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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第一章:魔法学校に入学するようです
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パーティープレイのお話。

多分、低難易度の任務ならソロでクリアできるんじゃなかろうか。

※今回も長めです、ご了承ください

 「で、実際のとこどうなんだよ、響」

 「どうなの響」

 「俺もある種の被害者なんだがなぁ……」



 鬼気迫る表情でずいずいと顔を近づけて問い詰めてくる幼馴染二人に、響はここまでの経緯を説明することにした結果、影山は安堵の表情を浮かべ梓が何故か赤面し始めた。

 この世界に来てから梓の表情にバリエーションが増えてきた気がする、それがいいことなのか悪いことなのかはその時次第なのだろうが。



 「そういや梓、さっきの何だったんだ?」

 「さっきのって?」

 「私じゃダメなの()ってやつ……ちょっ! 待て待て待て刀を生成するな! しかもお前それドスじゃねえか!!」

 「………………っっ!」


 赤面して俯きながらドスをぶんぶんと振り回してくる二十年来の幼馴染に命の危険をここで教えられることになると響は思いもしていなかった。他の3人に助けを求めてみるが全員揃いも揃ってさも当たり前かのようにさらりと受け流していた。



 「お前らちょっとは助けようとは思わねえのか!?」

 「だってなあ……そりゃお前らだし」

 「まあ、お二人ですものね」

 「同意見です」



 両手で梓のドスに刺さらないように拳を受け止めて何とか耐えている奴にそれだけで済ませるのはいささか無慈悲なのではないかと思う。梓は梓でさっきから何もしゃべらないで涙目になってるしもう訳が分からん。この状況を見て何も思わないのかと三人に問うたところ。


 「痴話喧嘩だろ?」

 「痴話喧嘩じゃないんですの?」

 「痴話喧嘩では?」

 「この薄情者どもがああ!!」



 まるでここに来る前に打ち合わせでもしてきたかのようにピタリと三人の意見が合う。



 「だってお二人とも、いつも学校では一緒にいるではありませんか。人目もはばからずべったりと」

 「そりゃ幼馴染だしこれが普通っていうか……」

 「そうでしょうか? でも確かこの前アズサさんヒビキさんのことで何か悩んでいたような気が……」

 「マリアちゃん! お願いだからそれ以上言わないで!!! 刺しかねない!」

 「ではまずどこから取り出したか分からないその刀をしまった方がいいのではないかしら?」



 その一言がかなり効いたのか、渋々ドスを引っ込める。するとドスが細かい粒子になって消えてしまった。響自身、梓の能力を目にしたのは初めて……………いや、思い返せば再会出来た時に能力を見てはいたのだがここまでスムーズに消せるようなものではなかったという記憶があったので少しだけ驚きはしたが、自分の能力も結構そんな感じであっさり消えるのでなんとなく納得してしまう。



 「朝ごはん出来たけど、みんな食べてく~?」



 母様がこの争いの終止符を打つかのように部屋に入ってくる。みんなぞろぞろと食卓の方に移動する。うちのテーブルは家族四人でちょうどいいくらいだったため、もう一つ折り畳み式のテーブルを出して繋げていく。畳の上に座布団を敷いた食卓に八人という人数が並ぶとまるで大家族のようだと思ってしまう。まあ梓に至っては前の世界で家族のような感じだったためそこに関しては違和感はないし、影山は一緒に飯食ったりしたことが何回もあるためそこまででもないのだが、マリアとセリアの異世界お嬢様がいるというのが新鮮でたまらない。



 中世ヨーロッパの世界観の異世界に住んでいるお嬢様には、畳に直に座って食事をするという日本風の様式は不慣れなものかと思っていたが、そこは名門のお嬢様、ここでの稽古の時に正座をしているためかすぐに順応していた。



 朝食後、響の部屋でなんとなく雑談タイムに入り、年相応の少年少女らの会話になっていった。別に普段から年相応の会話をしていない訳ではないが、中身が中身だけにどうしてもたまにこの年の子がそんなこと言わないだろうという会話になってしまうことがあるのだ。

 そんな楽しい雑談タイムの中、さらなる来客がやって来た。いや、やって来てしまったの方が適切だろうか、響自身この流れならもしかしたら来るかもなと冗談で思ってはいたのだがまさか本当に来てしまう辺り、自分自身一級フラグ建築士になれるのではないかと思ってしまう。



 「やあ、おはようヒビキ君。驚いたかい?」

 「残念ですが今朝にここ最近で一番のサプライズがありましたので」

 「おや、それは残念だ。まあいいとりあえず上がらせてもらうよ」



 魔法学校生徒会執行部の現僕っ子生徒会長アリア・ノーデンス。休日にも関わらず制服姿の彼女が来たことで今日の任務のメンバーが揃ってしまった。昼飯食ったらギルドに即集合じゃなかったのか畜生め。アリアを部屋に招き入れるや否や梓と影山が無言でこちらを見つめてくる。



 「おやおやこれはこれは、また随分と朝から楽しそうだね」



 ケタケタと茶化していくアリアに幼馴染二人が今朝の俺にしたようにグイグイと質問をしにいってしまった。

 だが当のアリア本人はこのアグレッシブな後輩二人の行動に対し軽くいなすように「僕に聞くよりヒビキ君に聞いてごらんよ」なんて言うものだから再び二人がこちらへとやってくる。今度は凶器こそ出さなかったものの目が完全に死んでいる状態の梓と、若干能力を発動させている影山の手によってどこへ逃げようとしてもすべて先回りされてしまうというホラー現象が響を襲った。

 そのころのマリア・セリア・アリアの三人は、母様が持ってきた飲み物を啜りながら楽しく女子会と洒落込んでいた。

 

 一体この部屋には朝から騒がしくなるような魔法でもかけられているんだろうかと思いたくなる。

 そんな任務前の賑やかなひと時であった。



△▼△▼△▼△



 最近よくお世話になっているしこれからもお世話になるであろう冒険者ギルドに学生服に身を包んだ六人のパーティーがやって来た。そう、響達魔法学校の生徒軍団である。本来であれば四人でここに来るはずだったのだが、勝手に変な勘違いを働かせて家に押し入ってきたイレギュラーの梓と影山も追加されて現在のメンバーになった。というよりなってしまったの方が表現が正しいのかもしれないが、今更そんなことを気にしてもしょうがない。



 「よしじゃあ早速登録と行こう。僕はマリア嬢とセリア嬢の手続き、ヒビキ君はアズサ嬢とセイヤ君の手続きを頼む」

 「分かりました」

 「ここが……! 冒険者ギルドなのですね! 私、なんだが体が熱くなってまいりましたわ!」

 「はあ~すっごいねえ~ここ。いいなーヒビキばっかりこういうこと先にやるんだもん」

 「ほんとだぜ響。こんな面白そうなこと黙ってるなんてよ」

 「別に黙ってたわけじゃないし俺ばっかでもないだろ」

 「お嬢様勝手に歩き回らないでください ああほらもう!」



 毎度のことだがセリアさんは苦労してんなぁ……と響は声には出さず心の中で呟き、頑張ってくれとしみじみ思う。隣で幼馴染二人がぶーぶー言っているが、長年の付き合いからそんなことにいちいち対応していたらきりがないという結論を導き出す。

 ただそんなことを愚痴っていても仕方がない、アリアの方を見ればあっちはもう受付で手続きに入っていたのでちゃっちゃと登録手続きを済ませることにする。

 響はついこの前アリアと一緒に手続きをしたばかりなので手順は一通り覚えており、スムーズに登録が終わって梓と影山の二人とも刻印式にしたようで梓から「へへーお揃いー!」と満面の笑顔で報告された。

 響は、こいつはいつまでたっても変わらないなと実感しつつ、子供のようなその笑顔に魅せられて不覚にも少しドキッとしてしまった。



 「可愛いやつめ……」

 「っ……!」

 「あ……」



 どうやら心の声が口から漏れてしまっていたらしく、またも梓が俯いて黙りこくってしまう。最近はめっきりなかったから油断していた。



 「なあ頼むからラブコメは二人きりの時にやってくれねえか?」

 「やってねえ!」

 「やってない!」

 「ハモってるあたり、お前らほんと羨ましいよ」



 なんて馬鹿なことをしてる間にアリア組の三人も登録が終わったようで、マリアがルンルン気分でこちらへやってきた。そんな光景を見ると、案外このままでも世界は平和なんじゃないかと思ってしてしまう。



 「全員終わったね。じゃあ何か適当に任務選んで……ってそっちは何かあったのかな?」

 「察してくれると助かります」

 「なるほど、君も大変だねセイヤ君」



 ニタニタと、響と梓の雰囲気を面白いものを見たような顔で見ているアリアだが、そのことに当の本人たちは全く気が付いていなかった。アリアはそのままスタスタと任務が貼られている掲示板の方へと歩いていった。

 ほどなくしてアリアが一枚の張り紙を持ってきてメンバー全員に説明を始めた。

 今回の任務の場所は王国を出てすぐの平原、目標はゴブリン種とホーネット種の掃討という初心者向けの内容だという。ゴブリン種は一度戦ったことがあるから分かるしホーネット種というのは名前からして蜂のような飛行型の魔物だと予測できる。

 受付のお姉さんに張り紙を渡して、パーティーメンバー確認の用紙に名前をそれぞれ書いていく。

 書き終わったところで、いざ出陣。スキル持ちが四人もいるこのメンバーならきっと容易く終わるだろうとその時は何の根拠もなく思っていたが、その考えが甘かったのだとこの後痛感することになるとは思わなかった。



△▼△▼△▼△



 平原では何組か他のパーティーが同じように任務にあたっていた。見たところ装備もそこまで凝ってはおらず、響たちと同じ駆け出し冒険者だろう。そういう思う響だが自分たちに至っては鎧どころか装備の一つもしていないことに今更気が付いてハッとする。これ直撃したら結構大変なことになるんじゃないか?



 そうこうしている内にどうやら討伐対象のお出ましのようだ。十数m先に蜂型の魔物が数匹群れているのを発見した。恐らくあれがホーネット種というやつだろう。



 「ヘイトは僕が溜めるから、その隙にみんなで一気に叩いてくれ」

 「ヘイトってなんですの?」

 「注目って解釈してくれればいいよ。悪い意味でねっ!!」



 言い終えると同時にアリアの手から雷撃が放たれた、それは一直線にホーネット種の群れへと向かっていき着弾して爆散していった。正直あれだけで事足りたんじゃないかと全員が思ったがどうやらそうでもないようで、爆音に気が付いて周辺の魔物の注目が一斉にこちらへと向けられる。それはもう痛いほどに向けられ冒険者たちの注目も一手に引き受けてしまった。

 これじゃ完全にタゲ取りになっているし、なにより取りすぎている。予定になかった魔物までこっちへ雄たけびを上げながら走ってきてしまう。



 「さあ諸君! 戦闘開始だ!」


 

 その号令とともに全員が戦闘態勢に入る。



 「マリア嬢とセリア嬢は僕とやるよ! ヒビキ君、そっちは任せた!」

 「了解!」



 さっきの組み合わせで二手に分かれて周囲の魔物討伐に当たる。ゴブリン種もいたが大体は討伐目標以外の魔物だ、しかもアリアと響以外は初任務でこの仕打ちである。

 だがそこは魔法が確立している異世界の住人、切り替えは驚くほど早かった。



 一点に固まらず走りながら敵の注意を散乱させ魔法で的確に倒していくマリアとセリアのコンビ。幼少期から一緒にいるからかコンビネーションは初任務とは思えないほどピッタリと呼吸が合っていた。

 一方アリアは逆に立ち止まり十分に敵を引き付けてから近接戦闘を行っていた。ゴブリン種をはじめとした近接戦をする魔物が多かったというのもあるだろうが、ただ単にそっちの方が戦いやすいという線もある。



 だがコンビネーションや近接戦闘ならこちらだって負けてはいない。

 魔王を倒すために地球からやって来た転生組八人、それら一人ずつが女神からの恩恵を授かっている。

 そしてそのうちの三人が今この場にいるのだ。こんな雑魚だともに手こずっている場合ではない。



 響が銃を複製し、

 梓が日本刀を作り、

 影山が拳をパンと叩き合わせる。



 そこから先は早かった。各々が別々の方向へと走っていき、各々が魔物を殲滅していく。ドンドンという音を響かせて魔物どもに風穴を開けていく者、的確に急所を切り裂き一撃で絶命させていく者、反応すら許すことなく鈍い音を響かせノックアウトさせていく者、この行為をしている内の一人は任務経験回数がまだ一回、他二人はこれが初任務というのだから驚きである。

 見る見るうちに先ほどまであれほど活発に六人を襲っていた魔物たちは物言わぬただの肉塊になり果ててしまった。殲滅を確認して佇む三人を恍惚の顔で見るアリアと呆気にとられるマリアとセリア、そして周辺にいた先輩冒険者たちも何が起こったのか分からないという顔をしていた。



 「大丈夫かお前ら」

 「もっちろん」

 「こっちも大丈夫だ」


 手短に互いの安否を確認して三人はアリアたちに「こっちは片付いた」と報告をする。



 「最高だったよ!惚れ惚れするねえ、エクスタシー感じちゃうよ」



 珍しく天昇高めのアリアとまだ呆けている名家二人と周囲の冒険者たちの視線によく分からない変な感覚を覚えつつ三人はアリアたちと合流する。その時だった。




 ガァン! ガァン!




 と大きな鐘の音が全員に意識をそちらへと向かせた。少し経って鎧に身を包んだ近衛兵らしき男が駆け足で平原へとやって来た。



 「大変だ! 大量の魔物の群れがこちらへやってくる! その数推定二百! 二百だ! 全員すぐに王国に戻って避難しろ!」



 その号令を聞いて一斉に他の冒険者たちが王国へと急いで引き返す。

 推定二百の魔物の群れって……まさかこの前武器屋で冒険者二人組が話していたあれか!?と響の中で先日の会話と今の状況が点と線で結ばれた。正直フラグ建設がこんなとこで仕事するとは思わなんだ。

 ああなんか洒落にならないくらいの大群がこっちへ来るのが肉眼で確認できてしまった……やばい、頭痛がしてきた。



 「これはちょっとまずいね……全員撤退だ、ギルドに戻るよ」

 「り、了解しましたわ!」

 「了解です! 行きましょう、お嬢様」

 「さあ三人も」



 避難を促すアリアに同意するマリアとセリア、響もそうしようと思ったがある考えがふと頭をよぎってしまう。そしてその考えが悪いことに他二人にも感染してしまう。



 「なあ響、おれちょっと凄いこと考え着いたんだけどよ」

 「私もちょっとやってみたいことがあるんだけど」

 「奇遇だなお前ら、俺も面白いこと考え着いたところだ」



 仲良し三人組の顔が一気に悪役の顔へとタイプチェンジする。それはもうゲス顔が一周回って清々しく見えてしまうほどに悪い顔をしていた。大群の方に体を向け嬉々として話し合う転生組三人。



 「三人とも! 早くこっちへ……って、どうやらその顔は何か思いついた顔だね。全くこんな状況でそんな顔が出来るなんて、僕は凄い後輩を持ったようだね」



 やれやれとマリアとセリアを引き連れて去っていくアリア。

 先ほど号令を出した近衛兵や警備兵たちは避難の誘導で響たちに気が付いていないようだった。



 「さて、案はあるのか?響」

 「まあちょっと」

 「こういう時の響の作戦って案外ろくでもないんだよね~」

 「うるせえ、言いから聞け。いいか? まず……」



 一通り作戦を説明し終え、二人の意見は「乗った」の一言。

 そして、三人対二百の平原攻防戦が幕を開けた。

そろそろ他の転生組にもスポットライトあてねば(使命感)

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