帰省のお話。
里帰り
妖王大陸を旅立つ数時間前、響は椅子に腰かけていた。
「ほい。こんな感じでどう?」
「………うん。良い感じだ、ありがと梓」
「これくらいお安いものってね」
梓に鏡を手渡されて響は鏡に映った自分を見た。
響は今しがた梓に髪の毛を切ってもらっていて、ようやく目に前髪が掛からなくて済むと喜んだ。
女の子のように長かった髪をばっさりと切り、短くなった髪をわしゃわしゃと響は自分で触っていた。
そこへハーメルンが入ってきて『いいんじゃないか?』と梓の腕を褒めていた。
響自身、梓に髪を切ってもらうことを少々心配していたが実際にやってもらった結果を見ると思いのほか悪くない。
というより想像以上の腕だった。
「いやー、私も人の髪切るのなんて初めてだったんだけど、意外と何とかなるものだね」
「あぁ想像以上だ」
『そうだ二人とも。後一時間半もしたら出発する予定だからそれまでには準備を済ませておいてくれ』
「分かった」
そうしてハーメルンが退出し、二人はそれぞれ荷物をまとめた。
そして一時間半後、予定通り響たちは妖王大陸を旅立ち人王大陸へと馬車で移動していった。
本来ならば転移魔法でも使えばいいのだが、正規のルートで通った方がその後グリムたちやカレンたちに帰ってきたことを伝えてもらうためにわざと馬車で行くことにしたのだ。
ガタゴトと揺れる馬車の中で響は黙って窓の外を眺めていた。
窓の外は四年前の自分の記憶とほとんど同じだったが、強いて言うなら至る所にクレーターのように穴ぼこがあることくらいだろうか。
その中でひときわ大きいクレーターを見た瞬間、響にはあれが、自分とアザミの魔法がぶつかった衝撃で開いたものだと一目で分かった。分かったというよりは本能的にそう感じたと言った方が正しいのだろうか。
「……梓」
「なに?」
「向こうは平和か?」
「……まぁ、平和だと思うよ? どうかした?」
「いや……なんとなく聞いただけだ。平和だったらそれでいい」
「うん、そうだね。あーあ、お父さんたち元気にしてるかなー?」
そう言えば、確かに人王大陸へと帰るのなら家族に会うことだってできるじゃないか。
響はそう思い父と母が元気にしているのだろうかと思いにふけっていた、だが数秒思考した後にあの人たちならピンピンしてるだろうなと直感的に感じだ。
そんなことに思いをはせながら、いつの間にか響たちは人王大陸へと到着していた。
△▼△▼△▼△
「到着っす!」
「……凄い久しぶりだな、なんか」
「うん、帰ってきたんだね」
「店潰れてないだろうな……」
響たちは人王大陸に到着するや否や思い思いに言葉を発した。
ひとまずグリムたちに帰還したことと響が目覚めたことを伝えるために一行は王城へと向かうため行動を開始した、王城へのパスはソフィーやハーメルンが担ってくれるようだ。
「ま、すぐに行くのもいいっすけどー………」
『折角だからなー……』
「……?」
早速王城に行くのかと思いきや、ソフィーとハーメルンの二人は何か言葉を渋っている様子だった。
なんだろうかと疑問に思う響と梓と影山とは違って、アリアは大方察しがついているようで「はは~ん?」と含みのある言い方をしていた。
「どしたの、三人とも」
「わざわざすぐに行く必要もないってことっすよ」
「……は?」
「折角戻ってきたんすから、少しくらい散策してもいいんじゃないっすかねーと。そうでしょ二人とも」
『同意だな』
「二人に同じく」
三人は今すぐ王城に行くのではなく少し街を散策してから行こうというのだ。
確かに数年ぶりに帰ってきたのだから少しくらい職務なんか忘れて楽しんでからでもいいじゃないか。
響たちも三人の考えに賛同して少しばかし街を見てから王城に行くことに決めた。
六人は早速行動を開始して色々と武器屋やら雑貨店などを見て回っていた。
その店の中には幼い頃の響たちを知ってくれている人たちがいて、話しかけてきてくれて商品の割引などをしてくれた。
それから勇者パーティーとして頑張っていることを褒めてもらい、その噂を聞きつけた他の店の人たちも積極的に響たちを勧誘するようになった。
「そこのお兄さん、片腕のお兄さん」
「なんですか?」
そんな折、一人の若者が響に声をかけてきた。
身なりは普通といったところだが何やら下心のようなものがあると響は直感的に感じ取った。
そして他の皆はいつの間にやら単独行動をしていたようで離れてしまっていた。
「あんた勇者パーティーなんだって?」
「それがどうした」
「いや………言わなくても分かるでしょうに」
そう言って男の陰からぞろぞろと仲間だと思われる人たちが続々と現れその数ざっと十人前後といったところ、それを見て響は一つため息を吐いた。
「いくら強いっつってもこの数じゃそう簡単にはいかないでしょ? 俺ら全員ゴールドの冒険者だからな」
「………」
「おっ? なんだ? 驚き過ぎて声も出ねぇか?」
「……そうだな、びっくりしてるよ」
この数で俺を倒せると思っていることがな、と響は吐き捨てるようにそして睨みつけて言った。
男たちは一瞬のざわめきの後に、片腕でどうにかできるものかと威勢は良かったが響はそんなことどうでもよかった。
男たちの装備はそこまで良いものではないし中には女性も交じっていたが全員が軽装備だった、響は目の前の敵たちの戦闘力をざっと見定めると魔法を使うほどの相手でもないと判断した。
響はハンドガンを一丁作成して銃口を男たちに向けた。
「忠告するが、逃げるなら今だぞ」
「むしろそっちこそお仲間呼ばなくていいのかぁ?」
「……たかがゴールドが、ほざくなよ。忠告はしたからな、後は自己責任だ」
そして響は「来いよ」とわざと相手を挑発して攻撃を誘った。
響は銃を下げてその攻撃の全てを躱した、途中で問題を起こしたら後々めんどくさそうだなと思ったからだ。
男たちは一切魔法も武器も使っていない響にどうしてこうも簡単に攻撃が当たってくれないのか混乱しているようで段々とイライラしている様子だった。
響が決着の方法を考えているその時、ずしんと地響きが鳴った。
ふと顔を上げると以前戦ったことのある壊級魔物「ギガンテス」が二体こちらへと向かっていた。
男たちはそれを見ると響のことなどもういいと判断したのか一目散に逃げていき、街の人たちは騎士団に知らせろと軽い騒ぎになっていた。
響は即座に適合能力「兵器神速」で8.8cm Flakを作成し、ギガンテス目がけて発砲・着弾させギガンテスのうちの一体は爆発四散した。
そして椿に教えてもらった、ギガンテスはバラバラになると小型化して襲ってくると言うのを思い出してスキル「意思疎通」で梓と影山にギガンテスの処理をお願いした。
しかしもう一体はまだ放置されており、響は即座にもう一つ8.8cm Flakを作成して発砲したが精度が狂いギガンテスの腕を粉々にしただけだった。
ギガンテスはよろめいたものの踏ん張り、拳を街目がけて振り下ろそうとしていた。
響は「ニュートンの林檎」でギガンテスの動きを制しようとしたが復帰して間もない響の体では射程が短くなってしまっていた。
このままでは街が………そう思った瞬間、突如としてギガンテスの動きが止まった。
それはまるで別の誰かが「ニュートンの林檎」をギガンテスにかけたような――――。
そして響の頭上に突然影が現れ上を見上げると一匹の中くらいの竜が羽ばたいていた。
「……なんだ?」
「そこのあなた! 危険ですのですぐにここから退避して――――」
竜の背から一人の少女が降りてきて響にそう忠告するが、響の顔を見た瞬間に血相を変えて言葉を失っていた。
そして響も同時に言葉を失った。
なぜならその少女とはかつて一緒に旅をし、さらにはこの異世界に来てであった人物の中で初めて友達になった者だからだ。
「………マリア?」
マリア・キャロル・フォートレスがそこに立っていた。
マリアはかつての金髪ツインドリルの髪型ではなく、綺麗な長い金髪はウェーブが掛かっていて後ろでハーフアップのように結われていて背丈も伸びすっかり美人さんになっていた。
「ヒビキ………あぁ良かった!! 生きていたんですのね!!?」
「……随分変わったな。見違えるよ」
「と、当然ですわ! 私だって成長します! っと、その前にあれを倒しませんとね。力を貸してくださるかしら?」
「それは良いが……お前、あいつの動きを止めてるのってまさか……」
「そのまさか……ですわ!」
マリアはにっこりと笑って、「ニュートンの林檎」を自力で習得したことを響に伝えた。
響は随分と驚いていた様子だったがすぐに思考を切り替えてマリアと共にギガンテスを倒すために力を貸すことにした。
二人が力を合わせた状態ならばギガンテスに勝ち目はなく、あっという間に爆発四散し、バラバラになった小型ギガンテスも殲滅され梓たちの方も片付いたようだ。
それから響とマリアは梓たちと合流して、互いに再会を喜んだ。
それから詳しい話は後にして響たちは王城内へと招き入れられた。
次回は……説明パートかな。
多分そんな感じになるかと思います。