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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第八章:再び歩み始めるようです
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抱擁のお話。

メリークリスマス!!

通常運転だよ!

 コン……コン……



 「誰かね」



 扉の内から聞こえてきたしわがれた声の主にマリアは扉越しに「マリア・キャロル・フォートレス」ですと言ってから、妖王大陸から響たちが返ってきたことを伝えるとガチャリと音を立てて扉が開いた。

 扉が開かれ、目の前には人族の長である人王でありこの王都の国王「ハーツ・プロト」の姿が目に入った。



 「入りなさい」


 「失礼します。マリア・キャロル・フォートレス及び妖王大陸帰還者一行、ただいま戻りました」


 「……良く戻った、本当に、よくぞ戻った!」



 プロト王はそう言って響たちを王室に招き入れた。

 王室には国王とその側近の方やメイドさんたちしかおらず、カレンたち騎士団の人間はいなかった。

 響たちの事は国王自らが王国騎士団の方へと連絡してくれるそうで、ひとまずマリアを含めて響たちはしばらく待機してほしいとの命令が下った。


 折角だからマリアはフォートレス家の屋敷へ招くと言い、国王もそれを了承してくれたため響たち一行は懐かしきあの屋敷へと向かった。

 連絡がつき次第騎士団の人間、カレンたちが屋敷へと来るらしいがそれまでは実質的な自由時間となった。



 「改めて、無事の帰還何よりですわ……! えぇ本当に………本当に!!」


 「マリア……」



 マリアは失われた左腕部分の服の袖を握りしめながらぽろぽろと涙を流していた。

 響は一言「ありがとう」と言ってマリアの頭を撫で、慰めた。

 

 「すみません、お見苦しいところを見せましたわね……」


 ようやくマリアが泣き止んだところで響はマリアに尋ねた。


 「なぁマリア、聞きたいことがあるんだけど……」


 「はい、何でも言ってくださいまし」


 「さっきマリアが乗ってたあの竜みたいなのって……なんだ? ていうか今お前何やってるんだ……?」


 「……そのことですか。四年分ですからね、どこから説明しましょうか……」



 マリアは少し考えた後、順に説明しましょうかと言って、響がこん睡状態の時の出来事を時系列順に説明してくれた。



 まず初めに、響と椿対アザミの戦いの衝撃は人命を奪うまでは到達しなかったが妖王大陸の土地に大きなクレーターをいくつも開け、魔物たちが国へ侵入するのを防ぐためのいわば城壁の一部が吹き飛んだこと。この辺りはこちらへ来る際に響本人が見ているため把握できた。


 次にその後の世界情勢だが、各地で急速に魔物たちの行動が乱れ今までの生態系を保てなくなったのだという。原因としては魔王イグニスが消息不明になったことにより魔族の統率が難しくなりまた同時に魔王軍も事実上動けなくなってしまったためだという。幹部の者たちはそれでも何とかしようと周辺国家を襲撃しているらしいが規模はそこまで大きくはないらしい。

 

 魔物たちの生態系の乱れによって、本来その土地に出没するはずの魔物が消えたり本来出没しないはずの魔物が現れたりしていたようで、その種類も千差万別多種多様。

 それと同時に人族のような人と友好的な魔物がいることも分かり、マリアが乗っていたあの竜――――正式には「ワイバーン」と言う緋級魔物らしく、それをはじめ様々な友好な魔物たちが現れ各種族たちはそれらの生体の調査に余念がないとのこと。


 また、今まで魔族というだけで忌み嫌われてきた魔族も実は一部を除いてほとんどは恐ろしくはないのではないのかという話が持ち上がり、魔族と他種族の仲はここ四年で飛躍的に深まっているようなのだ。



 「じゃあ、さっきギガンテスが現れたのも……」


 「えぇ。魔物たちの生活環境が大きく変わったのが原因でしょうね。魔物が頻発するため、王都は新たに部隊を発足しました、それが――――」


 「それがマリアさんみたいにあのワイバーン……だっけ、に乗って戦うこと?」


 「はい、騎竜兵という役職です。わたくしはたまたま向かわされただけで、本職は冒険者のままですが。あ、度々騎士団の方も手伝っています」


 「そうなんだ……凄いね」



 響に褒められて少し嬉しかったのかマリアは頬を赤らめながら「そ、そうでしょう!?」と声を裏返しながらそう言った。

 それからマリアは、グリムと国王は捕虜にした魔族であるハーメルンを勇者パーティーの一員として、グランを王立騎士団の一員として、仲間にしたことを各種族へ明かした。

 グリムや国王としてはバッシングを受けるかと思いきや、むしろその逆、衝撃の事実は各大陸を渡り、ハーメルンやグランの功績を称え始めたのだ。


 勿論バッシングが全くなかったわけではない。

 だがそれを上回るくらいに勇者パーティーへの賛辞が送られ、魔王イグニスを退けその黒幕でもあったアザミ――――は正体不明の人物ということになっているが、そいつに重傷を負わせ撤退させた最大の功績者である昏睡状態の響を心配する声が後を絶たなかったようだ。



 「ハーメルンとグランがこうして同行してくれたおかげで、人々の魔族に対する認識は大きく変わりました。これがある意味、一番の成果かも知れませんわね」


 『いや、本当に感謝すべきなのはこちらだマリア。君たちが私たちを同行させなかければこうはならなかった……』


 

 二人がそう話しているところで、屋敷中にチャイムが鳴った。

 どうやらカレンたちが到着したようだ。

 マリアは響たちに待っていてくれと伝えて自分だけ玄関の方へ出迎えに言った。




 ドタドタドタ………




 十数秒後、廊下を走る足音とその足音で驚いたのであろうメイドさんたちの声が聞こえてきた。

 そして響たちのいる部屋のドアを「バン!」と大きな音を立てて開け、カレンが姿を現した。



 「カレンさ――――」



 響がカレンにそう呼びかけようとした矢先、カレンは響に抱き着き喜びのあまり泣きながら名を呼んでいた。



 「ヒビキ……あぁ良かった……! あのまま目覚めなかったらと思うと………」


 「カレンさん……」


 「良く帰って来てくれた、良く生きていてくれた。私は母親として嬉しいぞ………! さぁヒビキ、私のことをお母さんと呼んでみてくれ」


 「えっ、いや……なんですかいきなり」


 「いいからほら」



 突如としてポンコツになり始めたカレンの要求を響は少し迷って考えた挙句少し頬を赤らめて恥ずかしがりながら答えた。



 「お……」


 「お……?」


 「お義母さん……?」


 「はぅっ!」



 するとカレンは変な声を上げながら至福というか恍惚というか、とにかくそんな感じの笑顔を浮かべていた。

 すると今度はソフィーが「カレンせんぱーい!」と言いながら、響に抱き着いているカレンに抱き着いた、というかしがみついた。

 確か「金のガチョウ」という童話ってこんな感じだったな、なんてことを響はこの時思っていた。



 「そうですわ! 折角だからヒビキ、家に帰ったらどうです?」


 「家に……か」


 「それはいい! ほら帰るぞヒビキ!」


 「わっ! カレンさん引っ張らないで――――」



 ソフィーを引きはがし、半ば強引にカレンは響の腕を掴んでフォートレス家の屋敷から出て行った。

 二人が去った後、残りの面々はなんだかしみじみとした気分になったという。

 曰く、また昔に戻ったみたいだ、と。



△▼△▼△▼△



 響は今、カレンと共に、歩き慣れた懐かしい道を走っていた。

 幼少期から何一つ変わらない街の風景を視界に収めて、颯爽と風を浴びながら、ただ一つの目的地へと走っていった。



 

 ガラガラ…………




 「お、カレン。帰ったか」


 「はいクラリアさん」


 「……なんだ? やけに嬉しそうだな?」


 「あらあら~ほんとね~」


 「実はちょっとしたサプライズが合って!」



 クラリアとエミルからは、カレンが何やらドアの陰で何かをやっているように見えただろう。

 そしてまさかそこから、響が登場するとは余計思わなかっただろう。



 「ヒビキ……ヒビキか!?」


 「はい父様!」


 「本当に、ヒビキなの~!?」


 「はい母様!」



 目の前にいる左腕を失った少年が成長した自分たちの息子だと完全に把握した二人は響を熱く抱擁した。

 頭を撫でられ、頬ずりをされ、きつく抱きしめられ、響は少し困りながらも笑顔でこう言った。












 「ヒビキ・アルバレスト、ただいま帰りました!!」

今回はハートフルストーリーみたいな感じになったかな?

なってるといいな。

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