうですねソフィーさん」


 「まぁ竜王大陸に来ることはそうそうありませんし。あ、受付どうもすみませんフランさん」


 「いえいえ、構いませんよ。ああいうのは慣れてますから! そう言えばヒビキ君、腕の方は大丈夫なの?」


 「はい。思っていたよりも負担が少なくて、むしろ義手って感じがあまりしません」


 「そんなにいいんだ? へぇー、凄いのね。その義手を作った人…………ちょっと触ってもいい?」


 「……フランさん、目が怖いです」



 フランが響の義手に興味を示し、ソフィーがベッドの上でゴロゴロし、そしてもう一人の部屋メンバーであるリナリアは窓に腰かけて憂いていた。

 そのせいか部屋にはひんやりとして心地よい夜風が部屋に入ってくる。



 「……どしたのリナリア、黄昏て」


 「なぁ、ヒビキ」


 「……なに?」


 「最近私、出番少なくないか?」


 「………それは、多分、言っちゃいけないことだと思うぞ?」



 突然リナリアはシリアスな顔して訳の分からないことを言いだしたため響はひとまずそれ以上考えないように言って窓から落ちそうなリナリアを部屋の中へ戻した。

 リナリアは「うへぇ」と気の抜けた声を出しながら響に抱えられてベッドに投げられそのまま動かなくなるとソフィーと同じようにベッドの上をゴロゴロし始めた。



 「………女神とは」


 「私が言えたことじゃないと思うけど……気にしたらダメなんじゃないかな、もう」


 「そうですね……」



 フランと響が一応女神であるリナリアの行動に呆れているとマリアが部屋を訪れて皆で夕食に行こうと誘ってくれたためベッド組を強制的に叩き起こして街へと繰り出した。


 部屋の鍵を店主に預けて宿を後にし、響はポツリとこう呟いた。



 「………竜族って、思ってたより人だった」


 「あれ? でも確か竜族の人って人形態と竜形態に自分でなれるんじゃなかったっけ?」


 「あ、そうなんですね」




 フランの思わぬ言葉に響は冷静になりながら驚き夕食を食べた。

 そして翌日、一休みした後に準備と手順を整えて海王大陸へ行くため、グリムたちの指定した待ち合わせ場所へと向かった。

フラン「でも確かに出番少ないような……」

リナリア「そうだろうそうだろう?」

作者「(言えない………たまに存在忘れてるなんて絶対に言えない………!」

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