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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第八章:再び歩み始めるようです
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団らんのお話。

一周年!

これからもよろしくお願いします!

 「それでヒビキったら、あれよあれよという間に強くなっていって――――」

 

 「ほおぉ! そんなに強くなったのか!」


 「それなりには……」


 「何謙遜してんだ、お前の強さは私がこの目で見てたんだから」


 「ちょぉカレンさん……ってか酒くさ!?」


 「あらあら~、すっかり出来上がってるわね~」



 その夜、響は久しぶりに家族で食卓を囲んでいた。

 久しぶりに会った両親は記憶にある姿と何ら変わりなく、まるで年を取っていないかのような。

 そしてカレンは日々の重圧から解放されてすっかり気分が良くなり、酒を煽って羽目を外し、いつもの凛とした態度とは真逆に終始ニコニコしていた。



 「ヒビキはねー……やばい。壊級魔法とか使い始めるしもうわっけわかんない」

 

 「壊級ぅ!? まじかヒビキ! いつの間に覚えたんだ?」


 「いつの間にっていうか、気が付いたらできるようになってたというか」


 「……成長したなヒビキ。もう俺じゃ勝てないかもな!」


 「そうね~、お父さんじゃもう無理かもね?」


 「エミル……せめてフォローしてほしかったな」



 がっくりとうなだれるクラリアを三人はケラケラと笑い、豪華な料理を楽しんでいた。

 家族団らんの時間はあっという間に過ぎて行き、夕食を食べ終えてエミルは食器を洗い酔いどれになったカレンの代わりに響が手伝った。


 片手では一見不便そうに見えるが響には「ニュートンの林檎」がある、響はそれを発動させながら自由自在に、まるで何本も手があるかのように食器を操っていった。


 その姿を見てエミルとクラリアは大層驚き、カレンは自分が褒められたかのように「凄いだろ~」と酔っ払い独特のトーンで言っていた。

 それから順番にお風呂に入ってサッパリした後に、響は久しぶりに戦いのことを忘れてゆっくりしていた。



 久しぶりに訪れた道場はきちんと手入れがされており、この道場に通っていた響たちが勇者パーティーに選出されたことによりアルバレスト道場は瞬く間に一台道場になったようで今でも多くの人たちがクラリアの元へ剣を習いに来ているとか。



 響は竹刀を一本持って軽く振った、「ひゅん!」という風邪を斬る懐かしい音が静かな道場内になった。



 「おっ、何やってんだヒビキ」


 「父様」



 その様子をクラリアが後ろから見ていてクラリアは響に話しかけると自分も竹刀を持って響と向き合った。

 懐かしいなと感傷に浸ったような言葉を言ったかと思うとクラリアは一歩加速して響との距離を詰めて剣を振った。

 響は突然のことに驚きはしたが冷静に対処して竹刀で受け流しクラリアの背後に回って距離を取った



 「くそー! 流石に当たるかと思ったんだけどな」

 

 「これくらいなら片手でも余裕ですよ」


 「ははっ! 言うようになったじゃねぇかヒビキ。たまには一本どうだ?」


 「いいですよ、ただし手加減はしませんからね父様」


 「あったり前だ、行くぞ」



△▼△▼△▼△



 数分後、道場にはクラリアが背を地に付けて寝そべりそれを響が竹刀を突きつけて見下ろしていた。



 「……負けた!」


 「俺の勝ちですね、父様」



 響は息を切らすことなく、そして苦戦することなく、クラリアから一本を奪っていた。

 片手というハンデをものともせずに響は父であり師でもあるクラリアを打ちのめしクラリアも息子に負けてどこか清々しい顔をしていた。


 クラリアは立ち上がって額の汗を拭うと悔しそうに「強くなったな」と言って響の頭を撫でていた。

 その後響は自室へと戻り、腰を下ろして魔術書をおもむろに手に取った。

 小さい頃は苦戦した魔法も今では呆気なく使えてしまえるようになり響は自分が成長したことを実感しながらパラパラと魔術書のページをめくっていった。


 響がゆっくりしているとカレンがまだ酔った状態で部屋にやって来て、結局カレンが寝るまで響は付き合わされ、カレンは響の膝の上で幸せそうに寝息を立てていた。



 「……ほんと、キャラクターの変わりようが凄いよなこの人」


 「んん………むにゃむにゃ……」


 「むにゃむにゃっていう人初めて見た……」



 何てくだらないことを言ってから響はカレンをお姫様抱っこして部屋に運び、自室に戻って自分も寝た。

 久しぶりのベッドの感触は懐かしく、横になっただけですぐに眠れそうな、そんな感じだった。

 響は瞼を閉じるとゆっくりと夢の世界へと落ちていった。



△▼△▼△▼△



 「もう行くのか?」


 「はい」


 「もっとゆっくりしていけば良いのに~」


 「………頭痛い」


 「カレンさん妖王大陸でもそうなったでしょ……」



 翌朝、響とカレンは早くから支度をしていた。

 エミルとクラリアはもう少しいればいいじゃないかというのだがそういうわけにもいかない、今回響とカレンの二人がこうしてアルバレスト家に戻れたのはある種の特例のようなもので、本来ならば二人にはやるべきことがたくさんあるのだ。



 カレンは以前妖王大陸でつぶれた時のように二日酔いに悩まされていたがそれでもきっちりと装備や武器の手入れは欠かさなかった。



 「それじゃ、一度城に戻ります。また戻ってくるかとは思いますけどいつになるかは……」


 「ま、四年以上も家開けてたんだ、今更寂しくねぇよ」


 「そんなこと言って~、お父さんしばらく寂しがっていたじゃないの~!」


 「そ、そう言うお前だって! 度々寂しいとかって言ってヒビキの部屋に入り込んでたろうに!」


 

 突如として数年前のことを暴露しあう二人に苦笑しながら響は身支度を済ませた。

 カレンも準備が出来たようで、二人は玄関に立つと「それじゃあ」と言って玄関の戸を横にスライドさせた。



 「うわっ!」



 と、玄関を開けた先には年もバラバラの何人かの少年少女たちが立っていた。

 服装から見るに、恐らく稽古をしに来た道場の生徒たちだろうと思われた。



 「……? あれ、お前らもしかして……」


 「えっ!? もしかしてヒビキ君!?」


 

 その声で響の記憶は一気に呼び起こされた、今目の前にいるのは響が魔法学校に通っていた時の同級生たちだったのだ。

 響と同級生の門下生たちはともに懐かしがって歓喜の声を上げ、隣にいるカレンはその声が頭に響いたのか苦悶の表情をしていた。



 響と同級生たちはお互いに「頑張れよ」と声をかけ合い、そこで別れた。

 王城に行くまで久しぶりに歩く故郷の風景は何一つとして変わっておらず、響とカレンに気付いた街の人たちが次々に話しかけてきては二人の健闘とこれからの頑張りを称えた。



 二人はその言葉の数々に内心喜びながら無事に王城へと到着し、マリアたちと合流した。



 「……? ヒビキ」


 「なに? マリア」


 「何かありましたか? ニヤニヤしてますけど」



 城に到着するや否やマリアが響の表情の変化に気付き、何かあったのかと聞くも響は「何でもない」と笑って誤魔化した。

 一方カレンはというと後輩のソフィーの膝の上に頭を預けてうなだれており、ソフィーは頭を撫でようとしたりしなかったり迷っている様子だった。



 響は部屋の隅に荷物を置くと体を伸ばした。



 「ひーびき」


 「どした梓」


 「本当は何かあったでしょ? 楽しそうだよ?」


 「んー………まぁちょっとな」


 「なになにー? 気になるんだけど」



 響は梓のその言葉にただ一言「内緒」とだけ答えて満足気な顔をした。

 窓を開けると、清々しい風が室内に入り込んきた。

 響は空を眺めながら両親と同級生の顔を思い出し、パチンと頬を叩いた。

 それは気合を入れるための行動でもあったが、同時に忘れないようにするための行動だった。


 

 そして今日も響は、戦いの勘を取り戻すべく鍛錬に励むのだった。

さてさて……これからの展開はどうしようかなーっと。

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