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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第八章:再び歩み始めるようです
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リハビリのお話。

日常パート

 目を覚ましてからしばらく、響は衰えた体のリハビリから始めた。

 自力で立つことすらままならない状態で戦闘訓練など出来るはずもなく、まずは体の感覚を取り戻していくところからのスタートとなった。

 

 杖を突きながら年老いた老人のように一歩ずつゆっくりと歩き、慣れてくると少しずつ杖をつかないで歩くようにしているがすぐにバランスを崩してしまいそうになる。

 また、左腕がイグニスとの戦いで欠損しているため服のボタンを留めるのにも一苦労するようになってしまい一度に多くのことが出来なくなった。


 このような日々が二週間ほど続き、少しずつだが響は回復していった。

 そんなある日、アリアと梓に連れられて響は街へ出ることになった。

 ずっと城に閉じこもっている響への気分転換の誘い、もといデートの誘いだった。



 「快晴快晴! いい天気だね」

 

 「あぁ。風も心地いいね」



 体を伸ばしながら梓とアリアの彼女二人は清々しい陽気を全身で感じていた。響もたまの外の空気は新鮮で気分が良く、何よりリフレッシュになる。

 ただ太陽に弱くなっていて、若干日の光にやられそうになるがそこは耐えた。今思えば随分と肌が白くなってしまっているなぁと響は両隣の彼女たちを見てそう思う。

 


 「そういや、今日は何処に行くんだ?」


 「当てはない」

 「当てはない」


 「わぁい息ピッタリ」


 「まぁいいでしょ? たまにはこういうのも」


 「そうだな」


 「それに僕たちみたいな彼女を二人もはべらせているんだから退屈はさせないよ?」



 なんてことを話しながら響たちは当てもなくぶらぶらと妖王大陸の街を歩いていく。

 途中の店で買い食いしたり、休憩がてらお茶処で甘味を食べながらくだらない話に花を咲かせたり、女子二人の買い物に付き合ったりと、忙しくも楽しい一日を響は過ごした。


 夕方、三人が妖王城に帰ると梓とアリアの二人には仕事がメイドたちと一緒にお出迎えしてくれて夕食前に二人は執務室へと行って、響は自室へと戻った。


 夕日が窓から差し込むベッドに響は腰かけて体を伸ばす、たまにピキリと体が痛むもののもうその痛みには慣れてしまっていた。

 そして響はベッドに腰かけながら自分以外誰もいない部屋で、今執務室で仕事をしているであろう二人の事を思い出して響はため息を吐きながら呟いた。



 「情けないなぁ………」



 ぽつりと漏れ出たその呟きは、響の本心だった。

 誰かに聞かせているわけでもないのに響は独り言をぶつぶつと、まるで自分を自分で非難するかのように喋り出した。



 「もう二週間も経ってんだぞ……いい加減自分の体くらい自分でどうにかしろよ、梓とアリア先輩に気ぃ遣わせてんじゃねぇよ………。この役立たずが………」



 その言葉に応える者は誰もいない、ただ静寂が広がるのみ。たまに聞こえてくる声と言えば廊下から聞こえるメイドさんたちの話し声や外で子供が遊ぶ無邪気な声。

 だがその無邪気な声すらも響の首を絞めることとなる。



 「………俺もあんな子供たちみたいに楽観的になりたいもんだな……」



 自分の力不足であることは重々理解している、今自分の体が十分に戦えるような体ではないことは客観的に考えれば明らか………なのだが、響はそれすら呪っていた。

 ぐるぐると結論どころか一体何を自分は言いたいのかすら分からない、そんな思考に飲み込まれそうになった響は逃げ出すように部屋から飛び出して城の庭へと向かった。



 響はよろよろと歩きながら妖王城の庭へと出ると辺りをキョロキョロとみて誰もいないことを確認し、数歩歩いて腕立て伏せを始めた。

 カウントを始め、プルプルと震える右手一本で体をどうにか持ちこたえながら、体に若干の痛みを伴わせながら響は休み休みやって、合計二百回行った。


 それから響は上着を脱いでシャツだけになるとちょうどいい強度と大きさの木を見つけて、「ニュートンの林檎」を自分自身にかけて浮遊し、響は枝に腰かけ、くるりとそのまま上下逆さまになって腹筋を始めた。


 

 「いち……に……さん……し……ご……」



 響は自分に聞こえる程度の声で順調にカウントしていった、体には汗が滲んで体温が上がり、腹部から自分の体を汗が伝っていくのが感覚で分かった。

 そうして大体百回ほどこれまた休み休み行ったところで自分の名を呼ぶ声が聞こえた。



 「精が出るっすね。でもあまり無理しない方が良いっすよヒビキさん」


 「あ……ソフィーさん……」



 響は木から足を離して落下し、地面と接触する直前で「ニュートンの林檎」をまた自分にかけてふわりとホバリングし体を捻って体勢を戻して立ち上がった。



 「もうだいぶ体の状態はいいみたいっすね。良かったっす」


 「えぇ。おかげさまで」


 「もうそろそろ夕食らしいのでその前にシャワーでも浴びてきたらどうです?」


 「……そうします」



 響は汗だくになった自分の体を見て少しやり過ぎたかなと思いながら汗が引くのを待って城の中へと戻っていこうとした。

 その直前でソフィーが「あ」と声を上げたためなんだろうと響がそちらを振り向くとソフィーは響の方へと向かってきてすれ違いざまに「あまり考えこまない方が良いっすよ」と言って先に城の中へと戻っていった。


 その言葉を聞いて響はもしかして部屋での独り言を聞かれたのだろうかと疑問に思いながらもそれを聞くことなくシャワーを浴びに行った。

 響が体をサッパリさせるとすでに夕食の用意が整っており、響は絢爛豪華な食卓の一席に座った。


 梓や影山にどこに行ってたんだと聞かれ、まぁちょっとなと返答を濁して答え全員が揃ったところで食事を始めた。

 カチャカチャとナイフやフォークの無機質な音がやけに五月蠅く鳴り渡りそれを遮るように響が口を開いた。



 「そう言えば一つ聞きたいことが……」


 『なんだ? 私たちに答えられることなら答えるぞ』


 「他の……他の皆はどうなったんだ? まだ一回も見ていないけど……」


 『あぁ……そのことか。心配するなよ、ちゃぁんとみんな生きてるしなんだったらピンピンしてる』


 「じゃあどこに?」


 『確か……グリムたちはアザミのことで混乱している各種族たちと色々やって各大陸を渡り歩いてて、マリアたちは人王大陸に戻って冒険者たちとして活動しているし、それからミスズたちは王国騎士団でカレンたちとやっているらしい』


 「そう、か。安心した」



 響はそれだけ確認するとまた食事を再開した。

 その夜、ソフィーがばらしたのか梓とアリアが響のもとへやって来て、なぜそんな無茶をしたのかと軽く説教されどうしてやったのかと問いただした。

 響は二人の迫力に観念して、一人でまともに歩けなかったことや助けがないと日常生活に支障をきたしていたり戦えなかったりしたことを気にしていたことを言うとさらに説教された。



 曰く、そんなことを気にすることはないとのこと。

 四年も全く体を動かさなかったのだから仕方のないことじゃないかと怒られ、響は素直に反省した。









 それから数日経ちもう響が支え無しで十分に動けるようになったことで五人は一度人王大陸に戻ることとなった。


 元々梓たち四人が妖王大陸に残っていたのは、いつ響が目覚めてもいいように昏睡状態の時の世話をするためだったため、十分響が動けるようになった今、ここに長居する理由はもうなくなった。



 そうして、妖王とその使用人たちに見送られて響たちは人王大陸へと帰っていった。

次回、久しぶりの人王大陸へ

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