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異世界二重奏は高らかに  作者: 羽良糸ユウリ
第七章:絶対的な力が待ち受けているようです
145/221

真実

6000文字越えです、時間のあるときにでもどうぞ。

 「梓、切り込むぞ」

 

 「その腕で大丈夫なの?」


 「魔法と使い分ければ何とかな、安心しろよ、お前の彼氏はそんなにやわじゃない」


 「……うん。でも無理はしないでよね!」


 「分かってる……来るぞっ!」



 眼前に影の手を纏ったイグニスが来るのを確認して響たちは改めて戦闘態勢に入った。

 先ほどの光球といい、再びこちらへ向かってくることといい、完全にイグニスの狙いは先ほどまで対峙していたアキレアや椿それからグリムやハイラインなどの勇者たちではなく響たちだった。


 もっと厳密に言えばその中でも特に響を中心に狙っている様子だった、フリージアはそれを察知すると植物の根のようなものを魔法で作り出してイグニスの方へと向かわせた。


 その隙に響たちは状況の分析、イグニスの様子など色々と考慮したうえで魔法を放ち梓と影山はグリムたちと共に接近していった。



 「やああああぁぁ!!!」


 『………ヌルイワァ!!』



 まるで一つの弾丸となったイグニスはその攻撃を影の手や防御魔法でガードしており、頑なに自分自身で防御する様子は見られなかった。

 その違和感に注目したグリムとハイラインは梓と影山に陽動を頼み、自分たちは影の手を切り伏せてイグニス本体への接触を試みた。

 

 グリムとハイラインの攻撃を影の手による防御が間に合わないと判断するとイグニスは防御魔法と自分自身の体でガードした。

 が、グリムとハイラインの二人は攻撃が当たった瞬間僅かながら先ほどまでとは違う何かを感じ取り、影の手が再集合する前に一旦離脱、梓と影山にもそのように指示し一旦イグニスから距離を取った。



 「ハイライン、感じたか?」

 

 「おうよ姉御。妙だな、さっきより攻撃が通りやすくなってる」

 

 「やはりか。ということは」

 

 「あぁ、どういう理屈かは知らねぇがやるなら今ってことだな」



 そこへ遅れながらも国民たちの避難誘導に徹していた妖族勇者スラインと、レイとヴィラの二人が駆けつけた。

 三人は手短に状況説明を近くにいた者に頼み、早急に理解した後グリムたち近接部隊に合流した。



 「すまないグリム嬢、ハイライン。遅くなった」


 『マタ増エタナ。マダ楽シメソウデ何ヨリダ』

 

 「二人とも大丈夫かい?」


 「ごめん遅くなったわ」


 

 お互いがお互いに無事であることを確認すると先行して勇者たち三人が切り込み、そこから開いた突破口を四人が攻め込む。

 そして中距離からはカレンたち王国騎士団のメンバーが攻撃魔法で援護し、智香の適合能力「統同伐異コントラストマネジメント」によって召喚された精霊たちによるバフが全員にかけられた。



 「よしヒビキ。妾たちも行くかの?」


 「当然!」


 「ま、そうでなくっちゃなぁ!!」


 「私もサポートとしてお手伝いします」



 さらに傷と魔力を回復させた響・椿・アキレア・フリージアが混戦している前線の後ろに回り込んで突撃を仕掛けた。



 『かつての主と戦う、か………ま、それもありじゃないですかねぇ!?』


 『あらら? キャラ戻したの?』


 『キャラとか言うなグラン、ちょっと自分を鼓舞しただけだ』


 「お前たち、バックアップは任せろ。私は役職上イグニスに攻撃できないからな」


 『分かってますよリナリア様。んじゃミスズ、お姉ちゃん頑張ってくるから』


 「……私も行くから、姉妹で頑張るんでしょ?」



 さらにさらに、ハーメルンとグランの元魔王軍幹部二人に女神の一柱リナリアと転生者のミスズが待機してじっと状況を見定め自分たちが切り込む隙を伺っていた。




 まさに総攻撃。

 死力の限りを尽くしながら魔族の王とそれを殺すために生まれ変わった者たちの勝負がより一層激しさを増した。



 大隊と単騎掛けの個人とでは圧倒的に物量差が違い、イグニスは徐々に劣勢になっていく。



 「クーゲル・ティオ・ローザ!!」

 「リヒト・スクロペトゥム!!」

 「セレーネプロクス!!」



 そしてアリア・マリア・フランの三人の放った魔法が合図となり、イグニスは囲まれるようにして魔法の一斉射を食らった。

 地上で食らうのなら空中逃げればいいではないか、イグニスももちろんそのような考えにいたりすぐに実行しようと思ったがそうは出来なかった。

 

 響が「ニュートンの林檎」を椿の支援を受けた状態で、つまりは強化された状態でイグニスにかけ、ついでに重力も増加させて動けなくさせるどころかまともに立つことすら困難にさせた。


 それでなくても上空には賢介たちが魔方陣を多重展開させていくつもの魔法を降らせている、地中に逃げようと思えば魔法の爆風で地面ごと削り取られる。


 防御しようと思っても圧倒的な魔法の質量には紙も同然、防御魔法はすぐにその役割を果たさなくなる。




 



 フレンドリーファイアも起こることなく魔法の一斉射は確かにイグニスを捉えそのほとんどが命中した。

 煙が上がり、ゆらりとシルエットが浮かび上がると今度は拘束魔法を何重にもかけ、響は王城戦の時に使った黒と白の杭をイグニスのシルエット目がけて打ち込んみ、魔法と身体能力の両方を阻害した。



 『ナルホド…………』


 「捕らえた、ヒビキたちは一度下がれ。ハイライン、スライン、共に」


 「あいよ」


 「無論だ」



 弱体化し、鎖や杭で身動き一つまともにとれないイグニスのもとへ勇者三人が歩む。

 これで決着、グリムたちが一体何をするのかをさておいてひとまずこの戦いは終局を迎えるだろう。

 

 そう、誰もが思ったはずだ。

 グリムたちでさえそう思っていた。


 

 『フフフ…………ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』


 

 この絶望的な状況下でイグニスは不敵に笑った。

 グリムたちは警戒し、アキレアとフリージアも三人に合流してことを見守るも特に何かアクションを起こすような気配はしない。

 それなのに全員の心はざわつき、不安感だけが募り始めていった。



 「何がおかしい、イグニス」


 『イヤ、タダ面白クテナ』


 「……どういうことだ」


 『タカガ魔族ノ王ダゾ? 不思議ニ思ワナカッタノカ? ドウシテ我ガコレホドマデノ強サヲ得タノカ、気ニナリハシナイカ?』


 「何が言いてぇんだぁお前?」


 『今ニ来ルゾ! コノ魔王イグニスヲ捨駒トシテ扱イ、力ヲ分ケ与エタ張本人ガ!! 純白ノ翼ヲ羽バタカセナガラ、全テヲ傍観シテ笑ウ古ノ女神ガ!!!』



 







 イグニスが見上げる遥か上空、月を背に乗せて「それ」は確かにいた。

 真っ白い翼に美しく光る長い銀髪、吸い込まれるような青い瞳を己に宿して、今、響たちの頭上に見下ろすように佇んでいる。




 あまりに美麗、あまりに魅惑的、そしてあまりに絶望的だった。



 

 「何を、しているのですか。イグニス」


 『見テ分カラナイホド、女神トイウ生キ物ハ頭ガ弱イノカ?』


 「力負けする輩に言われたくはありませんね」


 「………馬鹿な。貴方様は………!」





 言わずもがな、驚愕するグリムの先には、アザミがいた。

 東雲アザミが上空で響たちを見下すように佇み、茫然自失としている全員の目線を始めからそんなもの無かったかのように気にしないで冷ややかな目線を響たちにに向ける。



 「……ナインの時以来ですね。賢介君たちはそれこそ学校ぶりですね」


 「おい……響、ありゃまじか?」


 「……マジだ。賢介」



 この世界に来てから初めてアザミを目撃した賢介たちは口をあんぐりと開けてポカーンとただ見ているだけだった、が、響と梓と影山はこの世界でのアザミを一度目撃している。

 元の世界にいた頃のアザミはとうに消え去り、今いるアザミの姿こそが本来の姿なのだと、もう分かっているのだ。



 「アザミ」


 「アキレア! 久しぶりですね、フリージアも」


 「率直に問う! イグニスに力を貸していたのはお前だな!?」


 「………()()()()()()



 一切包み隠すことなく、あっさりとアザミはアキレアの質問を肯定した。

 ここに現れた目的も不明、ただ分かるのはとてつもない気配を放っているということだけ。 

 そしてイグニスに力を貸していたことを踏まえると――――



 「アザミ……いつからだ」


 「いつからも何も……最初から。強いて言うのなら()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「っ!?」



 その言葉に響は驚きを隠すことが出来ず、アザミの言っていることをすぐには飲み込めなかった。

 アザミの言葉がそのままの意味だとしたら、あの日あの時響たちの高校が襲われ何十何百もの被害者が出したことは単なる不幸ではなく、響たちを助けてくれたはずの恩人の手によって仕組まれた計画的犯罪だということを表している。 

 

 その言葉を信じることが出来ずに、凪沙や賢介が叫んだ。

 罵詈雑言を浴びせて「ふざけるな!」と激昂する響たちの言葉をアザミはただ頷きその言葉の全てに「はい、そうですよ」とさも当然の事のように答えた。



 「一体……何のために………何のためにそんなことを!!!」


 「ただの私利私欲です」


 「…………は?」


 「この際ですから全てネタ晴らしをしましょう。私はこの世界を自分のものにしようとしています」


 「………はぁ?」


 「アザミちゃん……?」


 「ふと思ったんです、この世界を我が物にしたらどんな気持ちになるのか、と。でもそのためにはそこの魔王が邪魔で仕方がなかったんです、私本人が手を下してもいいんですけど女神の一柱が他所の種族の長を殺すのは色々と問題がありますから。でも勇者に任せようにも今の実力じゃ一体つのことになるのやら………だから私は考えました、他の世界から私が直々に能力を与えた人間たちならばもっと効率的に魔王を殺してくれるのではないかと」




 滅茶苦茶な理由だ、そもそも理由にすらなっていない。

 結局のところアザミはこの異世界ネメシスを自分の者にするためにイグニスや響たちを利用していたということだ。

 響たちに適合能力なる能力を与えたのは、イグニスを語法的に殺害するまでの時間を短縮するためのいわばアシストツールに過ぎなかったということなのだ。


 こんなことを言われてはもう響たちが何か言うことはなかった。

 ただただその場に呆然と立ち尽くし、言葉を失い、瞬きをして呼吸をして、思考を放棄することしか出来なかった。

 アザミの言葉の本質を理解すればするほど、両目から流れる涙が止まらない。とめどない感情の激流が頭を支配して止まないのだ。



 「酷い…………それでもあなたはこの世の管理を担う女神ですか」


 「戯言を言わないでくださいフリージア。こんなことをする者が女神なわけないじゃないですか」


 「………」


 『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 相変ワラズ慈悲トイウ言葉ヲ持チ合ワセテイナイヨウダナコノ女ハ!』


 「………ひとまず、水無月君たち……いえ、響君たちにはお疲れ様でしたと労いと感謝の言葉を述べます。もうこの場にいる人物たちに用も役目もありませんので………」




 これ以上話すことは何もないと最後に付け加えてアザミは両の掌を重ねて合掌のようにして手を離した。

 するとそこには白く発光する魔力の塊が生成されていた、その魔力の尋常でのないことは全員が肌で感じ取ったなんて可愛いレベルの物では断じてなかった。



 



 その魔力を感じた瞬間、ほとんどのメンバーがこう思ったはずだ。

 あぁ………もう終わるのだな……と。

 何が終わるのかは本人たちの定義できていなかった、が、確かに自分の中の何かが終わりを告げるであろうという漠然とした諦めが心を埋め尽くしていた。

 きっと自分はここで死ぬのだろうなという考えを持った者が一番多いだろう、あの魔力の塊から放たれるであろう魔法はそれほどまでに終焉の色を濃く宿していた。






 ―――――だがたった二人、たった二人だけは虚数の彼方にある可能性に希望を信じていた。

 



 


 「冗談じゃねぇ………冗談じゃねぇぞ!!」


 「同感じゃ。全くもってふざけておる」



 響と椿の二人だけは、まだ死んでいなかった。

 アザミはそんな二人に微笑んで一言も発さずに笑った。



 「諦めてください。この魔法から放たれるは終焉すらをも塵にする概念の消失…………防ぐ術はありません」


 「果たしてそうかのう……」


 「……それはどういう」


 「妾の種族は神族、つまりは神じゃ神様じゃ。その神様がたかが魔法一つ止める術を知らぬでどうする」


 「ふふっ……ならば、やってみるといいでしょう。と、その前に――――」



 アザミはそう言って翼から何本かの白い棒を射出して響たちを囲むように地面に突き刺してこれまた白色の結界を作り出した。




 「転移魔法で逃げられても困りますからね。私以外逃げられないように結界を張らせていただきました」


 「……ヒビキ」


 「なんだ、椿」


 「ちょいとばかし力を貸してくれんかの。この場でまともに禁術を使えるのは妾とお主くらいなものじゃ」


 「あぁ、勿論協力する」


 「助かる。じゃあ右手を出せ」




 椿の言葉通りに響は右手を出す、そこへ椿が右手を重ねると響の中に膨大な量の知識が流れ込んできた。

 思わず呻き声を上げて苦痛に顔を歪める響だが何とか堪えて、椿が右手を離した。

 それから椿は響に、これから行う魔法のことを説明した。


 とてつもない威力を発揮する代わりに使用者の身にもとてつもない負荷が掛かるという諸刃の剣、それでもいいかと椿は尋ねるが響は椿の問いが終わる前に「やろう」と一切の迷いなく答えた。





 「そろそろ宜しいですか?」


 「ほほほ、わざわざ待つとはお優しい女神様じゃのう。妾ならとっくに落としておったわ」


 「なら今すぐにでも落としましょう。私が待っていた理由は、あなた方へのせめてもの慈悲ですから」


 「良く言うよ。こんなことしといて何が慈悲だ笑わせんじゃねよ東雲さん」


 「あなたはまだ、その名で呼んでくれるのですね水無月君」


 「これで最後だけどな」




 





 そうして、互いに魔法のチャージが終わり、一度きりの大博打が幕を開けた。



 アザミが放つ、白き魔法は全てを白紙にも戻す災厄を。



 響と椿が展開する魔法は、消失すらも拒む不朽不滅の盾を。








 ―――――そして両者は静かに、魔法の名を。







 「―――――白き消失は受胎し、我が手から生まれ落ちる。禁忌、白き煉獄(アカシック・レコード)


 「「―――――黒き盾は命を紡ぎ、光を生む杯となろう。禁忌、黒の聖骸布(アイギス・フィール)」」







 




 両者の魔法が放たれ、視界は白と黒の二種類の色素で染まった。

 そこから先の記憶は響にはない、その後どうなったのかも。

 この世の終末とも思えるような凄まじい二つの魔力はこの日ネメシス全土で観測され、他の種族たちは一体何が起こったのかと厳戒態勢を最大レベルまで引き上げたという。








 そして―――――。

次回か二~三話あたりから新章の予定。

一体これから響たちはどうなるのか、今後をお楽しみに。

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